質問主意書

第157回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八号

国立大学法人化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年十月七日

櫻井 充   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   国立大学法人化に関する質問主意書

 国会での審議の時間が十分に取られなかったことや、前回の質問主意書の答弁が不十分であるために、なお国立大学法人法の条文の意図が不明なものや、条文間の整合性に問題がある場合が見受けられるので、質問を通し、明らかにしていきたい。
 以下質問する。

一 国立大学の通常の教育研究活動について

1 現在の国立大学で行われている通常の教育研究活動は、国立大学法人の業務を規定する国立大学法人法第二十二条にある七項目のいずれにも該当しない。通常の教育研究活動は、国立大学の業務であって、国立大学法人の業務ではないと考えてよいか。
2 もし、国立大学で行われている通常の教育研究活動が、国立大学の業務であって国立大学法人の業務でないならば、中期目標と中期計画に通常の教育研究活動に係る内容は含まれないはずである。しかし、本年七月下旬に各国立大学に対し、中期目標・中期計画に記載すべき内容として文部科学省が指示したものは、国会審議で問題となった昨年十二月の指示と実質的には同じものであり、国立大学における通常の教育研究活動全体に係る詳細な内容が含まれている。これでは、文部科学省は国立大学法人を介さずに直接国立大学の業務を指示することにならないのか。また、国立大学と国立大学法人とを別にすることにより国立大学が政府から直接管理されることを防止できる、という制度設計の意義が失なわれるのではないか。
3 もし、国立大学で行われているすべての教育研究活動が国立大学法人の業務であるとすれば、国立大学と国立大学法人とを区別したことには、国立大学に対する国の財政的負担が免除されたこと以外にどのような意義があるのか。

二 準用される独立行政法人通則法第三十四条について

 参議院文教科学委員会(本年七月八日)の審議において総務省の田村政志政府参考人は、「勧告の対象となります国立大学法人の主要な事務及び事業とは、・・・一般的には、中期目標、中期計画に記載される主要な事務事業程度のものを想定しておりまして、これには大学本体や学部等の具体的な組織そのものは含まれないと考えております。」、「総務省の評価委員会が勧告を行うに当たっては、法案第三条の規定の趣旨を踏まえ、必要な資料等の提出等の依頼は直接大学に対して行うのではなく、文部科学大臣に対して行うこととすることを検討中でございます。」と述べている。
 しかし、国立大学法人法の成立した翌日の七月十日付けの科学新聞に、「・・・総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会は、各府省が必要だと主張しても独自の判断基準で不必要とした場合には、主務大臣に廃止勧告をする方向で検討していることが明らかになった。個別事業の改廃のみならず、法人そのものについても廃止勧告する。・・・法制度論上、来年四月に発足する国立大学法人も対象となるため、業務の効率性のみで教育や研究を評価し、大学が廃止される可能性もある。・・・ 同委員会は、各府省の独立行政法人評価委員会による第一次的な判断を前提に二次的判断をするのではなく、各法人の年度評価と中期目標期間終了時の評価を独自に行い、自ら直接判断する。また、勧告を行う際は、局所的な改廃を求めるのではなく、法人の主要な事務・事業を把握し、その具体的改廃措置の検討を集中的・重点的に行い、法人ごと改廃を求める。中期目標期間の終了時、通常であれば五年目に勧告を行い、二年以内には勧告の内容を具体化するよう求める。・・・現在の法律では、来年四月に発足する国立大学法人も同委員会の評価対象となる。同委員会の視点で評価した場合、二十年後には国立大学法人自体が存在し得なくなる可能性もある。・・・」との記事がある。
 この記事が事実であるならば、国立大学の設置のもととなる国立大学法人が同委員会の主観のみでその存否が決まってしまい、学問の自由が脅かされかねない。右国会答弁からすれば、総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会による独立行政法人評価の見直しは、国立大学法人は適用外とすべきではないか。

三 国立大学法人の評価について

 国立大学法人法が成立して以降、国立大学評価を自ら行う政府機関が二つ増えた。
1 本年八月一日に閣議決定された「中期目標期間終了時における独立行政法人の組織・業務全般の見直しについて」においては「主務大臣は、予算編成の過程において、審議会(総務省政策評価・独立行政法人評価委員会)による勧告の方向性等の指摘の趣旨が最大限いかされるように見直し内容を検討し、概算要求を行った見直し案に対して所要の修正を加えた上、予算概算決定の時までに、行政改革推進本部に説明し、その議を経た上で決定するものとする。その際、行政改革推進本部は審議会の意見を聴かなければならない。」とあり、今まで、独立行政法人の改廃等について主務省と総務省だけで最終的判断を下していたものに、行政改革推進本部が最終的判断に直接関与できる形に変更することを政府は決定したが、この「見直しについて」では国立大学法人もその対象になるのか。
2 また、本年八月十八日付けの日本経済新聞では、「国の総合科学技術会議(議長・小泉純一郎首相)は、来年四月に法人化する国立大学の運営方法について、科学技術振興の観点から独自評価を開始する。若手研究者の活用や任期制導入など研究開発の進め方などを評価し、公表する。国の研究費の三分の一が国立大に流れており、科学技術政策を企画立案する立場からチェックする。国立大の評価は、総合科技会議の評価専門調査会を中心に実施する見通し。詳細は今後詰める。全大学を一律の尺度に照らして評価するのではなく、『ユニークな手法を取り入れる大学をプラス評価していきたい』(総合科学技術会議の有識者議員)という意見が出ており、人材の流動化につながる任期制導入や産学連携などが評価項目になりそうだ。」とあるが、この内容は事実か。
3 以上の二つの新しい評価機関を加えると、国立大学法人を評価する公的・準公的機関数が左記の六つとなる。
① 独立行政法人大学評価・学位授与機構
② 国立大学法人評価委員会(文部科学省)
③ 政策評価・独立行政法人評価委員会(総務省)
④ 行政改革推進本部
⑤ 総合科学技術会議(内閣府)
⑥ 経済産業省(三菱総研と河合塾に委託)
 このように多数の政府機関が、資源配分に直結する国立大学評価を行うことは、国立大学を評価で疲労困憊させるだけでなく、国立大学における教育研究活動の自律性を著しく損ない、国立大学は短期間に活性を失う懸念がある。特殊な科学技術政策の実現は競争的資金を通してのみ行うべきであり、政府内部で複数の省庁が国立大学を直接評価することは極力抑制し、総合的な評価のみに限定し、国立大学の偏らない健全な発展を期すべきと思うがいかがか。
4 国立大学法人評価委員会は、国立大学からだけでなく、政府からも十分独立しているという意味での「第三者性」を持つことが、法人化後の国立大学が健全に発展するために不可欠と思われる。しかし、内定した文部科学省の国立大学法人評価委員会令では、委員の選任方法についての規定がなく、審議会委員の任命と同様に、事務局の裁量に委ねられており、この委員会の文部科学省からの独立性は低く、「第三者性」が乏しい。これは、政府からの独立度を増すという国立大学法人法の趣旨と相いれないのではないか。
5 また、文部科学省が評価委員会の事務局となって実質的に評価を行うことがないように、各評価委員に調査検討のための十分な予算(人件費を含む)を配分し、独自の調査と検討を行い評価ができるようにすべきと思うが、そのような措置を行うつもりはあるか。

四 国立大学における労働問題について

1 標準教員数に基づいて標準運営費交付金に人件費が算定されるため、国立大学の諸活動を実質的に支えている多数の非常勤職員の人件費は特定運営費交付金によることになる。この特定運営費交付金については、平成十七年度以降は効率化係数が掛かり、一定の比率で毎年減額されることが予想される。しかし一方で、大学の職員の大多数はいわゆる「サービス残業」を余儀なくされ、労働基準法の下では違法状態にある。長年継続してきたこの矛盾について政府が責任を取ることなく、国立大学法人の労使関係に国立大学職員の人件費の問題の解決を委ねてしまうことは無責任ではないのか。
2 厚生労働省は、労働基準法の一部を改正して、裁量労働の対象となる業務として「学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究する業務に限る。)」を追加しようとしており、九月十日付けでパブリックコメントを募集している。「主として研究する業務」に就く教員はほとんど存在せず、このような中途半端な施策はかえって国立大学の労働現場を混乱させるだけである。通常の業務と異なる大学における業務に、労働基準法の体系を小手先の修正で無理に適用しようとしても、結局は違法状態を発生させることは不可避である。労働基準法の体系とは別に、大学における労働に関する基準法のようなものを設け、その中で教職員の権利や義務を規定すべきと考えるがどうか。
3 国立大学法人法の施行により、国立大学には十月一日から法人移行の準備をする権限が付与され、大学は就業規則、労使協定の作成準備を進めることになる。これに対して各大学の職員団体は来年四月以降にようやく労働組合として認められるため、それまでは団体交渉権すら無い。これに関しては、参議院の附帯決議があるのみであり、新たな労使関係を構築すべき時期としては著しく労使の平等を欠いている。早急に法を改正する等、しかるべき整備をすべきではないか。
4 大学全体における専任教員と非専任教員の待遇格差問題を政府として調査し、その解決の検討をしているか。国立大学法人や私立大学に対し、政府として、その解決について勧告する予定はあるか。

五 本年九月二日付け国立大学法人化に関する質問に対する答弁書について

1 答弁書の「二について」の中で、「各国立大学法人の教員数を標準教員数にまで削減すべきことを求めるものではない。」、「平成十五年度末における各国立大学の教員数を踏まえ、標準運営費交付金及び特定運営費交付金により必要な人件費は確実に措置していくこととしている。」とあるが、研究所等の多い国立大学では、標準教員数は現在の半数程度になってしまう。したがって、教員枠の財政基盤の半分程度が毎年度見直され、六年ごとに大きく見直されることとなる。これは、私立大学における学生・教員比に国立大学のそれを近づけることにならないのか。
2 答弁書「三の1について」の中で、「教育公務員特例法(昭和二十四年法律第一号)は、公務員である国立又は公立の教員等について、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)の特例を定めたものであり、法人化に伴って公務員ではなくなる国立大学の教員に対しては教育公務員特例法の規定の適用は無くなるものである。」としている。単にそういう理由であるとすれば、国立大学法人法の中に、教育公務員特例法の内容を記載することは可能であると思われるが、そのようにしなかった理由は何か。
 また、詳細な規則は大学ごとの自主性に委ねるべきだとしても、教育公務員特例法の中で、教育基本法の趣旨に沿った人事条項は記載すべきではなかったか。
3 答弁書「四の1について」の中で、「各国立大学そのものの設置根拠については国立大学法人法で定められていることから、国立大学法人法第十一条第二項四号に基づいて当該国立大学を廃止することが決定されたとしても、直ちに当該国立大学が廃止されるということとなるものでない」旨述べている。それならば当初の原案段階にはなかった、国立大学廃止を役員会の審議事項に加えた理由は何か。大学外部者が過半数を占める役員会にそのような権限を持たせることは、大学に対する「脅迫手段」を役員会に与えるものではないのか。
4 答弁書「八の2について」の中で、「各職員の人事上の希望聴取については例年行っているところであり、今般、特別に全職員から希望を聴取する考えはない。」としているが、人事上の希望聴取が今年度既に終わっている大学がある。こうした大学の場合には、国立大学法人法が制定された以上、改めて希望聴取を行うべきではないか。
5 答弁書「十二について」の中で、「国立大学法人への移行に伴って生じる雇用保険料や会計監査に必要な費用等の義務的な経費については、運営費交付金の算定において対応していくこととしているが、国立大学法人の予算全体においてはこの他にも増減要因があることから、運営費交付金への算定により直ちに国立大学法人に対する国の財政支出が増加するものとは考えていない。」としているが、この「増減要因」の「減」となる要因としてはどのようなものを想定しているのか。
6 答弁書「十三の2について」の中で、「中期計画の記載事項については、・・・学部や研究科における個々の具体的な教育研究活動について記載を求めるものではない。このように、中期計画の記載内容は個々の教員の教育研究の具体的な在り方についての記載を求めるものではなく、憲法第二十三条及び教育基本法(昭和二十二年法律第二十五号)第十条の規定との整合性を欠くものではない。」、「なお、大学が自ら具体的な教育研究内容を中期計画に記載することを希望する場合にはこれを否定するものではないが、中期計画において個々の教員の教育研究の具体的な在り方の記載がなければ運営費交付金を受けられない制度とはなっていない。」としているが、当方からの質問の趣旨は、個々の教員ではなく、学部や学科等の組織の教育研究の内容や方針の記載が要請されていることが問題である、と指摘したものである。もし、学部や学科、研究施設の教育研究内容の記載まで不要であるならば「特定運営費交付金」の積算はどのように行われるのか。
7 前問に関連して、文部科学省が七月末に指示した中期目標・中期計画の記載事項に「教育上の基本組織」という項目があるが、これは国立大学が自らの長期的計画に従って独自に判断すべきことであり、政府の種々の評価機関が教育上の基本組織の設置そのものを評価対象とし、その存廃等を判断することは、「教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行わなければならない」とする教育基本法第十条に明白に違反するのではないか。

六 東京都立四大学の統廃合について

 地方独立行政法人法について、衆議院総務委員会(本年六月三日)の附帯決議の五に「公立大学法人の定款の作成、総務大臣及び文部科学大臣等の認可に際しては、憲法が保障する学問の自由と大学自治を侵すことのないよう、大学の自主性、自律性が最大限発揮しうる仕組みとすること。」とあり、また、参議院総務委員会(本年七月一日)の附帯決議の六に「公立大学法人の設立に関しては、地方公共団体による定款の作成、総務大臣及び文部科学大臣等の認可等に際し、憲法が保障する学問の自由と大学の自治を侵すことがないよう、大学の自主性・自律性を最大限発揮しうるための必要な措置を講ずること。」とあるが、本年八月以降、東京都立四大学の統廃合の検討過程から現在の都立大学関係者が排除され、大学の自主性・自律性は損なわれている。これについて、国会審議における答弁及び地方独立行政法人法の附帯決議を尊重し、文部科学大臣及び総務大臣は、都立大学改革において大学の自治を尊重するよう東京都を行政指導すべきではないか。

  右質問する。