質問主意書

第162回国会(常会)

答弁書


答弁書第四七号

内閣参質一六二第四七号
  平成十七年八月十二日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員犬塚直史君提出長崎における被爆者援護の在り方と被爆体験者精神影響等調査研究事業の問題点に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員犬塚直史君提出長崎における被爆者援護の在り方と被爆体験者精神影響等調査研究事業の問題点に関する質問に対する答弁書

一の1について

 都道府県並びに広島市及び長崎市からの報告によれば、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則(平成七年厚生省令第三十三号)附則第二条に規定する第二種健康診断受診者証の交付を受けた者の総数は、平成十七年三月末時点で一万千八百八十二人であり、そのうち長崎県内に居住している者は、一万五百六十二人、長崎県外に居住している者は、千三百二十人となっている。

一の2について

 長崎県及び長崎市からの報告によれば、「被爆体験者精神影響等調査研究事業」(以下「本事業」という。)によるスクリーニング検査を受けた者は、平成十四年度八千八百三十八人、平成十五年度六百十六人、平成十六年度二百三十八人となっており、そのうち被爆体験及び精神症状の両者が「有」であった者は、平成十四年度八千七百五十九人、平成十五年度六百八人、平成十六年度二百三十四人となっている。また、そのうち医療費の支給を受けた者の数は、長崎県及び長崎市から報告を受けていないため、お答えすることは困難である。

一の3について

 お尋ねについては、長崎県及び長崎市から報告を受けていないため、お答えすることは困難である。

一の4について

 本事業の平成十四年度から平成十六年度の決算額及びその内訳については、平成十四年度の決算額の総額は約四億六千万円、うち長崎県に係る決算額は約八千万円、長崎市に係る決算額は約三億八千万円、平成十五年度の決算額の総額は約十三億四千万円、うち長崎県に係る決算額は約二億五千万円、長崎市に係る決算額は約十億九千万円、平成十六年度の決算額の総額は約十四億千万円、うち長崎県に係る決算額は約二億六千万円、長崎市に係る決算額は約十一億四千万円となっている。

一の5について

 本事業の平成十七年度の予算額は、約九億四千万円である。

一の6について

 本事業は、被爆体験による精神的要因に基づく健康影響に関連する特定の精神疾患(これに合併する身体化症状又は心身症がある場合は、当該身体化症状又は心身症を含む。以下「特定の精神疾患」という。)を有する者に対し、当該特定の精神疾患の治療等に係る医療費の支給を行うこと等により、その症状の改善、寛解及び治癒を図ることを本来の目的とするものであるが、厚生労働省健康局長の私的検討会である「被爆体験者精神影響等調査研究事業の在り方に関する検討会」(以下「検討会」という。)が平成十六年十二月に取りまとめた「被爆体験者精神影響等調査研究事業の在り方に関する検討会報告書」(以下「報告書」という。)において、本事業の大きな問題点として、「二年余の実施状況を見ると、治癒によって被爆体験者医療受給者証・・・の返還に至った者はわずか一名のみであり、所期の効果をあげているとは到底言い難い状況にある」、「実際には、「特定の精神疾患」と合併していない身体化症状・心身症や感染症など、対象外の疾患・症状に至るまで広範囲に医療費の支給が行われている事例が多数に上っている」と指摘されており、これらが平成十四年度から平成十六年度において、決算額が予算額を超過したことの大きな要因であったと考えている。

二の1及び4について

 本事業は、調査群と対照群との比較解析を基本とした疫学的調査結果を踏まえて実施しているものであり、「被爆体験者精神影響等調査研究事業の適正な実施について」(平成十七年四月十三日付け健発第○四一三○○六号厚生労働省健康局長通知)による新たな「被爆体験者精神影響等調査研究事業実施要綱」(以下「新実施要綱」という。)における本事業の対象者の居住区域の取扱いについては、検討会において、「爆心地から十二キロメートル以遠に居住する被爆体験住民についても、被爆体験に関連し、他の要因では説明困難な精神健康の悪化が認められた」とする長崎県及び長崎市が設置した被爆体験者実態調査委員会の「被爆体験者実態調査報告書」について科学的な観点から検証を行った結果、報告書において、「「原子爆弾が投下された際の爆心地から十二キロメートルの区域内」から転出し、現在、長崎県内に居住する被爆体験者も含めることとすることが適当である」という結論が示されたことを踏まえて定めているものである。
 一方、調査群と対照群との比較解析を基本とした疫学的調査では、性別、年齢、地域等の因子を調査群と可能な限り一致させて対照群を設定する必要があり、報告書においては、「県外転出者については、そもそも対照群をとることが不可能である。したがって、新たな調査を実施して対照群との比較解析等を行うという方法は採り得ないことに注意が必要である。」という結論が示されており、原子爆弾が投下された際の爆心地から十二キロメートルの区域内から転出し、長崎県外に居住している被爆体験者について、新たに調査を行うことは考えていない。

二の2について

 御指摘のような場合には、本事業の対象者ではなくなり、被爆体験者精神医療受給者証を速やかに長崎県又は長崎市に返還しなければならない。

二の3について

 御指摘のような場合には、新実施要綱に定める所要の要件を満たせば、本事業による医療費の支給を受けることができる。

二の5について

 お尋ねの必要な予算額については、長崎県外に居住する者を本事業の対象者に含めることについての科学的根拠は得られておらず、それらの者の被爆体験及び精神症状の有無のスクリーニング検査、精神疾患に関する診断、合併症に関する診断等の結果がどのようになるかを想定できないことから、お答えすることは困難である。

二の6について

 長崎県外に居住する者を本事業の対象者に含めることについての科学的根拠は得られておらず、「被爆体験者のすべてに本事業の適用を認める」ことは考えてない。

三の1について

 本事業の対象は、従来から一貫して被爆体験による精神的要因に基づく健康影響に関連する特定の精神疾患であり、新実施要綱は、このことを明確化したものであることから、新実施要綱において対象とならなくなった疾患はないと考えている。

三の2について

 「被爆体験者精神影響等調査研究事業の実施について」(平成十四年四月一日付け健発第○四○一○○七号厚生労働省健康局長通知)による「被爆体験者精神影響等調査研究事業実施要綱」に定める要件を満たして本事業による医療費の支給を受けていた者が、新実施要綱の下で本事業による医療費の支給を受けられなくなる場合は、特定の精神疾患が治癒した場合、長崎県外に居住地を移した場合等であり、これらの数を見込むことは困難である。

三の3について

 がんは遺伝子の異常によって起こる疾病であり、その原因としては、科学的には、発がん性のある化学物質や放射線、ウイルス感染、喫煙などが知られているところであるが、一般的な知見としてストレスががんの原因であるとは認められていないと承知している。したがって、御指摘の「被爆体験による長期かつ強度のストレスとがんとの関連性について、科学的な調査」を行うことは考えていない。

三の4について

 第二種健康診断受診者証の交付対象者には、原子爆弾の放射線による健康影響は認められないことから、第二種健康診断受診者証の交付を受けた者に対する健康診断において、がん健診を行うことは考えていない。

三の5について

 本事業は、被爆体験に起因する各種の不安等に着目して、特定の精神疾患を有する者に対し、当該特定の精神疾患の治療等に係る医療費の支給を行うこと等により、その症状の改善、寛解及び治癒を図ることを目的とするものであることから、特定の精神疾患に該当しないがんを本事業の対象とすることは考えていない。

三の6について

 本事業は、特定の精神疾患を有する者に対し、当該特定の精神疾患の治療等に係る医療費の支給を行うこと等により、その症状の改善、寛解及び治癒を図ることを本来の目的とするものであり、報告書において、本事業については本来の目的に立ち返って効果的な内容や仕組みとしていくことが重要である旨の指摘が行われたことを踏まえ、新実施要綱において、本事業の本来の目的を明確化したものであることから、これを変更すること又は「本事業とは別に「被爆体験者の健康保持と向上」を目的とした事業を創設」することは考えていない。

四の1について

 特定の精神疾患の診断については、それぞれの医師の専門的判断に基づき実施されているものと承知しており、本事業の実施に当たっての基準は示していない。

四の2及び3について

 お尋ねの「委託」の基準については、新実施要綱において、「県市は、必要に応じ、病院又は診療所の精神科医師のうち、精神医学的診断に基づいて精神疾患に関する診断及び合併症に関する診断の両者を適切に実施することができると認められる者に、これらを委託することができる。」とし、当該委託を行うときは、「精神疾患に関する診断及び合併症に関する診断の両者をあわせて委託する」とともに、「当該精神科医師との間で、報告並びに診療録及び帳簿書類その他の物件の提示を求め、職員による質問を行うこと等に関し、契約を締結するもの」としている。また、お尋ねの委託の実態については、社団法人長崎県医師会及び社団法人長崎市医師会の協力を得るなどしながら、長崎県及び長崎市の判断の下に委託が行われているものと承知している。

五の1について

 長崎県及び長崎市からの報告によれば、平成十七年三月末時点で、第二種健康診断受診者証の交付を受けた者であって長崎県内に居住する者のうち、原子爆弾が投下された際の爆心地から半径十二キロメートル以内に居住していない者は、千二百十五人となっていることから、これらの者が新たに本事業の対象者となり得るものと考えている。

五の2について

 平成十七年度予算については、居住区域の取扱いを改めることにより新たに本事業の対象となる者に係る予算を従来から本事業の対象となっていた者に係る予算と区分して計上しているものではないため、新たに本事業の対象となる者に係る予算額について、お答えすることは困難である。

五の3について

 平成十七年度予算については、本事業の対象者についての居住区域の取扱いを改めるとともに、本事業を本来の目的に沿って、より効果的な内容や仕組みとしていくことを総合的に踏まえ、必要な予算全体として約九億四千万円を計上したものである。