質問主意書

第165回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第三二号

内閣参質一六五第三二号
  平成十八年十二月十九日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員千葉景子君提出米国原子力艦の原子力災害対策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員千葉景子君提出米国原子力艦の原子力災害対策に関する質問に対する答弁書

一の1について

 我が国に寄港した米国の海軍(以下「米海軍」という。)の原子力推進型の軍艦(以下「原子力軍艦」という。)において原子炉に係る事故が発生した場合、昭和三十九年八月二十四日の「外国の港における合衆国原子力軍艦の運航に関する合衆国政府の声明」(以下「合衆国声明」という。)や平成九年三月三十一日の在日米軍に係る事件・事故発生時における通報手続に関する日米合同委員会合意に基づき、事故の発生日時及び発生場所等について、米国政府の当局が、我が国政府の当局に対し、直ちに通報することとなっており、適切に通報が行われるものと認識している。

一の2について

 米海軍の原子力軍艦の原子炉の操作に関し、米海軍部内にいかなる文書が存在するかについては、政府として承知していないため、お答えすることは困難である。また、米海軍の原子力軍艦において原子炉に係る事故が発生した場合に、米国政府の当局から我が国政府の当局に対し通報される内容は、一の1についてで述べたとおり、事故の発生日時及び発生場所等についてであるが、我が国政府の当局から米国政府の当局に対し要請する内容については、個別具体の状況に即して判断する必要があり、あらかじめ一概にお答えすることは困難である。

一の3について

 我が国に寄港した米海軍の原子力軍艦において原子炉に係る事故が発生した場合には、米国政府の当局から我が国政府の当局に対し、直ちに通報が行われることになっている。また、仮に当該通報がない場合でも、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測)システムにより、一定の放射性物質の放出を仮定し、気象条件等を基に放射性物質の拡散の方向や速さを予測することが十分可能であると考えている。

二の1について

 一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されず、このことは、我が国に駐留する米軍についても同様である。したがって、米海軍の原子力軍艦について、原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)は適用されない。

二の2及び3について

 米国政府が、米海軍の原子力軍艦について、累次にわたる政府声明及び覚書をもってその安全性を保証するとともに、その運航に関連して米国の港においてとられる安全上のすべての予防措置及び手続を我が国の港においても厳格に実施することを保証してきていること、本年四月十七日にシーファー駐日米国大使から麻生外務大臣に対して手交された、米海軍の原子力軍艦の安全性に関する事項が記載された文書(以下「ファクトシート」という。)において、米海軍の原子力軍艦の安全性に関する方針をすべて堅持し厳格に実施するとの米国政府の従来からの方針が改めて明示的に確認され、また、米海軍の原子力軍艦の設計や構造に関する情報を含め、従来よりも詳細な説明がされていること、並びに我が国寄港時を含め、米海軍の原子力軍艦について、これまで長期間にわたって安全に運航してきた実績があることから、政府としては、米海軍の原子力軍艦の我が国寄港時の安全性が確保されることを確信している。
 政府としては、米国政府に対し、我が国に寄港する米海軍の原子力軍艦の安全性について引き続き万全の対策をとるよう働きかけていく考えである。

三の1について

 「原子力艦の原子力災害対策マニュアル」(平成十六年八月二十五日中央防災会議主事会議申合せ)においては、各国の原子力軍艦に搭載された原子炉システムが、実際にどのような構造となっているかについて公表されていないことから、十分な安全裕度を考慮して、原子力軍艦による原子力災害が発生した場合、放出源情報等が十分に得られない状況下で避難・屋内退避等の防護措置を実施する範囲(以下「応急対応範囲」という。)を定めたものである。一方、ファクトシートにおいて、これに相当する範囲は、実際の米海軍の原子力軍艦に搭載されている原子炉の実態に即して、米国政府にて試算したものであると承知している。

三の2の(一)及び(二)について

 お尋ねの米国の一研究者等が行った研究については、詳細を承知していないので、政府としてコメントする立場にない。

三の2の(三)について

 原子力艦の原子力災害対策マニュアルにおいては、通常の運転時に原子炉内で冷却材喪失事故が起き、それに伴って燃料損傷が発生したという事故を想定して影響評価を行い、応急対応範囲を定めているところである。

三の3の(一)及び(三)について

 政府としては、米海軍の原子力軍艦の我が国寄港に際して、関係機関の緊密な連携の下、原子力軍艦放射能調査(以下「放射能調査」という。)を実施し、米海軍の原子力軍艦に起因して人体、海洋生物又は環境の質に影響を及ぼすような放射能の異常値が検出されないか否か確認してきている。

三の3の(二)及び(四)について

 お尋ねの「原子力災害につながる危険性」及び「何らかの異常事態が発生した場合」については、これらが具体的にいかなる状態を指すのか必ずしも明らかではないが、米国政府は、米海軍の原子力軍艦の運航に関連して米国の港においてとられる安全上のすべての予防措置及び手続を我が国の港においても厳格に実施することを保証し、米海軍の原子力軍艦の安全性に関する方針をすべて堅持し、厳格に実施するとの米国政府の従来からの方針を明示的に確認してきている。

三の4の(一)及び(二)について

 お尋ねの点が、ファクトシートのいかなる部分に基づくものであるのかは明らかではないが、米国政府は、事故の発生により航行不能となった米海軍の原子力軍艦を安全な状態とする責任を負う旨を合衆国声明において明らかにしており、我が国に寄港した米海軍の原子力軍艦において原子炉に係る事故が発生した場合、我が国政府は米国政府に対し、当該原子力軍艦につき、適切な措置を講ずるよう要請することとなる。また、ファクトシートにおいて、適切であると判断されれば、艦船自体の推進力により又は必要に応じてタグボートの補助を得て、原子力軍艦を移動させることができ、問題が生じた原子力軍艦を移動させるためのいかなる措置も我が国政府との協議を経た上でとられることとなる旨明記されている。

三の4の(三)について

 横須賀市においては、毎年、横須賀市原子力総合防災訓練を市主催で実施しているが、原子力空母への交替に伴う今後の訓練の在り方については、現在、関係者間で検討を行っているところである。

四の1について

 政府としては、ファクトシートで示されているとおり、昭和三十九年八月十七日のエード・メモワールで表明された燃料交換及び修理に関する米国政府のコミットメントは、引き続き完全に堅持され、燃料交換及び原子炉の修理については、我が国では行われないと承知している。

四の2の(一)及び(二)について

 ファクトシートで示されているとおり、固形廃棄物は、適切に包装された上で、米国の沿岸の施設又は専用の施設船に移送され、承認された手続に従って米国国内で処理されると承知している。

四の2の(三)について

 政府としては、米海軍の原子力軍艦からの固形廃棄物の投棄の状況について、その詳細は把握していない。

五の1について

 ファクトシートで示されているとおり、米海軍の原子力軍艦においては、いかなる予期せぬ事態が発生しても、これが検知され、迅速な対応がなされることを確保すべく、原子炉冷却水中の放射能のレベルを毎日モニターしていると承知している。

五の2の(一)について

 お尋ねのコバルト五八、コバルト六○の検出については、原子力艦放射能調査専門家会合において、人体及び環境に全く影響のないものであるとともに、原子炉に係る事故、トラブルに起因するものではないと判断されていることから、これ以上の原因究明を行う必要はないと認識している。

五の2の(二)について

 周辺住民等の健康と安全を守る観点において、現状の放射能調査体制に特段の不備があるとは認識していない。また、必要な場合には、米海軍に対しても情報提供を要請することとしている。

五の2の(三)について

 万が一、日本国において米海軍の原子力軍艦が原子力事故により第三者に損害を及ぼした場合、人的損害については、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和三十五年条約第七号。以下「日米地位協定」という。)第十八条5が適用される。日米地位協定第十八条5(a)は、「請求は、日本国の自衛隊の行動から生ずる請求権に関する日本国の法令に従つて、提起し、審査し、かつ、解決し、又は裁判する。」と規定しているところ、具体的には、原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)が適用され、米国が無過失責任を負う。
 また、物的損害のうち、いわゆる小規模海事損害については、昭和三十七年十一月一日防衛施設庁告示第五号に明記されているとおり、日米地位協定の規定を適用することについて日米両政府間で確認されており、前述の人的損害と同様に処理される。
 その他の物的損害については、日米地位協定が適用されないところ、そのような場合は、日米両政府間の外交交渉によって問題の解決を図ることができることとなっており、また、米国の国内法による救済の途も開かれている。