質問主意書

第164回国会(常会)

質問主意書


質問第三三号

高松塚古墳壁画保存等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年三月八日

前川 清成   


       参議院議長 扇 千景 殿



   高松塚古墳壁画保存等に関する質問主意書

 昭和四七(一九七二)年三月、高松塚古墳が発掘され、極彩色の壁画(以下「本件壁画」という。)が発見された。世界的遺産と言うべき本件壁画を保存するために、石室は直ちに閉鎖され、爾後文化庁の責任において保存されてきた。
 その後、本件壁画は国民にも、研究者にも公開されることはなく、ただ文化庁のみが観察することができる立場にあった。その上で、平成一六年三月、河合隼雄文化庁長官自らが、文化庁監修の『国宝高松塚古墳壁画』において「幸い三〇年を経ても壁画は大きな損傷あるいは褪色もなく保存されています」と述べていた。ところが、皮肉にもこの『国宝高松塚古墳壁画』に収録された写真によって、本件壁画の劣化が明らかになった。
 高松塚古墳の壁画は正に我が国の「宝」であり、現在を生きる我々だけでなく、後世にも伝えなければならないはずであった。それにもかかわらず、本件壁画を劣化させてしまった文化庁の責任は大きく、また、それ以上に、三〇年にわたって劣化を隠匿し続けた責任は重大である。
 そこで、以下質問する。

一 本件壁画発見当時の認識について

1 昭和四七年に本件壁画が発見されたとき、公開しないと決定した理由は何か。また、公開しなかったことが、壁画の保存にとって、当時としては最善の選択であったと考えるか。
2 発見当時、本件壁画の美術的・文化的・歴史的価値をどのように認識していたのか。単に「絵が美しい」というだけであれば、発見直後に高松塚古墳を解体して保存すればよかったのではないか。

二 本件壁画の保存措置について

1 本件壁画は、公開しないと決定した後今日に至るまで、どのように保存されていたのか。保存のために講じた措置及び各措置に費やした費用を年度別に個別に明らかにされたい。
2 本件壁画の状態は、継続的かつ科学的に観察されていたのか。観察されていたのであれば、観察日ごとの観察結果をどのように把握しているのか明らかにされたい。

三 本件壁画の現状について

1 現時点の本件壁画の状態を、詳細に明らかにされたい。
2 一三〇〇年間も極彩色を保っていた本件壁画が、発見からわずか三〇年間で劣化してしまったのはなぜか。
3 本件壁画が劣化し、色褪せた原因はもっぱらカビの発生にあるのか。そうであれば、いつから、どのような理由でカビが発生していたのか、詳細に明らかにされたい。
4 本件壁画におけるカビの発生は予見できたのではないかと考えられるが、カビ発生を防止するために具体的な措置は講じていなかったのか。講じていたのであればそれにもかかわらずカビが発生した原因、講じていなかったのであればその理由も併せて示されたい。
5 最初にカビの発生に気づいたのはだれか。また、この発見者から、どのような報告経路を経て、最終的には、いつ、だれにまでカビ発生の報告がなされたか。

四 カビ発生・本件壁画劣化の公表について

1 三の5で質問した最初にカビが発見された時点で、直ちにカビの発生が公表されたのか。この時点で公表された場合は公表方法と公表範囲を、公表されていない場合はその理由、公表しないと決定した最終責任者、カビ発生を公表した時期及びその時期に公表した理由を明らかにされたい。
2 朝日新聞の報道では、文化庁は昭和五四年には本件壁画の劣化に気付いていたが、何ら対策を講じていなかったという。この報道は事実か。事実であれば、なぜ今日まで本件壁画の劣化を隠匿していたのか。
3 最初にカビが発見されたときに直ちに公表していたとしても、解体しか保存方法はなかったか。

五 文化庁の責任について

1 本件壁画の状況に関して、いつ、だれが、どのように河合長官に説明したのか。また、河合長官が『国宝高松塚古墳壁画』に「幸い三〇年を経ても壁画は大きな損傷あるいは褪色もなく保存されています」と書いた理由を示されたい。
2 本件壁画に関して文化庁が今なすべきことは、「いつからカビが発生したか」「なぜカビが生えたか」「どうして、今まで国民に知らせなかったのか」という三点について国民が納得できる説明を尽くすとともに、今後の保存に万全の措置を講ずることはもとより、「カビ発生と、その隠匿に関して、責任の所在を明らかにすること」にあると考える。文化庁は、これらに関して十分な説明を尽くし、責任を明確に示していると考えるのか。説明を尽くし責任を明確に示しているというのであれば、その具体的な根拠(説明方法、説明内容、責任の所在、責任者の処分)を明らかにされたい。未だ十分な説明が尽くされず、又は未だ責任の所在が明らかになっていないと考える場合、今後採るべき対応を明らかにされたい。
3 文化庁は、本件壁画の劣化に関して、報道等の照会に対し「落ち度はない」と回答したことがあるか。
 仮に「落ち度はない」と回答したならば、かくも壁画が劣化していながら、なぜ本件壁画を管理していた文化庁に落ち度はないと判断したのか、その判断根拠について示されたい。

六 本件壁画の修復・保存について

1 今後、本件壁画をどのように修復し、保存していくのか。その方法及びそれに要する予算について明らかにされたい。
2 報道によると、今後、本件壁画の修復・保存には一〇年以上を要するとのことであるが、それは事実か。事実であるならば、長期間を要する理由及びその期間中における本件壁画の劣化の進行についての見通しを示されたい。
3 本件壁画の修復・保存に当たり、修復・保存技術や石室解体技術は確立しているのか。また、解体に伴って、本件壁画が破壊されたり損傷したりするリスクはないのか。
4 キトラ古墳においては、本件壁画同様に劣化した壁画を保存するために、石室を解体する方法を採用していない。なぜ、キトラ古墳においては、石室を解体する方法を採用していないのか。また、これに対して、本件壁画に関しては、石室を解体するのはなぜか。
5 文化庁の説明によれば、石室の解体は平成一八年の冬を予定しているが、それまでの間に本件壁画の劣化は進行しないのか。平成一八年の冬まで、本件壁画を劣化させることなく保存できるのであれば、そもそも石室の解体は不必要ではないのか。
6 特別史跡に指定されている高松塚古墳(墳丘)自体には文化的・歴史的価値は存在しないのか。解体は真にやむを得ないものと考えるのか。

七 本件壁画修復後の公開等について

 本件壁画は、修復・保存作業終了後、どのように取り扱うのか。再び高松塚古墳に戻すのか、それとも他の場所に移動させるのか、仮に他の場所に移動させる場合、明日香村村内に留まるのかを明らかにされたい。また、その際には公開するのか、非公開のままとするのかも明らかにされたい。

  右質問する。