質問主意書

第159回国会(常会)

答弁書


答弁書第二二号

内閣参質一五九第二二号
  平成十六年六月十一日
内閣総理大臣臨時代理           
国務大臣 細田 博之   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員若林秀樹君提出警察庁による日本人外交官殺害事件の調査結果概要報告等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員若林秀樹君提出警察庁による日本人外交官殺害事件の調査結果概要報告等に関する質問に対する答弁書

一の1について

 被害車両のレバノンにおける車両登録書によれば、当該車両の年式は千九百九十九年式、型式はトヨタ自動車株式会社ランドクルーザーである。

一の2について

 被害車両の防弾仕様はトヨタ自動車株式会社により施されたものであり、お尋ねのセキュリコ社によるものではない。

一の3の(一)について

 被害車両の具体的な防弾レベルの詳細については、館員の安全対策の具体的内容にかかわることでもあり、お答えを差し控えたいが、防弾レベルはけん銃弾に抗し得る程度であり、通常の防弾車と比べれば低いレベルのものであった。

一の3の(二)について

 お尋ねの報道があったことは承知しているが、被害車両の防弾レベルは報じられている「レベル六」とは異なっていると認識している。

一の4及び5について

 防弾加工の具体的内容については、館員の安全対策にかかわることでもあり、お答えを差し控えたい。

一の6について

 お尋ねの事項を含め、トヨタ自動車株式会社から提供を受けた被害車両の寸法図は別紙のとおりである。

二の1について

 奥大使の遺体からは、頭部から大腿部にかけて、左半身を中心に十八点の金属片が摘出された。金属組成については、銅、亜鉛、鉛及びアンチモンが検出された。
 うち十点は、銃弾の一部と推定され、重量は合計で十・二九グラムであった。他の八点は、銃弾の一部であるかどうか不明であった。銃弾の一部と推定された十点のうち三点は、右回り四条の腔旋を有する口径七・六二ミリメートル程度の銃から発射されたものと推定された。
 なお、お尋ねのその他の事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

二の2について

 奥大使の遺体からは、金属片以外に、ガラス片が摘出された。
 なお、お尋ねのその他の事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

二の3について

 井ノ上書記官の遺体の左肩甲部及び左上腕部から、二点の金属片が摘出された。金属組成については、銅、亜鉛、鉛及びアンチモンが検出された。
 二点とも銃弾の一部と推定され、重量は合計で一・○八グラムであった。うち一点は、右回り四条の腔旋を有する口径七・六二ミリメートル程度の銃から発射されたものと推定された。
 なお、お尋ねのその他の事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

二の4について

 井ノ上書記官の遺体から、金属片以外の破片は摘出されていない。

二の5について

 被害車両の天井、ドア等からは、百十二点の金属片が発見された。
 うち三十七点は、銃弾の一部と推定され、重量は合計で二十三・七三グラムであった。金属組成については、銅、亜鉛、鉛及びアンチモンが検出された。他の七十五点のうち、十五点は明らかに銃弾の破片ではなく、六十点は銃弾の一部であるか否か不明であった。
 銃弾の一部と推定された三十七点のうち六点は、右回り四条の腔旋を有する口径七・六二ミリメートル程度の銃から発射されたものと推定された。
 なお、お尋ねのその他の事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

二の6について

 現地アメリカ合衆国軍隊(以下「現地合衆国軍隊」という。)、イラク警察当局等に対しては、御指摘のような証拠物件がある場合にはそれを提供するよう要請してきているが、これまでに、そのような提供は受けていない。

三の1から3までについて

 検証の結果、被害車両の前部に四か所、左側前部ドア部に十四か所及び左側後部ドア部に十八か所の弾痕が確認された。
 うち左側前部ドア部の九か所及び左側後部ドア部の十三か所については、銃弾が貫通して車内に到達したとみられ、貫通した銃弾による弾痕が、車内の右側面に七か所確認された。うち一発は、車外に射出されたものとみられる。
 車両後部及び屋根上部には、弾痕はなかった。
 被害車両の前部、左側前部ドア部及び左側後部ドア部に確認された三十六か所の弾痕のうち、射入角を測定することが可能であるものは十か所であった。
 上下の方向の射入角に関しては、高さ七十七・八センチメートルと最も低い位置にある左側前部ドア部の弾痕については、上方から下方に向けて四・八度の角度で銃弾が射入したと考えられる。また、高さ百・九センチメートルと二番目に低い位置にある弾痕については、下方から上方に向けて○・一度の角度で銃弾が射入したと考えられる。この二か所よりも高い位置にある八か所の弾痕については、すべて下方から上方に向けて銃弾が射入したと考えられる。高さ百十六・○センチメートルのボンネット部の弾痕についても、下方から上方に向けて一・四度の角度で銃弾が射入したと考えられる。こうしたことから、被害車両は、おおむね一メートルの高さから銃撃されたと推定される。
 前後の方向の射入角に関しては、ボンネット部の弾痕一か所については、左前方二十八度の角度から銃弾が射入したと考えられる。このほか九か所の弾痕については、ほぼ真横ないしは左斜め前方から銃弾が射入したと考えられる。
 被害車両のエンジンルーム内部及びカンガルーバンパー部には弾痕は確認されなかった。
 なお、お尋ねのその他の事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

三の4について

 上村在イラク日本国臨時代理大使が、お尋ねのような発言をしたとは承知していない。

三の5について

 アメリカ合衆国から提供された十一枚の写真の内容と警視庁の検証により明らかとなった弾痕の状況との間に矛盾する点はなかった。

四について

 現地合衆国軍隊、イラク警察当局等に対しては、御指摘のような証拠物件がある場合にはそれを提供するよう要請してきているが、これまでに、そのような提供は受けていない。

五について

 被害車両の外面には、弾痕以外に事件発生時に生じたと推定される損傷は認められなかった。

六について

 写真等によると、事件現場の道路は、中央分離帯を有する片側二車線の舗装道路である。道路の片側の幅員は約七メートルで、道路面と隣接地との高低差は少ないと推測される。
 銃撃時の具体的状況は必ずしも明らかでないが、弾痕の状況等から判断すると、走行中の被害車両の左側を併走する被疑車両から銃撃が行われた可能性が高い。

七の1について

 現地の病院から両外交官の死亡診断書は発行されていない。ティクリート総合病院の医師によれば、両外交官が病院に搬送された正確な時刻についての記録はなく、正確に記憶していないとしているが、「勤務時間(午後一時まで)が終わってから夕方までの時間」に両外交官が病院に搬送されてきたとしている。搬送された時点で、既に井ノ上書記官は死亡していたが、奥大使は、頭部等に銃創等があったものの存命しており、すぐに緊急処置室へ収容されたが、間もなく死亡したとのことである。

七の2について

 奥大使の遺体には、致命傷となった左側頭部から頭蓋内に入り脳実質内に達した二つの銃創を始め、頭部から大腿部にかけて左半身を中心に広範囲にわたる銃創群等が認められた。銃弾はいずれも貫通していない。遺体からは、頭部から大腿部にかけて、左半身を中心に十八点の金属片が摘出された。
 なお、お尋ねのその他の事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

七の3について

 井ノ上書記官の遺体には、左半身を中心に、約十か所の主要な銃創が認められた。銃弾はいずれも貫通していない。遺体の左肩甲部及び左上腕部から、二点の金属片が摘出された。
 なお、お尋ねのその他の事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

七の4について

 事件発生から相当な時間が経過した後に我が国で司法解剖が行われたこと等から、両外交官の受傷後の生存期間を推定することは困難であった。

七の5について

 ジョルジース運転手の家族の要請によりティクリート総合病院の医師が発行した死亡証明書によれば、死因は銃創によるものとされている。また、ディジュラ警察署によればディジュラ警察署の警察官が現場に到着した際には既に絶命していたとしているが、現場に到着した正確な時刻は特定できておらず、死亡推定時刻も特定できていない。

八の1について

 「各種身分証明書類」とは、両外交官それぞれの、外交旅券、運転免許証、外交団身分証明証及び連合暫定施政当局(CPA)入構許可証である。

八の2について

 遺留品は、現地合衆国軍隊が、事件直後から二千三年十二月中旬にかけて逐次現地地区長から回収し、連合暫定施政当局(CPA)を経由して在イラク日本国大使館(以下「大使館」という。)に逐次返却したことから、遺留品のそれぞれについて大使館の受取の日時を特定することは困難である。外務省本省へは、同月十五日及び本年一月十三日に、外務省職員が携行して持ち帰った。これらの遺留品については、外務省からすべて警察当局に提示し、警察当局が捜査上必要と判断したものについて、御遺族の同意を得た上で、二千三年十二月二十七日及び本年一月二十二日に、外務省からすべて警察当局に任意提出した。また、お尋ねの遺留品が奥大使と井ノ上書記官のいずれの所持品であるかについては、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電子端末、フロッピーディスク等の記憶媒体及び携帯電話については奥大使の所持品であり、「各種身分証明書類」は奥大使、井ノ上書記官両名のものである。なお、車載無線マイクは無線機本体と共に被害車両に搭載されていたものであり、防弾チョッキについては携行していなかったと承知している。

八の3について

 遺留品は現地合衆国軍隊が、事件直後から二千三年十二月中旬にかけて逐次現地地区長から回収した。ただし、車載無線マイクについては無線機本体と共に、被害車両に搭載されており、被害車両と共に回収した。血液の付着に関しては、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

八の4及び5について

 お尋ねの事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

八の6の(一)について

 事件発生当日に奥大使が所持していたデジタルカメラに撮影されていた写真には被害者は写っていない。それ以上の詳細については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

八の6の(二)について

 お尋ねの「バグダッド郊外の風景の写真」は、二千三年十一月二十九日午前十一時十一分及び二十二分に撮影されたものである。撮影場所は、それぞれ、バグダッド西部のマンスール地区で、大使館から直線距離で約七キロメートルないし八キロメートルの所及びバグダッド北西部で、大使館から直線距離で約十数キロメートルの所であると思われる。

八の6の(三)について

 現場から回収した遺留品の中に、井ノ上書記官のデジタルカメラは含まれていない。井ノ上書記官はバグダッド勤務中、デジタルカメラを保有していたと思われるが、その現在の所在は特定できていない。

八の6の(四)について

 奥大使の有していたデジタルカメラは、ソニー株式会社製サイバーショットである。井ノ上書記官はバグダッド勤務中デジタルカメラを保有していたと思われるが、その機種は特定できていない。

九の1から3までについて

 弾痕の状況等から判断すると、走行中の被害車両の左側を併走する車両から銃撃が行われ、銃口の高さは一メートル程度であったと考えられる。多数の銃弾が被害車両の乗員に向けて集中的に発射されている一方で、乗員のいない後部の物品積載用の場所の窓ガラスや甲板部分には弾痕が認められないことから、本件犯行は、被害車両の乗員を殺害する目的で行われたと考えられる。
 使用車両の台数・種類や銃撃の姿勢は、特定できていない。
 使用銃器は、銃弾の一部と推定される金属片の鑑定結果から、右回り四条の腔旋を有する口径七・六二ミリメートルの銃であったと考えられるが、その数や種類は特定できていない。
 なお、お尋ねのその他の事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

九の4について

 お尋ねのような実行の難易度を測定するための模擬的な犯行の再現は行っていないが、今後その実施の必要性が認められた場合には、その時点で行うことになると考える。

九の5の(一)について

 事件当時に実施されていた現地合衆国軍隊の具体的な作戦行動については、承知していない。

九の5の(二)について

 今般の事件を予想させる具体的なテロ情報は入手していなかった。

九の5の(三)について

 事件の発生後、犯行声明や更なる犯行の予告がなされたとは承知していない。

九の6の(一)について

 犯行がテロによるものであるとした場合のその目的をどのように分析しているかについては、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

九の6の(二)について

 イラクにおける治安情勢の収集・分析活動の中で、大使館に対する脅威に関する情報は随時入手に努めてきており、事件当時も関係方面との間でこうした情報を共有してきていたが、今般の事件を予想させる我が国を対象とした個別具体的なテロ情報は得ていなかった。犯行の計画性をどのように分析しているかについては、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

十の1の(一)について

 SUVはスポーツ・ユーティリティー・ビークル(Sport Utility Vehicle)の頭文字で、スポーツタイプの多目的車を指す。SUVの特徴としては、強固な車体に高度な四輪駆動システム、高い車高及び大径タイヤを組み合わせることで、悪路についても高い走行性を有することなどが挙げられる。

十の1の(二)について

 SUVがイラク国内においてどの程度存在し、実際に使用されているかについて確たる情報を有しておらず、その具体的な普及状況は承知していない。

十の2の(一)について

 一般的に、イラク国内においてAK―47という型の機関銃は広く普及しているようであるが、それがどの程度存在し、実際に使用されているかについては確たる情報を有していない。

十の2の(二)の(1)及び(2)について

 RPKという型の軽機関銃がイラク国内にどの程度存在し、実際に使用されているかについて、確たる情報を有しておらず、その具体的な普及状況は承知していない。
 なお、イラクにおいても、RPKと同様の型の軽機関銃が国産され、イラク軍において使用されていたと承知している。

十の2の(二)の(3)について

 現地合衆国軍隊が、お尋ねの報告を行うに際して、具体的にどのような分析を行ったかについては、承知していない。

十一について

 お尋ねの事件に関して、種々関連情報を入手してきているが、その具体的な入手状況については、相手方との信頼関係を損なうおそれがあり、また、両事件の関連性については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

十二について

 お尋ねの事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。
 なお、御指摘の現地合衆国軍隊による誤射の可能性については、現地合衆国軍隊の誤射であるという説がどのような根拠に基づくものであるか、これまで全く明らかでなく、政府としてもそのような説に与するものではない。また、アメリカ合衆国政府もこれを完全に否定してきている。

十三について

 お尋ねの事項については、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

十四の1について

 被害車両の公開については、今後被害車両に関しての必要な捜査が終了した後で、御遺族等の関係者の意向にも十分配慮しつつ、公開の態様について検討していく考えである。

十四の2について

 アメリカ合衆国から提供を受けた十一枚の被害車両の写真については、そのうち三枚は二千三年十二月四日に公開済みである。残りの写真の取扱いについては、被害車両に関しての必要な捜査が終了した後で、被害車両の公開の態様と併せ検討していく考えである。

十四の3について

 御指摘の弾痕の拡大写真の撮影や公表については、被害車両の公開の態様に関する検討とも関連することであり、被害車両に関しての必要な捜査が終了した後で、対応を検討していく考えである。

十五について

 事件発生直後から、アメリカ合衆国とは緊密に連絡を取り合っており、様々な手段で随時、情報の提供を受けてきている。提供を受けた情報の内容を明らかにすることは、相手方との信頼関係を損なうおそれがあり、また、捜査中の事件にかかわることであるため、お答えを差し控えたい。

十六について

 今般の事件については、ディジュラ警察署が捜査を担当しており、また、現地合衆国軍隊においては、主に現地合衆国軍隊第四歩兵師団の現地治安担当部隊や憲兵隊が捜査を担当してきたが、本年三月中旬以降、現地合衆国軍隊第一歩兵師団に引き継がれている。

十七について

 外務省報告は、本年五月十二日午後に発表した。具体的には、外務省の記者クラブにおいて配布するとともに、外務省のホームページに掲載した。また、外務省の記者クラブでの資料配布後、外務省中東アフリカ局中東第二課長が記者との質疑応答を行った。
 車両検証結果、弾丸の射入状況、金属片の鑑定結果、司法解剖結果等に関する警察庁の報告については、同年四月五日午後参議院イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会において、政府参考人として出席した警察庁警備局長が答弁をするとともに、その後は、各方面からの問い合わせに対し、警察庁警備局長の答弁を書面にしたものを配布した。また、同日午後、本件捜査を担当する警視庁公安部外事第三課長が警視庁の記者クラブにおいて、車両検証結果、弾丸の射入状況、金属片の鑑定結果等について発表した。

別紙