質問主意書

第162回国会(常会)

質問主意書


質問第一号

助産師に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十七年一月二十四日

円 より子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   助産師に関する質問主意書

 我が国の助産師制度は、「保健師助産師看護師法」(以下「法」という。)及び関連省令で規定されている。
 助産師になろうとする者は、助産師国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければならない(法第七条)。その助産師国家試験の受験資格は、看護師国家試験に合格した者又は法第二十一条に規定する看護師国家試験の受験資格を有する者が、①文部科学大臣の指定した学校において六月以上助産に関する学科を修めていること、②厚生労働大臣の指定した助産師養成所を卒業していること又は③外国において助産師免許を受けた者で厚生労働大臣が認めた者のいずれかであることが要件とされている(法第二十条)。
 第百五十三回国会の「保健婦助産婦看護婦法の一部を改正する法律案」に対する附帯決議は、「出産に関するケアを受ける者の意向が尊重され、それぞれの者に合ったサービスの提供が行われるよう、必要な環境の整備に努めること。」「助産師教育については、十分な出産介助実習が経験できるようにする等、その充実に努めること。」「保健師、助産師、看護師等の看護職員については、その職責と社会的使命の重大さにかんがみ、それぞれの職種が果たしている機能の充実強化に向けて、教育環境の改善、人員増等の施策を講ずること。」の三点について適切な措置を講ずることを政府に対して求めている。
 そこで、助産師の養成に関し、以下質問する。

一、文部科学大臣又は厚生労働大臣が指定する助産師学校養成所の教育内容に関する指定基準と助産師国家試験の受験資格について
 助産師学校養成所(法第二十条でいう文部科学大臣の指定した学校及び厚生労働大臣の指定した助産師養成所をいう。以下同じ。)を指定する際の主務大臣の権限及び手続については、「保健師助産師看護師法施行令」(以下「施行令」という。)等に定められており、主務大臣は、助産師学校養成所の指定を行う場合には、入学又は入所の資格、修業年限、教育の内容その他の事項に関し主務省令で定める基準に従い、行わなければならない(施行令第十一条)。また、指定後の基準を維持する手段として、主務大臣は、指定助産師学校養成所の設置者又は長に対して、報告の徴収及び適当でないと認めるときの必要な指示(施行令第十五条)並びに基準に適合しなくなったと認めるときの指定の取消し(施行令第十六条)ができる権限を有している。
 主務大臣が、助産師学校養成所の指定を行う場合の主務省令で定める基準の詳細は、「保健師助産師看護師学校養成所指定規則」(以下「指定規則」という。)第三条の第一号から第十二号までに規定している。そのうちの教育内容の基準に関しては、「教育内容は、別表二に定めるもの以上であること」(指定規則第三条第三号)とされており、助産師学校養成所の教育内容に関する具体的な最低必要な基準は、この指定規則別表二のとおりである。例えば、助産学実習における分べん取扱件数については、「実習中分べん(妊娠七月未満の分べんを除く。)の取扱いについては、助産師又は医師の監督の下に学生一人につき十回程度行わせること。」と規定している。
1 最近の全国助産師教育協議会の調査によると、助産学実習における分べん取扱件数がきわめて少数で「十回程度」に明らかに満たない学生が、助産学実習の単位の認定及び助産師学校養成所の卒業認定を受け、しかも助産師国家試験の受験資格を認められて厚生労働大臣から助産師免許の交付を受けた結果、実践能力に欠ける助産師が就業している実例が多数あることが明らかになっている。平成八年の指定規則改正(平成九年四月一日から施行)で、それまで「十回以上」行うこととされていた助産学実習における分べんの取扱件数が「十回程度」に改められたが、これはいかなる理由によるものか。
2 指定規則別表二では、助産学実習で学生一人につき行うべき分べん取扱件数を「十回程度」と規定するのみで、個々の学生の分べん取扱件数が基準に適合しているか否かを判断するには不明確であり、極めて不適切な表現となっている。「十回程度」とは、具体的には何回以上を指すのか。
3 平成八年の指定規則改正で、教育内容の基準に関して、講義科目名ごとの講義時間数と実習時間数で表示してあった指定規則別表二が、教育内容ごとの必要単位数の表示に変更され、さらに「複数の教育内容を併せて教授することが教育上適切と認められる場合において」、臨地実習(助産学実習)八単位以上で、かつ臨地実習(助産学実習)以外の教育内容の合計単位数十四単位以上取得すれば、別表二の「教育内容ごとの単位数によらないことができる」ように変更された(指定規則別表二備考)。
 このような教育内容の基準の曖昧化は、助産学科目の基礎看護学等他科目での読み替えを許容し、その結果、助産学課程を設置する四年制看護系大学において基礎看護学で履修した科目の単位を助産学科目でも二重読みする行為が頻繁に行われる事態を招いている。実際、開講されている助産学課程の教科の単位数が助産学実習を含め、合計十単位に過ぎない大学もある。法が本来、助産師に必要な教育として、指定規則を通じて、看護学課程の基礎の上にさらに助産学課程の二十二単位以上の履修を求めていることを考えれば、こうした実態は、法の趣旨に反していると言わざるを得ない。
 全国助産師教育協議会が平成十五年に発行した「看護系大学における助産師教育の実際」という調査報告書には、大学での助産学科目の必修選択科目の平均が十五・五単位であることが記載されている。指定規則別表二備考の「教育上適切と認められる場合」とはだれが判断するのか、また、どのような基準で判断しているのか。
4 指定規則別表二には、助産学実習において、何をもって分べん取扱件数一件と数えるかの定義がされていないため、一件の分べんを学生二人で介助した場合に、それぞれの学生に対して分べん取扱件数を一件と数えたり、後産(胎盤娩出)の介助のみを行った学生に対して分べん取扱件数を一件と数えたりする例があることが報告されている。助産学実習における分べん取扱件数一件の定義は何か。また、その定義を指定規則等に明記する必要はないのか。
5 平成八年の指定規則改正省令公布の際に発せられた厚生労働省からの通知には、臨地実習の内容の充実を図る必要があると明記されている。助産師の重要な業務は、妊娠・分べん・産褥、各期を通した継続ケアであるが、近年、分べん実習に終始し、継続ケアの実習が不十分であるといわれている。これを補うために、継続ケアの実習を必修にする旨を指定規則に明記する必要はないのか。
6 法第二十条の定める助産師国家試験の受験資格を見ると、指定規則の定める教育内容の基準は、法が求める助産師の要件と連関している。指定助産師学校養成所が、助産学実習で分べん取扱件数が「十回程度」に満たなかった学生に対し助産学実習の単位を認定し、学生に修業証明書又は卒業証明書を交付することは、法が求める助産師となるための教育を受けていない学生に対して助産師国家試験の受験資格を認めることになるが、このような指定助産師学校養成所の行為は、法第二十条の趣旨に反していないか。
7 指定規則の定める基準は、直接的には主務大臣が助産師学校養成所を指定する際の適否の判定基準(施行令第十一条)であるが、同時に、この基準は、当然、助産師学校養成所の設置者又は長が指定を受けた後も維持する義務を負う基準でもあり、さらに、主務大臣にとっては、指定助産師学校養成所から報告を徴収し、指定時の基準に適合しているか否かを判断し、必要な場合に改善を指示し(施行令第十五条)、改善がみられない場合に指定を取消す(施行令第十七条)場合の判断基準でもある。
 文部科学省及び厚生労働省は、施行令第十五条による報告の徴収等により、助産学実習で分べん取扱件数が「十回程度」に満たなかった学生に対して助産学実習の単位が認定されている事実を把握しているか。また、これらの認定を行った助産師学校養成所に対して施行令第十五条に基づくいかなる指示を行っているか。さらに、改善の見られなかった助産師学校養成所に対して施行令第十六条に基づく指定の取消しを行うのはどのような場合か、基準を示されたい。
8 助産師国家試験の受験手続に関して「保健師助産師看護師法施行規則」第二十五条では、受験願書に修業証明書又は卒業証明書を添付して、厚生労働大臣に提出することと規定しているが、修業証明書又は卒業証明書があっても、助産学実習で分べん取扱件数を「十回程度」行ったことに関する疑義が生じる場合もあり得るため、取扱件数を証明する書類の保存を助産師学校養成所に指示しておく必要があると考える。現在、政府は助産師学校養成所における履修に関する書類の保存について、何らかの具体的指示をしているか。

二、法第二十条で規定する「看護師国家試験に合格した者」が助産師になるために進学する一年制の助産師学校養成所の相次ぐ廃校について

 助産師国家試験の受験資格を定める法第二十条にいう「文部科学大臣の指定した学校」としては、現在、一年制の助産学専攻科を有し、看護系の学科を持つ短期大学、四年制の中の六か月の間に専門科目として助産学が選択できる看護系学科を持つ大学、二年制の助産研究を行う専門職大学院がある。また、「厚生労働大臣の指定した助産師養成所」としては、助産師専門学校(一年制)がある。
 ところが、最近の看護系短期大学や看護専門学校が四年制の看護系大学に移行する流れの中で、看護系短期大学の一年制の助産学専攻科や助産師専門学校(一年制)が相次いで廃止されている。
1 もともとあったにもかかわらず、一年制の助産師学校養成所が全く無くなった都道府県はどれほどあるのか。
2 四年制看護系大学での助産学課程は希望者の中から少人数の者を選抜して行う選択課程であるので、「看護師国家試験に合格した者」が、四年制看護系大学に編入学できたとしても、助産学課程を修学できる保証はない。したがって、同じ都道府県内に一年制の助産師学校養成所がないということは、法が予定する「看護師国家試験に合格した者」が、助産師学校養成所に進学し、助産師国家試験の受験資格を得ることを非常に困難にさせている。看護師資格を有する者で助産師資格の取得を希望する者にとって、一年制の助産師学校養成所がなくなることは、実質的に助産師になる道を閉ざすことになるが、このような状況を改善する必要はないのか。
3 全国助産師教育協議会が平成十五年に発行した「看護系大学における助産師教育の実際」という調査報告書には、明らかに四年制大学における助産教育の質の低さが浮き彫りにされている。助産教育の四年制大学化に伴う助産師専門学校や短期大学助産学専攻科の廃校を、発展的解消といえるのか。
4 前述のように、四年制大学における助産教育には多くの問題点が指摘されているが、文部科学省や厚生労働省は、その事実を認識しているのか。また、両省は、今後も国の方針として、四年制大学における助産教育を積極的に推進していくのか。

三、それぞれに合った質の高いケアを提供する出産サービスを選択できる出産環境の整備のために必要な助産師の養成数について

 出産は、産む女性と生まれてくる子供が安全で、しかも、女性とその家族にとって満足のいくものでなければならないが、出産の場所を含めどのような出産環境を選択するかは、前述した附帯決議にもあるように出産に関するケアを受ける者の意向が尊重されるべきである。
 出産環境や出産ケアの現状は、助産師の資格のないものが時々分べん監視装置を読みに来るだけで、陣痛の間一人にされる出産から、陣痛・分べんの間中産む女性の傍らで助産師が声をかけ励ましながら正常な出産の経過を見守る出産まで、大きな隔たりがある。安全で満足のいく出産を保障するためには、専門的な知識と技術を身につけた助産師の養成が不可欠である。
1 助産師の必要数は、どのような出産ケアを想定するかによって異なってくるが、助産師の必要数の算定に当たっては、どのような出産ケア及びケアのレベルを想定しているか。
2 政府は、助産師の必要数をどのように算定しているか。
3 助産師の必要数を算定する「第六次看護職員需給見通しに関する検討会」に、出産ケアに精通した助産師は加わっているか。
4 助産師の数は、現在、足りているか。また、将来はどうか。その根拠も併せて示されたい。
5 助産教育の四年制大学への移行に伴う助産師専門学校や短期大学助産学専攻科の廃校で助産師の養成数が減少し、将来、助産師が減少することにはならないか。その根拠も併せて示されたい。

  右質問する。