質問主意書

第162回国会(常会)

質問主意書


質問第三五号

リバースモーゲージの普及促進に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十七年六月二十三日

津田 弥太郎   


       参議院議長 扇 千景 殿



   リバースモーゲージの普及促進に関する質問主意書

 日本におけるリバースモーゲージは、一九八一年の東京都武蔵野市の福祉資金貸付条例に基づくサービスを皮切りに、これまでいくつかの地方自治体で独自のサービスが展開されてきた。また、信託銀行など民間金融機関も一九八〇年代半ばから融資を開始するとともに、昨今は一部の住宅メーカーも自社の顧客を対象にした貸付サービスを開始している。
 我が国においても、二〇〇一年には住宅金融公庫が行う高齢者の建て替え融資に関して、リバースモーゲージの手法を応用した償還方法が可能になるとともに、二〇〇二年一二月には厚生労働省の肝煎りで長期生活支援資金の貸付制度が開始され、都道府県社会福祉協議会が対象を低所得者に絞ったリバースモーゲージを実施しているところである。
 しかし、これら我が国のリバースモーゲージの諸制度は、利用に当たっての要件が厳格なことや、融資に係るリスクの保障システムが整備されていないこともあり、アメリカの代表的なリバースモーゲージであるHECMの二〇〇三年度の新規契約が一万八千件であることと比較して、普及の度合いは雲泥の差があるのが現状である。
 昨年の年金法改正に伴う給付の引下げにより、公的年金のみで退職後の生活を維持することは極めて困難となっていることにかんがみれば、高齢者が自ら保有する資産を活用して、安心できる老後を過ごせることを可能とするリバースモーゲージは、我が国において今後ますます重要な役割を担っていくべきものと考えている。
 リバースモーゲージの普及促進は喫緊の重要課題であり、そのための効果的な施策を政府としても速やかに行う必要があるとの立場から、以下質問する。

一、リバースモーゲージは、フローに乏しい者のストック活用という自助・自立の観点に加え、利用者にとっては、住宅の売却とは異なり、引き続き住み慣れた住宅に居住し、コミュニティとの関わりも継続できるというメリットも有している。また、住み替え型のリバースモーゲージにあっては、高齢期に世帯人員に適した住宅に安心して生活することを可能とするとともに、結果として不動産の流動化を促進する効果も併せ持っている。このようなリバースモーゲージの重要性に関する政府の認識を明らかにされたい。

二、政府は、我が国における潜在的なリバースモーゲージ利用希望者が、六五歳以上の高齢者の中で、どの程度の比率を占めると考えるか。また、我が国のリバースモーゲージが、仮にアメリカ並みの普及率になった場合、その経済効果についてはどのように試算しているか。

三、本年五月三一日現在における長期生活支援資金の貸付件数を明らかにされたい。また、その件数は制度創設二年半時点の実績として十分なものかどうか政府としての評価を示されたい。

四、二〇〇二年一月三一日の参議院予算委員会で、当時の坂口厚生労働大臣は、マンションについてもリバースモーゲージの対象とすることに関し、「十分に検討させていただきたいと思っております」との答弁を行っている。厚生労働省が、どのような検討を行ったかを明らかにされたい。

五、長期生活支援資金においては、「配偶者又は親以外の同居人がいないこと」が貸付の要件になっている。このため子供が相続人の場合、当該住宅を処分する際に居住用住宅の課税の特例を受けることが制度的に不可能となっており、このこともリバースモーゲージの普及を阻む要因として挙げられている。有識者からは、子供との同居を認めるか、若しくは居住用財産としての課税の特例に代わる税制優遇措置の必要性があることなども指摘されているが、その是非について政府の見解を示されたい。

六、リバースモーゲージを利用した場合、担保となる不動産の残存価値は実質的に減少しているにもかかわらず、固定資産税は資産評価額そのものに対する課税となっている。有識者からは、リバースモーゲージの普及促進に向けて、固定資産税算出ベースを残存価値に連動させ、課税対象を不動産の残存価値にすることができる特例の創設を検討すべきとの声も寄せられているが、政府の見解を示されたい。

七、二〇〇三年一〇月一日の衆議院予算委員会で、当時の石原国土交通大臣は、「リバースモーゲージは少子高齢化社会の中で有益な制度だと私も思いますので、国交省としても、いろいろ御指示をいただいて普及に努力をさせていただきたいと考えております」との答弁を行っている。国土交通省が、リバースモーゲージの普及に関し、具体的にどのような努力を行ったのかを明らかにされたい。

八、言うまでもなく日本におけるリバースモーゲージの普及を阻んでいる最大の要因は、不動産価格下落リスク、金利上昇リスク、長生きリスクという融資主体側の三大リスクへの対応が不十分なことである。既に一九九七年一〇月一日の衆議院本会議において、当時の橋本内閣総理大臣が「不動産の価格変動あるいは担保切れのリスクなどの問題があるようでありまして、今後さらに検討をしていく必要はあると考えております」との答弁を行っているものの、依然として目に見える成果が上がっていない。
 アメリカにおけるHECMにおいては、FHA(連邦住宅庁)を保険者とした保障システムが整備されており、融資主体側の三大リスクのみならず、融資機関の倒産や融資金不払い等の利用者側のリスクについても一〇〇%カバーされている。このことが民間金融機関の参入を容易にし、利用者に安心感を与え、制度の普及促進の原動力となっていることは論を待たない。
 こうした保険機関を新たに立ち上げるに当たっては、不動産価格下落リスク及び金利上昇リスクが個々の事業者では回避困難なシステマティックリスクであることに加え、一定規模の保険料をプールする必要があるため、民間のみで直ちに保険機能を整備することは極めて困難である。将来的にマーケットが成熟化すれば、保険機関そのものを民間に移行することも可能であるが、少なくとも当初段階においては、公的機関がその役割を担うべきと考える。政府の見解を示されたい。

九、内閣府においても、過去に「家族とライフスタイルに関する研究会」でリバースモーゲージに関する議論がなされていると承知している。リバースモーゲージの普及促進については、これまで指摘してきた事項以外にも、中古住宅評価システムの整備と中古住宅市場の活性化、利用者への利用前のカウンセリング機能の整備、成年後見制度との連携なども課題として挙げられており、従来の省庁の縦割りによる対応ではなく、内閣府に関係全省庁が参加する横断的な検討機関を設置して、早急に議論を行うことが不可欠と考える。政府の見解を示されたい。
 また、リバースモーゲージの普及促進策を真に実効あらしめるためには、特別立法の制定も視野に入れる必要があるものと考えられるが、これについても、政府の見解を示されたい。

  右質問する。