質問主意書

第159回国会(常会)

質問主意書


質問第二四号

我が国公的年金制度の在り方に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十六年五月二十七日

浅尾 慶一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   我が国公的年金制度の在り方に関する質問主意書

 小泉構造改革の一環として政府が提出した国民年金法等の一部を改正する法律案(以下「法案」という。)は、取りやすい所から取るという現行公的年金制度が抱える不公平極まりない矛盾点の改善に何ら手を着けることなく、保険料の引上げと給付の削減という負担ばかりを国民に求めるものであり、保険料流用の問題の発覚ともあいまって、国民の公的年金制度に対する不信感は究極の高まりを見せている。
 公的年金制度は、憲法第二五条第一項により国民に権利として付与された生存権を保障するため、同条第二項により政府が整備する義務を負うものであり、他方、内閣は憲法第七三条第一号により、法律を誠実に執行する義務も負う。かかる憲法の趣旨にかんがみれば、政府は、公的年金制度の改正に当たっては、国民に対して十分な説明責任を果たすとともに、その理解を得るためにたゆまざる努力をなすことが義務付けられているものと考える。
 このような観点から、標記について以下質問する。

一、厚生労働省の「厚生年金・国民年金数理レポート-一九九九年財政再計算結果-」では、厚生年金のバランスシートが過去拠出対応部分と将来拠出対応部分に分けて掲載されている。また、財務省・財政事情の説明手法に関する勉強会における「国の貸借対照表(試案)」には、国民年金、公務員の共済年金等について同様のバランスシートが示されている。法案の提出に当たり、このようなバランスシートを示さないのはなぜか。

二、他方、法案の提出に当たり、政府は有限均衡方式(財政均衡期間を九五年とする)を採用し各種変数を用いて財政収支を見通している。そこで、同様の期間及び変数を用いた場合、厚生年金、国民年金、各共済年金のそれぞれ及び公的年金全体について、過去拠出対応部分と将来拠出対応部分に分けた二種類のバランスシート(一で引用した資料に示されたものと同様に、資産(国庫負担及び保険料収入又は積立金額)及び負債(給付債務)並びに債務超過額又は資産超過額等が一覧できるもの)を次の場合分けに従って各々示されたい。なお、金額は現在時点で一時金換算した金額とされたい。

1 国民年金の国庫負担率を三分の一に据え置くとともに、保険料及び給付についても現行水準に据え置いた場合
2 国民年金の国庫負担率を今後政府計画どおりに二分の一まで引き上げた場合(他の条件は1と同じとする。)
3 法案による所要の改正を施した場合

三、右のバランスシートを用いた分析によると、今回の法案による制度改正の趣旨は過去拠出対応部分の債務超過を将来拠出対応部分の資産超過でまかなう構図となっているものと思われる。かかる年金制度は、少なくとも今後引き上げられる部分の保険料については拠出と給付が結び付いていない制度になると考えるが、政府の見解はどうか。

四、拠出と給付が結び付かない保険料は税金と変わらないと考えられる。そこで、仮に今回の制度改正を国民年金国庫負担の引上げのみにとどめ、過去拠出対応部分の債務超過額を区分経理し、それを今後九五年掛けて消費税の引上げでまかなうとすると、その税率は何%引き上げる必要があるか。

五、法案提出の際の財政収支見通しでは、国立社会保障・人口問題研究所平成一四年一月推計(中位推計)に基づき、出生率が一・三九に回復することを前提としている。

1 出生率低下は平均初婚年齢の上昇が大きく寄与するが、この人口推計(中位推計)では、平均初婚年齢の上昇が二七・八歳で上げ止まると推定している。かかる推定に至った理由は何か。
2 政府は、政策的な対応で出生率を一・三九に回復させる旨の答弁を国会で行っているが、平均初婚年齢の上昇の原因を、どのような調査の実施等により、どのように把握しているか。また、政府が今後推進する政策は、どのような理由で、平均初婚年齢の上昇を食い止めることに資するのか。

六、法案によるマクロ経済スライドについて、被保険者数の減少が政府予測(年率〇・六%)を上回ると、毎年のスライド調整率が大きくなり、より急激に給付の削減が進む。また、名目上の被保険者数の減少が予測どおりでも、実質的な保険料収入の減少が起きれば、積立金の取崩しを通じて将来における年金給付水準の切下げが避けられないことになる。

1 被保険者数の減少予測は出生率の動向と労働力率を加味して行われているが、失業率は加味していない。これは、第二号被保険者が失業すると全員が第一号被保険者となるからとの説明を事務当局から受けている。
 そこで、まず、第二号被保険者が失業した場合、国民年金に加入しない者の割合(実績値)を把握しているか。把握しているとすれば、その数値を明らかにされたい。
2 仮に、失業した第二号被保険者が全員第一号被保険者となるにしても、失業者は保険料を支払えない場合も多く、少なくとも厚生年金の報酬比例部分の保険料収入は全体として減ることが予想される。実際、去る五月二〇日の参議院厚生労働委員会における政府答弁でも、失業により七五万人の第二号被保険者が第一号被保険者に移動すると、二〇二五年における所得代替率が四九・七%になるとしている。この答弁は、失業者が増えてもマクロ経済スライドの調整率に影響しないという事務当局の説明と矛盾しないか。
3 政府は、失業の動向も加味してマクロ経済スライドの変数として用いる被保険者数、保険料、給付水準等の推計をやり直すべきではないか。

七、同じく、五月二〇日の厚生労働委員会において政府は、郵政公社民営化に際しての年金給付債務の扱いについて、「国家公務員全体として考えなければならない」旨、また、いわゆる職域加算の部分は「厚生年金には持ち込まない」旨答弁している。

1 右答弁は、郵政公社職員に係る年金給付債務を、民営化時以降は厚生年金に付け替えることなく、国家公務員共済組合で支払う趣旨と思われるが、相違ないか。
2 右答弁は、郵政公社職員に係る職域加算の部分は、民営化とともに廃止するという趣旨と考えるが、相違ないか。
3 当方が考える趣旨と政府見解が異なる場合、郵政公社職員に係る年金の給付債務は、だれがどのように負担していくのか。

  右質問する。