質問主意書

第164回国会(常会)

質問主意書


質問第四三号

女川原子力発電所の耐震安全性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年三月二十八日

近藤 正道   


       参議院議長 扇 千景 殿



   女川原子力発電所の耐震安全性に関する質問主意書

 昨年八月十六日に宮城県沖で発生したプレート境界地震(以下「今回の地震」という。)では、東北電力株式会社女川原子力発電所(以下「女川原発」という。)で強い地震動を観測し、運転中の三基の原子炉がすべて自動停止した。その後、東北電力株式会社(以下「東北電力」という。)が女川原発敷地内地下岩盤での地震観測記録を解析したところ、短周期側において基準地震動の応答スペクトル(構造物が地震波にさらされたときの施設の固有周期ごとの最大応答値)を超えていたことが明らかになった。安全審査で策定された基準地震動を超える地震動が実際に観測されたことは、極めて重大である。
 東北電力は、十一月二十五日に「女川原子力発電所における宮城県沖の地震時に取得されたデータの分析・評価および耐震安全性評価について」と題する報告書を原子力安全・保安院や宮城県等に提出した。この報告書では、今回の地震の分析結果等を踏まえた耐震安全性評価を行うに際して、安全上重要な「Aクラス」の施設の耐震安全性を確認するための「想定宮城県沖地震」として、地震調査研究推進本部地震調査委員会(以下「推進本部調査委員会」という。)が策定した断層モデル解析手法により評価した地震を「想定宮城県沖地震A」、距離減衰式等から評価した地震を「想定宮城県沖地震B」として採用し、さらに、特に重要な「Asクラス」の施設の耐震安全性を確認するための「安全確認地震動」として、推進本部調査委員会が策定した連動型地震を採用している。このうち、Aクラスの耐震安全性は事実上「想定宮城県沖地震A」によって評価されている。原子力安全・保安院は、女川原発二号機及び三号機について、この報告書を妥当として運転再開を認めた。
 しかし、この「想定宮城県沖地震A」は、今回の地震で明確になった「震源が深いプレート境界地震では短周期地震動が極めて強い」という特徴が十分反映されていない可能性がある。また、一九九五年の女川原発三号機の安全審査の際に用いられた「想定宮城県沖地震」の断層モデルは、現在の知見に基づくと明らかに過小評価と思われ、当時の知見に照らしても過小に策定されていた疑いがある。
 そこで、以下質問する。

一 「想定宮城県沖地震A」について

 東北電力及び原子力安全・保安院は、推進本部調査委員会が策定した「想定宮城県沖地震A」の断層モデルに基づいて女川原発二号機の耐震安全性評価を行っている。しかし、推進本部調査委員会の「宮城県沖地震を想定した強震動評価について」の説明文書では、強震動評価に当たっての問題点として、アスペリティ(震源断層の中で特にすべり量が大きい領域)や破壊開始点の位置、応力降下量(想定震源域において破壊する直前に働いていたせん断応力と想定震源域の摩擦力によるせん断応力の差)などの微視的震源特性が地表の地震動分布に大きく影響すること、他方で微視的震源特性は不確定性による強震動予測結果のばらつきの評価が今後の課題となることが明記されており、「想定宮城県沖地震A」については今後のデータ取得に基づいて補強すべきであるとの立場であると考えられる。
 特に、アスペリティの応力降下量が大きい場合は、震源において短周期地震動が強くなることが知られており、原子力発電所の重要な施設の固有周期が短周期帯にあることを考えると、短周期地震動の過小評価は耐震安全上致命的な結果をもたらしかねない。
 1 今回の地震では女川原発敷地内岩盤で地震観測記録が得られており、これに基づき東北電力が作成した再現断層モデルでは「想定宮城県沖地震A」よりもかなり大きな応力降下量となっている。したがって、女川原発の耐震安全性を評価する際には、「想定宮城県沖地震A」の断層モデルにおける応力降下量を大きくするなどにより耐震安全性を評価し直すべきだと考えられる。しかし、東北電力の報告書の妥当性を検討した総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会の検討過程では、アスペリティの位置や破壊方向(破壊開始点の位置)を変えているものの、応力降下量は変えていない。なぜ、応力降下量を変えた上での検討・評価を行わないのか。
 2 推進本部調査委員会の過去の中間報告で示された「ケース1」の場合と比較すると、「想定宮城県沖地震A」の断層モデルは、震源の短周期レベル自体はほとんど変わらない一方で、アスペリティの応力降下量が大きく面積が小さくなっていることから、観測点(開北橋)での応答スペクトルが短周期側で二倍以上大きくなっている。これは、地震動の評価法がハイブリッド合成法から統計的グリーン関数法へ変わったことも一因ではあるが、それ以上に応力降下量を大きくした効果が大きいことを示唆している。そこで、今回の地震観測記録に基づき「想定宮城県沖地震A」の応力降下量を大きくするなどにより短周期側の応答スペクトルを過小評価しないよう微視的震源パラメータを調整し直して、女川原発の耐震安全性を評価し直すべきだと考えるが、いかがか。
 3 東北電力の報告書には、「想定宮城県沖地震A」の女川地点での地震波を解放基盤相当位置に算定し直し、その地震波に対する応答スペクトルを掲載している。しかし、これはマグニチュード七・六の地震に対するものであるにもかかわらず、マグニチュード七・二である今回の地震に対する応答スペクトル(EW方向)より周期〇・〇五秒付近で二分の一程度小さい。震源がよく似た位置で、マグニチュードが〇・四も小さい地震と比べて応答スペクトルがこれほど小さくなったのはなぜか。
 さらに、「想定宮城県沖地震A」の断層モデルに経験的グリーン関数法を適用して得た地震波に対する応答スペクトルは、マグニチュードがより小さな今回の地震に対する応答スペクトルとほとんど変わらない。これは、統計的グリーン関数法を経験的グリーン関数法に置き換えただけでは不十分であり、応力降下量を大きくするなど断層モデルを調整し直すべきことを示唆していると考えられるが、いかがか。そうでないのであれば、震源がよく似た位置で、マグニチュードが〇・四も小さい地震と比べて応答スペクトルがほとんど変わらないのはなぜか。

二 女川原発三号機安全審査時の断層モデルについて

 原子力安全委員会は、一九九五年の女川原発三号機の安全審査(二次審査)時に、一九七八年宮城県沖地震の断層モデルを策定し、マグニチュード七・六の地震に対する応答スペクトルを求めている。
 1 この値は当該地震に対応する大崎スペクトル(大崎順彦氏が考案した計算方法による応答スペクトル)より小さいばかりか、「想定宮城県沖地震A」に対する経験的グリーン関数法による応答スペクトルより小さくなっている。これは、当時策定した断層モデルが女川原発での応答スペクトルを過小評価する結果になっていることを示唆しているが、それに相違ないか。この点について見解を示されたい。
 2 1で示した断層モデルの妥当性の検証は、一九七八年宮城県沖地震における宮古、大船渡及び石巻での地震観測記録との整合性を検討して行っているが、大船渡では大きくずれている。一方、当時の資料に記載された宮古と石巻における地盤モデルをみると、地表にS波速度の遅い軟質の地層があり、地盤モデルとしては誤差が大きくなる傾向があるのに対し、大船渡ではS波速度が地表でも大きいことから硬質地盤であることが明らかである。この硬質地盤で再現性が悪いということであれば、断層モデルのパラメータ設定に問題があると判断すべきだと考えられるが、いかがか。
 また、大船渡に合わせて断層モデルのパラメータを調整しておれば、「想定宮城県沖地震A」と同様な応答スペクトルの評価になっていたと推定されるが、いかがか。
 3 一九九五年までに、マグニチュード六クラスの震源の深いプレート境界地震による観測記録が女川原発敷地内岩盤で複数回得られており、その解放基盤相当位置での応答スペクトルは〇・五秒以下の短周期側で大崎スペクトルを遙かに超えることがわかっていた。また、大崎スペクトルの策定法によれば、震源位置が同じ場合、マグニチュードが大きいほど応答スペクトルは大きくなる。これらの知見から、震源の深いプレート境界地震でも、マグニチュードがより大きくなればさらに応答スペクトルが大きくなることが当然予想されたと思われるが、当時なぜそのように判断しなかったのか、その理由を明らかにされたい。
 また、震源の深いプレート境界地震では短周期地震動が強いという知見が一九九五年当時すでにあったことと重ねて判断すれば、大崎スペクトルより応答スペクトルが小さくなる断層モデルでは地震動を過小評価することになると当然予想すべきだったと考えられるが、そのように判断しなかった特別な根拠を具体的に説明されたい。

  右質問する。