質問主意書

第161回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二三号

法律条文の過誤訂正の法的性格に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十六年十二月二日

浅尾 慶一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿



   法律条文の過誤訂正の法的性格に関する質問主意書

 政府は、平成一六年八月一〇日付けの「法律条文の過誤訂正の在り方に関する質問に対する答弁書」(以下「本答弁書」という。)において、法律条文の過誤訂正について一定の見解を示しているが、憲法第四一条は、国会は「国の唯一の立法機関」であると規定するところ、国会が議決した法律を政府限りで訂正し得るとする政府の見解は未だ説得力に欠ける。
 憲法第九九条により、公務員は憲法尊重擁護の義務を負うのであって、政府が行う行為の憲法上の疑義については、国民に対する不断の説明責任を果たすべきものと考えられる。
 このような観点から、標記について以下質問する。

一、政府は、本答弁書において、官報正誤について「法文の表記上の誤り」を訂正するものとしており、これは法文の表記を実質的な法規範の内容を変更しない範囲で変更できるとの立場を採るものと思われる。そうであれば、憲法第五九条は「法律案は両議院で可決したとき法律となる」と規定するところ、ここにいう「法律」とは、実質的な法規範の内容を表現した文書に止まるようにも思われる。同条にいう「法律となる」とは、法律の条文が形式的にも確定することをいうのではないかと考えるが、政府の見解はどうか。

二、官報正誤は公布のため官報に掲載された法律の条文を訂正する手続きだが、本答弁書によると、憲法第七条にいう「公布」とは、法文の表記を実質的な法規範の内容に即したものに訂正する機能も有すると政府は考えるようである。しかし、「公布」とは天皇の国事行為であり、憲法所定の手続きにより既に成立している法形式を公衆に知らしめる表示行為と一般に理解されており(佐藤幸治著「憲法」にこれと同文が掲載されている。)、憲法第五九条により形式的にも確定した法律の条文を国民に周知する表示行為なのではないか。そうであれば、国民に適用される法律の条文は国会で確定した法律の条文であって、官報に掲載された条文ではないと考えられるが、政府の見解はどうか。

三、本答弁書によると、憲法第七三条にいう「法律を誠実に執行」との規定は、内閣に国会で確定した法律の条文に表記上の誤りがあった場合、その法律の条文を内閣限りで訂正しうる権限を付与したものと考えられるが、このような理解に相違ないか。

四、政府は「表記上の誤り」について、「実質的な法規範の内容と法文の表記との間に形式的な齟齬があることが客観的に明らかであると判断されるもの」としている。政府は、国民年金法等の一部を改正する法律(平成一六年法律第一〇四号。以下「今回の改正法」という。)に関し、その実質的な法規範の内容をどのように国会に示したのか。「国民年金法等の一部を改正する法律案要綱」がそれに当たるものであるのか。
 また、「形式的な齟齬」及び「客観的に明らか」の基準を明確にした上で、今回の改正法については、いつ、だれが「表記上の誤り」を判断したのか明らかにされたい。

五、政府は、法文の表記上の誤りについて、官報正誤で訂正する場合もあれば、改正法案を提出する場合もある。どのような基準においてそれを区別して行っているのか明確にされたい。また、今回の改正法について、第一六〇回国会に誤りを訂正する法律案を出すのではなく、官報正誤で対応したのはなぜか、その理由と、いつ、だれが判断したのかを明らかにされたい。

六、本答弁書で示された政府見解によれば、「法文の表記上の誤りの訂正」という国家行為は、憲法第七三条により、内閣(行政権)の権限に属するとともに、それは当然議員立法でもなし得るのだから憲法第四一条により国会(立法権)の権限にも属するものとなる。三権分立を建前とする憲法が規定する我が国の統治機構において、このように二権の権限に属する国家行為は、憲法に明文規定があるものを除くとどのようなものがあるか。政府の解釈を示されたい。

  右質問する。