第159回国会(常会)
質問第九号 シベリア抑留問題に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 平成十六年三月二十四日 谷 博之
参議院議長 倉田 寛之 殿 シベリア抑留問題に関する質問主意書 来年二〇〇五年は「戦後六〇年」であり、「シベリア抑留六〇年」になる。来年はまた「日露通好条約締結一五〇年」にも当たるが、シベリア抑留問題が両国間の平和と友好を深める上で、「のどに刺さったトゲ」となっていると指摘されている。強制抑留の被害にあった国民から抑留中の強制労働に対する賃金支払・補償を求める訴えは、五九年を経て現在も続いている。 今国会では、「ジュネーブ条約追加議定書」の批准が求められ、また「国際人道法違反行為処罰法案」、「捕虜取扱い法案」が政府から提出されている。捕虜の権利を守ることを明記した「ジュネーブ条約追加議定書」を遵守することは、近代国家としては当然の義務であり、元抑留者の方々からも早期の批准が訴えられ、一九八〇年代後半には全国五〇〇以上の地方議会から早期批准を求める意見書が国と国会に対して提出されていた。これらの問題について質問する。 一 「ジュネーブ条約追加議定書」の批准が遅れた理由は何か。 二 旧ソ連が、武装解除した捕虜を不当に移送し、長期間抑留し、無報酬の強制労働を強いたことは、「ジュネーブ条約追加議定書」の批准の有無にかかわらず、国際法に反する重大な人権侵害であった。この違法行為の事実を政府が認識したのはいつからか。 三 違法行為に対して政府はどのような抗議を行い、解除を求めたのか。詳細な経過を明らかにされたい。 四 この違法行為に対する国としての請求権(外交保護権)を政府は一九五六年日ソ共同宣言で放棄していると主張し、被害にあった抑留当事者は、その労働の対価や違法行為への損害賠償を求める権利を実態的に喪失させられる不利益を被っている。共同宣言調印という国の行為によって当該国民に生じた不利益に対して、国は補償すべきではないか。 五 旧ソ連に拿捕抑留された漁船員には抑留に対する国家補償が行われ、中国残留邦人や北朝鮮拉致被害者らに対しても「生活支援」などの名目で実態的に補償措置が採られている。シベリア抑留者にそうした措置が採られていない理由は何か。 六 南方から帰還した元捕虜には、労働証明書に基づいて抑留中の労働に対する賃金が支払われている。シベリア抑留者にも一部労働証明書が発行されているにもかかわらず、賃金が支払われていないのはなぜか。明らかな差別ではないか。 七 前項とは逆に、日本は中国戦線での中国人捕虜や南方戦線などでの連合国捕虜に対して、その労働に対する労働証明書を発行したのか。発行したのであれば、労働証明書の発行件数及び証明した労働内容(人員、総労働日数・時間、労働評価額など)を具体的に示されたい。 八 政府は「戦後処理は終わった」と主張するが、シベリア抑留は戦時に起きた出来事ではなく、停戦が成立し、武装解除が行われた後の平時に起きた事件である。「戦争被害者」ではなく、戦後に起きた大規模かつ組織的な拉致・強制抑留という重大な人権侵害の被害者である。戦後補償を求める他の事案とは異なるが、その点はどう認識しているのか。 九 日本における戦前・戦中の軍国主義は、国際人道法を無視し、「一億玉砕」を命じ、捕虜となることを認めないものであった。戦後も、捕虜を英雄として遇した欧米に比べ、その処遇が全く異なった。戦後帰国したシベリア抑留者らは、「シベリア帰り」とのレッテルを張られ、GHQの指令で公安当局に監視され、就職の機会を奪われ、共同体の中でも差別されるなど不当な人権侵害を受けてきた。元捕虜や強制抑留者を冷遇し、差別してきた加害の主体はほかならぬ戦後の祖国日本であり、すべてを旧ソ連・ロシア側の責任に帰することはできない。戦後の日本社会における元捕虜・抑留者らに対する国家責任をどう認識しているのか。 十 シベリアに長期間不当に抑留され、強制労働させられた日本人捕虜・抑留者に対し、早期に帰国させることができず保護できなかったこと、また、帰国後も戦後日本社会が大変厳しく冷た過ぎたことに対して、一九九三年に来日したエリツィン大統領が行ったように、内閣総理大臣は国を代表して率直に謝罪すべきではないか。 十一 政府は「補償はしないが、慰藉は行う」として、一九八八年に平和祈念事業特別基金を設立し、慰藉事業を行ってきた。この基金による慰藉事業の総額はいくらか。 十二 平和祈念事業特別基金がこれまで財団法人全国強制抑留者協会に交付してきた補助金・委託費などの総額はいくらか。その他の抑留者団体に交付してきた補助金・委託費などの総額はいくらか。 十三 平和祈念事業特別基金に勤務する役職員について、出向元官庁別役職員数並びにこれまで支払われた人件費の総額及び退職金の総額を示されたい。 十四 二〇〇二年の平和祈念事業特別基金を独立行政法人化する法案の審議の際、野党側はすべてこれに反対した。それを押し切って昨年一〇月に独立行政法人に移行しながら、半年も経っていないのに、政府・与党は同基金の解散・資本金(四〇〇億円)の取崩しの方針と報じられている。極めてずさんな運営に驚きを禁じ得ないが、不要と思われる事業主体の独立行政法人への移行をなぜ提案したのか。 十五 評価の不明瞭な慰藉事業ではなく、シベリア抑留問題に関する国家責任を明らかにし、国が謝罪を行い、抑留被害者に対して未払賃金問題も含めた補償措置を採るべきであると考えるがどうか。 右質問する。 |