質問主意書

第159回国会(常会)

質問主意書


質問第二二号

警察庁による日本人外交官殺害事件の調査結果概要報告等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十六年五月二十日

若林 秀樹   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   警察庁による日本人外交官殺害事件の調査結果概要報告等に関する質問主意書

 昨年十一月二十九日にイラクにおいて発生した日本人外交官殺害事件をめぐっては、外務省・警視庁を中心に各種調査・捜査が継続中であるが、依然として真相が明らかにされていない。
 去る四月五日の参議院イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会においては、警察庁警備局長がその時点までの警察の捜査結果の主な要点について、「被害者が乗車していた車両の検証、日本人外交官二人の司法解剖、採取された金属片、その他、入手した証拠資料に関する捜査を行った結果の概要」の説明として答弁を行った。また、答弁とほぼ同内容の書面が、「イラクにおける外務省職員殺害事件の捜査状況について」と題する文書として作成されている。
 しかしながら、いずれの内容も要点のみを示したもので、しかも国会においてもこれまで十分な質疑の機会が確保されていないことから、国会や国民に対する説明責任を果たしているとは言えない状況にある。
 また、これらの警察庁の報告によれば、被害車両に残る三十六か所の弾痕のうち、射入角の測定が可能だったのは十か所のみで、大多数を占めるガラス部分の弾痕は測定不可能とされ、また、犯行に使用された銃器の種類や数、銃弾の種類は特定に至っていないとされている等、依然解明されていない点が多い。
 したがって、五か月以上を経ても依然として明らかにならない具体的な犯行状況や犯人像を追求するためにも、去る五月十二日に外務省より公表された「イラクにおける外務省職員殺害事件(事件の状況・経緯等)」と題する報告書(以下「外務省報告書」という。)とともに、警察庁の調査結果の詳細を広く一般国民に向けて明らかにし、有識者の専門的な見識を活用できるようにすることが重要である。
 そこで、以下の各事項について質問する。

一 被害車両であるトヨタ製ランドクルーザーについて

1 年式及び型式を明らかにされたい。
2 セキュリコ社が防弾仕様を施し販売しているArmored Cruisersであったと聞くが、そのとおりか。
3 防弾レベルについて
(一) 何らかの公的証明を受けている車両か。受けている車両である場合は、具体的にはどのような防弾レベルと証明されているか。
(二) 三月三十日付け東京新聞によれば、ドイツ国家弾道学研究所により「レベル6」に該当するとされているが、この報道は正しいか。
4 被害車両は、トヨタ社の純正車両に対して、具体的にどのような防弾加工が講じられているものであるのか。
5 ボンネット部分には防弾加工が講じられているか。講じられている場合、具体的にはどのような防弾加工が講じられているか。
6 運転席、助手席、後部座席各々について、事件発生時における座席面の地表面からの高さを明らかにされたい。

二 金属片等の調査結果について

 不明とされている使用された銃器の種類や数、銃弾の種類を明らかにして、犯人特定につなげるために、御遺族の感情にも配慮しつつ、回収された金属片等の調査結果について可能な限り明らかにすべきである。
1 奥大使の御遺体から摘出された各金属片の①摘出箇所、②重量、③大きさ(直径・長さ等)、④形状、⑤銃弾の一部と推定されるか否かの別、⑥銃弾の一部と推定される場合は線条痕の分析結果、⑦成分分析結果を明らかにされたい。
2 奥大使の御遺体から摘出された金属片以外の各破片の①摘出箇所、②重量、③大きさ(直径・長さ等)、④形状、⑤材質を明らかにされたい。
3 井ノ上書記官の御遺体から摘出された各金属片の①摘出箇所、②重量、③大きさ(直径・長さ等)、④形状、⑤銃弾の一部と推定されるか否かの別、⑥銃弾の一部と推定される場合は線条痕の分析結果、⑦成分分析結果を明らかにされたい。
4 井ノ上書記官の御遺体から摘出された金属片以外の各破片の①摘出箇所、②重量、③大きさ(直径・長さ等)、④形状、⑤材質を明らかにされたい。
5 被害車両内から回収された各金属片(両外交官の御遺体からの摘出分を除く。)の①回収箇所、②重量、③大きさ(直径・長さ等)、④形状、⑤銃弾の一部と推定されるか否かの別、⑥銃弾の一部と推定される場合は線条痕の分析結果、⑦成分分析結果を明らかにされたい。
6 米軍や現地警察、病院等が回収・保管している銃弾又はその一部と推定される金属片はあるか。ある場合は、その鑑定結果を明らかにされたい。

三 被害車両に残された弾痕・射入角等について

1 各弾痕(車両内部も含む。)の①発見箇所、②貫通しているか否かの別、③大きさ(直径・深さ(貫通している場合は厚さ)等)、④形状、⑤射入角が推定されている場合はその方向・角度(上下方向・前後方向の両方を含む。)と推定の根拠を明らかにされたい。
2 射入角の測定が可能であったとされる十か所の弾痕、エンジンルーム内部の弾痕、カンガルーバンパー部分の弾痕各々の具体的な位置(高さ、車両最前面及び左右側面からの距離等)を明らかにされたい。
3 エンジンの損傷状況を具体的に明らかにされたい。
4 三月三十日付け東京新聞によると、事件後に上村臨時代理大使が「入射角度からみて車の前方の高い位置から撃たれた」と発言しているが、そのように判断した根拠を明らかにされたい。
5 米側から提供されている十一枚の被害車両の写真に映っている内容と相違する弾痕は存在するか。

四 事件現場に残された薬莢について

 米軍・現地警察等により、事件現場から薬莢は回収されているか。回収されている場合は、その鑑定結果を明らかにされたい。回収されていない場合は、米軍や現地警察に回収を要請したか。

五 弾痕以外の被害車両の損傷状況について

1 事件発生時に生じたと推定される外面の損傷部分はあるか。ある場合は、位置・程度等の特徴を損傷部分別に具体的にすべて列挙されたい。
2 前1項の損傷部分から、被害車両以外の車両の塗料等が検出されている場合は、その鑑定結果について、具体的に明らかにされたい。

六 事件現場の状況の把握等について

 事件現場の具体的な道路状況(車線数、中央分離帯の有無、走行可能な道路面の幅、道路面内の高低差、道路面と隣接地の高低差等)、銃撃時の具体的な走行状況(速度、車間距離、走行車線等)をどのように把握・推定しているか。また、射入角等を推定する際に、その内容をどのように反映させているか。

七 被害者の負傷状況、死因等について

 不明とされている使用された銃器の種類や数、銃弾の種類を明らかにして、犯人特定につなげるために、御遺族の感情にも配慮しつつ、両外交官及びイラク人運転手の負傷状況や死因等について可能な限り明らかにすべきである。
1 現地病院発行の死亡診断書の記載や救命措置の担当医師の証言に基づく、奥大使、井ノ上書記官各々の具体的な負傷状況や死因、死亡(推定)時刻を明らかにされたい。
2 司法解剖結果に基づく、奥大使の主要な銃創の①発見箇所、②貫通しているか否かの別、③大きさ(長さ・深さ(貫通している場合は厚さ)等)、④射入方向が推定されている場合はそのおおむねの方向と推定の根拠、⑤金属片等の摘出の状況を明らかにされたい。
3 司法解剖結果に基づく、井ノ上書記官の主要な銃創の①発見箇所、②貫通しているか否かの別、③大きさ(長さ・深さ(貫通している場合は厚さ)等)、④射入方向が推定されている場合はそのおおむねの方向と推定の根拠、⑤金属片等の摘出の状況を明らかにされたい。
4 1項から3項の内容の検証に基づく、奥大使、井ノ上書記官各々の銃撃後の推定生存時間はどの程度か。
5 ジョルジース運転手の具体的な負傷状況や死因、死亡推定時刻を明らかにされたい。

八 遺留品について

1 「外務省報告書」には、回収された遺留品の一部として「外交旅券や運転免許証等の各種身分証明書類」と記載されているが、「各種身分証明書類」の内訳を奥大使、井ノ上書記官のいずれの所持品かの別も併せて明らかにされたい。
2 ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電子端末、フロッピー等の記憶媒体、前1項の「各種身分証明書類」、車載無線マイク、携帯電話、防弾チョッキはそれぞれ、現地大使館、外務省本省各々がいつ受け取り、警視庁にはいつ提出されたか。奥大使、井ノ上書記官のいずれの所持品かの別も併せて明らかにされたい。
3 ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電子端末、車載無線マイク、携帯電話は各々、いつ、だれがどこから最初に回収したか、また、だれの血液が付着していたか。
4 ノートパソコン、携帯電子端末、フロッピー等の記憶媒体からは何人分の指紋が各々採取されたか。だれの指紋か特定されている場合はだれのものかも併せて明らかにされたい。
5 1項の「各種身分証明書類」各々から何人分の指紋が採取されたか。だれの指紋か特定されている場合はだれのものかも併せて明らかにされたい。
6 デジタルカメラで撮影されていた写真について
(一) 事件発生当日分には人物は映っていたか。映っていた場合は各写真別に、被害者の内のだれか、あるいは第三者か、また、何時にどこで撮影されたものであるかを具体的に明らかにされたい。
(二) 「外務省報告書」に「午前十一時過ぎの時点でのバグダッド郊外の風景の写真」と記載されているが、午前十一時何分に撮影されたものか、また、撮影場所の所在地(住所、バグダッドの日本大使館からのおおむねの運行距離・位置関係等)を具体的に明らかにされたい。
(三) 事件発生当日に、井ノ上書記官保有のデジタルカメラで撮影された写真の撮影時刻、撮影場所の所在地(住所、バグダッドの日本大使館からのおおむねの運行距離・位置関係等)を具体的にすべて列挙されたい。
(四) 奥大使、井ノ上書記官が所持していたデジタルカメラ各々の機種名を、具体的に明らかにされたい。

九 銃撃の状況や犯人像について

1 現在までに検証されている証拠資料や目撃証言等から、現在のところ、どのように銃撃を受けた可能性が高いと把握・推定しているか、犯行の目的、使用車両の台数・種類、走行速度・車線、車間距離、銃撃時間・距離、銃撃姿勢・窓内外の位置・高さ、使用銃器の数・種類、他の車両の通行状況等について具体的に明らかにされたい。また、そのように把握・推定する根拠について具体的に明らかにされたい。
2 「外務省報告書」によると、七・六二ミリ軽機関銃RPKが使用されたとの目撃情報が得られているとされているが、仮にRPKが使用された場合、銃撃姿勢、窓内外の位置、高さ等、どのように使用された可能性が高いと考えられるか、具体的に明らかにされたい。
3 「外務省報告書」でも、目撃証言の評価に関して「目撃したと称する者が現地で置かれている状況等を踏まえ、慎重に評価する必要がある」「現地がフセイン元大統領の出生地に近く、前政権の支持基盤であったということも勘案して評価しなければならない」等との問題意識が示されているとおり、戦闘状態にある現地情勢や部族社会における情報伝達の特性等を考えると、目撃証言による心証を排除して、把握・検証されている物証から銃撃の状況や犯人像を検証することが重要である。
 現在までに検証されている物証から判断して、現在のところ、どのように銃撃を受けた可能性が高いと把握・推定するか、犯行の目的、使用車両の台数・種類、走行速度・車線、車間距離、銃撃時間・距離、銃撃姿勢・窓内外の位置・高さ、使用銃器の数・種類、他の車両の通行状況等について具体的に明らかにされたい。また、そのように把握・推定する根拠について具体的に明らかにされたい。
4 犯行集団を絞り込む上で、計画性や運転手・銃撃者の習熟度等を明らかにすることが重要であり、実際の車両等を用いて忠実に1項から3項と同一の条件を再現し、実行の難易度を測定することが重要である。捜査当局である警視庁は当然何らかのそうした実地の検証を行っていると推察する。その検証結果と推定される犯行集団の特徴(計画性や運転手・銃撃者の習熟度等)について、各項別に具体的に明らかにされたい。仮にそうした検証を行っていない場合は、今後速やかに行うべきではないか。
5 事件発生後間もない十二月十三日にティクリート周辺においてフセイン元大統領が拘束された。元大統領拘束に向け、周辺では米軍等による厳戒態勢が敷かれていたと推察される。元大統領と関わりのある人物・集団が逃亡を手助けするために、警戒の目を反らすことを企図して、アメリカとの結び付きが強い同盟国日本の外交官を対象にテロを実行した可能性も考えられる。
(一) 当時、ティクリート周辺では米軍等がどのような警戒体制、作戦行動を行っていたか、具体的に明らかにされたい。
(二) 現地米軍を通じて、テロに関する何らかの情報は入っていたか、具体的に明らかにされたい。
(三) 事件後、犯行声明や更なる犯行の予告等はなされているか、具体的に明らかにされたい。
6 「外務省報告書」の冒頭で、「イラクで引き続き勤務する外務省員の今後の安全にも関わる」と、真相究明の重要性について強調されているが、犯人像について「当初から殺害を目的とした者による犯行で、テロである可能性が高い」と結論付けられているものの、今後大使館員の安全を確保する上で最も解明が求められるテロ実行の目的や計画性について言及されていない。
(一) テロ実行の目的は何であったと分析しているか、その根拠も含めて具体的に明らかにされたい。
(二) テロ実行の計画性について
(1) 日本人外交官であることを前提に狙い撃ちしたものか、それとも身分は問わずに無差別に犯行に及んだものか、その根拠も含めて具体的に明らかにされたい。
(2) 両外交官の当日の行動について把握・推定していたか、また待ち伏せをしたものか、尾行を経たものか等、事件の計画性についてどのように分析しているか、その根拠も含めて具体的に明らかにされたい。

十 事件に使用された車両や銃器について

 犯人を特定する上で、使用された車両や銃器のイラク国内における稀少性が重要な判断材料になる。
1 使用された車両について
(一) 「外務省報告書」によると、SUVが使用されたとの目撃情報があるとされているが、SUVとはどのような車両を指すか、具体的な特徴を明らかにされたい。
(二) イラク国内におけるSUVの普及状況を具体的に明らかにされたい。
2 使用された銃器について
(一) 「外務省報告書」によると、「現地イラク警察、現地米軍、及び被害者が搬送された病院の医師ら」が使用された武器はAK-47であるとの認識を述べている。イラク国内におけるAK-47の普及状況を具体的に明らかにされたい。
(二) 「外務省報告書」によると、RPKが使用されたとの現場付近の地元住民の目撃証言が得られている。
(1) イラク国内におけるRPKの普及状況を具体的に明らかにされたい。
(2) イラク国内の一般的な民間人が離れた場所から瞬時にRPKであることを識別できる程度に、RPKは広く普及していると考えられるか。
(3) 「外務省報告書」によれば、「米軍による誤射との噂もあったが、イラク民間防衛隊より、米軍はRPKを携行しない、したがって襲撃はしていないことを説明したことで、噂は否定されている。」と米軍より報告がなされている。使用された銃器がRPKであることに目撃者が強い確信を持っているがゆえに噂が否定されたと関係当局は分析しているか。

十一 事件翌日の銃撃事件について

 事件発生翌日の十一月三十日にティクリート近郊で韓国人四人が乗った車両が銃撃を受けた事件に関して、現地警察、米軍、韓国政府等が作成した報告書等の資料を入手しているか、入手状況を具体的に明らかにされたい。また、両事件の関連性について、具体的にどのように判断しているか。

十二 米軍等による誤射の可能性について

1 米軍による誤射の可能性については検討しているか。検討している場合、現時点におけるその可能性の有無と具体的な根拠を明らかにされたい。
2 米軍等が業務委託している民間警備会社による誤射の可能性については検討しているか。検討している場合、現時点におけるその可能性の有無と具体的な根拠を明らかにされたい。

十三 現地地区長等の犯行関与の可能性について

 米軍に第一報を伝えた現地地区長や同地区長に事件発生を連絡した者、パスポートを最初に回収した者及びその関係者が犯行に関与した可能性の有無について、何らかの具体的な情報を得ているか。得ている場合は、どのような内容かを明らかにされたい。

十四 被害車両及び写真の公開について

 有識者等の専門的な見識を生かし真相究明を図るためにも、被害車両や写真を最低でも国会議員や有識者向けに公開すべきと考える。
1 被害車両の公開について、具体的にどのように検討しているか。
2 米側から提供を受けている十一枚の被害車両の写真の公開について、具体的にどのように検討しているか。
3 御遺族の感情への配慮として車両に付着した血液が写らない形で弾痕の拡大写真を撮影した上で、その写真を公表すべきと考えるが、どのように考えるか。

十五 米国政府の事件報告書について

 渡辺周衆議院議員が本年一月に訪米した際に、リチャード・ローレス国防副次官補が日本政府に既に送ったと発言したとされる事件報告書を日本政府は既に受領しているか。また、受領している場合はその具体的な記載内容を明らかにされたい。受領していない場合は、速やかに入手し公表すべきではないか。

十六 現地の捜査担当機関について

 現地ではこれまで、どこの機関が捜査を担当し、また、現在担当しているか。捜査担当機関ごとに担当期間も含め具体的に明らかにされたい。

十七 報道発表について

 国民への説明責任を果たす上で、四月五日の警察庁による報告や「外務省報告書」についてマスコミからも十分な理解を得る必要があると考える。具体的にはいつどのように発表されたか、また記者会見等においては政府側からはだれが出席したか、各々の公表について具体的に明らかにされたい。

  右質問する。