質問主意書

第159回国会(常会)

質問主意書


質問第三六号

タクシー事業の現状改善等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十六年六月十五日

富樫 練三   
大沢 辰美   
大門 実紀史   
畑野 君枝   
西山 登紀子   
八田 ひろ子   
宮本 岳志   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   タクシー事業の現状改善等に関する質問主意書

 タクシー事業については、二〇〇二年二月一日より改正道路運送法施行による需給調整規制の廃止等の規制緩和が実施されてから二年四か月余が経過した。
 この規制緩和については、当初よりその弊害を懸念する声が当該事業の労働者・事業者はもとより、利用者・国民からも寄せられていたものであるが、実施後の経過をみると、その懸念どおりの事態が進行していると言わざるを得ない。この規制緩和により、タクシー事業は増車と運賃の値下げによる激しい過当競争に陥り、タクシー運転者の労働条件低下、交通事故の増加などにより、利用者・国民の安全・安心が損なわれるとともに、需要に対して過剰なタクシーが、道路や駅ターミナルに連なるなどで、円滑な道路交通を阻害
 して、大気汚染や空気中の二酸化炭素の増大をも引き起こしているのが現状である。
 ついては、タクシー事業の現状と規制緩和による弊害の是正、改善方策に関して質問する。

一、タクシー労働者の労働条件の低下とその影響について

 (一) タクシー運転者の労働条件について
 昨年七月四日付け政府答弁書(内閣参質一五六第三七号)において政府は、タクシー運転者の「賃金、労働時間等の労働条件の向上を図ることは重要な課題であると認識」していると答えているにもかかわらず、実際はタクシー運転者の労働条件は向上どころか一段と低下している。全国平均のタクシー労働者の年間収入(厚生労働省「賃金センサス」による。)は、二〇〇〇年に三〇三万円であったものが、年を追うごとに低下し、二〇〇三年には二七六万円になっている。タクシー労働者の労働組合である自交総連が、各都道府県の県庁所在地における四人家族(夫四四歳、妻四二歳、子一四歳、子一〇歳)の生活保護基準額(年間)を試算し、タクシー運転者の賃金と比較したところ、実に四一道府県でタクシー運転者の年収の方が生活保護基準額を下回っていることが明らかになった。公共交通を担う許可事業の労働者が、家族をも養うに足りない水準以下まで収入が低下していることを政府はどのように認識しているのか。
 最低賃金法に違反する賃金も各地で発生しており、低賃金が引き起こす長時間労働や労働者の質の低下から、タクシーの安全・安心が損なわれる重大事態となっている。政府はこの間、タクシー労働者の収入水準の向上のために、どのような方策を採ってきたのか。厚生労働省によるタクシー事業場における最低賃金法違反の監督結果を明らかにするとともに、賃金改善の効果が現実にあらわれていない以上、新たな実効ある方策を採るべきではないか。
 (二) タクシーの交通事故について
 全国でタクシーが第一当事者となった事故(警察庁統計)は以下のとおりに推移している。
  年     全事故件数    死亡事故件数
 二〇〇〇年  二万五六二四件  四三件
 二〇〇一年  二万四〇三七件  五二件(当年から車種区分が変更されたため減少)
(二〇〇二年二月規制緩和実施)
 二〇〇二年  二万三六三五件  五二件
 二〇〇三年  二万四六八二件  六六件
 二〇〇二年においては一時的に全事故件数が減少しているが、二〇〇三年には前々年をも上回る増加となり、しかも死亡事故が大幅に増えている。警察庁交通局が今年二月二六日に発表した「平成一五年中の交通事故の発生状況」においても、自動車一億走行キロあたりの交通事故について「過去一〇年間の推移をみると、特に事業用乗用車の交通事故の増加(平成四年の一・八一倍)が顕著である。」と指摘しているところである。このような事業用乗用車の交通事故の増加の顕著な傾向を政府はどのように認識しているのか。
 また、政府は、昨年七月四日付け政府答弁書(内閣参質一五六第三七号)において、「タクシー運転者の労働条件と交通事故の状況との関連は必ずしも明らかではない」と答えていたが、その後、交通事故増加の要因を究明するための調査等を行っているのか。仮に労働条件が原因でないとするならば、事業用乗用車の交通事故が「顕著に」増えた要因は何だと考えているのか。
 さらに、国土交通省自動車交通局総務課安全対策室の調査によると、タクシー運転者の健康状態に起因する事故等は、一九九三年から二〇〇一年までの九年間は、三ないし一一件、年平均六・八件で推移していたが、規制緩和後の二〇〇二年には前年の二倍を超え一気に一七件になっている。この事故急増は、増車や運賃値下げによる競争激化、過酷な労働実態に起因するものであると考えるが、政府は事故急増の原因の究明のために、どのような対策を採るつもりなのか、明らかにされたい。
 (三) 安全対策とも重大な関わりのあるタクシー事業者に対する監査体制について
 各運輸局の二〇〇二年度のタクシー事業者に対する車両使用停止の処分件数と管轄地域の事業者数(個人タクシーを含む)、事業者数に対する処分率は、次のようになっている。
 運 輸 局 車両使用停止処分  管轄内の事業者数  処分率
 北 海 道   一二件        一九八四者  〇・六〇%
 東  北    三         一九〇七   〇・一六
 関  東   六〇       二万四五九三   〇・二四
 北陸信越    六         一三五二   〇・四四
 中  部   二二         二五七三   〇・八六
 近  畿  一〇一         九八五九   一・〇二
 中  国   一〇         二四九二   〇・四〇
 四  国   一六         一二二七   一・三〇
 九  州   一四         五五八八   〇・二五
 沖  縄   一四         一五八八   〇・八八
 合  計  二五八       五万三一六三   〇・四九
 運輸局ごとに処分数、処分率に大きな違いがあり、二万三〇一〇事業者の個人タクシーを抱える関東運輸局は別として、東北、北陸信越、中国、九州などの運輸局では特に少なくなっている。その理由は何か。これは、当該運輸局の監査体制もしくは監査能力の不足を露呈したものであり、「指導監督を強化する」とした道路運送法改正時の国会における附帯決議(平成一二年四月二六日衆議院運輸委員会・同年五月一八日参議院交通・情報通信委員会)に反するのではないか。仮に人手が足りない等の体制に原因があるならば、必要な人員配置を国の責任で行うべきではないのか。

二、緊急調整措置の見直しについて

 (一) 特別監視地域の見直しについて
 今年三月に閣議決定された「規制改革・民間開放推進三か年計画」は、タクシーの緊急調整措置を見直し、特別監視地域の指定要件について、「非流し地域」の実車率の要件が「流し地域」に比べて低く設定されている特例的な扱いを見直し、「流し地域」と同一にするか、又は大幅に引き上げる等の措置を講ずるとしている。昨年九月一日の公示で、特別監視地域が全国の三分の二に当たる二五四か所にも上っているのは、確かに異常事態ともいえるが、それはタクシーの異常な供給過剰が要因であるのに、それを改善しないで、指定要件を厳しくして、要件を引上げることで特別監視地域を減らすというのでは何の問題解決にもならないのではないか。
 「非流し地域」では、タクシーは車庫や駅などで停車して客を待つものであり、いわゆる「流し」をしないからこそ、供給過剰となっても実車率は顕著に低下しないという特性がある。この特性を無視して、「流し地域」と同一にするというのは、「地域等の実情を充分勘案」するとした国会における附帯決議に反するのではないか。
 (二) 緊急調整措置等の指定要件について
 緊急調整措置等の指定要件は、道路運送法改正時に、十分に諸事情を検討して決定したはずではなかったのか。国土交通省はこの間、規制緩和の影響を評価するには二年ではまだ早いとして、交通事故の増加と規制緩和との因果関係等については、その確認を避けてきた。にもかかわらず、道路運送法改正の重要な柱である緊急調整措置の見直しだけを行うというのでは、規制緩和の検証を真面目に行うというつもりがあるのかどうか政府の姿勢が問われているといわなければならない。いままでの経過からも、規制緩和の検証を十分に行った後に、どうしても緊急調整措置の見直しが必要とする場合に、行うべきではないのか。

三、タクシーの運賃・料金の多様化について

 (一) 運賃認可の運用基準について
 政府は「規制改革・民間開放推進三か年計画」で、運賃・料金の更なる多様化を実現するために運賃制度を見直すとしている。しかし、運賃の認可制は公正な競争のために必要だからこそ、法改正の際にも維持されることとなったものであり、国会における附帯決議で「不当競争を引き起こすおそれのある運賃を排除するため、具体的な基準を設け、厳正に運用すること」とされているものである。この決議にも基づいて慎重に検討したうえで、現在の運賃認可の運用基準が定められているのではないか。それを安易に変更するのは、道路運送法改正時の国会における附帯決議に反するのではないか。
 (二) 運賃設定の自主性の確保について
 運賃の設定は事業者が自主的に決定するのが基本であり、利益が予想されなければ多様化を望まないのも、他社と同水準の運賃を選択するのも、事業者の自主的な判断である。それを行政が主導してまで人為的に多様化を実現しようというのは、事業者の自由な選択や判断への介入であり、行き過ぎではないか。
 (三) 人件費等の費用について
 道路運送法改正時の国会における附帯決議はタクシー運賃について「人件費等費用について、適正な水準を反映させる」としている。これを実効あるものにするためには、自動認可運賃の下限を下回る運賃申請に対しては、審査を厳正にすべきである。事実これまでは、その趣旨で審査・査定が行われてきたのであるが、「規制改革・民間開放推進三か年計画」で審査の標準処理期間を短縮するとしているのは、十分な審査を蔑ろにするものではないか。
 また労使間の了解等を要件としている現行の運用基準は国会における附帯決議に基づくものであり、変更すべきではないと考えるがどうか。

四、多すぎるタクシーが引き起こす問題について

 タクシー規制緩和は、都市部を中心に急激なタクシーの増加を招いている。各地の主要駅周辺や繁華街等では、客待ちをするタクシーがタクシー乗り場や駐車スペースから溢れ出し、道路の車線をふさいで長蛇の列をつくるのが常態となっている。この状態は、円滑な交通を阻害し、バスの乗降や歩行者の通行を阻害し、排気ガスによる大気汚染をまねくなど、さまざまな問題を引き起こしている。需要と供給のバランスが崩れているからこそ客待ちタクシーが増加していることは明らかである。政府は、タクシーの供給過剰について、どのような認識をしているのか。また、客待ちタクシーの問題の解消のためにどのような対策を行っているのか。

五、第一交通問題について

 第一交通及び大阪府の佐野第一交通が行ってきた労働組合つぶしを始めとするさまざまな悪質行為について、大阪地裁堺支部第二民事部は四月七日、不当労働行為、不当解雇、不当配転などについての判決を出した。同判決では、事実上、第一交通本社が佐野第一交通と共謀してなした「目的は極めて悪質であり、その手段も著しく不当」な違法行為と判示している。
 近時、企業のコンプライアンスすなわち法令遵守精神についての社会的関心が高まっているおり、系列グループの保有台数においてタクシー業界のトップ企業である第一交通の本社が労働関係法はじめ法令違反を重ねていると断ずる司法判断が出されたことは重大である。法令違反があると司法から指摘されている企業を行政が放置することは、悪質企業を増長させ、ひいては業界全体の遵法意識の低下を招くのではないか。同グループの事業者への道路運送法、労働関係法にかかわる監査・処分状況と、今後の方策を明らかにされたい。

  右質問する。