質問主意書

第164回国会(常会)

質問主意書


質問第八一号

カネボウ株式会社等の事業再生に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年六月十四日

櫻井 充   


       参議院議長 扇 千景 殿



   カネボウ株式会社等の事業再生に関する質問主意書

 カネボウ株式会社(以下「カネボウ」という。)の株式は、平成十七年六月十一日に最終取引価格三百六十円で上場廃止となった。その一か月後にカネボウは、株式会社カネボウ化粧品に対しC種株を三百二十円で第三者割り当て発行しているが、C種株はそもそも上場されていない流動性が低い株式であるから、三百六十円よりも低価格なのは当然といえる。
 ところが平成十八年二月、カネボウのスポンサー会社であるトリニティ・インベストメント株式会社(以下「トリニティ」という。)は、C種株三百二十円の半額近い百六十二円で株式公開買い付け(以下「TOB」という。)を実施した。カネボウもその価格が妥当だとしてTOBに賛同を表明した。つまりカネボウ株は、わずか半年で半額に下落したことになる。この百六十二円という価格は、第三者割り当て増資の株価のおよそ四十パーセントから五十パーセントにしか満たないにも関わらず、カネボウは根拠も示さずこれを妥当としただけでなく、TOBに応じない場合、「産業活力再生特別措置法(以下「産活法」という。)に基づく強制的な『金銭交付による株式交換』が予定され、百六十二円という価格も保証されない」という脅迫的文言により株式の売却を個人株主に促した。このため、個人株主の権利が甚だしく侵害された疑いがある。
 また現在、カネボウは、産活法第十二条の九の強制的な「金銭交付による株式交換」の認可を申請中と見られ、近い将来全ての個人株主がその権利を一方的に剥奪されるという、さらに酷い状況に陥る可能性が大きい。
 そこで、以下質問する。

一 産業再生機構は、一般にスポンサー企業の選定の際に再生計画の提出を受けており、実際の再生作業もその計画どおり実施されなければならないはずである。スポンサー企業は、自ら提出した再生計画にどのような形で、どの程度拘束されるのか、政府の見解を示されたい。

二 スポンサー企業から提出された再生計画と実際の作業が異なることは容認されるのか。容認される場合、どの程度の差異まで容認されるのか。仮に計画が実際と大きく異なる場合、産業再生機構又は所轄省庁は、どのように対処をするか。

三 産業再生機構又は所轄省庁は、スポンサー企業による再生計画と実際の作業の食い違いの監視を行っているか。行っているとすれば、どのような方法によるのか。

四 産業再生機構は、花王・トリニティグループが事前に提出した再生計画と実際の再生作業が合致することを検証する義務を負うのか、政府の見解を示されたい。義務を負うのであれば、産業再生機構が実際に検証の実施を行っているかどうか政府は把握しているのか。

五 産業再生機構は、カネボウを支援するに当たり三百八十円でC種株の第三者割り当て増資を引き受けたが、トリニティがTOBで提示した価格は、百六十二円であって大幅な下落となっている。トリニティへカネボウ株式を譲渡するに当たって産業再生機構はおよそ二百億円の利益を上げたとされるが、このことから、産業再生機構が保有していたC種株の譲渡価格は三百八十円以上であったと推定され、トリニティのTOBで示された百六十二円という株価の大幅下落は、産業再生機構がカネボウを保有している間に起こったものではなく、カネボウがトリニティに譲渡された後に生じたと考えられる。
 ところが、このような株価の大幅下落に対してカネボウもトリニティも何ら具体的理由を開示していない。これは著しく不明朗な経営姿勢であり、投資家保護精神に背くものだと考えるが、これについて政府の見解を示されたい。

六 経済産業省は、トリニティの支配の下で不明朗な経営を行うカネボウに、産活法第十二条の三による簡易営業譲渡を認可した。政府はこれを適切であったと考えるのか。
 また、簡易営業譲渡の認可を審査した際、経済産業省及び厚生労働省は、カネボウの企業価値について、第三者割り当て発行増資の際の産業再生機構の算定とトリニティの算定との間に、株価において二倍(三百二十円対百六十二円)にも及ぶ差があることを認識していたのか。また、そのような差が生じた原因に疑問を持つべきではなかったのか。

七 産活法第十二条の三による四月十四日のカネボウの簡易営業譲渡の譲渡価格は、みずほ証券株式会社の評価書に基づいている。しかし、この評価書を見ると常識では有り得ない想定による評価計算がなされ、捏造とも言うべきものであり、会社の資産を不当に安く譲渡した特別背任の疑いもある。TOB価格の百六十二円もこの評価書に基づくものであると見られる。
 そこで、産業再生機構、経済産業省及び金融庁は、みずほ証券株式会社によるカネボウの事業評価書の存在及び内容を把握しているか。またその評価書が提示された場合、調査を行うのか。

八 『改正産業活力再生特別措置法ハンドブック』(経済産業省産業再生課編)によれば、公序良俗に反する場合、産活法第十二条の三の簡易営業譲渡の認定はしないこととなっているが、これは事実か。事実とすれば、公序良俗に反する行為とは具体的に何を指すか。また、特別背任・脱税など、公序良俗に反する行為に同条が利用された場合、同条に係る認定を取り消すことはあるのか。

九 現在カネボウは、産活法第十二条の九の認定を申請し、金銭交付による一般株主の締め出しを計画中と言われているが、トリニティの支配の下で不明朗な経営を行うカネボウに産活法第十二条の九を認可するのは、十二条の三の認可と同じく不適切ではないか。この点について政府の見解を示されたい。

十 村上ファンドの事件でも明らかなように、投資ファンドとは、時に不法な手段を用いても自らの利益の最大化を図るものである。カネボウ問題について言えば、例えばトリニティ支配下のカネボウが、自身の事業価値を故意に安く見積もり、産活法による簡易譲渡の特例により取締役会決議のみでトリニティが自ら設立した企業に営業譲渡すれば、利益の最大化が可能である。なぜなら、譲渡元の企業を保有し続けている一般株主に対するTOBや金銭交付による株式交換の際の株価が下がり、一般株主への現金支払いが減るからである。
 実際、カネボウにおける百六十二円という価格によるTOBや金銭交付による株式交換には、その疑いがある。このような営業譲渡が、投資ファンドによる不法な利益の最大化の手段となることを、産業再生機構、経済産業省及び金融庁は認識しているか。認識しているとすれば、このような不法行為の発見と防止の責任はどこが負うべきであるか。また実際、カネボウの産活法第十二条の三による株主総会を経ない簡易営業譲渡を認可する際の審査においては、不法行為の有無は調査されたのか。

十一 質問十における産業再生機構、経済産業省及び金融庁の見解が、不法行為の発見と防止は株主の責務であるとすれば、責任を全うするためには最低限の情報が必要となる。TOB、事業譲渡や営業譲渡の詳細や譲渡価格の算定根拠が発表されていないことが妥当だと考えるのか。

  右質問する。