質問主意書

第159回国会(常会)

質問主意書


質問第三七号

人身売買に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十六年六月十六日

井上 哲士   
大沢 辰美   
西山 登紀子   
畑野 君枝   
八田 ひろ子   
宮本 岳志   
吉川 春子   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   人身売買に関する質問主意書

 今国会において議員立法で、女性・児童の権利に関し、「配偶者暴力防止法」、「児童買春・ポルノ禁止法」が改正された。この法律を実効あるものにするためにも外国人女性・子どもの保護は欠かせない。
 六月一五日、米国政府は二〇〇四年の人身売買報告書を発表した。その中でわが国は人身売買を防ぐための法整備や被害者保護が裁定の基準を満たしていないとして、三段階評価の中間に当たる分類二に指定され、その上で、今後制裁対象となる分類三に転落する危険があるとして、監視対象国として指定された。
 昨年の女性差別撤廃委員会の所見をはじめとして、わが国において人身売買とそれによる性的搾取が深刻であることが国際的に批判の対象となってきた。また、人身売買が暴力団など非合法組織の資金源になっていることも指摘されている。
 今国会における、児童買春・ポルノ禁止法の改正は、児童の性的搾取の対策強化が図られたが、人身売買に対する対策についてほとんど図られていない。
 このような現状は抜本的に改めなければならない。
 そこで、以下質問する。

一 捜査当局、入管当局などで把握している人身売買の実態と最近の動向、人身売買の犯罪によって逮捕され又起訴された件数を国別に明らかにされたい。女子差別撤廃委員会の所見や米国政府の人身売買報告書でも指摘されている、わが国の人身売買の実態について、政府はどのように認識し、対策を行ってきているか。

二 日本において人身売買が深刻となっている理由のひとつは、本来保護されるべき人身売買の被害者を、不法滞在・不法就労によって処罰する一方、人身売買の加害者である犯罪者を刑事罰の対象としていないことである。このような法律状況では人身売買被害が減少するはずはない。人身売買を犯罪として処罰対象とする法整備を速やかに行う必要があるが、その検討状況と、法案化のめどについて明らかにされたい。

三 日本では、人身売買被害者が「被害者」として扱われるどころか不法入国・不法就労等によって処罰され、強制送還の対象とされていることが被害者救済・犯罪摘発を難しくしている要因の一つである。

1 結果として不法入国・不法就労等の実態があったとしても、そもそも人身売買被害者は犯罪被害者であり、捜査や強制送還の対象として対応すべきではないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
2 人身売買の実行者を告訴し、証人として犯罪摘発に協力する意思を示す被害者や訴訟などによって民事上の犯罪被害救済を図る被害者については刑事・民事の法的手続の継続中は日本への在留資格を与えるべきではないか。

四 人身売買の被害者は犯罪被害者として適切に援助及び保護されるべきである。

1 人身売買被害者は犯罪被害者として適当な居所に保護され、被害者が理解できる言語によるカウンセリング及び被害者の権利に関する情報、医学的・心理的・物的援助、雇用・教育及び訓練の提供を受けられるよう対策をとるべきではないか。また、犯罪被害の民事的救済手段についての情報提供や民事法律扶助制度の適用などの支援措置を整備すべきではないか。
2 政府は婦人相談所で人身売買被害者の相談・保護などを行っているとしているが、婦人相談所における最近三年間の人身売買被害者の保護の実態について明らかにされたい。現在、婦人相談所はDVへの対応で手一杯というのが実態であり、深刻な人身売買の状況を考えれば人的・物的体制拡充が必要と考えるが政府の見解を明らかにされたい。
3 人身売買被害者を保護するための民間のシェルターは東京、横浜の二カ所だけであり、これに対して政府の支援は行われていない。政府は、このような民間の取り組みをどう評価しているか、また今後政府自身による公的シェルターの設置、民間施設への積極的な支援を行うべきではないか。

五 人身売買に関する包括的な国際約束として、国際組織犯罪防止条約の人身売買補足議定書があるが、日本政府は、未だこの議定書を批准していない。同議定書の、できるだけ早期の批准が必要と考えるが、いつ頃までに批准を行う考えか明らかにされたい。また、人身売買は国内組織と海外組織による国際的組織犯罪であり、その摘発には国際協力が欠かせない。にもかかわらず、人身売買の相手先国である東南アジア、南アメリカなどとの日本の国際刑事捜査共助に対してきわめて消極的とNGOはじめ国際的に強い批判を受けている。政府は、国際捜査共助に対する、このような姿勢を改め積極的に行っていくべきではないか。

  右質問する。