質問主意書

第162回国会(常会)

質問主意書


質問第二〇号

日本原燃株式会社によるガラス固化体貯蔵設備の崩壊熱除去解析虚偽報告に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十七年五月二十日

近藤 正道   


       参議院議長 扇 千景 殿



   日本原燃株式会社によるガラス固化体貯蔵設備の崩壊熱除去解析虚偽報告に関する質問主意書

 原子力安全・保安院は今年一月十四日、日本原燃株式会社(以下「日本原燃」という。)が過去に申請したガラス固化体貯蔵設備の崩壊熱除去解析(以下「除熱解析」という。)の妥当性に疑義があるとして、解析の再評価を行うよう指示し、日本原燃は、一月二十八日に再評価結果を「特定廃棄物管理施設のガラス固化体貯蔵建屋B棟及び再処理施設においてガラス固化体を貯蔵する類似の冷却構造を有する設備における崩壊熱の除去解析の再評価結果報告書」(以下「原燃資料」という。)で公表した。これによれば、日本原燃が過去に申請した除熱解析には虚偽が含まれていることが明らかになった。
 日本原燃のガラス固化体貯蔵設備は、高レベル廃棄物管理施設にガラス固化体貯蔵建屋(以下「A棟」という。)及びガラス固化体貯蔵建屋B棟(以下「B棟」という。)、再処理施設に高レベル廃液ガラス固化建屋(以下「固化建屋」という。)、第一ガラス固化体貯蔵建屋・東棟(以下「東棟」という。)及び第一ガラス固化体貯蔵建屋・西棟(以下「西棟」という。)の五建屋からなる。このうち、A棟は既に海外から返還されたガラス固化体を収納しており、ここには除熱解析の誤りはないとされているが、他の四建屋にはすべて解析誤りのあることが原燃資料により示された。
 A棟の除熱解析には誤りがないのに、他の四建屋で誤りが生じたのは、他の四建屋ではA棟と異なる設計を採用するように設計変更し、それに伴って除熱解析の対象が変化したのに、その変化を正当に評価しなかったからであった。ガラス固化体内の放射能が発する崩壊熱の除去は、外気を取り入れた空気流によって行われるため、ガラス固化体等温度の解析値は、その冷却空気流路の形態・構造に依存する。設計変更は、正にその形態・構造を変えるものである。具体的には、第一の設計変更は、「施工性を高めるため」に四建屋すべての冷却空気流路に設置された迷路板の位置、構造及び材質を変更するものであった。第二の設計変更は、平成十三年七月の再処理事業所再処理事業変更許可申請(以下「変更申請」という。)による再処理施設の西棟だけに関する設計変更である。その目的は「貯蔵を効率化するため」に、相対的に狭い面積上に多くのガラス固化体を貯蔵する方式に変更することであった。
 これら両変更とも冷却空気の流れを悪くするため、ガラス固化体等の温度は高まるはずであった。事実、一月二十八日に公表された日本原燃のやり直し解析の結果によれば、温度は設計変更前より著しく高まり、特に東棟と西棟ではガラス固化体の中心温度が設計上の上限である五百度を超えている。すなわち、設計変更を正当に評価していれば、設計変更自体が不可能になるところであるはずだが、日本原燃は、設計変更を行ったどの場合にも、ガラス固化体等の温度は設計変更前と全く同じ値で変化しないと結論付けて申請していた。これは、意図的誤り又は虚偽としか言いようのないことである。
 日本原燃は、固化建屋と東棟については既に工事が終了していたため、工事のやり直しのための「設計及び工事の方法の変更認可」申請を四月十八日に原子力安全・保安院に提出した。他の二建屋については、工事の前提である「設計及び工事の方法の認可」(以下「設工認」という。)の申請はされているが、まだ認可されていない段階にあるため、設工認の再申請を行う方針である。原子力安全・保安院も、これらの方針を妥当なものと一月二十八日に評価している。そして、この二建屋の工事をやり直すことが、ウラン試験の最終段階である総合確認試験を実施するための条件だとされている。
 しかし、今回の解析誤りが、前記のような温度の解析値を変えないという性格の誤りであること自体がまだ確認されているとは言えない。それと同様の誤りが他の設備の設計変更において生じていないことはもちろんまだ検証されていない。また、この誤りに伴って工事のやり直しを行うに要する費用も明らかにされていない。さらに、このような誤りを犯した責任は全く問題にされないまま放置されている。
 これらの問題点を明らかにするため、以下質問する。

一 迷路板の設計変更に伴う解析の誤りについて

 B棟の設計変更に関して、平成十三年七月三十日付けの変更申請書の迷路板部と温度についての記述によると、迷路板部の断面積がA棟とB棟で異なることが確認されている。すなわち、B棟の迷路板部の断面積が入口、出口ともA棟と比較して著しく狭まっている。ところが、ガラス固化体等の温度については両建屋を区別することなく、共通の温度として記述している。B棟での温度が誤りであることは、今回のやり直し解析の結果明らかになっているが、原子力安全・保安院及び原子力安全委員会はこの内容を妥当とし、変更申請を許可している。
1 原子力安全・保安院は、変更申請書でのB棟での温度解析値が誤りであることを認めているか。
2 迷路板部の断面積が両建屋で著しく異なるのにもかかわらず、B棟での温度をA棟での温度と区別しようとしていないことについては、どのように考えているか。
3 A棟では、シャフト断面積とそこに設置された迷路板部断面積が異なっているのはなぜか。また、B棟では、入口迷路板部断面積はどのように定義され計算されているか。変更申請書にある「断面積四・〇平方メートル」は具体的にどのような計算によって算出された値か。
4 原燃資料十五頁には、迷路板部の構造を決める四つの量として、a、b、BC及びLBCが定義されている。これらの具体的な数値を、A棟以外の四つの建屋について、かつ入口と出口それぞれについて明らかにされたい。
5 日本原燃は平成十五年十月一日付け変更申請によって、B棟の入口迷路板部断面積四・〇平方メートルを二・七平方メートルに変更している。迷路板部断面積がさらに狭まった分、ガラス固化体の温度等は何らかの変更を受けるはずであるにもかかわらず、実際は温度について何も変更していないが、どのように考えるか。
6 日本原燃はB棟に関する誤りを「文献式の解釈間違い」と称しているが、その判断を原子力安全・保安院は妥当なものと評価しているのか。もしそうであるなら、B棟の入口迷路板部断面積四・〇平方メートル及び二・七平方メートルという評価がいかなる文献式の解釈間違いによって生じたのか、また、なぜガラス固化体の温度等の解析値が変化しなかったのか、具体的に説明されたい。
7 除熱解析の対象が変化したにもかかわらず、ガラス固化体等の温度が全く変更しないなどというのは一般にあり得ないことではないか。除熱解析を正当に行えば、日本原燃の目的である「施工性を高める」ような設計変更自体が不可能になるため、温度については一切変更しないという虚偽の申請を行ったとしか考えられないが、どのように考えるか。
8 東棟と西棟については、平成八年の変更申請の段階では、除熱解析の対象となる貯蔵ピットが両者で同一であったため、ガラス固化体等の温度は両者で区別せず共通の値が記述されている。平成八年の変更申請では、B棟の迷路板がA棟と異なるように設計変更されたのと同様の設計変更が東棟と西棟でもなされているが、ここでもやはり温度は何ら変更されていないものを、当時の科学技術庁と原子力安全委員会が許可している。これについても、B棟に関する誤りと同様の問題があるが、B棟に関する1から7までの各質問項目に沿って、同様に東棟及び西棟についてもそれぞれ見解を示されたい。

二 西棟における設計変更について  

 平成十三年七月の変更申請で行われた西棟だけに固有の設計変更では、貯蔵ピットに収納するガラス固化体の収納管の二十本の列が四列から七列に変更されたが、ピット横幅は六メートルから八メートルに変更されただけであった。すなわち、収納量は一・七五倍になったが収納面積及び冷却空気流路幅は一・三三倍にしかならず、この方式を日本原燃は「貯蔵の効率化」と称している。この方式に変えれば冷却空気の流れが悪くなるのは一目瞭然であるが、日本原燃はやはりガラス固化体等の温度を一切変更せずに変更申請し許可されている。
1 日本原燃のやり直し解析結果によれば、西棟でのガラス固化体の中心温度は六百二十四度となって設計の上限である五百度を超えることになるが、原子力安全・保安院はこの結果を認めているのか。
2 東棟でのガラス固化体中心温度のやり直し解析の結果は五百十九度であり、西棟の方が高くなっている。この違いは西棟での「貯蔵の効率化」によるもので、迷路板の設計変更とは別の効果であることを認めるか。
3 この「貯蔵の効率化」に伴う解析の誤りがなぜ生じたのかについて、日本原燃は何も説明をしていないのではないか。もし何か説明をしているならば、どこで説明しているか具体的に示されたい。
4 この新たな設計変更にもかかわらず、日本原燃はまたも温度が全く変わらないものとして変更申請していた。仮に迷路板の設計変更によって偶然にも温度が変化しなかったとしても、別の設計変更でまたも温度が変化しないなどというのはあり得ないことではないか。原子力安全・保安院の見解を明らかにされたい。
5 このとき温度を変えないまま虚偽の申請をしたのは、「貯蔵の効率化」を優先させた結果ではないのかと考えるが、いかがか。

三 同様の誤りが他の設備にないことの検証について

 日本原燃は今回の解析誤りを「文献式の解釈間違い」とし、同様の誤りが他の施設・設備にないことは確認したとしているが、その確認は、ある対象用の計算式を条件の異なる対象に適用するような場合に限られている。しかし、日本原燃の犯した誤りは、直接的には、設計変更によって解析の対象が変わったのに、解析結果を全く変更しなかったというものであり、それも二種類の設計変更について行われていた。
1 迷路板部の設計変更と同様の「施工性を高める」設計変更によって解析対象が変わったのに、解析結果を変更前と同じ値にしたというような誤りが、他の施設・設備に存在しないことは確認されているのか。
2 「貯蔵の効率化」と同様の設計変更によって解析対象が変わったのに、解析結果を変更前と同じ値にしたというような誤りが、他の施設・設備に存在しないことは確認されているのか。

四 工事のやり直しに係る費用について

 日本原燃は既に工事が終了している固化建屋と東棟について、既設の迷路板等を撤去し、別の箇所に新たに付け直す等の工事をすることにしている。そのために要する費用を明らかにされたい。

五 解析誤りに関する責任について

1 解析誤りを犯した責任は、日本原燃と元請企業のいずれにあるのか明らかにされたい。
2 解析誤りを含む変更申請を許可したこと及び設工認申請を認可したことに関する原子力安全・保安院(旧科学技術庁を含む。)及び原子力安全委員会の責任をどのように考えるか、明らかにされたい。

  右質問する。