質問主意書

第160回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一一号

財団法人日本原子力文化振興財団のプレスレリーズ「劣化ウラン弾による環境影響」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十六年八月四日

福島 みずほ   


       参議院議長 扇 千景 殿



   財団法人日本原子力文化振興財団のプレスレリーズ「劣化ウラン弾による環境影響」に関する質問主意書

 文部科学省の所管公益法人である財団法人日本原子力文化振興財団(以下「本財団」という。)は、「プレスレリーズNo.111」として、「劣化ウラン弾による環境影響」という表題のパンフレットを作成し、平成十六年六月十五日付けで発行している。このプレスレリーズは、ジャーナリスト向けに発行されているもので、マスコミ報道にも大きな影響を与えるものであるが、「プレスレリーズNo.111」(以下「本プレスレリーズ」という。)は、劣化ウラン弾による健康影響及び環境影響は事実上皆無であるという内容で、その解釈には疑問が多い上に、兵器としての劣化ウラン弾の「安全性」を積極的に広報するものとなっている。
 国際的には、劣化ウラン弾が放射能及び化学的毒性による健康影響を引き起こす非人道兵器であることが、国連機関等の中でも指摘され、議論となっているものである。千九百九十六年の国連人権小委員会は、クラスター爆弾や生物兵器と並んで、劣化ウラン弾を大量破壊兵器・無差別殺傷兵器とする決議を採択し、二千二年の国連人権小委員会においても、劣化ウラン弾は反人道的兵器とみなされている。少なくとも、劣化ウラン弾による環境影響が無いという国際的合意はまだ一度もなされていない。
 ところが、本プレスレリーズは、環境影響はないと断定するのみならず、劣化ウラン弾などの劣化ウラン兵器を妥当なものと解説し、その使用を積極的に肯定している。まるで、米軍による劣化ウラン弾の使用を積極的に支持し、擁護するのが目的であるかのような内容となっている。
 本財団寄附行為第三条によれば、本財団は「広く一般に原子力平和利用に関する知識の啓発普及を積極的に行」うことを目的として設立された団体とされている。劣化ウラン弾は核分裂兵器ではないものの、放射性物質を軍事利用するものであることは明白であり、「原子力平和利用」の対極に位置するものである。その使用を積極的に肯定するようなプレスレリーズの発行は、本財団の本分を大きく逸脱した行為と言わざるを得ない。
 また日本は、広島・長崎の被ばくの苦しみを経験し、その上に立って非核三原則と原子力の平和利用を国是としてきた。原子力基本法第二条は、「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限」るとの基本方針を定めたはずである。本財団が本プレスレリーズを通して、劣化ウラン弾使用の容認・支持を公然と表明したことは、非核三原則と原子力の平和利用という国是に反し、国際的な流れにも逆行している。所管省庁である文部科学省及び政府の姿勢と責任が問われるべき重大問題であると考える。
 よって、以下質問する。

一、本財団の設立目的に照らして、本プレスレリーズは不適当な内容と考えられるが、政府はどのように考えるか、見解を示されたい。

二、本プレスレリーズは原子力基本法の精神からも逸脱したものと考えられるが、一と同様に政府の見解を明らかにされたい。

三、本財団は、文部科学省を所管省庁として、文部科学省と経済産業省からの補助金等は年間十億円に上っている。国民の税金が財団収入の約六割を占めるが、その業務について、以下の項目に沿って明らかにされたい。

1 本財団が行っている広報活動、新聞広告、講演会、発行している出版物などすべての活動について、活動項目ごとに詳細を示されたい。また、それぞれの活動項目ごとの二千四年度の予算についても示されたい。
2 本財団が発行するプレスレリーズについて、発行の目的、年間発行回数及び配布先を明らかにされたい。
3 本財団が発行するプレスレリーズの発行責任はどこにあるのか。また、編集体制はどのように組まれ、学術的な検証はだれがどのように行っているのかを明らかにされたい。
4 本プレスレリーズは、どのような目的や経緯で作成されることになったのか。また、だれが発案し、だれが作成を指揮したのか。その責任の所在を明らかにされたい。

四、所管省庁である文部科学省は、米国による劣化ウラン弾の使用について賛成するという立場なのか、その見解を明らかにされたい。

五、日本国内において劣化ウランは、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)に基づいた厳重な管理が要求される放射性物質である。当然、劣化ウランを環境中に故意に放出することは犯罪的行為であり、政府自身が私の質問主意書(第百五十六回国会質問第四四号)に対する答弁書において、そのような行為が同法第七十六条の二違反の罪に該当し得るという見解を示している。このように、日本国内では厳格な管理が要求されている劣化ウランであるが、本プレスレリーズの解釈は、この法律の定めと明らかに対立するものではないか。また、日本国内では禁止でも、コソボやイラク等では環境中に放出しても安全とする根拠はあるか。

六、多くの研究者・医者の調査やジャーナリストの報道等を通じ、イラクでは子供たちを中心にガン・白血病が増加し、異常出産が多発していることが伝えられているが、本プレスレリーズは、このような深刻極まりないイラクの状況を全く無視している。まず、その現実について、以下の項目に沿って政府の見解を示されたい。

1 政府は、これらイラクでの被害事実について、調査・検討を行ったことがあるか。
2 政府は、今後被害実態についての調査を行う考えがあるか。
3 政府は、これらイラクでの被害事実について、認めないという立場か。調査もせず認めないという立場であれば、何を根拠に否認するのか明らかにされたい。あるいは、既に政府は被害事実を認めているという立場であるなら、その原因は何であると考えているのか、その見解を明らかにされたい。

七、本プレスレリーズは、サマワへ派遣された自衛隊員についても、劣化ウラン弾による健康影響はないと主張する趣旨のようであるが、二千四年四月の「ニューヨーク・デイリー・ニュース」は、サマワから帰還した米兵の尿中から劣化ウランが検出されたと報じている。

1 同じサマワから帰還した自衛隊員について、尿中の劣化ウラン検査などの被ばく調査は行ったのか。行っていないとすれば、その理由は何か。
2 尿中から劣化ウランが検出されたということは、サマワの空気中を漂っていた劣化ウランを含む粉塵を吸い込む等の吸入摂取が考えられるが、同じサマワの空気を吸っていた自衛隊員に被ばくの恐れがないと判断するのであれば、その根拠は何か。
3 今からでも、帰還した自衛隊員について、尿中のウラン濃度の測定等、被ばくの有無を確かめるような精密な検査を行う体制を整えるべきではないか。

八、本プレスレリーズには、「劣化ウラン弾を拾って長期間持ち歩いたり、あるいは劣化ウランの粉末が溜まっている戦車内に入って、舞い上がった粉末を吸い込んで肺にたくさん取り込んだりする場合を除いて、それほど心配のない物質」という記述がある。この記述は、劣化ウランの微粒子が砂嵐によって広範囲に拡散する危険性を示唆するものでもあるが、それを人々が大量に吸入しなければ良いという解釈と読み取れる。これは、体内に取り込まれたアルファ核種による内部被ばくの危険性をあまりに軽視する解釈ではないか。政府の見解を示されたい。

九、本プレスレリーズは、「劣化ウランの放射線量は天然ウランの百分の一」とし、劣化ウランを「最も安全なウラン」と記述している。しかし、放射線量(被ばく線量)の計算の前提となる被ばく条件は具体的に示されていない。天然ウランの放射線量には、ラジウムやラドンなど娘核種の存在を計算に加える一方で、劣化ウランについては、濃度、物理的・化学的形態や人体に取り込まれ被ばくさせる具体的な経路を無視するという恣意的な操作が行われている。このような操作は、科学的とはとても呼べないものであるが、政府はこのような解釈を容認するのか。

十、本プレスレリーズは、「放射線は地上一m離れたところから測定するものであり、そのような測定では劣化ウランは検出されない」ことをもって、「通常の測定方法では環境レベルと同じ」と結論づけ、劣化ウランは安全であるとしている。これは、アルファ核種による被ばくの特性を無視した、あまりに非科学的解説である。土壌中のアルファ核種の存在を、一メートル離れたところで検出するためには、そこに何トンの劣化ウランの塊が必要か示されたい。

十一、日本国内の原子力施設において、プルトニウムやウランのような放射性物質によって、ベータ・ガンマ線をほとんど無視しうるようなアルファ核種による汚染が考えられる場合でも、地上一メートルからのベータ・ガンマ線の測定のみをもって安全性を確認することになっているのか。

十二、原子力安全委員会報告書「原子力発電所等周辺の防災対策(平成十二年五月改訂)」によれば、プルトニウム及びアルファ核種の野菜・肉等における摂取制限を、大人十ベクレル毎キログラム、乳幼児一ベクレル毎キログラムとしている。また海外でも一般に、子供の摂取制限の方が大人より厳しくなっている。ところが、本プレスレリーズは、子供の放射線感受性は高いが、食物摂取量・呼吸量が少ないので、劣化ウランの影響は大人と同じであると記述している。国内の安全規制を尊重すべき本財団は、大人と子供では放射線の影響が違うことを知らせ、子供への注意を促す立場にありながら、全く逆の解説を行っているのである。政府は本財団の、このような解説をそのまま容認するのか。

十三、以上、本プレスレリーズの内容の様々な問題点を指摘した。これだけ誤りが多く、なおかつ本財団設立の目的からも離れた本プレスレリーズは、速やかに回収され、廃棄されるべきだと考えるがいかがか。

十四、本プレスレリーズに関連して、本財団の関係者に対し、何らかの処分を行うべきではないか。また、本財団の存在そのものを再検討すべきではないか。

  右質問する。