質問主意書

第164回国会(常会)

質問主意書


質問第八五号

臓器移植法の運用と臓器移植の展望に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年六月十五日

山本 孝史   


       参議院議長 扇 千景 殿



   臓器移植法の運用と臓器移植の展望に関する質問主意書

 「臓器の移植に関する法律」(以下「臓器移植法」という。)が平成九年十月十六日に施行され、まもなく九年が経過しようとしている。臓器移植法は、臓器提供に関する本人意思の尊重を第一の基本的理念としている。そこで、本人の意思表示に基づいて、臓器摘出の要件としての脳死判定(法的脳死判定)を経なければ、脳死下での臓器移植は行うことができないことになっている。そのため、臓器移植の実施例が増えないとか、小児に対する移植術の妨げとなっているなどの批判もなされている。
 しかし、我が国において、臓器移植がなかなか普及、定着しないのは、現行法を支える本人意思の尊重という考え方に問題があるからであろうか。
 そもそも臓器移植法は、その成立過程において、事実上、二度にわたる修正が行われている。旧法案に対する提出者自身による衆議院修正と、新法案に対する参議院修正である。いずれも本人の意思表示を前提とすることで、臓器移植に関する議論を少しでも前進させようとするものであった。
 当時の国会審議に関わった者の理解としては、臓器摘出の要件としての脳死判定を本人及び家族の同意がある場合に限るなど、脳死下の臓器移植の要件が厳しくなっているのは、移植医療に対する国民の信頼を醸成し、確保するためであったはずである。
 その前提条件を安易に撤廃してしまうと、元も子もなくなるおそれがあるのでないか。
 我が国において、臓器移植がなかなか普及、定着しない真の原因は何か。
 臓器移植法の施行状況を踏まえて、臓器移植の実態を明らかにし、事実に基づいて慎重に検討を行い、冷静な議論を尽くすことが重要である。
 このような観点から、以下質問する。

一、移植希望登録者数について

 臓器移植法施行後の移植希望登録者数の年別推移とこれまでの累計を、移植対象臓器ごとに明らかにされたい。

二、法的脳死判定の実施件数、認定件数と臨床的脳死状態の発生件数について

1 臓器移植法施行後における法的脳死判定の実施件数と認定件数のそれぞれについて、これまでの年別推移と累計を明らかにされたい。
2 政府は、臨床的脳死状態の発生件数を把握しているのか。把握できているのであれば、臓器移植法施行後において、臨床的脳死状態の発生件数の年別推移とこれまでの累計を明らかにされたい。また、臨床的脳死状態の発生件数を把握していないのであれば、その理由と我が国における臨床的脳死状態の発生件数の推計を示されたい。

三、臨床的脳死状態の発生件数若しくはその推計値と法的脳死判定の件数との乖離について

1 臨床的脳死状態の発生件数のうち、患者の臓器提供意思表示カード若しくはそのシールの所持・不所持の件数とその割合が分かれば示されたい。分からなければ、その推計を示されたい。
2 臨床的脳死状態の発生件数のうち、臓器提供施設としての必要な体制を備えている施設において、臨床的脳死状態が発生した件数、又は臨床的脳死状態の患者が当該施設に搬送された件数はどれだけか。臨床的脳死状態の発生件数の総数が分かれば、そのうちの割合についても示されたい。
3 臓器提供施設としての必要な体制を備えている施設において、臨床的脳死状態にある患者で臓器提供意思表示カード若しくはそのシールを所持していた者のうち、臓器提供に係る本人の意思表示が同意・不同意であった者の数とその割合を示されたい。また、家族の意思表示が同意・不同意であった者の数とその割合について示されたい。家族の意思表示全体の数字とともに、本人の同意・不同意の別にも示されたい。

四、法的脳死判定等の実施状況について

1 法的脳死判定がこれまでどのような医療施設において実施されてきたのか、実施したすべての施設名を明らかにされたい。また、大学付属病院、日本救急医学会の指導指定施設、日本脳神経外科学会の専門医訓練施設又は救命救急センターとして認定された施設の別ごとに、これまでの年別推移と累計を示されたい。
2 法的脳死判定が実施された日について、これまでのすべての事例の日付と曜日を示されたい。また、実施日を曜日ごとに集計して示されたい。実施日が休日であれば、その旨を記載されたい。
3 臓器の摘出が実施された日についても、これまでのすべての事例の日付と曜日を示されたい。また、実施日を曜日ごとに集計して示されたい。実施日が休日であれば、その旨を記載されたい。

五、臓器提供施設について

 臓器提供施設として、厚生労働省のガイドラインの条件をすべて満たしている施設の数の推移と、臓器提供施設としての必要な体制を整えている施設の数の推移を示されたい。また、その乖離は、どのような理由から生じているのか、明らかにされたい。

六、移植実施施設について

 移植実施施設として、移植関係学会合同委員会において選定された施設の数の推移について、移植臓器ごとに示されたい。

七、臓器提供意思表示カード等の普及について

1 臓器提供意思表示カード、医療保険の被保険者証に添付することができる臓器提供意思表示シール及び運転免許証に添付することができる臓器提供意思表示シールのそれぞれについて、これまでの配付枚数の推移と累計を示されたい。
2 臓器提供意思表示カード等の配付に際しては、添付される説明書において、少なくとも、①脳死とはいかなる状態であるかということ、②脳死状態の患者には自動運動、脊髄反射、ラザロ徴候があり、臓器摘出時に血圧の上昇が認められること、③臓器の摘出に際して、臓器提供者に麻酔・筋弛緩薬・モルヒネを使用すること、④脳死下の臓器提供においては、本人の意思表示と家族の承諾が必要であること、⑤心臓停止後の臓器提供(腎臓と眼球)に関しては、拒否の意思表示をしていない限り家族の承諾があれば提供できること、⑥臓器提供者は臓器の移植を受ける者を指定することはできないこと、⑦臓器提供に関する意思表示は、いつでも任意に撤回できること等の事項について、分かりやすい説明がなされていることが望ましい。現行の説明書について、これらの事項についての記載の有無と、記載されているのであれば、どのような記載がなされているのかを明らかにされたい。

八、移植結果について

 臓器移植法の施行後に実施された心臓、肺、肝臓、腎臓及び小腸の移植に関して、移植術を受けた患者のうち生存している者の割合を示す生存率と、移植術を受けた患者のうち移植された臓器が免疫反応による拒絶反応や機能不全に陥ることなく体内で機能している者の割合を示す生着率について、それぞれ一年経過後、二年経過後、三年経過後、四年経過後及び五年経過後の数値を明らかにされたい。

九、脳死下の臓器提供事例に係る検証について

1 脳死下での臓器提供事例について、検証の結果が報告書に取りまとめられ、公表されている事例をすべて示されたい。また、一般市民による閲覧方法を明らかにされたい。
2 検証結果が公表されていない事例が数例あると承知しているが、その理由を事例ごとに明らかにされたい。

十、教育用普及啓発パンフレットについて

 厚生労働省が全国の中学校等に送付している教育用普及啓発パンフレットや臓器移植ネットワークが作成している臓器提供意思表示カード等の説明文書において、人の死と脳死の関係、脳死と臓器移植との関係は、それぞれどのように説明されているのか。脳死を人の死と認めない考え方については、どのように記述されているのかを明らかにされたい。

十一、「脳死は人の死」とする医療関係者が四割にも満たないことについて

 平成十八年四月二十六日に開催された厚生労働省の臓器移植委員会において、研究班による調査結果が報告されている。それによると、臓器提供を扱う医療機関の医療スタッフのうち、脳死による死の判定を妥当と肯定する者は三十パーセント台にとどまっていることが明らかとなった。この調査の対象(どのような医療施設、職種)と対象者の数、主な設問と回答の結果について、紹介されたい。また、この結果について、政府はどのように受け止めているのか、明らかにされたい。

十二、日本人の死生観と臓器移植の展望について

 臓器提供意思表示カード等を大量に配布しているにもかかわらず臓器の提供者が増えないこと、臓器提供を扱う医療機関の医療スタッフでさえ、脳死による死の判定が受け入れられていない事実などから、我が国においては、脳死下の臓器移植による移植医療が本当に受け入れられるのか、という根本的な問題が横たわっているように思われる。脳死下の臓器移植は、日本人の死生観とは調和的ではないのではないか、との疑いを持つ所以である。
 政府は、これまでの施策によって脳死下の臓器移植が進まなかったことについて、どのように評価しているのか、その総括を示されたい。また、脳死と臓器移植に関する日本人の意識について、どのように理解しているのかを明らかにされたい。

十三、臨床的脳死状態及び法的脳死状態における加害行為の法的評価について

1 臨床的脳死状態にある者から、適正な法的脳死判定を経ずに、臓器を摘出した場合の法的評価について、政府の見解を示されたい。
2 適正な法的脳死判定を経ていない臨床的脳死状態にある者に対して、致命的な加害行為を行った場合の法的評価について、政府の見解を示されたい。
3 適正な法的脳死判定を経た者に対して、移植のための臓器の摘出以外の致命的な加害行為を行った場合の法的評価について、政府の見解を示されたい。

  右質問する。