質問主意書

第165回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一八号

第三期科学技術基本計画を踏まえた若手研究者の処遇と筑波研究学園都市の宿舎問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年十一月九日

紙 智子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   第三期科学技術基本計画を踏まえた若手研究者の処遇と筑波研究学園都市の宿舎問題に関する質問主意書

 第三期科学技術基本計画は、キーワードとして「モノから人へ」を打ち出した。文字通り「人」を重視するのであれば、若手研究者の処遇と研究条件及び生活条件がかつてないほど悪化した状況を直視し、速やかに改善することこそ、基本計画の目標達成のために不可欠と考える。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 若手研究者の処遇について

1 現在、つくばの研究機関では、ポストドクター(博士課程修了後の非常勤研究員。以下「ポスドク」という。)や任期制研究者などの短期雇用の職員が急増しており、新規採用者の大部分を占めている。ポスドクを三年間つとめた後、大半の研究者は再び短期雇用の職に就くしかなく、運よくポスドク・任期制研究者になれた場合でも、論文や成果の期日に追い立てられ、プロジェクトや研究期間の終了時には解雇されるなど三十代半ばになっても職は安定しない。日本では博士号取得者は研究職以外の職がなく、短期雇用を繰り返すほど一般企業への再就職は難しくなっている。また生活面でも、ローンも組めず、結婚もできないという過酷な状況におかれている。筑波研究学園都市研究機関労働組合協議会の調査でも、ポスドクや任期制研究者の七割から八割が不安や不満を抱えながら仕事をしており、「パーマネント化への道」や「就職活動への支援」を強く求めている。このような若手研究者の不安定な雇用状況について、政府はどのように実情を把握しているか、調査を行っていればその概要とともに認識を示されたい。また、若手研究者の不安定な雇用の改善に向けて、どのような取組を行っているのか明らかにされたい。
2 若手研究者をめぐる過酷な実態は、教育現場の「理科離れ」ともあいまって、将来の人材確保にも深刻な影を落としている。理系の高校生にも研究者のこうした実態が知られるようになり、理工系離れと医学系への志望の集中化が顕著に表れている。また、日本学術会議も昨年の提言で、若手研究者が「将来展望を持てる制度にならなくては、研究職全体の地盤沈下を引き起こす恐れがある」と警告している。研究現場において、幹部の間でも若手研究者が使い捨てにされる現状では知識や技能が蓄積されず、必要な研究の継承・発展が不可能になるとの危機感が広がっている。科学技術立国を目指す我が国にとって、人材育成と有能な人材の確保は重要であると考えるが、研究者の育成と人材確保の観点から政府はどのような取組を行っているのか明らかにされたい。
3 第三期科学技術基本計画では、若手研究者の自立支援の立場で「より安定的な職に就いた場合には、落ち着いて研究活動等に専念することが期待される」とあり、「若手研究者に自立性と活躍の機会を与える仕組みを導入する」としている。「モノから人へ」を強調する以上、パーマネント職員を主体にした増員が必要であり、他の予算シーリングと連動させた一律の人件費の削減をすべきではないと考える。
 本年七月、この点に関し、筑波研究学園都市研究機関労働組合協議会が「試験研究機関・大学の正規職員の大幅増員」、「ポスドクの位置付けの明確化」、「任期制研究員の廃止を含めた抜本的な見直し」、「ポスドク・任期制研究員からパーマネント職員となるルートの確立」等についての要望を総合科学技術会議に申し入れているが、これらの要望について政府の見解を示すとともに、今後の具体的な対策を明らかにされたい。

二 筑波研究学園都市の宿舎問題について

1 関東財務局は、公務員宿舎に空き家が増えたとして、二度にわたって宿舎の廃止を進め、既に総数で七千七百一戸のうち千二百戸を減らしてきた。しかし、入居基準が現状に合わせて改善されないことから、ポスドクなどの非常勤職員の大半が宿舎に入居できない事態になっている。こうした中、筑波大学や高エネルギー加速器研究機構の宿舎が非常勤職員にも開放されていることは、非常勤職員の宿舎への入居が切実であることを示していると考える。非常勤職員の急増との関係で筑波研究学園都市の宿舎の潜在的需要が増えていることについて、政府はどのように現状を把握しているのか、認識を明らかにされたい。
2 非常勤職員の公務員宿舎への入居条件では、国家公務員宿舎法上の制約や省庁を超えた措置の困難性などが指摘され、各省等当局の消極的な姿勢も窺える。第三期科学技術基本計画で「科学技術の振興上障害となる制度的隘路の解消」をうたっているからには、公務員一般の枠組みで論じるべきではなく、日本の科学技術政策や研究学園都市の位置付けから積極的に対応すべきだと考える。すなわち、良好な生活環境を整備することが効果的な投資であり国有財産の有効活用であるとの立場に立った全政府的な立場からの特別措置が求められていると考えるが、第三期科学技術基本計画を踏まえ、非常勤職員の宿舎問題について、政府としてどのように取り組むのか明らかにされたい。
3 筑波研究学園都市の公務員宿舎は短期間に集中的に建設されたため、一斉に老朽化が進み、住環境が急速に悪化している。昨年十月に内閣府が実施した科学技術政策シンポジウムでは、外国人研究者が宿舎を嫌がり筑波研究学園都市に来ない旨の報告がされるなど、住環境の劣悪さが研究の国際交流の発展にも悪影響を及ぼしている。現在、二〇〇六年度の公務員宿舎の計画的改修に関わる予算がストップしていると聞くが、一刻も早く執行し改善に取り組むべきであると考える。良好な生活環境の保障は有能な人材の確保に不可欠であると考えるが、筑波研究学園都市の公務員宿舎の老朽化に対する認識を明らかにするとともに、今後どのような措置を講じていくのか明らかにされたい。
4 筑波大学と高エネルギー加速器研究機構の宿舎への国の財政措置の打ち切りや、公務員宿舎の建て替え後は独立行政法人の正規職員も入居できなくなる見通しであることが明らかになっている。また、地域では公務員宿舎の跡地の民間開発による環境悪化に反対する住民運動が起こっている。
 「筑波研究学園都市建設法」では、「必要な資金の確保を図り」と国の財政責任を規定し、「研究学園地区建設計画」では「都心地区周辺及び研究・教育施設地区に隣接した地区に整備し」「景観にも恵まれた住環境」と、住宅整備の内容を定めている。筑波研究学園都市は、長年の構想と国会審議を通じて膨大な資金を投じて建設されたものであり、一度失えば簡単には元に戻せない国民共有の財産である。筑波大学と高エネルギー加速器研究機構の宿舎への財政措置を含め、将来に禍根を残さぬ対策を国が持つべきだと考えるが、今後「筑波研究学園都市建設法」に基づき良好な生活環境の整備と保障を具体的にどのように措置していくのか、政府の対応を明らかにされたい。

  右質問する。