質問主意書

第164回国会(常会)

答弁書


答弁書第七八号

内閣参質一六四第七八号
  平成十八年六月二十二日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員谷博之君提出ロシア連邦のサハリンⅡ石油・天然ガス開発事業と油流出対応に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員谷博之君提出ロシア連邦のサハリンⅡ石油・天然ガス開発事業と油流出対応に関する質問に対する答弁書

一について

 国際協力銀行(以下「JBIC」という。)においては、サハリンⅡ石油・天然ガス開発プロジェクト第二期工事(平成十五年六月にサハリン・エナジー・インベストメント社(以下「事業者」という。)からJBICに対し融資要請があったもの。以下「本事業」という。)に対する融資を検討していくに当たり、事業者による、本事業が環境及び社会に与える影響についての配慮(以下「環境社会配慮」という。)の審査の参考とするため、本事業による環境への影響が越境し我が国に及ぶ問題に関して本事業に関心等を有する者を対象とする会議の場である「環境関連フォーラム」を開催して、本事業に対する意見等を聴取したと承知している。「環境関連フォーラム」等を通じてJBICに寄せられた本事業に対する意見等をJBICが具体的に取りまとめたところによると、①生物に関連する分野においては、事業者による基礎調査及び対策の妥当性をJBICが確認すること、事業者が生態系に配慮すること、事業者による保護対策及び監視の妥当性をJBICが確認すること、事業者がパイプラインの敷設経路の変更による鳥類への影響に配慮すること、事業者が海底パイプラインによる海洋哺乳類への影響を最小化すること並びに事業者がサハリン島における石油及び天然ガスの開発プロジェクトの累積的影響に配慮すること、②油流出対応に関連する分野においては、事業者が船舶の整備点検の検査体制を確立し、原油輸送における二重底構造タンカーの完全採用を行うこと、事業者が結氷期のタンカー運航対策を策定すること、事業者が船舶乗務員等への訓練及び船舶運航マニュアルを策定すること、事業者が船舶護送対応システムを確立すること、事業者が流出油防除資機材を準備すること及び防除戦略を策定すること、事業者が油防除について専門機関と契約すること、事業者が油流出事故発生時の我が国への影響に配慮し対策を検討すること並びに事業者が我が国の関係政府機関等と連携し情報を共有すること、③パイプラインの敷設に関連する分野においては、パイプラインの敷設の時期及び方法の妥当性をJBICが確認すること、事業者が希少生物及び生態系に配慮すること並びに事業者が密漁対策を行うこと、④社会的影響に関連する分野においては、事業者がアニワ湾での浚渫土の投棄による漁業への影響に配慮すること、事業者が従業員及び契約業者を適切に管理すること、事業者が現地住民の雇用への影響に配慮すること並びに事業者が少数民族等の社会的弱者への影響に配慮すること、⑤その他の分野においては、事業者が我が国向けの情報開示を充実すること、事業者及びJBICが我が国の本事業に関心等を有する者との会議を開催すること並びに事業者が専門家会合を開催することとのことである。

二について

 JBICによると、本事業に対する融資を検討していくに当たり、「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」(平成十四年四月に策定され、平成十五年十月以降にJBICに対して融資要請があった案件に適用されるもの。以下「新環境ガイドライン」という。)を参照しつつ、事業者による適切な環境社会配慮がなされているか否かを確認中であり、事業者による適切な環境社会配慮を確保するため、一についてで述べた本事業に対する意見等を事業者に伝え、適切な対応をとるよう促しているとのことである。JBICによると、事業者は、我が国向けの情報開示を充実する、我が国における公開協議会を開催する、原油輸送における二重底構造タンカーの完全採用を行う、オオワシの保護監視計画を策定する、希少な渡り鳥への影響を考慮してパイプラインの敷設経路を変更するなどの対応をしたとのことである。

三について

 渡り鳥及び絶滅のおそれのある鳥類並びにその生息環境の保護に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約(昭和六十三年条約第七号)第六条を受け、我が国においては、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成十四年法律第八十八号)第二十九条第一項の規定に基づき、鳥獣保護区の区域内で鳥獣の保護又は鳥獣の生息地の保護を図るため特に必要があると認める区域を特別保護地区として指定し、同地区において渡り鳥を含む鳥獣の生息環境の保護に支障を及ぼすおそれのある工作物の新築等の行為を規制するとともに、オオワシ等の絶滅のおそれのある鳥類について、絶滅のおそれのある動植物の種の保存に関する法律(平成四年法律第七十五号)第四十五条第一項の規定に基づく保護増殖事業計画を策定し、保護増殖事業を実施することにより、渡り鳥及び絶滅のおそれのある鳥類の生息環境の保全及び改善に努めている。
 今後とも、これらの取組を通じて、渡り鳥及び絶滅のおそれのある鳥類の生息環境の保全及び改善に努めてまいりたい。

四について

 JBICによると、事業者は、「健康、安全、環境並びに社会的影響に対応するため定めた活動計画」及び「少数民族に対する保護計画」を策定しており、これらの計画に基づき、本事業が女性、子供、老人、貧困層、少数民族等の社会的な弱者に及ぼす社会的影響に対して、女性専用の苦情受付電話の設置や「女性のための医療センター」への支援、小児科病院及び学校の建設、奨学金の支出等の対策を実施しているとのことである。

五について

 JBICによると、事業者は、本事業に対応する油流出対応計画を本年末までに、策定しロシア連邦政府及びサハリン州政府の承認を得る予定で作業を進めているとのことである。
 JBICによると、油流出対応計画の草案を公開するか否かは、油流出対応計画の承認権者であるロシア連邦政府及びサハリン州政府並びに油流出対応計画の策定者である事業者が判断するが、JBICは、「環境社会配慮確認にあたり、相手国の主権を尊重しつつ、(中略)透明性とアカウンタビリティーを確保したプロセス(中略)が重要であることに留意する」ことを定めた新環境ガイドラインを参照し、草案の公開を事業者に対して促していくとのことである。

六について

 JBICによると、油流出事故発生時の事業者による対応に関する審査においては、条約、国際機関の基準等に沿って適切な措置を講ずるとの約束が事業者によって履行されることを確認できる書類によって、事業者による適切な環境社会配慮が確保されるか否かを判断することが可能であるとのことである。

七について

 JBICによると、融資決定後であっても、油流出対応計画の策定にJBICが関係する融資機関とともに適切に関与していくことにより、油流出対応計画の内容が条約、国際機関の基準等を適用するものとなるよう事業者に対して促していくとのことである。また、JBICによると、油流出対応に関する事業者による環境社会配慮が不十分であるとJBICが判断した場合には、融資決定後であっても、他の関係する融資機関と協議を行った上、融資を停止するなどの実効的な措置を講ずることが可能であるとのことである。

八の1及び九について

 JBIC及び独立行政法人海上災害防止センター(以下「センター」という。)によると、お尋ねの「実用的な緊急対応計画」と「地域的な緊急対応計画」とは同一の計画であり、その概要については、事業者の原油等生産施設からの大規模な油流出事故が発生した場合に、事業者の要請を受け、センターが実施する対応措置に関する計画であるとのことである。JBIC及びセンターによると、当該計画の対象地域については、未定であるとのことである。

八の2について

 御指摘の「実用的な緊急対応計画」は、事業者とセンターが策定するものであると承知しており、お尋ねについて、政府としてお答えすることは差し控えたい。

八の3について

 御指摘の「覚書」については、事業者とセンターとの間において締結されたものと承知しており、その公開の可否は、締結の当事者である事業者とセンターが判断すべきものであると考えている。御指摘の「覚書」の改定については、事業者とセンターで協議中であると聞いている。

十について

 御指摘の「合同訓練」において、御指摘の「事故」の発生前に油回収等に係る訓練が実施され、訓練の所期の目的が達成されていることから、再訓練については計画されていない。
 平成十九年以降も合同訓練を引き続き継続的に実施していくことについては、日露両国で合意されているが、現時点においては、冬季に実施するか否かを含め、具体的なその実施の時期等については未定である。

十一について

 御指摘の「申し合わせ」とは、御指摘の「油汚染事件に対する準備及び対応に関する関係省庁連絡会議」(以下「連絡会議」という。)において申し合わされた「サハリンⅡ石油開発プロジェクト生産施設における油流出事故への関係行政機関の具体的な準備及び対応について」のことであると思われるが、この申合せについては、平成十八年一月三十日にサハリンⅡ石油・天然ガス開発プロジェクトに加え、サハリンⅠ石油・天然ガス開発プロジェクトを申合せの対象とする等所要の改正を行い、その表題も「サハリン石油・天然ガス開発プロジェクト生産施設における油流出事故への関係行政機関の具体的な準備及び対応について」に改めたところである。
 この申合せにおいては、情報の総合的な整備の項目については外務省、財務省、水産庁、経済産業省、海上保安庁及び環境省が、油流出事故等の発生の防止等の項目については財務省、外務省、経済産業省及び海上保安庁が、対応体制の整備の項目については外務省、水産庁、海上保安庁、環境省等が、油流出事故等に関する通報・連絡体制の整備及び情報の連絡の項目については内閣官房、外務省、財務省、経済産業省及び海上保安庁が、油防除対策の実施の項目については内閣府、外務省、財務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、気象庁、海上保安庁、環境省等が、その他の項目については内閣官房、海上保安庁等が、準備及び対応を行うことを申し合わせたところであり、具体的には、例えば、海上保安庁は、外務省、財務省及び経済産業省の協力を得て、サハリンプロジェクトの油防除対策に関する情報を一元化し、関係行政機関、地方公共団体等から説明を求められた場合は、必要に応じ、これに対応すること、関係行政機関は、海上保安庁からサハリンプロジェクト生産施設における油流出事故に関する情報を入手した場合は、必要に応じ、それぞれの機関の対応体制の確立を図ること等の措置等を講ずることとしている。

十二について

 平成十五年十月二十九日、在ロシア連邦日本国大使館を通じ、ロシア連邦運輸省海洋汚染・海難救助調整庁長官に対し、千九百九十年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約(平成七年条約第二十号)をロシア連邦が早期に締結するよう申し入れた。これに対し同長官からは、同条約の締結のために、国内の地域ごとの緊急時計画を作成するなどの体制整備を図るとともに、関係省庁間で調整を行っているとの回答を得た。また、平成十八年一月二十六日、在ロシア連邦日本国大使館を通じ、ロシア連邦運輸省海洋汚染・海難救助調整庁に対し、同条約の締結のための準備状況について照会したところ、同庁より、同条約の締結のための国内手続に時間を要しているとの回答を得た。

十三について

 連絡会議は、大規模な油流出事故が発生した場合等必要に応じ開催することとしており、現時点においては、次回の連絡会議をいつ開催するかは未定である。また、連絡会議の結果等広く周知すべき事項については、報道機関に対して広報を行い、周知を図っているところである。

十四及び十五について

 政府としては、知床半島周辺海域において航空機及び巡視船により海上の浮流油を調査すること、海鳥の死骸に付着した油の種類を特定すること、海鳥の死亡原因と考えられる油流出事故の有無等に関しロシア連邦政府等に照会すること等の措置をとった。政府としては、引き続き関係省庁が連携し、それぞれの所掌事務に基づいて、情報収集及び調査を行っていく考えである。

十六について

 御指摘の「地域的な緊急対応計画」は、事業者とセンターが策定するものであると承知しており、その計画内容も不明であるため、お尋ねについて、政府としてお答えすることは差し控えたい。

十七について

 政府としては、我が国の周辺海域のすべてを対象とし、関係行政機関、地方公共団体その他の関係者の役割分担及び連携について定めた「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」(平成九年十二月十九日閣議決定)を策定している。
 また、海上保安庁長官は、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(昭和四十五年法律第百三十六号)に基づき、我が国の周辺海域を十六の海域に分割し、それぞれの海域ごとに地理的特性等に応じた排出油防除計画を作成しているところである。
 大規模な油流出事故が発生した場合には、これらの計画に定めるところに従い、関係行政機関、地方公共団体その他の関係者が連携して、迅速かつ効果的な対応が図れるものと考えている。