質問主意書

第163回国会(特別会)

答弁書


答弁書第一九号

内閣参質一六三第一九号
  平成十七年十一月四日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員小林美恵子君提出タクシー業界の過当競争とタクシー運転者の過酷な労働実態に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員小林美恵子君提出タクシー業界の過当競争とタクシー運転者の過酷な労働実態に関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの都道府県別の全産業労働者及びタクシー運転者それぞれの年間賃金、年間労働時間及び時間当たり賃金の最近十年間の推移については、調査し、集計しておらず、また、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査報告」等に基づき推計することは作業が膨大なものとなることから、お答えすることは困難である。

二について

 タクシーの運賃及び料金については、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第九条の三により、国土交通大臣の認可を受けなければならないものとされている。タクシーの運賃及び料金は、各タクシー事業者の自主的な経営判断に基づいて認可の申請が行われるものであり、当該認可に当たっては、事業者から提出された原価計算書等を厳格に精査し、同条第二項に定める基準に従って審査をしているところであり、御指摘のように「行き過ぎた値下げ競争」が生じているとは考えていない。
 また、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査報告」に基づき推計したところによると、全国のタクシー運転者の平均の年間給与額(当該調査における「きまって支給する現金給与額」を十二倍したものに「年間賞与その他特別給与額」を加えた額をいう。)は、平成十三年は約三百三十三万円であったが、平成十六年には約三百七万円に減少している。また、全国のタクシー運転者の平均の年間労働時間(当該調査における「所定内実労働時間数」に「超過実労働時間数」を加えた上で十二倍したものをいう。)は、平成十三年は二千四百二十四時間であったが、平成十六年には二千四百時間に減少しているものと承知している。
 政府としては、タクシー運転者の賃金、労働時間等の労働条件の向上を図ることは重要な課題であると認識しており、タクシー事業者に対する監督指導については、従来より、監査体制の充実や関係省庁の連携を図ること等によりその強化を図ってきているところである。また、平成十七年五月に国土交通省と厚生労働省の関係者からなる「タクシー運転者の適切な労働環境の確保に関する連絡調整会議」を設置し、合同監査・監督の実施、労働条件の確保に関する相互通報制度の拡充等について検討を行ってきたところであり、この検討結果等を今後の監査等に適切に反映するとともに、厳正な行政処分等を行うことにより、輸送の安全及び旅客の利便の確保に努めてまいりたい。

三について

 各タクシー事業者が行う事業用自動車台数の増減については、平成十四年二月に施行された道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平成十二年法律第八十六号。以下「改正道路運送法」という。)によりタクシー事業に係る需給調整規制が原則として廃止されたことから、各タクシー事業者の自主的な経営判断に基づいて決定されるべきものとなっているが、事業用自動車台数の増減にかかわらず、各タクシー事業者においては、タクシー運転者の労働条件の改善に努める必要があるものと考えている。
 なお、道路運送法第八条に基づき、国土交通大臣は、特定の地域においてタクシー事業の供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって、当該供給輸送力が更に増加することにより、輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認めるときは、当該特定の地域を、期間を定めて緊急調整地域として指定し、当該地域におけるタクシーの台数の増加等について制限を行う措置を発動することができることとされている。
 また、二についてで述べたとおり、タクシーの運賃及び料金については、同法第九条の三により、国土交通大臣の認可を受けなければならないものとされている。当該認可に当たっては、事業者から提出された原価計算書等を同条第二項に定める基準に従って厳正に審査しているところであり、現行制度において、運賃及び料金は適切なものとなっているものと考える。

四について

 御指摘の事例が道路運送法第三十三条等に違反するか否かについては、個別具体的な事案ごとに監査等を実施し、事実関係を確認した上で判断すべきものと考えている。
 政府としては、道路運送法等関係法令違反については、従来より、個別に監査等を行い、違反事実が確認されれば車両の使用停止等の行政処分等を実施してきたところであるが、輸送の安全及び旅客の利便の確保の観点から、法令違反については今後とも引き続き厳正に対処してまいりたい。

五について

 国土交通省では、平成十六年度に全国のタクシー事業者に対してタクシー運転者の労働実態等に関する調査を行ったところであり、平成十七年度は、タクシー事業者及び利用者に対して輸送の安全及び利用者ニーズ等に関するアンケート調査を行っているところである。

六について

 国土交通省としては、旅客の利便の確保及び向上を図るためには、タクシー運転者の資質を向上させることが重要であると考えており、改正道路運送法の施行に併せて旅客自動車運送事業運輸規則(昭和三十一年運輸省令第四十四号)第三十六条を改正し、タクシー事業者が新たに運転者として雇い入れた者に対して行わなければならない指導、監督及び特別な指導の期間を、それまでの五日間から十日間に延長する等の措置を講じたところである。
 なお、タクシー運転者については、道路運送法第二十五条等において、年齢、運転の経歴等の一定の要件を備える者でなければならないとされており、道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第八十六条第一項の有効な第二種免許を所持していなければならないこととされている。また、タクシー業務適正化特別措置法(昭和四十五年法律第七十五号)に基づき指定地域とされている東京地域及び大阪地域においては、タクシー事業者は、指定地域内の営業所に配置するタクシーには、当該指定地域に係るタクシー運転者登録原簿に登録を受けている者以外の者を運転者として乗務させてはならないこととされており、さらに、国土交通大臣は、指定地域ごとに、タクシーの運転者になろうとする者に対し、当該指定地域に係るタクシー事業の業務に必要な地理の試験を行うこととしている。
 お尋ねの「タクシー運転免許の法制化」が全国自動車交通労働組合総連合会から提案されていることについては承知しているが、国土交通省としては、前述の制度によってタクシーサービスに必要な運転者の資質は確保できているものと考えている。
 なお、交通政策審議会の陸上交通分科会自動車交通部会に設置されている「タクシーサービスの将来ビジョン小委員会」の場において、タクシー運転者の資質の一層の向上を含め、今後の望ましいタクシーサービスの在り方及びその実現のために必要な環境整備方策を検討することとしている。