質問主意書

第164回国会(常会)

質問主意書


質問第七九号

独立行政法人産業技術総合研究所等における動物実験施設に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年六月十四日

谷 博之   


       参議院議長 扇 千景 殿



   独立行政法人産業技術総合研究所等における動物実験施設に関する質問主意書

 本年六月一日、実験動物に対する3Rの原則(苦痛の軽減、使用数の削減、代替法の活用)が明記された改正動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)が施行された。これに関連して環境省は「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」、文部科学省は「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」、厚生労働省は「厚生労働省における動物実験等の実施に関する基本指針」、農林水産省は「農林水産省の所管する研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」をそれぞれ定めている。さらに日本学術会議も「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を公表している。
 一方、本年五月一七日私は、経済産業省が所管する独立行政法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という。)つくばセンター第六事業所(茨城県つくば市)の動物実験・飼育施設において、カルタヘナ議定書の履行を担保する国内法としての「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(以下「カルタヘナ議定書担保法」という。)及び動物愛護管理法の違反がある旨の指摘を受けた。私が説明を求めたところ、経済産業省から五月三〇日に回答があり、少なくとも本年三月の時点で表示義務違反などのカルタヘナ議定書担保法違反があったことがわかった。
 遺伝子組換え生物のずさんな管理は、周辺の生態系に甚大な影響を与えるのみか、近隣の住民にも深刻な不安を呼ぶ。多大な国費を投入しての先進的な生命科学分野での研究推進に国民的理解を得るためには、政府関係機関が法令を遵守することは必須であり、さらに法令の理念を踏まえた情報公開が必要である。
 このような観点から、以下質問する。

一 国及び独立行政法人の保有する施設で、日本学術会議の「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」の第一定義にある「動物実験等」を実施している施設の名称及び所在地を明らかにされたい。なお、これらの施設が届出制ではないことは承知しているので、答弁に当たっては可能な限り把握に努められたい。

二 日本学術会議参加の学会のうち、日本学術会議の「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」の第一定義にある「動物実験等」を実施している会員を有する学会の名称を明らかにされたい。

三 一及び二で取り上げた施設及び学会に対し、環境省、文部科学省、厚生労働省及び農林水産省が定めた基本指針等を遵守させるために、それぞれどのような周知徹底の方策を予定しているか。また、日本学術会議は「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を遵守させるために、どの省庁の協力を得て、どのような周知徹底の方策を予定しているか。

四 経済産業省は、環境省、文部科学省、厚生労働省及び農林水産省が定めた基本指針と同様の指針を策定する予定はあるか。ないならばその理由を示されたい。

五 カルタヘナ議定書担保法上の遺伝子組換え生物等の第二種使用等のうち、拡散防止措置が主務省令で定められておらず、同法第十三条の主務大臣の確認を受けた拡散防止措置が取られている施設の名称、所在地及び確認申請者の人数とその者の所属先を明らかにされたい。

六 国及び独立行政法人の保有する施設で、カルタヘナ議定書担保法上の遺伝子組換え生物等の第二種使用等を行っている施設の名称及び所在地を明らかにされたい。また、このうちカルタヘナ議定書担保法第十二条に基づく主務省令で定める拡散防止措置が取られている施設はどこかを明らかにされたい。なお、これらの施設が届出制ではないことは承知しているので、答弁に当たっては可能な限り把握に努められたい。

七 カルタヘナ議定書担保法の施行後、遺伝子組換え生物等の第二種使用について、これまでに明らかになっている同法違反事例はどのくらいあるのか。違反していた条文ごとに整理して示されたい。

八 文部科学省は昨年八月一日に国立大学や独立行政法人、民間企業など四十四機関に対して、カルタヘナ議定書担保法違反を発見し、厳重注意を行った。
 これは、たまたま文部科学省が所管する財団法人実験動物中央研究所(以下「実中研」という。)が、昨年四月に農林水産省からカルタヘナ議定書担保法違反で厳重注意を受けたことから、実中研と遺伝子組換え動物の譲渡等を行っていた四十五の大学や研究機関、民間企業等に調査を行ったところ判明したものである。実に九十七・八パーセントに当たる四十四機関がカルタヘナ議定書担保法違反であったという、誠に深刻な「ざる法」状態であった。

1 この文部科学省の調査は、実際に施設に立ち入るなどして行われたのか、資料提出などの方法だったのか、具体的な調査方法を示されたい。また、今後はこれらの施設に対して定期的な立入調査を行うことを検討しているか。
2 このような深刻な事態を受け、文部科学省は昨年八月から九月にかけて、全国でカルタヘナ議定書担保法の説明会を開催し、周知徹底を図ったところと承知している。昨年八月三〇日の一橋記念講堂及び九月九日の京大ローム記念館大ホールにおいて行われた説明会は、どのような方法で周知したのか。
 また、両説明会に参加した大学・研究機関・事業者の名称及びその中に経済産業省所管の機関は含まれていたか否かを示されたい。
3 産総研は、2で示した文部科学省の一連の説明会のいずれかに参加していたのか。参加していなかったのであればその理由を明らかにするとともに、産総研がカルタヘナ議定書担保法の周知徹底についてどのような取組をこれまで行ってきたのかを明らかにされたい。

九 産総研が本年六月九日に私に提出した資料によると、本年三月二七日に産総研動物実験委員会委員が行った「産総研つくばセンターの動物飼育施設の外部有識者による実地調査」において、第六事業所の他に、第二事業所、第四事業所、東事業所において、表示義務違反をはじめとする数々のカルタヘナ議定書担保法違反が指摘され、産総研に報告されていたという。

1 この調査は、どのような背景があってこの時期に行われたのか。また、当時なぜ文部科学省にこの事実を通知しなかったのか。既に通知しているならその時期も併せて示されたい。
2 このような調査は、つくばセンター以外の産総研施設においても行われたのか。行われたのであれば、その時期と内容をすべて明らかにするとともに、全国の産総研関連施設におけるカルタヘナ議定書担保法の施行以来の遵守・違反状況を明らかにされたい。
3 第六事業所に出入りしていた実験動物飼育の下請業者は、以前から表示義務違反をはじめとする数々のカルタヘナ議定書担保法違反があったと私に指摘しており、既に二〇〇四年九月一五日には、当時の産総研つくばセンター第六事業所動物実験委員会委員長に報告したとしている。産総研は、第六事業所におけるカルタヘナ議定書担保法違反の事実をいつから把握していたのか。

十 産総研の事例から推測すると、文部科学省のこれまでの取組にもかかわらず、カルタヘナ議定書担保法違反は依然として全国に蔓延していると容易に想像される。今後、文部科学省は、周知徹底と取締りについて具体的にどのような取組を行うつもりか。

十一 カルタヘナ議定書担保法の遵守を確実にするための十分な周知徹底を行うためには、文部科学省は、省庁の所管を越えて、遺伝子組換え生物の第二種使用を行っているすべての機関を把握していなければならないと考えるが、いかがか。また、それ以外に周知徹底を行う方法があれば具体的に示されたい。

十二 産総研つくばセンターの通称「倉地ビル」と呼ばれる6-13棟(以下「倉地ビル」という。)は、二〇〇〇年度の国の補正予算三十四億一千万円(うち設計予算一億三千万円)をかけて建設され、二〇〇三年三月二八日に完成したと承知している。

1 産総研の二〇〇三年度年報によると、倉地ビルは「有用糖タンパク質の生産を行う遺伝子改変細胞、医療・検査薬開発に重要な役割を示す糖鎖関連遺伝子の解析を行う事を主目的とした施設」とされている。現在、倉地ビルはこの主目的で使われているのか。
2 完成後現在に至るまで、倉地ビル三階にある特定病原体を持っていない(Specific Pathogen Free)動物(以下「SPF動物」という。)の専門の飼育施設(以下「SPF飼育室」という。)が使用できない責任はどこにあるのか。複数にまたがるのであれば、どの省庁あるいはどの業者にどのような責任があるのかを明確にされたい。
3 倉地ビルに要した建設・設計予算のうち、SPF飼育室にかけた金額はいくらか。また、三年間も使わなかったことは国費の無駄遣いではないかと考えるが、いかがか。

十三 政府が把握しているSPF飼育室を持つ実験動物飼育施設並びに国及び独立行政法人のSPF飼育室を持つ施設の数をそれぞれ示されたい。また、倉地ビルのSPF飼育室はそれらと比較して何か画期的な点があるのか、具体的に明らかにされたい。

十四 産総研はこれまでの私の照会に対し、倉地ビルのSPF飼育室には、米国ミシガン大学で使用しているマイクロベントシステムという我が国では大変画期的な個別換気ケージ(Individually Ventilated Cage,以下「IVC」という。)を設置している旨を説明している。
 それでは、政府が把握しているIVCを設置している実験動物飼育施設並びに国及び独立行政法人のIVCを設置している施設の数をそれぞれ示されたい。また、倉地ビルのSPF飼育室のマイクロベントシステムはそれらと比較して具体的にどこが画期的であるのか明らかにされたい。

十五 倉地ビルのSPF飼育室の設計は、二〇〇一年五月、国土交通省が伊藤喜三郎建築研究所と契約して始められたと聞く。

1 この設計において、SPF動物の飼育の専門家の関与はなかったと承知しているが、その理由はなぜか。また、SPF飼育室の設計において、SPF動物で実験を行う研究者以外には、マイクロベントシステムの設置業者の意見を聞くだけで足りるとした根拠は何か。
2 国土交通省は、伊藤喜三郎建築研究所に対して、どのような経緯でこの設計を依頼したのか。伊藤喜三郎建築研究所の動物実験施設や実験動物飼育施設についての実績について事前に把握していたことがあれば、具体的に示されたい。また、伊藤喜三郎建築研究所との契約について、随意契約、一般競争入札等の区別を明らかにされたい。

十六 倉地ビル三階における不具合ないし瑕疵工事の経緯や実態について、二〇〇四年二月までに産総研年齢軸生命工学研究センターのある研究員が、大変分厚い報告書を書いたと聞いている。そのような報告書は産総研に存在するか。存在するなら、その報告書のタイトル及び作成年月日、概要、提出先及び保管先を明らかにされたい。

十七 産総研が二〇〇三年一一月に立ち上げた「6-13棟施設調査検討委員会」及び「SPF機能調査小委員会」について、それぞれの設置趣旨及び委員の氏名・役職を示すとともに、どのような成果があったのかを明らかにされたい。「SPF機能調査小委員会」の他に小委員会があるのであれば、それぞれの小委員会の名称、設置趣旨及び委員の氏名・役職も明らかにされたい。

十八 産総研の二〇〇三年度年報において、産総研研究員である倉地須美子氏は「倉地ビルに瑕疵工事があった」と述べている。産総研が、倉地ビルに瑕疵工事、つまり施工上の不具合があると認識したのはいつか。また、設計上の不具合があると認識したのはいつか。
 さらに、国土交通省はこれまでの私の照会に対し、施工上の不具合とは瑕疵工事のことであり、それ以外にレイアウト上の問題を含めて、「建物の不具合」があったと回答しているが、政府は倉地ビルには設計上の不具合があったことも認めるか。

十九 国土交通省及び産総研は、倉地ビルには、三階のSPF飼育室以外にも施工上の不具合(瑕疵工事)及び設計上の不具合があったと認識しているか。「6-13棟施設調査検討委員会」での委員から示された意見をすべて明らかにしつつ、具体的に示されたい。

二十 六月六日に産総研から私にあった回答では、「SPF機能調査小委員会」では、SPF動物の飼育の専門家が「(倉地ビルは)このまま施工上の不具合を補修しても、設計上の問題は解決せず、SPF動物の飼育は困難である」と指摘があったという。これは、「設計図面通りに施工したとしても、求められているSPF動物の飼育室としては条件が満たされていなかった」という意味に理解してよいか。

二十一 現在二億八千万円の国費を投じて産総研が行っている倉地ビルの「高度化」工事について質問する。

1 この「高度化」工事は、設計上の不具合を改修する工事であると理解してよいか。
2 「高度化」工事の内訳ごとに、契約した施工業者名及び随意契約、一般競争入札等の契約区別並びにそのうちのSPF飼育室部分の工事及び再設計の金額を明らかにされたい。
3 「高度化」工事には、施工上の不具合、つまり瑕疵工事部分の補修は含まれておらず、瑕疵工事については責任がある株式会社大日本土木によって「高度化」工事とは別に補修工事が無償で行われていると理解してよいか。仮に「高度化」工事が施行上の不具合の補修も含むのであれば極めて不適切と考えるが、その正当性を明らかにされたい。
4 仮に株式会社大日本土木が「高度化」工事も受注しているのであれば、ミスを犯した業者と再度契約していることとなり、極めて不適切ではないかと考えるが、その理由を明らかにされたい。
5 もしSPF飼育室以外には設計上の不具合がなかったのであれば、「高度化」工事にかけている国費二億八千万円は、「SPF機能調査小委員会」に参加したSPF動物の飼育の専門家が当初の設計段階から参加していれば必要のなかった費用であり、国費の無駄遣いであると認識するが、いかがか。

二十二 産総研の倉地幸徳年齢軸生命工学研究センター長は、倉地ビル完成後現在までに、財団法人動物繁殖研究所の二階にあるSPF飼育室を借用していた事実があるか。その費用が国費から支出されているのであれば、まさに税金の無駄遣いであると考えるが、財団法人動物繁殖研究所側に産総研が支払った借用料は現在まで総額いくらか。

二十三 二〇〇三年夏ごろ、当時の産総研第六事業所動物実験委員会委員長は、ある研究者が産総研つくばセンターを辞める際に放置していってしまった、実験に使用した中型のサルの引取先を探していたと聞いているが、それは事実か。事実であれば、そのサルの種類、頭数、その後の経過及び現状について明らかにされたい。

二十四 過去五年間、産総研の全国の各施設で飼育してきたサル類の種類と頭数及び入手先、主な実験目的、実験殺等の個体管理記録を、施設ごとにすべて明らかにするとともに、関係法令及び地方自治体の条例に違反する事実がなかったどうか示されたい。

  右質問する。