質問主意書

第156回国会(常会)

答弁書


答弁書第四八号

内閣参質一五六第四八号
  平成十五年九月二日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員櫻井充君提出国立大学法人化に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員櫻井充君提出国立大学法人化に関する質問に対する答弁書

一の1について

 財政制度等審議会財政制度分科会の歳出合理化部会及び財政構造改革部会合同部会における田近栄治委員の発言は、国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第一項に規定する国立大学法人(以下「国立大学法人」という。)が授業料収入など自己収入の確保に努力したが故にかえって当該国立大学法人に対する運営費交付金が減額されるべきでない旨を述べられたものと受け止めている。
 法人化後の国立大学の授業料に関し必要な事項については、同法第二十二条第四項の規定により、文部科学省令で定めることとされており、各国立大学法人は、当該省令の規定に基づき授業料を定めることとなる。

一の2について

 法人化後の国立大学の授業料については、現在、国立大学の全学部について同額の授業料としている取扱いをも踏まえ、文部科学省令において、すべての国立大学に共通する標準的な授業料の額(以下「標準額」という。)を規定するとともに、例外的に標準額を超えて設定することが可能な授業料の額の上限を規定し、各国立大学法人は当該省令の規定に基づき、その設置する国立大学の具体的な授業料の額を設定することとする方向で検討している。さらに、平成十六年四月に創設される独立行政法人日本学生支援機構による日本育英会から継承される学資の貸与事業等を通じて、教育の機会均等が図られるよう努めてまいりたいと考えている。
 なお、国立大学法人評価委員会は、各国立大学法人の評価を行うに当たり、文部科学省令で定めることとしている標準額を超える授業料の額が設定されている場合には、その趣旨等も勘案しつつ、授業料収入の状況も含め、当該国立大学法人の業務の実績について評価を行うことになるものと考える。また、政策評価・独立行政法人評価委員会は、国立大学法人法第三十五条において準用する独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号。以下「通則法」という。)第三十二条第五項及び第三十四条第三項の規定により、国立大学法人評価委員会が行った評価の結果について必要があると認めるときは、国立大学法人評価委員会に対し、意見を述べることができることとされている。ただし、国立大学法人法第三十五条において準用する通則法第三十五条第三項の規定により、政策評価・独立行政法人評価委員会は、中期目標の期間の終了時において主要な事務及び事業の改廃に関し主務大臣に勧告できることとされているが、授業料の額自体の是非について勧告を行うようなことは、基本的には想定されないものと考えている。

一の3について

 法人化後の国立大学の大学院研究科の授業料についても、一の2についてで述べた考え方と同様の考え方により、文部科学省令で定める方向で検討している。ただし、平成十六年四月から開設が予定されている法科大学院の授業料の取扱いについては、別途検討中である。

二について

 平成十五年四月十八日付けの事務連絡「平成十六年度概算要求参考資料(基礎額等調)について」に添付されていた「平成十六年度国立大学法人教職員数試算基準(案)」における標準教員数は、国公私立大学を通じて適用される大学設置基準(昭和三十一年文部省令第二十八号)を基礎として設定したものであり、各国立大学法人の教員数を標準教員数にまで削減すべきことを求めるものではない。
 また、国立大学法人に対する財源措置については、「中央省庁等改革の推進に関する方針」(平成十一年四月二十七日中央省庁等改革推進本部決定)において示された「独立行政法人に対する移行時の予算措置に当たっては移行前に必要とされた公費投入額を十分に踏まえ、当該事務及び事業が確実に実施されるように、十分配慮するものとする」との方針の下に、平成十五年度末における各国立大学の教員数を踏まえ、標準運営費交付金及び特定運営費交付金により必要な人件費は確実に措置していくこととしている。

三の1について

 教育公務員特例法(昭和二十四年法律第一号)は、公務員である国立又は公立の教員等について、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)の特例を定めたものであり、法人化に伴って公務員ではなくなる国立大学の教員に対しては教育公務員特例法の規定の適用は無くなるものである。

三の2について

 法人化後の国立大学に対しては、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)及び労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)が適用されることとなり、教員の人事に関する手続等については、各国立大学法人において当然にこれらの法律の規定に適合するように定められるものと考えている。
 国立大学法人の教員に係る任命権については、国立大学法人法第三十五条において準用する通則法第二十六条の規定により、学長が有することとされている。また、教員人事に関する事項については、国立大学法人法第二十一条第三項第四号の規定により教育研究評議会の審議事項の一つとされている。御指摘の教授会については、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第五十九条第一項において重要な事項を審議するとされていることを踏まえ、教授会の具体的な構成、役割等については各国立大学法人が定めることとなる。仮に国立大学法人の判断により、教授会において教員の任用に関する事項が審議されることとなっても、その一事をもって当該教授会の構成員たる教授が一律に労働組合法第二条ただし書第一号に規定する監督的地位等にある者に該当し、同法上の労働組合の構成員となることができないということとなるものではなく、個々の具体的な事情に応じて当該教授が同号に規定される監督的地位等にある者に該当するか否かが判断されるべきものであると考えている。

四の1について

 国立大学法人法第十一条第二項は、学長は同項第四号に掲げる「当該国立大学、学部、学科その他の重要な組織の設置又は廃止に関する事項」について決定をしようとするときは、役員会の議を経なければならないと規定しており、同項の規定に基づき、例えば学科の設置又は廃止が決定された場合には、基本的に当該決定に基づいて実際に学科が設置又は廃止されることになる。しかし、各国立大学そのものの設置根拠については国立大学法人法で定められていることから、国立大学の再編・統合等の場合において、同項の規定に基づいて当該国立大学を廃止することが決定されたとしても、当該決定をもって直ちに当該国立大学が廃止されるということとなるものではなく、当該決定により表明された大学の意向を十分に踏まえながら、当該大学の廃止を内容とする国立大学法人法の改正が行われて初めて廃止されることになるものである。

四の2について

 国立大学法人は国立大学法人法第二条第一項に規定されているとおり、国立大学を設置することを目的として設立される法人であることから、同法第二十二条第一項第一号に掲げる「国立大学を設置し、これを運営する」業務は必ず行うことが想定されており、国立大学法人が国立大学を設置しないということは制度上あり得ないものである。

五について

 国立大学の法人化は、国立大学を国家行政組織から独立した法人にすることで、自主性・自律性を一層高めるものであり、法人化後の国立大学には、自らの経営方針に基づき個性豊かな大学づくりを進めていくことが期待されているものである。他方、我が国の高等教育及び学術研究の均衡ある発展を図るとともに、財源措置を国が責任をもって行う必要があることから、国立大学法人の中期目標は文部科学大臣が定めることとされているが、国立大学法人法第三十条第三項において、文部科学大臣が中期目標を定めようとするときは、あらかじめ国立大学法人の意見を聴き、当該意見に配慮することが定められているほか、同法第三条において、同法の運用に当たっては国立大学における教育研究の特性に常に配慮しなければならないことが規定され、法人化後の国立大学の自主性及び自律性に配慮した制度が取り入れられている。法人化後の国立大学に対する文部科学大臣の関与については、このような中期目標の策定や中期計画の認可等に限定されるものであることから、御指摘のように強力な行政指導が行われたり、行政指導による画一的改革が進められるなどの事態にはならないものと考えている。

六について

 一般に、法律案の担当官庁において、当該法律案が成立し、施行された後のことを想定して、例えば、これを円滑に執行するために行わなければならない準備作業の量が膨大で、かつ、時間的制約が厳しいようなときは、当該法律案の成立前であっても、必要な範囲内で準備作業を行うことは可能と考えられ、文部科学省設置法(平成十一年法律第九十六号)第四条第十五号において「大学及び高等専門学校における教育の振興に関する企画及び立案並びに援助及び助言に関すること」が文部科学省の所掌事務とされていることから、国立大学の法人化に向けて文部科学省が法施行後に策定すべき中期目標等に関する準備作業を各国立大学と共同しつつ行うことは問題がないものと考えている。

七について

 政策評価・独立行政法人評価委員会は、国立大学法人法第三十五条において準用する通則法第三十二条第五項、第三十四条第三項及び第三十五条第三項において、国立大学法人評価委員会の行った評価の結果について、必要があると認められるときに国立大学法人評価委員会に対して意見を述べること、及び中期目標の期間の終了時において、主要な事務及び事業の改廃に関し、文部科学大臣に勧告することができることとされている。
 したがって、政策評価・独立行政法人評価委員会が、国立大学法人の会計基準や評価委員会等に関する文部科学省令について検討し、勧告等を行うことは想定されていない。

八の1について

 国立大学法人法附則第四条の規定により、国立大学法人の設立の際現に各国立大学の職員である者は、別に辞令が発せられない限り、国立大学法人設立の日において、当該国立大学法人の職員になることとされているが、これは、国立大学の設置形態の変更に伴い、個々の職員の意向のいかんにかかわらず、国家公務員である国立大学の職員が非公務員である国立大学法人の職員に、法律上、身分が移行する旨を定めるものであり、国家公務員法が対象としていない職員の身分に係る変動について、当該規定により特別の定めをしているものである。これは、通則法第二条第一項に規定する特定独立行政法人以外の独立行政法人の設立の際に、国家公務員である国の職員が非公務員である独立行政法人の職員になる場合と同様のものである。

八の2について

 国立大学法人法附則第四条に規定する辞令を発するか否かについては、適材適所の観点から任命権者の判断によりなされるものであり、八の1についてで述べた同条の規定の趣旨を含め、法全体の趣旨について、引き続き国立大学の職員に周知してまいる所存である。
 また、各職員の人事上の希望聴取については例年行っているところであり、今般、特別に全職員から希望を聴取する考えはない。
 なお、他の官職への配置転換の希望を職員が申し出た場合においては、希望を申し出たことの故をもって当該職員が不利に扱われることはない。

九について

 国立大学の法人化は、国立大学の自主性・自律性を高めることにより、各大学が自らの経営方針に基づいて教育研究の活性化を図り、国立大学が我が国の高等教育及び学術研究の均衡ある発展をより一層しっかりと担っていくことができるようにするためのものであり、小泉内閣総理大臣が第百五十一回国会における所信表明演説で述べた「米百俵の精神」に反するものではないと考えている。

十の1及び2について

 国立大学における安全衛生管理の状況についての調査結果及び改善に必要な経費の措置等については、平成十五年五月二十八日に「国立大学等における安全衛生管理の改善対策について」として取りまとめ、公表したところである。文部科学省としては、この改善対策に基づき、平成十五年度内に安全衛生管理の改善を図ることとしている。

十の3について

 国立大学における安全衛生管理の状況については、平成十四年十月及び平成十五年五月に調査を行っており、今後も同年九月及び十二月並びに平成十六年三月に改善状況調査を行う予定である。
 また、国立大学の施設整備については、平成十三年四月に策定した「国立大学等施設緊急整備五か年計画」に基づき、着実に実施してきたところであるが、国立大学の安全衛生管理の取組状況を踏まえ、各国立大学を指導するとともに、必要な支援を行い、平成十五年度内に各国立大学における安全衛生管理の改善が図られるよう取り組むこととしている。

十一について

 国立大学法人における企業会計原則を踏まえた新しい会計システムの導入の準備のための予算は、平成十五年度予算として計上されており、当該予算に係る会計システムの導入に関する契約等の行為は、あくまでも法律案が成立し施行された場合に、平成十六年度から国立大学法人の業務が円滑に行われるよう、システム開発を遅滞なく進めるためのものであり、このことをもって違法な支出となり得たとの御指摘は当たらないものと考えている。

十二について

 国立大学法人への移行に伴って生じる雇用保険料や会計監査に必要な費用等の義務的な経費については、運営費交付金の算定において対応していくこととしているが、国立大学法人の予算全体においてはこの他にも増減要因があることから、運営費交付金への算定により直ちに国立大学法人に対する国の財政支出が増加するものとは考えていない。また、平成十六年度予算の編成に当たっては、国立大学法人の事務及び事業が確実に実施され、大学改革が着実に推進されるように十分に配慮することとしている。

十三の1について

 国立大学法人は、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図るために国立大学を設置して教育研究を行うことを目的として設置されるものであり、この目的を実現するために、国立大学法人の中期目標を文部科学大臣が定めるとともに、当該中期目標を達成するために、必要な財源措置を国が行うこととされているものである。したがって、国立大学の教育研究に予算の適正な支出がなされていることを確認することだけでは、国立大学の法人化の目的を達成することは困難と考えている。

十三の2について

 国立大学法人法では、中期計画の基礎となる中期目標を策定する段階で、あらかじめ国立大学法人の意見を聴き、その意見に配慮すべきことが規定されているとともに、中期計画の認可に際しては同法第三条の規定を踏まえ、教育研究の自主性に十分配慮することとしている。
 また、中期計画の記載事項については、教育方法の改善や研究の高度化に対応する施設設備の整備等、全学的な視点に立った教育研究の実施体制等に関する事項を記載するものであり、学部や研究科における個々の具体的な教育研究活動について記載を求めるものではない。このように、中期計画の記載内容は個々の教員の教育研究の具体的な在り方についての記載を求めるものではなく、憲法第二十三条及び教育基本法(昭和二十二年法律第二十五号)第十条の規定との整合性を欠くものではない。
 なお、大学が自ら具体的な教育研究内容を中期計画に記載することを希望する場合にはこれを否定するものではないが、中期計画において個々の教員の教育研究の具体的な在り方の記載がなければ運営費交付金を受けられない制度とはなっていない。