質問主意書

第164回国会(常会)

質問主意書


質問第九号

六ヶ所再処理工場回収プルトニウム利用計画に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年二月一日

近藤 正道   


       参議院議長 扇 千景 殿



   六ヶ所再処理工場回収プルトニウム利用計画に関する質問主意書

 二〇〇三年八月五日の原子力委員会決定「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方について」(以下「基本的考え方」という。)では、「利用目的のないプルトニウム、すなわち余剰プルトニウムを持たないとの原則」及び「毎年プルトニウム管理状況を公表するなど関係者がプルトニウム平和利用に係る積極的な情報発信を進めるべきであるとの方針」の下に、プルトニウムの利用目的の明確化のための措置として、電気事業者によるプルトニウム利用計画の公表を明示した。また、二〇〇五年五月二四日の原子力委員会新計画策定会議(第二七回)においては、配付資料「プルトニウム利用の透明性確保について」に含まれる「プルトニウムの平和利用に関する透明性の確保のあり方の方向性」と題する文書(以下「運用説明」という。)によって、「基本的考え方」の具体的な運用についての考え方が示されている。
 今年一月六日、各電気事業者は、この「基本的考え方」及び原子力政策大綱(昨年一〇月一一日原子力委員会決定、一〇月一四日閣議決定)の求めるところに応じ、二〇〇五年度及び二〇〇六年度において六ヶ所再処理工場のアクティブ試験(試運転)で分離されることになっているプルトニウムについての利用計画である「六ヶ所再処理工場回収プルトニウム利用計画」(以下「本利用計画」という。)を公表した。これに対して、原子力委員会は一月二四日に「電気事業者により公表されたプルトニウム利用計画における利用目的の妥当性について」と題する見解(以下「妥当性見解」という。)により、妥当であるとの判断を示した。
 ところが、「本利用計画」は、東京電力が利用場所となる原子力発電所の名前すら明記していないことや、全ての電気事業者が利用開始時期を「平成二四年度以降」などとして具体的に明記していないことなどから、「基本的考え方」の要求事項を満たしていないことが明らかである。
 さらに、日本は英仏で取り出したプルトニウムを始め、国内外に既に約四三トンものプルトニウムを保有しているが、これを使う既存のプルトニウム利用計画についてもどれも実行されておらず、地元の了解が得られた計画すら一つもない状況にある。東京電力の原子力発電所が立地する新潟県柏崎市の会田市長は、計画公表に対し、「強い違和感を抱かざるを得ません」と抗議の意思を示した。同じく福島県の佐藤知事は、「プルトニウム利用計画がどのようなものであれ、県内の原発でプルサーマル計画を実施することはあり得ない」との見解を示している。
 この状況下で六ヶ所再処理工場においてさらにプルトニウムを抽出するようなことがあれば、余剰プルトニウムが増大することは明白である。これは「基本的考え方」のそもそもの趣旨に反することになる。
 加えて、日本政府は、一九九七年に合意された「国際プルトニウム指針」に従い、同年一二月五日、国際原子力機関(IAEA)に保有プルトニウム量を報告した際、同時に「我が国のプルトニウム利用計画について」と題するステートメントを提出し、その中で「我が国において計画遂行に必要な量以上のプルトニウム、すなわち、余剰プルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ、プルトニウム利用計画の透明性の確保に努めている。」と宣言している。余剰プルトニウムの増大は、この日本政府による国際的な約束にも反することになる。今年一月二六日、エドワード・マーキー議員を始めとする六名の米国民主党議員から、加藤駐米大使あてに「核不拡散上の懸念から、六ヶ所再処理工場のアクティブ試験の停止を求める」旨の書簡が送られたことに見られるように、現実に国際的な懸念の対象になっている。
 これらの点を踏まえ、以下質問する。

一 「本利用計画」と「基本的考え方」の整合性について

 「基本的考え方」によると、電気事業者はプルトニウム利用計画を公表することとし、その利用目的には利用量、利用場所、利用開始時期及び利用に要する期間の目途を含むものとすることとされている。また、「運用説明」に照らせば、当該年度の再処理予定量及びプルトニウムの回収見込み量、前年度末のプルトニウム保管量の目途、再処理したプルトニウムの利用場所(発電所名又はプラント名)の目途、再処理したプルトニウムの年間利用目安量、利用場所ごとの利用開始時期及び利用に要する期間の目途について具体的な記載があることが最低条件となると考える。そこで、「本利用計画」の記載事項のうち、「基本的考え方」の要求事項と整合しない部分について質問する。
1 東京電力については、「利用場所」に原子力発電所の名前すら明記されておらず、利用場所が特定されているとは言えないが、「基本的考え方」の要求事項に反しているのは明らかではないのか。
2 「利用開始時期」については、各社とも「平成二四年度以降」などとあるだけで明確な時期が示されているとは言えないが、「基本的考え方」の要求事項に反しているのは明らかではないのか。
3 「利用量」については、注釈に「海外で回収されたプルトニウムの利用分が含まれることもある」とあるように、二〇〇五年度及び二〇〇六年度において六ヶ所再処理工場のアクティブ試験(試運転)で分離されることになっているプルトニウムそのものの利用量としては不明確であるが、「基本的考え方」の要求事項に反しているのは明らかではないのか。
4 「運用説明」では、原子力委員会が計画の妥当性を確認する観点の一つとして「プルトニウム利用に向けた電気事業者等の取組(例・プルサーマル実施に向けた地元との調整や法令上の手続きの状況、再処理、MOX燃料加工の現状等)」を挙げている。新潟県柏崎市や福島県は、東京電力の計画公表後も、プルサーマル実施はあり得ない等の意思を示していることから、地元の理解が得られていないと言える。このことをもってしても、東京電力の計画は妥当性がないと確認できるはずだが、いかがか。

二 日本のプルトニウム利用計画及びその進捗状況について

 「本利用計画」の妥当性を確認するためには、日本が既に保有しているすべてのプルトニウムの利用計画及びその進捗状況を明らかにする必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。

三 余剰プルトニウムを持たない原則の堅持について

1 原子力委員会が策定した一九九四年六月二四日付け「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」には、「我が国の今後の核燃料リサイクル計画に基づくプルトニウムの需給はバランスしており、余剰のプルトニウムは持たないとの原則に沿ったものとなっています。」とある。
 一九九七年に日本政府がIAEAに対するステートメントで「計画遂行に必要な量以上のプルトニウム、すなわち、余剰プルトニウムを持たないとの原則を堅持」する旨を宣言したのは、プルトニウムの需給がバランスしていることが前提であると理解してよいか。
2 今日においても、一九九七年のIAEAに対する余剰プルトニウムを持たない旨の宣言を堅持することに変わりはないか。そうであれば、現在のプルトニウムの需給がバランスしていることを前提としているという理解でよいか。また、この宣言事項については、政府のどの機関がどのように保証するのか。
3 仮に、プルトニウムの利用が進まない場合、保有量が何トン以上になれば需給のバランスが崩れると考えるのか。
4 現状で六ヶ所再処理工場のアクティブ試験(試運転)を行えば、余剰プルトニウムがさらに増大することにより、IAEAへの宣言に反することになるのではないか。
5 IAEAに対する宣言の中にある「余剰プルトニウム」は、「計画遂行に必要な量以上のプルトニウム」を指している。一方で、「基本的考え方」では、「利用目的のないプルトニウム、すなわち余剰プルトニウム」とある。「利用目的のないプルトニウム」とは「計画遂行に必要な量以上のプルトニウム」と同趣旨であるのか。異なる場合はその相違点を明らかにされたい。
6 原子力政策大綱では、「基本的考え方」にあった「余剰プルトニウム」という文言はなくなり、単に「利用目的のないプルトニウムを持たないという原則」という文言に変わっている。なぜ、「余剰プルトニウム」という文言がなくなったのか。また、「余剰プルトニウム」と「利用目的のないプルトニウム」の相違点を明らかにされたい。

四 「妥当性見解」の記載事項について

1 「妥当性見解」では、原子力委員会が「本利用計画」を妥当と判断した基準が曖昧である。どのような場合に妥当でないとの判断をするのか、具体的に示されたい。
2 「妥当性見解」には、「これまでの国内外の実績を踏まえれば、再処理工場で回収されたプルトニウムの利用先や利用時期が詳細に確定するのは、相当期間の貯蔵の後になることもあります。」との記述があるが、「相当期間」とは具体的にどの程度の期間を指すのか。また、この記述は余剰プルトニウムの存在を容認するものではないのか。
3 「妥当性見解」には、「今後とも、プルサーマル計画の進捗、六ヶ所再処理工場の建設・運転操業、MOX燃料工場の建設の進捗等の状況を注視していきます。」との記述があるが、今後「注視」していて妥当でないと判断される状況が生じた場合に、どのような措置を採るのか。具体的には、六ヶ所再処理工場の運転を中止するための措置を採るということでよいのか。
4 「妥当性見解」には、「プルサーマルの進捗状況、六ヶ所再処理工場等の稼働状況等により利用計画への影響が懸念される事態が発生した場合には、電気事業者は『考え方』を踏まえ、今回公表された利用計画の見直しを行うことを期待します。」との記述があるが、ここでいう「懸念される事態」とは、具体的にはどのような事態を指すのか。
5 「利用計画への影響が懸念される事態」が発生しながら、電気事業者が利用計画の見直しを行わなかった場合、どのような措置を採るのか。具体的には、六ヶ所再処理工場の運転を中止するための措置を採るということでよいのか。
6 政府は、どのような場合に六ヶ所再処理工場の稼動を中止すべきと判断するのか。また、稼動中止の際には、どのような措置を採るのか。

  右質問する。