質問主意書

第164回国会(常会)

質問主意書


質問第八三号

我が国の基礎的な情報管理システムに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年六月十五日

簗瀬 進   


       参議院議長 扇 千景 殿



   我が国の基礎的な情報管理システムに関する質問主意書

 今国会において出入国管理及び難民認定法が改正され、日本に入国する外国人についての膨大な指紋その他の生体情報を政府が入手できるようになった。言うまでもなく、コンピューター技術の進展は、政府による多種多様な情報の入手を可能とし、国家の有する膨大な電子情報が、我が国の外交・経済・安全保障はもとより、国民生活の隅々にまで重大な影響をもたらす新たな事態が出現している。にもかかわらず、これら情報管理のシステム設計や機器導入、そして管理運営の各側面で、一貫した国家戦略を欠き、安易に外資系企業のノウハウに依存しようとする姿勢が顕著なのは極めて遺憾である。
 たとえば、今国会における入管法改正によって新たな生体情報認証システムの認証装置及び自動化ゲートシステムが導入されることとなったが、法案の審議過程で明らかになったようにこれらのソフトウェアを開発し、その実証実験等の業務を担っているのは、バミューダに本社を置く外国企業・アクセンチュア社である。同社は、アメリカ合衆国(以下合衆国とする)に入国する外国人の指紋情報を入手するUS-VISITなるシステムの管理運営を委託されているが、すでに合衆国議会でも、膨大なセンシティブ情報の管理を同社のみに委ねてしまうことの問題点が議論されたと聞いている。
 入管行政の基本的な情報システム及びそれによって得られる膨大な外国人の生体情報は、一国の安全保障の面から言っても極めて重要であることは言うまでもない。それにもかかわらず、ソフトウェアの開発から指紋の認証装置まで、いわば情報管理システムの川上から川下までのすべてを、外国系の一企業に委ねてしまって良いのだろうか。
 さらに、我が国と合衆国の指紋情報を管理するのがともにアクセンチュア社ということになれば、両国の持つ外国人の指紋情報を統合的に管理することについてのシステム上の障害はまったくなくなる。その結果として、たとえば合衆国に入国した日本人の指紋情報が、同国政府を介して日本国政府にもたらされることについてのシステム上の障害は存在しないこととなる。このように、我が国の持つ入管情報がアクセンチュア社のシステムによって相互に流用される懸念はないのだろうか。
 さらに、アクセンチュア社は、入管法関連の外国人の生体情報にとどまらず、法務省関連だけでも、不動産登記関連の情報や検察情報などの、我が国の存立と自主性を維持する上で極めて重要な基礎的情報の管理システムにも参入しようとしていると聞いている。
 このように国家の存立にかかわる基礎的な情報システムの管理を安易に外国系企業に委ねてしまうことは、主権国家の自主独立を確保していくうえで基本的に問題である。
 もとより偏狭なナショナリズムを主張し、いたずらな外資への障壁を設けよ、などと言うつもりはない。公正なルールによる国際競争の必要性を認めることもやぶさかではない。しかし、国家の自主独立にかかわる基礎的な情報の管理を、軽々に外資系企業に委ねてしまうことは厳しく慎むべきである。早急に情報管理についての基本原則と国家戦略を確立すべきではないだろうか。以上の懸念に基づき、以下質問する。

一 アクセンチュア社に関係するすべての政府契約について

 日本国政府がアクセンチュア社との間で締結したすべての契約について、以下の事項を明らかにされたい。
1 契約年月日
2 契約当事者となった行政部局
3 契約内容
4 とりわけ、契約条項中その取り扱う個人情報について課されている守秘義務の内容

二 アクセンチュア社が関係する将来の政府契約について

 政府部内の今後の事業であって、現在アクセンチュア社が応札中のものを含め、アクセンチュア社が受注する可能性があるものがあれば、その事業名及び具体的な事業内容を示されたい。

三 法務省新入管システムとアクセンチュア社について

1 法務省は「認証装置及び自動化ゲート」のソフトウェア開発と実験の業務を、わずか十万円(運営業務費用九万円・成果物作成費用一万円)でアクセンチュア社に落札(平成一七年九月一二日)させたと聞いているが、このような低額入札の目的と政府がこれを認めた理由を説明されたい。
2 現在、成田空港では、指紋認証装置及び自動化ゲートの実証実験が行われているが、今国会で参議院法務委員会として現地を視察した際、機器の納入業者が沖電気株式会社であることを現認した。沖電気株式会社以外に機器の納入業者があるか。さらに、実験後に正式にスタートする指紋認証・自動化ゲートに関連する各機器の納入業者名並びに機器納入に関する契約内容及び契約金額、契約前ならおおよその見積り額を明らかにされたい。
3 2に関連して、各機器の納入業者は、アクセンチュア社の持つ独自のノウハウや特許に対し、パテント使用料やコンサルタント料等を支払う契約を行っていると推測するのが自然である。さらに1の低額入札との関連もある。そこで、法務省は発注官庁として、アクセンチュア社と機器納入業者の費用負担関係を詳細に把握しておくべき必要があると考えるが、これらを調査した事実はあるか。さらに、法務省として把握している機器納入業者のアクセンチュア社に対する費用の負担関係を明らかにされたい。
4 アクセンチュア社は合衆国政府からUS-VISIT制度に伴うシステム開発・運用などの業務の委託を受けていると聞くが、その契約の年月日と契約内容、契約金額について日本国政府として認識しているところを説明されたい。
5 我が国の入管当局が採用しようとしているシステムはその基本OS、ソフトウェア、データ形式などにおいて、US-VISITと同様のものとされていると聞くが、そのとおりか。また、我が国の入管当局の採用しようとしているシステムとUS-VISITとは技術的にデータ共有が可能なシステムとなっていると理解してよろしいか。
6 我が国が生体認証情報システムを通じて得た情報は、合衆国政府に提供可能であるが、他方、同国政府がUS-VISITシステムで得た情報は我が国に提供されるのか、明らかにされたい。
7 法務省ホームページに掲載されている「業務環境分析図」(出入国管理業務)の「出入国管理業務の主要課題分析図」の「システムの見直し」の項目中に「国内外の関係機関との相互運用性の確保」という記載がある。アクセンチュア社への発注はUS-VISITとのシステムの相互運用を念頭に置いているのではないか。
8 合衆国議会では、US-VISITシステムの導入の際に、この事業を落札したアクセンチュア社がバミューダに本社を置く節税企業であることから、強い反対意見も出され、二〇〇四年六月九日には、連邦議会下院歳出委員会で、外国企業と国土安全保障に関する契約を禁止するための措置が可決されたと聞いている。政府として把握している事実を明らかにされたい。また、国の安全保障の根幹となるシステム開発を外国企業に委ねることについて、政府はどのように考えているのか、明らかにされたい。

四 政府間関係について

1 合衆国政府との間で、我が国の入管情報システムとUS-VISITとのデータ共有、システムの相互運用のための取り決めが存在しているのか。存在しているとすれば、その内容を開示されたい。
2 1で指摘した取り決めがまだ存在しないとすれば、現在我が国の如何なる機関と合衆国政府の如何なる機関の間で、この問題についての協議がなされているのか、その進捗状況について説明されたい。
3 合衆国政府と日本国政府との間で、入管システムを統合し、データを共有する場合、そのための法律制度として国内においてどのような法整備が必要であるないし必要でないと考えているのか。

五 法務省作成文書とアクセンチュア社の関与について

 法務省のホームページ上に掲載されている別表の文書について、アクセンチュア社がその作成に関与したものはどれか。また、原案の作成にのみ関わったものと作成の責任者として名前が表示されているもの(例「刷新可能性調査結果報告」)とがあるが、関与の方法にどのような違いがあるのか。

六 IC旅券の仕様について

1 IC旅券について、顔写真だけでなく指紋や指静脈をデータとして盛り込むことは仕様上可能か。
2 日本国政府の発行するIC旅券について、指紋データを盛り込むことにより、合衆国の入管ゲートにおいて指紋採取を省略することは可能か。また、これを可能にするための協議がなされているのではないか。

  右質問する。

別表1/2

別表2/2