質問主意書

第157回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七号

浜岡原子力発電所の耐震性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年十月六日

福島 瑞穂   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   浜岡原子力発電所の耐震性に関する質問主意書

 切迫している東海地震の震源域の真ん中に、中部電力株式会社浜岡原子力発電所(以下「浜岡原発」という。)の原子炉四基がある。地震の専門家は、この浜岡原発の敷地直下わずか二十キロメートル弱のプレート境界で、巨大な東海地震が発生し、震度七を超えるであろう激しい地震動となることを指摘している。
 原子炉内でウランを核分裂させて発電する原子力発電所は、膨大な放射能を内蔵する原子炉の健全性を守るために、あらゆる設備が完璧な耐震性を有していなければならない。さらに、発電中も停止後も、原子炉は常に水で冷却しなければならないので、水を通すすべての配管やバルブなどにも、絶対的な安全性、健全性が要求される。
 東海地震に襲われたとき、浜岡原発がどうなるのか、多くの国民にとって重大な関心事である。東海地震の起きる前に即刻停止して安心して暮らしたいという人々で満ちていることから、浜岡原発の原子炉四基の耐震安全性について質問する。

一 平沼前経済産業大臣の発言について

 平沼前経済産業大臣(以下「平沼前大臣」という。)は、第一五四回国会衆議院経済産業委員会(二〇〇二年二月二十七日)において、「我が国のいわゆるエネルギーの基本政策、その中に原子力発電というのは入っているわけであります。これは基本政策であります。そして、言うまでもないことですけれども、それは安全性を担保しなければなりません。これは安全性を確実に担保するということが前提で、その努力をしているわけであります。(中略)私は、科学技術ですとかそういうもので、完全、パーフェクトなものはあり得ないと思います。その中で、いかにより完全に近づいて安全性を担保する、それが我々人類に課せられた課題だと思っています」と発言している。「原発の安全性は、現在まだ完全ではない」との主旨である。
 このころ、浜岡原発においては一号炉で原因不明の緊急炉心冷却用配管水素爆発事故と同時に、原子炉底からの水漏れが発覚したばかりであった。やがて、東京電力の原発点検記録虚偽記載事件を発端とした全国の原発トラブル隠しが発覚した。浜岡原発でもシュラウドや再循環系配管のひび割れ等が続々発見され、昨年九月には全四基停止という前代未聞の事態となった。これらは原子力発電技術の未完成さと、政府や電力会社が偽り続けていた原発の安全性を暴き出した。平沼前大臣の発言は正鵠を得たものだったのである。
 ところが同大臣は、この発言から一年後の第一五六回国会衆議院予算委員会第七分科会(二〇〇三年二月二十七日)において、浜岡原発の耐震安全性についての質疑の際、「東海大地震というようなことが想定され、浜岡原発、それがご指摘のような地理関係にある。ただ、浜岡原発の耐震設計というものは、想定され得るマグニチュードを想定しておりますし、限界の地震というところまで想定をして基本設計がなされている、こういうふうに私は承知しております。したがって、私どもとしては、想定外の地震が来てもその安全性は担保できる、このように私も承知をしているところでございます」と答弁している。
1 「原子力発電という科学技術は完全ではない」という平沼前大臣の発言は、過去四十年に及ぶ経験の中で、事実によって実証されたものである。他方、日本はおろか世界中どこにも、その直下約二十キロメートル弱でマグニチュード(M)八クラスの地震が発生し無事であった原発は存在しない。
 しかしながら、同大臣は「東海地震を超えた想定外の地震でも安全」としている。なぜ、通常時においてさえ「完全でない原発技術」が、巨大地震においては「安全な技術」といえるのか、明らかにされたい。
2 「科学技術の原則は、『経験』され『実証』されていないものはすべて『迷信』である」と核物理学者の武谷三男氏は述べている。
 この指摘から考えられることは、「浜岡原発の耐震安全性は東海地震に襲われることによってしか実証されない」ということであり、「耐震設計審査指針に従って設計している浜岡原発は、東海地震を超える地震によっても破壊されない」というのは迷信だということである。
 浜岡原発を巨大地震の安全性の実験機にしてはならないと考えるが、どうか。
3 中部電力の「浜岡原子力発電所の地震に対する設計」というパンフレットには、「浜岡原子力発電所は想定されるいかなる地震に対しても十分な耐震性をもっています」と書かれてある。ここで中部電力が保証しているのは、あくまでも「想定内」の地震である。
 平沼前大臣は「想定外」の地震が来ても安全だとしているが、「想定外」の地震とはどのような地震か。「想定外」ということは、あらゆる事態が考えられるが、その内容を可能な限り具体的に明らかにされたい。
4 平沼前大臣と中部電力との見解が異なっていることについて、どのように考えるのか、明らかにされたい。

二 耐震設計に用いた基準地震動S1の最大加速度について

 浜岡原発の耐震設計に用いた基準地震動S1の最大加速度四五〇ガルは、震害状況調査に基づいて設定している。その妥当性を検討した中部電力株式会社浜岡原子力発電所五号炉参考資料第九一C-五-一号(一九九八年八月資源エネルギー庁原子力発電安全企画審査課発行)によると、震源域内における解放基盤表面上のM八級地震の最大加速度を評価するために、一九二三年の関東大地震以降に国内で発生した被害地震のうち、震源域及びその近傍に転倒墓石などの被害のある十の地震を対象にして、震源域及びその近傍の地盤上における最大加速度の推定を行っている。
 十の地震の転倒墓石などから、震源域及びその近傍における一種地盤(硬質地盤上の未固結層の厚さが五メートル未満)の地点として九十六地点を選定する。九十六の地点の選定に当たっては、震害調査地点が属する各市町村所轄のボーリング柱状図、地質図及び地形図などの資料を用いている。
 九十六地点の一種地盤上における最大加速度の推定値は平均的に三七〇ガル前後であったが、この推定加速度は一種地盤上におけるものであるため、解放基盤表面相当の最大加速度を推定するために地盤増幅率を算定する。地層モデルの最大加速度及び増幅率は一・二三から二・二五、平均的には一・六程度であるが、おおむね一・一以上であるとしている文献もあるため、増幅率は安全側の一・一倍を設定する。したがって、解放基盤表面相当の最大加速度の推定値は、一種地盤九十六地点の推定最大加速度÷一・一として求めている。
 この結果、解放基盤表面上の最大加速度の推定値にはばらつきがあるにしても、地震の規模が大きくなるにつれて、加速度の増加は小さくなり、加速度頭打ちの傾向がうかがえる(M八・〇で四三〇ガル、M八・四で四三一ガル)とし、統計処理の結果、M八級地震の震源域近傍一種地盤上の最大加速度として平均的には三三〇ガル前後、上限的な値として、四三〇ガル程度が推定されるとした。
 これらの検討結果、解放基盤表面上の震源域内におけるM八級地震の最大加速度は四三〇ガル程度であり、基準地震動S1の最大加速度として四五〇ガルを設定することは妥当である、としている。
1 ここで一九二三年以降に国内で発生した被害地震のうち、被害資料のある十の地震とは、関東大地震(M七・九)、能登地震(M六・〇)、河内大和地震(M六・四)、男鹿地震(M六・八)、長野地震(M六・一)、福井地震(M七・一)、宮城県北部地震(M六・五)、伊豆半島沖地震(M六・九)、大分県中部地震(M六・四)、伊豆大島近海地震(M七・〇)である。
 これら十の地震のうち確かにM八級といえる地震は関東大地震のM七・九のみであり、後はM六級が七個もあり、M七級が二個である。これらをもってM八級の地震の最大加速度を四三〇ガル程度として、浜岡原発の基準地震動S1の最大加速度四五〇ガルを妥当としたことは、科学的・合理的に完全に間違っていると考えるが、どうか。
2 さらに、このような妥当性のないS1の四五〇ガルを根拠にして、S2について、南海トラフ沿いのM八・五の地震を最大として計算した結果、S1の四五〇ガルを上回らなかったため、S1の四五〇ガルに余裕を持たせて六〇〇ガルとしたこと(中部電力株式会社浜岡原子力発電所五号炉資料第九一C-一-一号、一九九八年四月資源エネルギー庁原子力発電安全企画審査課発行)も、同様に科学的・合理的に完全に間違っていると考えるが、どうか。
3 S1の四五〇ガル、S2の六〇〇ガルに科学的・合理的な根拠がない限り、浜岡原発は想定した東海地震にさえ耐えられるはずがないと考えるが、どうか。
4 二〇〇〇年十月六日の鳥取県西部地震、二〇〇一年三月二十四日の芸予地震、二〇〇三年五月二十六日の宮城県沖の地震、同年七月二十六日の宮城県北部の地震、同年九月二十六日の平成十五年十勝沖地震において、観測された最大加速度のうち、一種地盤上で最大加速度が四三〇ガルを超えた観測地点を列挙されたい。
5 4の五個の地震において、「加速度頭打ち」の知見をデータに基づいて明らかにされたい。

三 原子力災害予防対策について

 日本では、初めて試験用原子炉を設置した一九五七年以降、商業用の原子炉が二十二基稼動した後にあっても、原子力防災対策は皆無であった。一九七九年のアメリカ・スリーマイル島原発事故を契機として、一九八〇年にようやく「原子力発電所周辺の防災対策について」(いわゆる防災指針)が決定された。以後、一九九五年の阪神・淡路大震災によって、防災基本計画に「原子力災害対策編」が初めて組み込まれ、二〇〇二年には米・露の原子力潜水艦事故を教訓として、原子力艦が同「原子力災害対策編」に追加された。また、一九九九年の東海村JCO臨界事故によって、「原子力災害対策特別措置法」が制定された。
 これらのことから、日本の政策は原子力においても、前例主義であることがはっきりとうかがわれる。
 東海地震の防災対策において国は、その震源域に存在する浜岡原発は「耐震設計審査指針に従って設計されており、東海地震を想定した防災計画は必要ない」と明言し、多くの国民が憂慮している「浜岡原発震災」は起きないとしている。したがって、肝心の中央防災会議の検討項目にも浜岡原発は入っていない。
1 防災基本計画には、「国は原子力災害予防対策の実施のために必要な措置を講ずることなどにより、地震などの自然現象によって起きる災害を未然に防止し、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護する使命をおびている。組織及び機能のすべてをあげて防災に関し万全の措置を講ずる責務を遂行しなければならない」と定めている。
 「浜岡原発震災」を起きないこととし、防災対策は必要ないとすることは、防災基本計画に反していると考えるが、どうか。
2 国そのものをも滅ぼす可能性さえある「浜岡原発震災」について、前例主義の悪弊がはびこっている。前例主義には人柱、人の犠牲が必然である。しかし、ヒロシマ・ナガサキの惨禍は、放射能災害が生命にとって取り返しがつかないことを教えている。放射能災害となる「浜岡原発震災」を未然に防ぐために、東海地震が起きる前に浜岡原発を停止することは、唯一の防災手段であると考えるが、どうか。
3 昨年八月以来の原発のひび割れ隠ぺい事件など数々の不祥事は、日本の原発の設計と施工・運転管理の実態がいかに乖離しているかを暴いた。
 それにもかかわらず、本年七月、前例のないシュラウドひび割れを一三四か所も抱えたまま、浜岡原発四号炉の運転再開申請を国は許可した。
 根拠はひび割れの「進展評価」を行って五年後の状態を予測し、耐震評価を行った結果、健全性が保たれるというものであった。
 将来についての進展評価が科学的・合理的に行えるのならば、過去にさかのぼって、四号炉のシュラウドのひび割れが、それぞれいつから、どのように進展したのか明らかにされたい。
4 ドイツのビュルガッセン原発(一九七二年に運転開始、六七万キロワット)では、一九九四年にシュラウドに二か所のひび割れが発見された。国は交換修理を要求したが、プロイセン電力は修理停止二年間と修理費用四億マルクかかることから、運転を断念し廃炉にした。
 ヨーロッパ大陸と日本では地震の起こり方に雲泥の違いがあるが、一方は交換を要求し、一方では多数のひび割れを補修もしないで、M八クラスという巨大地震の震源域の中で稼動を許す。どちらが安全思想を全うしているか、一目瞭然であろう。
 日本のありようは正気の沙汰ではないと考えるが、どうか。
5 一九七〇年から三十年間のアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ及び日本におけるM五以上の地震の数はいくつあるのか。

  右質問する。