質問主意書

第161回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二五号

内閣参質一六一第二五号
  平成十六年十二月十四日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員藤末健三君提出新たな信託業法の運用に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員藤末健三君提出新たな信託業法の運用に関する質問に対する答弁書

一について

 信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第五十一条第一項に規定する要件に該当する信託(以下「同一の会社集団に属する者の間における信託」という。)については、信託法(大正十一年法律第六十二号)に規定する信託として同法の規定が適用されるが、信託業法第二条第二項に規定する信託会社に関する参入規制、行為規制及び監督規制の適用は受けない。

二について

 特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第三十五条第四項は、職務発明に関する対価の額については、その発明により使用者等が受けるべき利益の額等を考慮して定めなければならないと規定している。
 したがって、同一の会社集団における子会社が、特許権を同一の会社集団における別の会社に信託した場合、当該信託の信託受益権に基づき当該子会社が得た収益については、職務発明による発明の対価の算定に際して考慮される可能性が高いものと考えられる。
 なお、同一の会社集団における子会社が保有する特許権を信託せずに直接第三者にライセンス供与した場合、そのライセンス料等の収益は、職務発明による発明の対価の算定に際して考慮されることが一般的であるため、特許権を直接ライセンス供与した場合と、特許権を同一の会社集団における別の企業に信託した場合との間で、職務発明による発明の対価の算定において差異はないものと考えている。

三について

 知的財産権の価値評価手法については、産業構造審議会知的財産政策部会流通・流動化小委員会において検討を行い、本年六月に、特許権、商標権及び著作権について、それぞれの権利の性質や流通市場の有無等を十分に踏まえつつ、評価目的や評価を行う主体に応じた適切な価値評価手法を選択する際の課題や留意点等を「知的財産(権)の価値評価手法の確立に向けた考え方 中間論点整理」として取りまとめ、公表したところである。
 相互に実施料等の支払を生じさせず、直接収益を生まない一般の包括的クロスライセンス契約は、契約当事者において、相互に支払うべき実施料の総額が均衡すると考えてこれを締結すると考えることができる。したがって、包括的クロスライセンス契約については、相手方が自己の特許発明等を実施することにより本来相手方から支払を受けるべきであった実施料をもって、信託による収益と考えることも可能である。
 なお、クロスライセンスによって相殺されているとみなすべき収益算定が必要となるか否かについては、個々の事案毎に事情が異なると考えられる。

四について

 お尋ねの出願中の特許(未審査又は審査中のもの)及び出願前のもの(特許を受ける権利の状態)は、いずれも特許法第三十三条の特許を受ける権利に該当すると考えられるところ、特許を受ける権利は、同条第一項の規定により移転することができ、同法第三十四条第五項の規定により相続の対象となること等から、信託法第一条に規定する財産権に該当し、信託の対象となると考えられる。

五について

 信託業法第五十一条の同一の会社集団に属する者の間における信託についての特例は、同条第一項に規定する要件に該当する外国会社を含む同一の会社集団についても適用される。

六について

 受託者が、特許権を信託財産として受託するためには、当該特許権の移転を受ける必要があり、当該特許権の移転は、特許法第九十八条第一項第一号の規定により、特許庁において登録しなければその効力を生じない。したがって、当該特許権の移転の登録を受けた場合には、受託者は、当該特許権を侵害した者に対して損害賠償又は同法第百条第一項の規定による差止めの請求を行うことができる。
 また、特許権を信託するためには、特許登録令(昭和三十五年政令第三十九号)第六十条第一項の規定により、特許権の移転の登録と信託の登録を同時に行う必要があり、この場合には、登録免許税法(昭和四十二年法律第三十五号)第七条第一項第一号及び別表第一第十一号の規定により、一件につき三千円の登録免許税が課されるが、これは適切な負担であると考えている。

七について

 同一の会社集団に属する者の間における信託の引受けは、その引受けを行う者の届出により、別途信託会社を立ち上げることなく行うことができる。