質問主意書

第165回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三二号

米国原子力艦の原子力災害対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年十二月十一日

千葉 景子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   米国原子力艦の原子力災害対策に関する質問主意書

 幸いなことにこれまで原子力艦での重大事故は起きていないが、一九六四年の佐世保への初入港以前から周辺住民を始め、多くの国民から事故への不安の声が上がっている。これに対し、米国は一九六四年及び一九六七年にエードメモワールなどの文書による説明を、政府はモニタリングポストなどによる放射線監視を、また横須賀市では独自マニュアルを作成するなどの措置をそれぞれ講じてきた。その後、政府は、防災基本計画に原子力艦の原子力災害についての記述を追加し、関係省庁が一体となった防災活動が行われるよう原子力艦の原子力災害対策マニュアルを作成したが、米国は、事故は起こり得ないという立場を崩さず、防災対策の根幹が不十分なままである。こうした中、昨年一〇月二八日に米国は、横須賀基地に原子力空母を配備すると通告し、本年四月一七日には、合衆国原子力軍艦の安全性に関するファクトシート(以下「ファクトシート」という。)を外務省に提出したが、事故は起こり得ないという米国の姿勢は依然として変わっていない。
 このような状況下において、政府は原子力防災に対して、国民の生命と安全に責任を持つべきであるとの観点から、以下質問する。

一 事故発生時の迅速な情報提供の必要性について

1 原子力災害においては事故の予兆の段階で、放出源情報が国や自治体等に迅速に通報され、住民の避難などがスムーズに行われるようにすることが必要である。原子力災害対策特別措置法(以下「原災法」という。)においても、原子力施設内で放射線量の異常などがあった場合には、現場の責任者から直接、国及び自治体に一五分以内に通報することが罰則付きで義務付けられている。しかし、原子力艦に対しては原災法は適用されず、原子力艦の原子力災害対策マニュアル、ファクトシートともに米国から日本への通報という記載しかない。また、通報手続の根拠として、一九九七年三月の日米合同委員会合意があるが、これを基に通報された事例についても、事故から何時間も経過した後に通報されており、通報されなかったことも少なくない。重大事故につながりかねない二〇〇四年六月の佐世保での原子力潜水艦火災事故の際にも、市民からの通報を受け、市が米軍に問い合わせている。
 原子力事故への対応の中では、初期段階での現場からの通報が重要であり、原災法はその重要性を意識して策定されているのに対して、原子力艦への対応は明確ではなく、その落差は大きいと考えるが、政府の認識を示されたい。また、原子力艦への対応が現状で十分であるとするならば、その根拠を示されたい。
2 ファクトシートの記述からは、原子力艦の原子炉操作に関して、作業手順や緊急時の手続を規定したマニュアルが存在すると考えられる。このようなマニュアルが存在するのか明らかにするとともに、原災法と同様に、緊急時には短時間で日本の国及び自治体などに通報する義務が規定されているか明らかにされたい。また、通報に関する米国側からの説明内容及び日本側からの要請内容を示されたい。
3 SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測)システムは、原子力災害発生に際して、住民を速やかに、安全に避難させるために重要な役割を持っていると言われている。しかし現状では、原子力施設の放出源情報が不明であるために、SPEEDIシステムが十分に機能しないと思われるが、拡散予測など避難のために必要な情報をどのように収集し対処するのか明らかにされたい。

二 原子力施設への立入検査について

1 原災法では原子力施設に関しては事業者の防災計画作成が義務付けられ、作成にあたって関連自治体と協議することになっている。また、国及び自治体がいつでも無通告で立入検査ができるという規定もある。立入検査は、安全性を担保するために最も基本的な対策であると思われるが、原子力艦については全く制度化されていない。原子力艦についても立入検査等、原災法と同様の対応が可能か明らかにされたい。
2 立入検査等、安全性を担保するための方策について、米国側と協議しているか否か明らかにするとともに、協議している場合は、その内容も明らかにされたい。
3 原子力艦の安全性を担保する方法を明らかにされたい。

三 事故発生時の対応について

1 放射能放出事故の影響について、原子力艦の原子力災害対策マニュアルでの影響範囲(半径約三キロメートル)とファクトシートで説明している範囲(基地内)とは異なっているが、違いがなぜ生じたのか、事故の際の影響範囲の根拠について、それぞれ明らかにされたい。
2 米国のゴードン・トンプソン博士、日本のNGOである原子力資料情報室などが、それぞれ事故のシミュレーションを公表し、ともに甚大な被害を及ぼす危険性を示している。
 (一) これらのシミュレーション結果に対する政府の見解を明らかにされたい。
 (二) これらのシミュレーションに対して、政府は検証を行ったのか明らかにされたい。
 (三) 事故が起きた場合の政府のシミュレーションは存在するのか明らかにするとともに、存在するのであれば、その結果を示されたい。
3 ファクトシートでは、悪影響を及ぼすようなかたちで日本に寄港するようなことはないとしているが、一九九〇年、空母ミッドウェイが弾薬庫爆発の危険性がある火災を起こしながら、横須賀港に入港したケースがある。
 (一) 原子炉自体の事故でなくとも他の要因から原子炉に影響が及び、原子力災害となる場合もあり得ると考えるが、「悪影響」の判断基準を明らかにされたい。
 (二) 原子炉自体の事故でなくても、原子力災害につながる危険性があれば、入港しないと考えてよいのか、明らかにされたい。
 (三) 政府は「悪影響」の有無をどのように確認するのか明らかにされたい。
 (四) 日本近海で何らかの異常事態が発生した場合、ファクトシートによれば日本に寄港するようなことはないが、当該原子力艦のその後の対応について、米国側から説明を受けたのか否か明らかにされたい。また、説明を受けているのであればその内容を示されたい。
4 ファクトシートでは、原子力艦が寄港中にトラブルを起こした場合には、速やかに影響のない場所(一二海里以遠)に移動することになっている。周辺の人口密集地の存在や、東京湾の船舶交通量などを考えると、単に横須賀から一二海里以遠ではなく、少なくとも房総沖一二海里以遠に移動する必要がある。
 (一) 一二海里の起点を明らかにするとともに、米国側と起点についての協議をしているか否か明らかにされたい。
 (二) トラブル発生から移動目標地点までの所要時間を具体的に示されたい。
 (三) 寄港中にトラブルが発生し、影響のない所に移動する等の原子力防災訓練の実施を政府は検討しているか、また、そのような訓練を米国側に提案することを考えているかそれぞれ明らかにされたい。

四 メンテナンスについて

1 原子力空母が横須賀を母港とした場合でも、エードメモワールに従えば、横須賀では修理・整備を行わないことになるが、政府はそれをどのように担保するのか明らかにされたい。
2 航海中に修理が必要になり、固形廃棄物が出てくることがあり得ると考える。
 (一) 固形廃棄物の管理方法を明らかにされたい。また、その管理が適切になされているかについて、政府はどのように確認しているのか明らかにされたい。
 (二) 固形廃棄物の管理区域からの放射能漏れや放射性物質の拡散の防止方法を明らかにされたい。また、その防止が適切になされているかについて、政府はどのように確認しているのか明らかにされたい。
 (三) 一九七五年のイオン交換樹脂の投棄を含め、原子力艦がこれまでに投棄した固形廃棄物について、投棄した時期、中身及び量を明らかにされたい。

五 原子力防災関連事項について

1 政府はモニタリングポストの増設を発表している。しかし、外部に放出された放射性物質を検出するより、原子力艦からのリアルタイムの通報が、万が一の際の住民の安全対策などにはより有効であると考える。原子力艦内部、原子炉周辺を含めたモニターのデータをリアルタイムで提供するシステムが存在するのか否か明らかにされたい。
2 二〇〇六年九月一四日、横須賀港で原子力潜水艦ホノルルの出航後、周辺海水からコバルト五八、コバルト六〇が検出された。二〇〇六年一〇月五日の原子力艦放射能調査専門家会合による「横須賀港における放射能調査の結果について」では、原子力潜水艦ホノルルによるものとは断定できないとの結論を出しており、原因究明には至っていない。
 (一) 微量であるために影響はないとの結論になっているが、今後のために原因究明を徹底して行う必要はないか、政府の認識を示されたい。
 (二) 異常な放射能が検出された場合でも、今回の調査では原因究明ができなかったことになる。モニタリングポストの増設以外の方法で、異常な放射能検出の原因を究明するための体制の確立について明らかにされたい。
 (三) 万が一の場合、日米地位協定により人的被害は補償されるはずだが、物的・経済的被害についての補償制度の有無を明らかにされたい。また、被害が生じた場合、日米地位協定以外の政府の救済措置についても明らかにされたい。

  右質問する。