質問主意書

第164回国会(常会)

質問主意書


質問第一二号

財団法人交通遺児育英会に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年二月六日

柳田 稔   


       参議院議長 扇 千景 殿



   財団法人交通遺児育英会に関する質問主意書

 昭和三十年代からの日本の高度経済成長による繁栄の一つの姿であるモータリゼーションの進展は、昭和四十年代以降に交通事故死傷者数の増加と交通遺児の急増を招き、それを受けた「子供たちにせめて高校教育だけは受けさせたい」との母親たちの切なる願いを支援する運動が全国的に盛り上がった。それに応えて、救済策の一つとして「政府は交通遺児の修学を支援する財団法人の設立と助成に配慮すべし」との衆議院交通安全対策特別委員会の決議(昭和四十三年十二月)を政府も了承し、昭和四十四年五月に財団法人交通遺児育英会(以下「育英会」という。)が設立されるに至った。
 交通遺児のための育英資金制度については、政府出資の特殊法人を設立して政府が助成する方法と、民間が設立する財団法人を政府が側面から支援する方法の二つが検討されたが、最終的には後者の方法によることが政府の基本方針となった。これには、交通遺児の救済は社会全体の責任であるという見地から、官民一体・国民総ぐるみで行う必要があるという考え方が基になっている。
 こうして設立された育英会は、平成十六年度末までの三十五年間に寄付総額約四百億円となり、そのうち「あしながおじさん」としての寄付が約百三十億円、折に触れて全国の個人から寄せられた寄付が約八十四億円、街頭募金による寄付が約三十一億円と、全体の六割にあたる合計二百四十五億円が民間の小さな善意の寄せ集めで支えられている。残余の金額も交通運輸関係の業界団体、財界、助成団体からの寄付及び国からの補助金等であり、育英会の事業は国民各界各層の支援により支えられている。その運営に当たる役員等も教育、財界、公益福祉、交通、報道、官界等幅広い分野から選任し、国民から委託された資産を公正かつ忠実に管理運営できるよう配慮されるべきものである。
 しかしながら、育英会に関しては、これまでもたびたび官僚の天下り問題を中心として、国会の場での質疑や質問主意書、民間団体や報道の場において追及されてきた。国会においては、平成六年六月七日の衆議院予算委員会第一分科会における藤村修議員の質疑、平成七年二月二十二日の衆議院交通安全対策特別委員会における山本孝史議員の質疑、平成七年十一月二日の衆議院交通安全対策特別委員会における山本孝史議員の質疑、平成八年二月二十二日の衆議院交通安全対策特別委員会における藤村修議員及び山本孝史議員の質疑、平成十年三月二十五日及び五月十三日の衆議院決算行政監視委員会における石井紘基議員の質疑、平成十年十月六日に石井紘基議員が提出した質問主意書等がその主な例である。民間団体では「あしながつっかい棒の会」がホームページ上で天下り批判を展開し、各新聞も「天下り」「官僚支配」「私物化」といった問題をたびたび取り上げてきた。これらの批判で育英会は汚れたイメージを負わされ、手ひどいダメージを受けた。
 その後、活発でスムーズな理事会運営を背景として、事業を活性化する一方で経費削減や心の通った会務運営に心がけるなど、正常化に向けた育英会の努力が実りつつある。しかし、今日においても懸念される問題は数多く存在する。
 そこで、公益法人である育英会に対する主務官庁たる内閣府の指導監督責任を中心に政府の見解を明らかにするべく、以下質問する。

一 育英会事務局への官僚OB天下りについて

 育英会の理事の中には、育英会事務局に関し「役人OBがいないため国の情報がよく伝わっていないのではないかと心配である。役人OBを採用すべきである。」との旨の主張もあると聞く。
1 このように、官僚OBを育英会事務局に天下りさせようという主張について、主務官庁である内閣府はどのように考えるか。また、内閣府は「役人OBがいなければ国の情報がよく伝わらない」などということが実際にあると認識しているのか、見解を示されたい。
2 現在政府が推進している公益法人制度改革の基本には、従来の主務官庁による許認可制を廃し、準則主義による届出制にすることによって、最近騒がれている官製談合に象徴される「監督する者が監督すべき団体に天下って監督が有名無実のものになる」という許認可制の最大の弊害をなくすことがあると理解している。「役人OBがいなければ国の情報がよく伝わらない」という発想は、政府の進める公益法人制度改革の精神に逆行するのではないのか。

二 育英会の運営について

 育英会の運営については、一で取り上げた事務局への官僚OB天下りの点だけでなく、理事会の構成等に問題が少なくないと考える。
1 公益法人の理事はそれぞれが独立した存在として公益法人を代表する機関であり、相互牽制により適正な業務執行を図ることが期待されている。
 特に、育英会の寄付行為第十五条第二項には「理事のうちには、理事のいずれか一人とその親族その他特殊の関係のある者の合計数が理事現在数の三分の一を超えて含まれることになってはならない。」との定めがある。しかし、現在の育英会理事の構成は、特定の理事によって推薦され、関係の深い者が約半数を占めている現状があると聞く。
 このことにかんがみて、現在の育英会理事の構成について、公益法人の運営の公正と健全性の観点から問題はないのか、内閣府の見解を示されたい。
2 一般に、官僚OBが公益法人の運営に積極的に関与するのは望ましくないと考えるが、政府の見解を示されたい。また、官僚OBである育英会理事の運営への関与の実態について、内閣府はどのように判断しているのか。
3 一般に、他の団体での不明朗な運営及び会計処理が訴訟等の場で指摘されている者を公益法人の理事として選任することは妥当であるのか、政府の見解を示されたい。また、仮に妥当でないとすれば、育英会理事の中にはそのような者がいると聞くが、内閣府は育英会に対し、どのような指導を行うのか。
4 公益法人の運営に関しては、適切な内部統制と外部監査が確保されなければならないと考えるが、政府の見解を示されたい。さらに、現在の育英会は、その適切な内部統制と外部監査の確保が達成されているのか、内閣府の判断を示されたい。

  右質問する。