質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第一一号

アーミテージ報告に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年三月一日

喜納 昌吉   


       参議院議長 扇 千景 殿



   アーミテージ報告に関する質問主意書

 本年二月十六日、ワシントンでアーミテージ元米国国務副長官等が「対日戦略報告書(アーミテージ報告)」改訂版(以下「本報告」という。)を発表した。本報告は、安倍政権の外交・防衛政策に強い影響力を及ぼす可能性がある。
 そこで、本報告及び関連事項について、以下質問する。

一 二〇〇〇年に発表された最初の「アーミテージ報告」は、日米の同盟強化をうたっていたが、こうした内容がそのまま日米の同盟強化政策へと発展していった。同様に、今回発表された本報告の内容が、安倍政権以降の日本政府の政策になる可能性が相当に強いと思われるが、政府の見解を示されたい。

二 本報告の内容が政策に反映される場合、具体的に本報告のどのような部分が政策に反映されるのか、明らかにされたい。

三 本報告では、日本の改憲議論が進展するのを支持している。一般の日本人の間で改憲論議が盛んでなく、改憲のための国民投票法案への関心も高くない現状において、本報告が中立性を持たずに改憲論議の促進を「心強い」として、改憲派を励ますような表現を盛り込んでいるのは内政干渉であると考えるが、政府の見解を示されたい。

四 本報告では、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の制定を支持している部分もある。このような表現は内政干渉であると考えるが、政府の見解を示されたい。

五 日本で現在最大の課題は、貧富の格差是正、年金など社会福祉の充実などを通じて、弱肉強食の新自由主義経済政策の誤りを正すことであると考える。国庫には膨大な赤字が累積しており、防衛費などを惜しみなく出せる状況にないが、本報告では、日本に防衛費の拡大を求めている。日米同盟に関連して日本側の資金負担が大きい上に、防衛費の拡大を求めることは問題であると考えるが、政府の見解を示されたい。

六 本報告には日本政府の意向が多く盛り込まれているのがうかがえる。すなわち、事前に日米間で内容の調整が行われた可能性を示していると考えるが、そのような調整が行われたのか明らかにされたい。

七 日本の外務省、防衛省等の政府当局者が、本報告の策定に直接、間接に参画した事実はないか、明らかにされたい。

八 前回の報告策定の際は、ワシントン駐在経験のある大手紙の親米派ジャーナリストらが意見を述べ、それが報告内容に盛り込まれたという事実があったと聞いている。今回、民間からジャーナリスト、学者、軍事評論家等が参画したり、意見を米国側関係者から求められた事実を政府は把握しているか、明らかにされたい。

九 本報告は米国側で策定され発表されているが、内容を見ると、実態は日米合作としか思えない。すなわち、日本政府がアーミテージ氏等と組んで報告内容をまとめ、本報告を日本世論を懐柔するための外圧として利用しようと図っているのではないかと考えるが、政府の見解を明確に示されたい。

十 本報告では、武器輸出三原則の一層の緩和も求めている。日本では既に軍産複合体が形づくられて久しいと言えるが、防衛費の拡大や、武器輸出三原則の緩和は、軍産複合体の急激な台頭を促すことにもなりかねない。米国では、軍産複合体が政策を左右するまでに至っており、古い武器を使用し尽くし、他国に売却しなければならなくなっている。手早く武器を使い尽くすため、また新兵器の性能を実験するために、戦争を絶えず続けていかなければならないような状況にも陥っている。すなわち、軍産複合体の台頭は、戦前の軍国主義時代の日本を見るまでもなく極めて危険であると考えるが、本報告が防衛費の増大を促していることについて、政府の見解を示されたい。

十一 国産の兵器・武器類の総生産・総販売量の金額を示されたい。また、防衛省による国産の兵器・武器類の調達額が一般会計歳出予算に占める割合をパーセンテージで示されたい。

十二 軍産複合体は、軍隊を強化させることによって、制服組に、文民、一般市民に対する制服組の優位という「幻想」を与えかねず、さらに、経済構造の「軍事化」につながり経済をゆがめかねない。こうしたことから、軍産複合体は、シビリアン・コントロールを弱体化させ、政治と市民の軍隊に対する優位を脅かしかねないと考える。政府は、現在の日本における軍産複合体の台頭への警戒心はないのか、軍産複合体の存在に対する認識を示されたい。

十三 本報告は、日本が国連安保理常任理事国入りを目指すなら、国際社会における応分の軍事的役割を担うべきだ、あるいは率直な見方をすれば、日米同盟をグローバル化させ日本に応分の軍事的役割を果たさせたいとの考えを強くにじませている。政府は、小泉前政権時代に巨額の外交資金を使いながら、外交工作に失敗し、その結果として常任理事国入りに失敗したと考える。安倍政権も常任理事国入りを志しているようであるが、その実現と引換えに防衛費を大幅に増大させても構わないと考えるのか、政府の認識を示されたい。

十四 本報告は、「二〇二〇年のアジア情勢」を想定して書かれているが、「朝鮮半島が統一されている可能性がある」との指摘がある。翻って、安倍政権の対・北朝鮮外交は、拉致問題優先主義で、北朝鮮との国交正常化への具体的展望を描き出せないでいる。ましてや、「南北統一」という将来展望が全くうかがえない。政府は、北朝鮮との国交正常化、更には朝鮮半島の統一について、どのような戦略を抱いているのか明らかにされたい。

十五 本報告は、「日米同盟」を開かれたものにし、排他的でない同盟に発展させるべきだとうたっている。さらに、日米とインド、豪州などとの連携強化を求めている。仮にこの案を「拡大日米同盟」と呼ぶとすれば、政府はこの「拡大」に賛成するのか明らかにされたい。また一方で、本報告は「日米と中国」の良好な関係を構築すべきだとうたっているが、この考えに対する政府の認識を明らかにされたい。

十六 良好な対中関係を築くに当たり、当面、欠けていると思われるものを明らかにされたい。また、中国側に求める改善点を明らかにされたい。

十七 小泉前政権は、靖国神社に何度も参拝して対中関係を最低のレベルに落としたと考える。良好な対中関係を目指す上で、日本側が改めるべき点を明らかにされたい。

十八 総じて本報告は、米国の意思でアジアを律しようという考えに基づいているが、中国、インド、更にはロシアの存在もあり、簡単には進まないと考える。日本が本報告に明確に示されたような「米国の指図」に従えば、日本は主体性の欠けたアジア外交しかできなくなる。これまで長い時間をかけて醸成してきた「東アジア共同体」を目指すアジア外交はどのようになってしまうのか、政府の認識を示されたい。

十九 一般の日本人は、自衛隊が米軍とともに、地球上の広範な地域で「世界の警察」のような役割を果たすことを政府に求めたことはないし願ってもいない。国会内の多数議席を基に、重大な決定を次々に行っていけば、国の針路を誤ることにもなりかねない。「防衛の国際化」のような重大問題は、国民投票の対象とすべきであると考える。民主党は、改憲のための国民投票だけでなく、様々な重要問題の意思決定を国民投票の対象にすべきだと主張してきた。国の針路を誤らないためにも、防衛に関する重要問題について、国民投票で国家の意思決定を行う考えはないか、明らかにされたい。

二十 本報告の内容に日本政府が同調し、そのように動いていく間は、沖縄は「日米の軍事植民地」という押し付けられた過酷な運命から逃れることはできないと考える。日本も米国も、安全保障を口実に永遠に沖縄を軍事の犠牲にし続けるつもりなのか、政府の認識を示されたい。

二十一 政府は、「米国の対日窓口」を一層多様化させることが不可欠であると考えるが、アーミテージ氏等とは異なるアジア政策、対日政策などを持っている人物、集団の意見を聴取したり、取り入れたりしない理由を明らかにされたい。また、アーミテージ氏等とは異なる政策立案や情報の「窓口」があるとすれば、どのような人物、集団で、これまでにどのように関係を維持し、意見や政策を取り入れてきたのか明らかにされたい。

二十二 アーミテージ氏等の本報告策定グループに対し、日本政府が資金援助をした事実の有無について、明らかにされたい。

二十三 日本の外交・防衛政策にアーミテージ氏による報告が反映されてきたことは、日本政府に長期的で本質的な確固たる外交・防衛政策がないことを証明するものである。すなわち、歴代自民党政権の不変の哲学だと思われる「対米追随」が政府の外交・防衛政策だと言わざるを得ない。政府は、外交・防衛上の大構想、英語で言うところの「グランドデザイン」が描けない理由を明らかにされたい。

  右質問する。