質問主意書

第165回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一五号

内閣参質一六五第一五号
  平成十八年十一月十日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員山下八洲夫君提出外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員山下八洲夫君提出外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する質問に対する答弁書

一について

 我が国に在留する外国人については出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)により在留資格及び在留期間が定められており、この点については一般の外国人労働者も外国人技能実習生と同様であり、また、外国人の我が国における在留に対しこのような制限を加えることについては、昭和五十三年十月四日最高裁判所大法廷判決にもあるように、憲法第二十二条に違反するものではない。
 御指摘の通達は、外国人技能実習生についても、一般の外国人労働者と同様に労働関係法令等の適用があることを確認的に明らかにしたものにすぎず、同条に違反するものではないと考える。

二の1について

 御指摘の質問主意書に対する答弁書(平成十四年三月一日内閣衆質一五四第三○号。以下「平成十四年答弁書」という。)においては、厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)において事業主との間に一定の使用関係が認められることを被保険者の要件の一つとしていることから、「やとわれている人」という意味を有する「被用者」という用語を用いたものであり、これをもって外国人技能実習生等を厚生年金保険制度の対象に含める拡大解釈であるとの御指摘は当たらない。
 また、厚生年金保険制度は、事業主との間に一定の使用関係が認められれば、被用者の日本国籍の有無にかかわらず強制的に適用されるものであり、外国人技能実習生についても、同法に定める被保険者の要件に該当する場合には、厚生年金保険の被保険者となるものである。

二の2について

 平成十四年答弁書及び二の1についてで述べた「一定の使用関係」とは、被用者としての実態があり、労働時間、就労形態等において事業主の事業活動と一定以上の関係を有すると認められる関係のことを言うものである。具体的には、二か月以内の期間を定めて使用される者等臨時に使用される者等については、厚生年金保険法第十二条の規定に基づき被保険者としないこととしているほか、これ以外の被用者についても所定労働時間が通常の労働者のおおむね四分の三未満の者については被保険者としないこととしている。
 また、平成十四年答弁書において「強制的に適用することとしている」と述べたのは、厚生年金保険制度自体が強制加入制度となっていることを明確にしたものである。

三の1について

 平成五年四月の外国人技能実習制度の導入以後の厚生年金保険法改正案の立案過程において、政府内において外国人技能実習生に係る年金を論点として議論したことはないが、我が国における滞在期間の短い外国人労働者について、所定の受給資格要件を満たさないために保険料の納付が老齢給付に結びつかない点は従前から指摘されていたところであり、外国人技能実習制度の導入も一つの契機として、平成六年に脱退一時金制度を創設したところである。

三の2について

 永住帰国した中国残留邦人等については、国民年金法等の一部を改正する法律(平成六年法律第九十五号。以下「平成六年改正法」という。)による中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律(平成六年法律第三十号)の一部改正において特例措置を設け、日本国籍を有していた者を対象として、中国等に居住していた期間が年金額に反映されるようにしているところである。一方、平成六年改正法により創設された脱退一時金制度は、日本国籍を有しない者を対象とするものであり、日本国籍を有する中国残留邦人等は、その対象とならない。
 また、二の1についてで述べたとおり、脱退一時金制度があることをもって、外国人技能実習生を厚生年金保険の被保険者としているものではない。

四について

 御指摘の勧告に係る調査は、厚生年金保険業務の的確かつ効果的・効率的な運営を確保する観点から、保険適用促進業務の実施状況、保険料徴収業務の実施状況、社会保険と労働保険の徴収事務の一元化の推進状況等について行ったものであることから、当該勧告においては特段外国人技能実習生に係る事項について触れていないものであり、このことをもって御指摘のような認識を示すものではない。

五の1について

 厚生年金保険制度は、社会連帯と相互扶助の理念に基づき、老齢、障害又は死亡という保険事故に対応して個人に対する所得保障を行うために強制適用としているものであり、被保険者となった滞在期間の短い外国人労働者についても、この考え方に基づき、被保険者の要件に該当する限り個人の事情にかかわらず被保険者とし、他の被保険者と同様に保険料の支払義務を課しているものである。御指摘の年金制度の給付と負担の関係についても、このような考え方を踏まえて議論を行うべきものと考える。

五の2について

 政府としては、外国人技能実習生であるか否かは年金給付事務に直接関係するものでないことから、お尋ねのデータについては有していない。

五の3について

 厚生年金保険制度における脱退一時金については、滞在期間の短い外国人労働者について保険料を負担したにもかかわらず老齢給付に結びつかないという問題について対応するための特例的な措置として、障害又は死亡という保険事故にも対応していることから保険料の納付が保険給付に結びつかないというわけではないものの、当該外国人労働者本人の立場に配慮して例外的に本人の保険料負担相当分を基準とした額を支給するものであり、支給額の算定に当たり事業主の保険料負担相当分について勘案することまではしないこととしたものである。
 また、脱退一時金については、保険給付として事業主ではなく被保険者に支給されるものであり、納付された保険料の返還金という性格を有するものではないことから、事業主の保険料負担相当分を事業主に返還するという考え方をとらないものである。
 さらに、外国人技能実習生を含む滞在期間の短い外国人労働者にとっては、厚生年金保険の被保険者となることにより、障害又は死亡という保険事故が発生した場合には生涯にわたり障害給付又は遺族給付が支給されることになり、安心して働くことが可能となるとともに、事業主にとっても、その結果として事業の円滑な実施に寄与する面があると考えられることから、外国人技能実習生を厚生年金保険の被保険者とすることは、本人及び事業主の双方にとって意味があるものと考える。

六について

 外国人技能実習生が民間保険に加入するか否かは任意であり、御指摘のような民間保険の加入により外国人技能実習生の私的な傷害及び疾病並びに賠償事故等への備えが十分可能であるか否かについて、政府としてお答えする立場にない。
 なお、公的年金制度は、物価や賃金の伸びに応じた年金額の改定等によりその時々の生活水準に見合った実質的価値のある年金を終身保障する強制加入の制度であり、民間保険とは役割が異なるものであることから、民間保険への加入をもって公的年金制度の適用対象外とすることは適当でない。