質問主意書

第157回国会(臨時会)

質問主意書


質問第九号

公的年金改正における女性の労働力率見通しに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年十月七日

井上 美代   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   公的年金改正における女性の労働力率見通しに関する質問主意書

 政府は来年の通常国会に、公的年金制度の改正法案を提出する方針である。年金問題は国民の重大な関心事であり、国政の大きな焦点となっている。厚生労働省は九月、公的年金制度の今後の見通しを明らかにした試算結果を、社会保障審議会年金部会に提示した。今回の年金改正は、「持続可能な年金制度」をつくるため、収入に対する保険料率を大幅に引き上げた後に一定の率で固定化し、少子化など状況の変化によって年金の給付額を自動的に調節する仕組みを導入するというものである。少子化問題に関し、厚生労働省は、合計特殊出生率の見通しを三つのケースで試算している。一方、労働力率(労働力人口/一五歳以上人口)については、旧労働省職業安定局が一九九七年に推計した見通しを使っている。これは、男女別で五歳刻みの年齢階層別に、二〇二五年までの労働力率の将来見通しを立てたものである。なお、厚生労働省職業安定局は、昨年も労働力率の将来見通しを発表しているが、今回の年金試算には使っていない。職業安定局は「どちらを使っても結果にあまり違いはない」としている。
 ここで問題なのは、女性の労働力率の見通しである。現在の日本の女性の労働力率は、いわゆる「M字型」になっているのが特徴である。二〇〇二年では、三〇歳から三四歳では六〇・三%、三五歳から三九歳で六一・八%と、二〇代、四〇代と比べ一〇%程度低くなっている。これは三〇代の女性は、出産や育児で離職するためである。この女性の労働力率の「M字型」は、欧米諸国の大部分で一九八〇年代から九〇年代にかけて克服されている。この点について、政府が今年国会に提出した「男女共同参画社会の形成の状況に関する年次報告」では、欧米で「M字型」が解消した要因として、「仕事と子育ての両立支援策などの女性が働きやすい環境条件の整備」をあげている。さらに同報告では、日本においても女性の就業希望者を含めた潜在的労働力率では、M字型のカーブの底は上昇し、「逆U字カーブ」に近づくことを明らかにし、「日本の女性も子育て期にも就業を希望する者が多いが、実際は、就業できないという状況を示しており、女性の就業意欲と現実が乖離している」と主張している。例えば、二〇〇二年でみると三五歳から三九歳の潜在的労働力率は七六・六%であるのに対し、労働力率は六一・八%となっている。就業希望者が全員働くことができると、労働力率は一四・八%も引き上がるとともに、すべての年代で労働力率が引き上がる。
 しかし、厚生労働省の年金試算で使っている旧労働省職業安定局の労働力率見通しは、この女性の労働力率の「M字型」が、将来にわたって永久に続くとしている。すなわち、三〇代で落ち込んで「M字」の底になるという状況が、わずかに改善するだけで二〇二五年になってもなくならない。三〇歳から三四歳で六五・〇%、三五歳から三九歳で六七・三%と、二〇代、四〇代と比べて一〇%弱低くなっている。さらに重大なのは二〇二五年以降、この数字で労働力率が固定化されることである。欧米では既に現在では克服されている問題が、今後二〇年たっても改善されないばかりか、未来永劫是正されないというのである。このような将来見通しを年金試算の基礎数とすることは、「持続可能な社会保障制度」をつくるために「年齢や性別、障害の有無に関わらず、国民誰もがその意欲に応じて社会に参画できるようにすること、働く意欲を持つ者が働くことができる社会としていく」(「二一世紀に向けての社会保障」社会保障構造の在り方について考える有識者会議、二〇〇〇年一〇月)という政府の考え方に反していると言わざるを得ない。政府は、社会保障制度の「支え手」を広げるために、女性の労働環境の改善を強調している。働きたい女性がもっと働ける環境をつくり、労働力率を引き上げることは、政府の政策の在り方によっては十分可能である。
 よって以下質問する。

一、厚生労働省の年金試算の前提となっている二〇二五年までの労働力率の見通しは、どのような方法で立てたのか。

二、二〇二五年の女性の労働力率を、著しい「M字型」としているが、二〇年以上も掛かって、欧米のように克服することができないのはなぜか。また、二〇二五年以降、労働力率を固定化し、「M字型」を永久に続くものとして計算しているのはなぜか。

三、将来的に女性の労働力率の「M字型」が克服され、女性の労働力率が高まることを前提にした場合、現在厚生労働省が示している年金の試算より、保険料負担増や給付削減などの国民負担増が軽減されると考えるがどうか。

四、厚生労働省は、来年の年金改正に向けて論議を深めるため、少子化について出生率のいくつかの見通しに立って試算をした。同じように、女性の労働力率見通しについても選択肢を示すべきである。現在の厚生労働省職業安定局の見通しが妥当であるかどうかは様々な意見があるにしても、いくつかのケースについて計算する必要がある。将来的に「M字型」が解消するケース、就業意欲を持つ女性が働くことができるようになるケースについても試算をすべきだと考えるがどうか。

  右質問する。