質問主意書

第156回国会(常会)

答弁書


答弁書第三七号

内閣参質一五六第三七号
  平成十五年七月四日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員富樫練三君外六名提出改正道路運送法施行後のタクシー行政の改善に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員富樫練三君外六名提出改正道路運送法施行後のタクシー行政の改善に関する質問に対する答弁書

一の1について

 御指摘の「客待ちタクシーによる交通渋滞等」の実態については、統計が無いこと等から具体的に把握していないが、政府としては、交通事故の防止、交通の円滑化、環境の保全等の観点から、交通渋滞を改善するための施策を講ずることは必要であると考えている。
 なお、各タクシー事業者が行うタクシーの台数の増減については、道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平成十二年法律第八十六号。以下「改正道路運送法」という。)によりタクシー事業に係る需給調整規制が原則として廃止されたことから、各タクシー事業者の自主的な経営判断に基づいて決定されるべきものとなっている。

一の2について

 お尋ねの「自動車運送事業者等の判断の基準となるべき事項」(平成十四年国土交通省告示第三百四十六号)の「車両走行量の削減」とは効率的な運行管理のための情報化の推進及び需要動向に応じた車両管理によりタクシーの走行量を削減することを、「需要動向に応じた車両管理」とは定期的な顧客需要の把握に努めるとともに当該需要の季節的な波動及び景気動向にも配慮しつつ適切なタクシーの管理を行うことを、「無駄な走行を削減」とは旅客を運送していない状態でのタクシーの走行を削減することを、それぞれ意味するものである。「その基準を明らかにされたい」とのお尋ねの趣旨が明らかではないが、これらは、タクシー事業者が、同告示に定める措置の中から個々の事業活動の規模、種類等の事情、事業活動を行う地域の環境の状況及び技術的可能性を踏まえて適切に選択した措置を講ずることにより、事業活動に伴う自動車排出窒素酸化物等の排出の抑制を図るに当たっての判断の基準として示されたものである。
 また、「需要動向を見極めずに安易に増車すること」が同告示に反するか否かについては、増車の措置を講ずるタクシー事業者が、同告示に定める措置の中から個々の事業活動の規模、種類等の事情等を踏まえて適切に選択した措置を講ずることにより、事業活動に伴う自動車排出窒素酸化物等の排出の抑制を図っているか否かによって、個別に判断されるべきものである。

一の3について

 一の1についてで述べたとおり、各タクシー事業者が行うタクシーの台数の増減については、改正道路運送法によりタクシー事業に係る需給調整規制が原則として廃止されたことから、各タクシー事業者の自主的な経営判断に基づいて決定されるべきものとなっているが、自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(平成四年法律第七十号)の対象地域であるか否かにかかわらず、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第八条により、国土交通大臣は、特定の地域においてタクシー事業の供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって、当該供給輸送力が更に増加することにより、輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認めるときは、当該特定の地域を、期間を定めて緊急調整地域として指定し、当該地域におけるタクシーの台数の増加等について制限を行うことができることとなっている。

二の1について

 タクシーの運転者の労働条件と交通事故の状況との関連は必ずしも明らかではないが、タクシーの運転者の交通事故及び過労運転を防止するとともに、賃金、労働時間等の労働条件の向上を図ることは重要な課題であると認識しており、関係省庁において連携を図りつつ、引き続きタクシー事業者等に対する監督指導等を行ってまいりたい。

二の2について

 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第七号)は、タクシーの運転者を含む自動車運転者の労働条件の改善のための対策を一層強化するため、タクシー事業の労使の参加も得て行われた中央労働基準審議会における検討の結果を踏まえ、平成元年に告示として定めたものである。その後に行われた同告示の改正についても、同審議会における検討の結果を踏まえて行ってきているところであるが、同告示を法制化することについては、関係労使を始め社会的な合意が得られていないものと考えており、引き続き関係労使団体を通じ同告示の周知徹底を図るほか、的確な監督指導を行い、その遵守の徹底を図ってまいりたい。

二の3について

 平成十五年四月の「一般乗用自動車旅客運送事業者に対する行政処分等の基準について」(平成十四年一月十七日国土交通省自動車交通局長通達)の改正は、事業所外労働であるタクシー事業においては、タクシー事業者が運転者に対して労働時間の管理を徹底して行ったとしても、顧客や道路の事情によりやむを得ず「事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準」(平成十三年国土交通省告示第千六百七十五号)に違反することがごく少数発生することがあり得るという特性を踏まえ、違反の程度が極めて軽微な場合に限って、行政処分等の基準の見直しを行ったものであり、平成十二年四月二十六日の衆議院運輸委員会及び同年五月十八日の参議院交通・情報通信委員会における「道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(以下「附帯決議」という。)に反する等との御指摘は当たらないと考えている。

三の1について

 全国の労働基準監督署においては、平成十四年に三百七十四のタクシー事業に係る事業場に対して監督を実施したところであるが、その際に、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)違反が認められた事業場は、三十二となっている。今後とも、労働基準監督署においては、タクシー事業に係る事業場を含め、自動車運転者を使用する事業場に対して重点的に監督指導を行い、最低賃金法違反が認められた事業場に対しては厳正に対処してまいりたい。

三の2について

 労働基準関係法令(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)及び最低賃金法を含む。以下同じ。)に違反しているタクシー事業者が道路運送法第六条に規定するタクシー事業の許可基準を満たしているか否かについては個別に判断されるべきものであるが、政府としては、道路運送法、労働基準関係法令等各法令を遵守した上で事業が遂行されるよう、タクシー事業者に対し必要な指導等を行っているところである。

三の3について

 御指摘の「累進歩合」については、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準について」(平成元年三月一日労働省労働基準局長通達)において、売上高等によって歩合給が非連続的に増減する制度につきこれを廃止するものとしている。
 また、御指摘の「ノルマ」については、旅客自動車運送事業運輸規則(昭和三十一年運輸省令第四十四号)において、地方運輸局長が指定する地域に営業所を有するタクシー事業者が指定地域内にある営業所に属する運転者に、その収受する運賃及び料金の総額が一定の基準に達し、又はこれを超えるように乗務を強制する行為につきこれを禁止している。
 政府としては、これらに基づき、タクシー事業者に対し、附帯決議で指摘されている「累進歩合やノルマの排除」について必要な指導等を行っているところである。

四の1について

 事業計画の遂行に十分な数の運転者の選任については、タクシー事業者に対する監査等の機会を通じて、旅客自動車運送事業運輸規則第三十五条の規定に違反することのないよう必要な指導等を行っているところである。

四の2について

 いわゆるアルバイト運転者の選任については、タクシー事業者に対する監査等の機会を通じて、旅客自動車運送事業運輸規則第三十六条第一項の規定に違反することのないよう必要な指導等を行っているところである。

四の3について

 健康保険及び厚生年金保険(以下「社会保険」という。)の被保険者は、適用事業所と常用的使用関係にある従業員とされており、それに該当するかどうかは、就労の実態に照らして個別具体的に判断する必要があるため、各社会保険事務所等において、毎年一回の報酬月額に関する届出を受け付けるに際しての調査、事業所に対する実地調査等の中で、社会保険の被保険者に該当するにもかかわらずその届出がない従業員を把握し、事業主に対して適正な届出を指導しているところであり、タクシー事業者も含め、今後とも、社会保険の適正な適用に努めてまいりたい。

五について

 御指摘の近畿運輸局が行った運賃の認可は、「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃料金の認可の処理方針について」(平成十三年十月二十六日国土交通省自動車交通局長通達)において速やかに認可を行うこととされているいわゆる自動認可運賃の下限を下回る運賃の認可であるが、当該認可に当たっては、利用者に著しい混乱が生じるか否か、不当な競争を引き起こすおそれのある状況であるか否か等事業の状況について検証することが必要であることから、当初、六月の期間を条件として認可したが、その後、当該運賃について期限を延長する旨の申請がなされたため、近畿運輸局において改めて審査を行った結果、当該運賃の実施後一定期間が経過した後の状況について再度検証することが適切であることから、新たに一年の期間を条件として認可を行ったものである。
 お尋ねの当該審査における個別の査定内容については、個別のタクシー事業者に関する情報を含むものであり、公にすることにより、当該タクシー事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから、答弁を差し控えたい。

六について

 政府としては、御指摘のとおり、輸送の安全、最低限の労働条件等を確保する観点から、国土交通省及び厚生労働省が緊密な連携を図り、タクシー事業者に対する監査等を行い、道路運送法、労働関係法令等に違反する事実が認められた場合には、タクシー事業者に対し、必要な指導を行うとともに、厳正な行政処分を行っているところである。
 お尋ねのタクシー事業者を対象とした監査等については、監査の公平性等を確保する観点から、「旅客自動車運送事業の監査方針について」(平成十四年一月十七日国土交通省自動車交通局長通達)により実施しているところである。

七について

 政府としては、高齢者、身体障害者等移動制約者の移動を確保・充実させるために、タクシーの積極的な活用を考えていくことが必要であると考えており、御指摘のSTS(スペシャル・トランスポート・サービス)へのタクシーの活用を進める観点から、リフト付きタクシーやスロープ付きタクシーへの税制の優遇措置を講ずるとともに、軽自動車による福祉タクシーの運行を認める等の施策を講じているところである。今後とも、これらの施策を通じて、移動制約者の移動の確保・充実に努めてまいりたい。