質問主意書

第162回国会(常会)

質問主意書


質問第二九号

生活保護受給者に対する公的保険制度適用に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十七年六月十日

谷 博之   


       参議院議長 扇 千景 殿



   生活保護受給者に対する公的保険制度適用に関する質問主意書

 我が国の現在の社会保障制度は、先人達の長年の努力によって勝ち取ったものであるが、その後の度々の修正や追加の結果、諸制度が複雑に絡み合っており、そこには制度の谷間が少なからずできてしまっている。異なる制度である以上、谷間ができるのは当然と居直るのではなく、常に谷間を埋める改善を考え実行することは、為政者の義務であると認識する。
 現在の我が国の社会保障制度の柱を成す医療保険制度及び介護保険制度は、国民皆保険の趣旨にのっとり、社会における支え合いを実現している。
 介護保険制度において、生活保護受給者で六五歳以上の者は第一号被保険者として制度に参加している。具体的には、生活保護費算定の際に収入から介護保険料分を差し引くことで実質保険料を生活保護財政から負担し、実際に利用した介護給付費の一割に当たる自己負担分を介護扶助として生活保護財政で負担している。
 これに対して、生活保護受給者で四〇歳以上六五歳未満の者の大多数は、第二号被保険者になることができず、介護保険の適用除外となっている。これは介護保険法第九条第二項において、第二号被保険者を医療保険加入者に限定していることによる。
 国民年金法第一八条によれば、生活保護を受けていた者が、本人に悪意なく裁定請求が遅れたり、裁定に日時を要した場合には、年金受給権が遡及して認められ、既往分の年金が一括して支給される。この場合、生活保護法第六三条に基づき、生活保護費用の返還を求められることになる。その際、被保護者が満六四歳で介護保険の被保険者ではない場合、それまで受けてきた介護扶助の全額を返還させられるのに対し、六五歳以上の場合は一律介護保険の被保険者であるから介護保険料相当額と自己負担分である介護費用の一割のみを返還させられるに過ぎない。ALSなどの特定疾病患者であれば、受ける介護扶助は多額であり、全額を請求されるとせっかく一括支給された年金から相当な額あるいは全額を持っていかれてしまい、その後支給される年金だけでは再び生活保護を受けざるを得なくなることが容易に想定される。
 別の見方をすれば、一般に介護保険制度において、第二号被保険者の位置づけは、制度の支え手であり、特定疾病患者しか介護サービスを利用できない。したがって、四〇歳以上六五歳未満の生活保護受給者の介護サービスの利用は、六五歳以上の生活保護受給者と比べ、当然に少ないのであり、六五歳未満の大多数を適用除外し、六五歳以上を適用とすることは、介護保険財政上、不合理である。
 以上の認識に立って、以下質問する。

一、平成一一年度から平成一五年度の五年度間において、生活保護受給中に、年金の一括支給が遡及して認められ、既往分の医療扶助費をその一括支給された年金から差し引かれたケースのうち、返還請求された生活保護費の額が一括支給された年金額を上回ったケースの年度ごとの件数と、そのうち再び生活保護を受けることになった件数を明らかにされたい。

二、平成一二年度から平成一五年度の四年度間において、生活保護受給中に、年金の一括支給が遡及して認められ、六五歳になるまでの既往分の介護扶助費をその一括支給された年金から差し引かれたケースのうち、返還請求された生活保護費の額が一括支給された年金額を上回ったケースの年度ごとの件数と、そのうち再び生活保護を受けることになった件数を明らかにされたい。

三、介護保険制度における第二号被保険者を医療保険加入者に限定している理由は、保険料徴収を医療保険者に行わせるという実務的便宜からであると理解してよいか。

四、介護保険という単一の制度上において、生活保護受給者を年齢によって差別的に取り扱い、本人の希望にかかわらず六五歳未満の医療保険未加入者を適用除外としている介護保険法第九条第二項の規定は、国民皆保険の原則に反し、法の下の平等を定めた憲法第一四条に違反し、かつ憲法前文にある「人間の尊厳」を侵すものではないか。

五、国民健康保険法第六条第六項は、年齢に関係なく生活保護受給者をすべて適用除外としている。その理由について、平成一五年七月一七日の参議院厚生労働委員会において当時の坂口厚生労働大臣は、生活保護受給者には保険料の負担能力がないため、他の被保険者の保険料負担や国保財政に与える影響が大きいためという趣旨の答弁をしている。この答弁内容と、介護保険制度において六五歳以上の生活保護受給者が保険料を負担していることとの整合性を説明されたい。

  右質問する。