質問主意書

第162回国会(常会)

答弁書


答弁書第一六号

内閣参質一六二第一六号
  平成十七年五月十三日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員尾立源幸君提出ネパールの人権回復に対する働きかけ及び対ネパール政府開発援助に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員尾立源幸君提出ネパールの人権回復に対する働きかけ及び対ネパール政府開発援助に関する質問に対する答弁書

一の1について

 ネパール政府への働きかけについては、外務報道官談話の発表以外にも、駐ネパール日本国大使からネパール国王等に対して、また、外務省アジア大洋州局長等から駐日ネパール大使に対して、政党関係者等の拘束や自宅軟禁及び報道機関の検閲の中止等、憲法で保障された自由の早急な回復について、それぞれ働きかけを行っている。

一の2について

 第六十一回国際連合人権委員会に出席した小野寺外務大臣政務官がネパール外務大臣と会談を行い、ネパールにおける人権状況の一層の改善につき、申入れを行い、引き続き、両国政府間で協議を行っていくこととなった。

一の3について

 第六十一回国際連合人権委員会におけるネパールの人権状況に関する決議案は、本年四月二十日に、ネパールもその内容に同意した上で、無投票で採択された。我が国としては、ネパール並びに我が国及び本件決議案の主提案国であるスイスを含む関係国の協議の結果まとめられた本件決議案を歓迎し、また、ネパールが国際社会との協力を通じて人権状況の改善のために努力するよう支援する観点から、本件決議案の無投票採択を支持したものである。

一の4について

 平成十五年八月に和平交渉を御指摘のマオイスト側が放棄して以降、マオイストによるテロ行為が継続し、その勢力地域が拡大しつつあると言われている。これに対し、ネパール政府側は、和平交渉再開を呼び掛ける一方、武力行使を含む取締りを行っている。このように、現状は、和平交渉が容易に再開される情勢にないが、本年四月三十日にネパール国王が同年二月に発出した「緊急事態令」を解除しており、引き続き状況を注視していきたい。

二の1について

 我が国は、政府開発援助大綱(平成十五年八月二十九日閣議決定。以下「ODA大綱」という。)を踏まえ、政府開発援助を実施しており、ネパールに対する援助もこの例外ではない。ODA大綱の「援助実施の原則」において、「開発途上国における民主化の促進、市場経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う。」とあることを踏まえ、援助受入国において、民主主義の後退等好ましくない動きが見られた場合には、まずは外交努力による説得を通じ、事態の改善に向け相手国に粘り強く働きかけを行うこととしており、ネパール政府に対しても、本年二月のネパール国王による内閣の解散及びネパール政府による人権制限措置の実施を受け、一の1についてで述べたとおり、これまで累次にわたり、政党関係者等の拘束や自宅軟禁及び報道機関の検閲の中止等、憲法で保障された自由の早急な回復について、働きかけを行っている。
 ODA大綱の「援助実施の原則」において、「上記の理念にのっとり、国際連合憲章の諸原則(特に、主権、平等及び内政不干渉)及び以下の諸点を踏まえ、開発途上国の援助需要、経済社会状況、二国間関係などを総合的に判断の上、ODAを実施するものとする。」とあるとおり、政府としては、諸般の状況を総合的に判断の上、政府開発援助を実施することを基本的考え方としている。この考え方に基づき、政府開発援助の具体的な実施に当たっては、必要に応じ、援助受入国において援助を受け取る一般国民、特に貧困層への人道的配慮を払いつつ、個別具体的に判断を行っており、ある一定の基準を設定して機械的に適用するとの考え方はとっていない。
 ネパールに対する食糧増産援助及びセクター・プログラム無償資金協力の新規二案件の供与については、ネパールにおける貧困や社会的不平等の問題の軽減に大きく貢献するものとなるとの認識から援助の実施を決定したものであり、ODA大綱の「援助実施の原則」に反するものではない。

二の2について

 政府は、援助受入国を含む世界各国の民主化や人権に関する状況に関心を有しており、在外公館等を通じ、必要に応じて随時情報を収集している。収集した情報の公表の可否については、情報提供者、被害者等との関係を踏まえつつ、個別具体的に検討する必要があるため、一律に公表することはしていない。
 ネパールに関してもこのような方針で対処しており、報道されている著名人に対する拘束や移動制限以外の一般市民に対する不当な逮捕等の人権侵害についても、可能な限り、情報を収集するよう努めている。

二の3について

 平成十六年度のネパールに対する食糧増産援助により供与する肥料及びセクター・プログラム無償資金協力により供与する資材のいずれについても、競争入札等で選定した業者を通じて物資をネパール国内まで輸送した後、ネパール政府が策定した計画に基づき、国内各地で販売されることとなる。これらの援助は、貧困農民が多く居住する山岳地帯を含むネパール全土に裨益すると考えている。無償資金協力の実施に当たっては、援助関係者の安全を確保することが必要不可欠であり、在ネパール日本国大使館、国際協力機構(以下「JICA」という。)事務所、調達代理機関、調達業者等と緊密に連絡を取り合いつつ、現地の治安状況をよく見極めながら細心の注意を払って実施している。

二の4について

 我が国は、開発途上国の食糧問題は開発途上国の食糧自給のための自助努力により解決されることが重要であるとの観点から、援助受入国の食糧増産計画に関する要請に基づき、肥料や農業機械などを購入するための資金を供与する形で、食糧増産援助を実施している。食糧増産援助は、JICAが実施する現地調査の結果を踏まえ、実施の可否を検討した上で、決定している。セクター・プログラム無償資金協力は、世界銀行や国際通貨基金との協調の下に貧困削減等の経済構造改善努力を実施する開発途上国に対し、そのために必要となる物資の輸入を支援するものである。いずれの援助についても、財政赤字に直面し、外貨準備高が低い水準にある開発途上国における貧困削減等に向けた努力を支援する上でも有意義な援助であると考えている。
 平成十六年度のネパールに対する食糧増産援助については、ネパール政府が肥料を購入し、肥料不足に悩む山岳地域の貧困農民を主たる対象に販売することを計画している。ネパール政府が肥料の販売により積み立てた見返り資金は、貧困農民を裨益対象とするネパール政府の開発事業に活用される予定である。平成十六年度のネパールに対するセクター・プログラム無償資金協力については、ネパール政府は、貧困地域の開発に必要な物資の購入に充てることを計画している。物資の販売により積み立てた見返り資金は、保健医療、教育、上水と衛生などの基礎的な生活分野を中心とする開発事業に活用される予定である。

二の5について

 ネパールに対する主要援助国や国際機関は、本年二月のネパール国王による内閣の解散及びネパール政府による人権制限措置の実施以降も、継続案件については実施している。また、新規案件についても、国によって対応を異にしているものの、実施を当面見合わせる等の措置をとった国は、一部に限られている。
 我が国は、本年二月以降、累次にわたり、ネパール政府に対し、政党関係者等の拘束や自宅軟禁及び報道機関の検閲の中止等、憲法で保障された自由の早急な回復について働きかけを行ってきており、先般の食糧増産援助及びセクター・プログラム無償資金協力の新規供与決定がネパールの人権状況を容認するものであると受け止められるとは考えていない。
 これらの案件の供与決定に先立ち、また、その後においても、我が国は、ネパール社会や国際社会の反応について注視しているが、我が国の対応について、総じて理解が得られていると認識している。

二の6について

 在ネパール日本国大使館は、現地JICA事務所と随時連絡を取りつつ、食糧増産援助の実施状況について、把握や評価を行い、年に一回の政府間協議会の場等を通じてネパール政府と協議している。セクター・プログラム無償資金協力についても、これに準ずる形で実施している。把握した実施状況等については、透明性の確保の観点から、外部有識者、国際機関等との間で実施している意見交換会の場などにおいて報告していく考えである。