質問主意書

第156回国会(常会)

答弁書


答弁書第二七号

内閣参質一五六第二七号
  平成十五年八月五日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員谷博之君提出ロシア連邦のサハリンⅡ石油・天然ガス開発事業と我が国の油防除体制に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員谷博之君提出ロシア連邦のサハリンⅡ石油・天然ガス開発事業と我が国の油防除体制に関する質問に対する答弁書

一の1、2及び4について

 お尋ねの「サハリンⅡ第二期工事」とは、サハリンⅡプロジェクトの第二段階開発計画であって原油及び天然ガスの採掘等を行うもの(以下「本プロジェクト」という。)のための工事を指すものと解されるところ、本プロジェクトについては、国際協力銀行(以下「JBIC」という。)の「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」(平成十四年四月に策定され、平成十五年十月から施行されるもの。以下「新環境ガイドライン」という。)によれば、環境アセスメント報告書がロシアにおいてロシア語で公開され、地域住民等のステークホルダー(プロジェクトの影響を受ける地域住民、現地の非政府機関(NGO)等をいう。以下「地域住民等」という。)がいつでも閲覧可能であること等が必要であるとされていると承知している。
 「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」及び「環境社会健康影響評価(ESHIA)」については、本プロジェクトの実施主体であるサハリン・エナジー・インベストメント社(以下「サハリン・エナジー社」という。)がその概要を日本語に翻訳し、インターネット上で公開していると承知している。また、「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」等については、今後、それらの全文が日本語に翻訳され、インターネット上で公開されるか否かについて、現在のところ承知していない。
 いずれにせよ、新環境ガイドラインにおいては、プロジェクトの実施主体が「検討する影響のスコープ」に「越境または地球規模の環境問題への影響」が含まれており、JBICが融資等を行うプロジェクトについては、それが計画されている国又は地域において社会的に適切な方法で合意が得られるよう十分な調整が図られていなければならず、また、特に環境に与える影響が大きいと考えられるものについては、情報が公開された上で、地域住民等との十分な協議を経た結果が当該プロジェクトの内容に反映されていることが必要であるとされていると承知している。JBICは、本プロジェクトに対する融資を検討する際、これらの情報公開や協議等の実施状況を含め、右のような影響を受ける利害関係者たる地域住民等と本プロジェクトの実施主体との協議結果の反映について、新環境ガイドラインを参照しつつ適切に対応するものと承知している。

一の3について

 新環境ガイドラインにおいては、JBICが融資等を行うプロジェクトについては、社会的な弱者に対する適切な配慮がなされることが必要であるとされていると承知している。JBICは、本プロジェクトに対する融資を検討する際、本プロジェクトの実施主体が行う社会的な弱者等に対する配慮について、新環境ガイドラインを参照しつつ適切に対応するものと承知している。

一の5について

 新環境ガイドラインにおいては、JBICが融資等を行うプロジェクトのうち特に影響が重大と思われるもの及び異論の多いものについては、必要に応じ、プロジェクトの実施主体が専門家等からなる委員会を設置して意見を求めるものとされていると承知している。JBICは、本プロジェクトに対する融資を検討する際、専門家等からなる委員会の設置等について、新環境ガイドラインを参照しつつ適切に対応するものと承知している。

二の1及び2について

 我が国とロシアは、渡り鳥及び絶滅のおそれのある鳥類並びにその生息環境の保護に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約(昭和六十三年条約第七号。以下「日ロ渡り鳥等保護条約」という。)の附表にオオワシを掲げるとともに、日ロ渡り鳥等保護条約第二条に基づきその捕獲等を原則禁止とするなど、オオワシの保護を図っている。
 我が国においては、昭和五十九年に、オオワシを、特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律(昭和四十七年法律第四十九号。以下「特殊鳥類法」という。)に基づく特殊鳥類に指定し、その譲渡及び輸出入を原則禁止とするとともに、日ロ渡り鳥等保護条約第三条2に基づき、このような保護措置を講じたことについて平成三年にロシア政府に対し通報したところである。また、平成四年の特殊鳥類法の廃止及び絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成四年法律第七十五号)の制定に伴い、オオワシを同法に基づく国内希少野生動植物種に指定し、その譲渡及び輸出入の原則禁止に加えて、捕獲及び殺傷並びに販売又は頒布を目的とした陳列を原則禁止とするなど規制の強化を図ったところである。
 他方、サハリンを含むロシア国内におけるオオワシの保護については、日ロ渡り鳥等保護条約第六条に基づき、ロシア政府により、オオワシの生息環境の保全等のための措置を執るための努力がなされているものと認識している。

二の3について

 新環境ガイドラインにおいては、JBICが融資等を行うプロジェクトについて、プロジェクトの実施主体が環境社会配慮を行う上で生態系及び生物相等を通じた自然環境への影響について調査検討することとされていると承知している。JBICは、本プロジェクトに対する融資を検討する際、本プロジェクトによる生態系に対する影響等について、新環境ガイドラインを参照しつつ適切に対応するものと承知している。

二の4について

 北太平洋西資源こく鯨(以下「こく鯨」という。)については、国際捕鯨委員会により資源量が約百頭と推定され、極めて低い水準にあるため、現在、ロシア及び我が国においても、こく鯨の捕獲禁止措置が執られているところである。
 なお、ロシア天然資源省によると、サハリンの油田開発予定地がこく鯨の夏の採餌海域と重なることから、現在、適切な保護措置を策定するため、ロシアの科学者による調査が実施されているところである。
 我が国としては、御指摘の「開発制限水域」の問題は、基本的にロシア政府が対応すべきものと考えているが、今後、ロシア側から正式な要請があれば、調査研究面での協力を検討してまいりたい。

二の5について

 本プロジェクトにおいては、事業主体であるサハリン・エナジー社が油排出事故の発生に対応するために定めた「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」の中で、「陸上パイプライン」の事故に対応する計画が定められている。しかしながら、当該計画の策定に当たり実施された油流出シミュレーションの想定条件が十分に公開されていないため、現段階では、北海道の漁業への影響について判断することはできないが、今後とも本プロジェクトによる北海道の漁業への影響について注視してまいりたい。

二の6について

 近年における油排出事故の発生状況を踏まえて、千九百九十二年の油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約(昭和五十三年条約第十八号)等の改正により国際油濁補償基金の補償限度額の引上げが行われ、これに伴い、第百五十六回通常国会において油濁損害賠償保障法の一部を改正する法律(平成十五年法律第六十四号)が成立したところであり、政府としては、油タンカーによる油排出事故に対しては十分な補償がなされるものと考えている。
 また、北海道沖で大規模な油排出事故が発生した場合は、「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」(平成九年十二月十九日閣議決定。以下「国家緊急時計画」という。)に基づき、関係省庁及び関係機関が協力して排出油防除措置を講ずることとしており、可能な限り漁業への被害の防止を図るよう努めてまいりたい。

二の7について

 サハリン・エナジー社によれば、干潟のような浅い海面での油処理剤の使用を意図したものではないが、適切な条件下、適切な場所での使用は迅速な処理のため有用な手段と考えており、重要な環境資源を保護するため、環境に大きな影響を与えないと判断される場合及び場所において使用されるべきというものであるとしている。また、サハリン・エナジー社は、より適切な油処理剤の使用基準の明確化についてロシア政府及び関係機関との協議を進めているとしている。

二の8について

 現在のところ、御指摘の「サハリンⅢからⅨの開発」の具体的な計画が策定されていないため、北海道の漁業への影響について分析することはできない。

三の1及び2について

 サハリン・エナジー社は、「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」の策定に当たって、油排出事故が発生した場合の油流出シミュレーションを実施している。しかしながら、二の5についてで述べたとおり、当該シミュレーションの想定条件が十分に公開されていないため、現段階では、北海道への影響について判断することはできないが、今後とも本プロジェクトによる北海道への影響について注視してまいりたい。
 なお、我が国政府は、国外で実施されている本プロジェクトについて、直接我が国の漁業関係者等の関与を求め得る立場にはない。

三の3について

 アメリカ合衆国、大韓民国及びノルウェー王国の排出油防除体制における海域及び陸域での各関係機関の役割及び指揮系統については、別表のとおりである。
 なお、いずれの国においても、油排出事故が発生した場合に防除措置を講ずる一義的な義務を負う者は、国、関係機関等ではなく、当該事故の原因者である船舶所有者等としている。

三の4について

 我が国における大規模な油排出事故の発生時の対応については、災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号。以下「災対法」という。)に基づき、収集された情報から大規模な被害が発生していると認められたときは、ただちに国土交通大臣を本部長とする非常災害対策本部(以下「対策本部」という。)を設置するとともに、必要に応じて、国土交通副大臣を本部長とする非常災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という。)を設置することとしている。
 対策本部及び現地対策本部(以下「対策本部等」という。)は、災対法に基づき、所管区域において指定行政機関の長、指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関等がそれぞれの防災計画に基づき実施する災害応急対策の総合調整を行うとともに、対策本部等の長は、必要な限度において、指定地方行政機関の長等に対し、必要な指示をすることとされていることから、対策本部等の総合調整の下、海域、陸域共に統一的な排出油防除措置が行われる体制となっている。
 なお、国家緊急時計画は、油による汚染に係る準備及び対応に関する我が国の体制を体系的に取りまとめた計画であり、対策本部の設置等についても位置付けているところである。

三の5について

 国家緊急時計画は、千九百九十年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約(平成七年条約第二十号。以下「OPRC条約」という。)に基づき策定されたものであるところ、OPRC条約においては、国家緊急時計画の策定に当たり、御指摘のような「環境関係機関や地元自治体等」の広範な意見を反映させることまでは求められていない。
 国家緊急時計画は、災対法に基づき地方公共団体が作成する地域防災計画と調和を保ったものであり、かつ、関係省庁等は、油排出事故が発生した場合における環境影響調査、野生生物の保護、漁場の保全その他の対応措置が迅速かつ的確に行われるよう、各行政分野における体制の整備に努めるとともに、地方公共団体、関係団体等との連絡協力体制の確保に努めることとしていることから、御指摘のような国家緊急時計画の改定の必要はないと考えている。

三の6について

 油排出事故が発生した場合の対応については、排出された油の量だけではなく、事故現場の地勢的特徴、気象及び海象の状況等様々な条件を考慮する必要があり、お尋ねのように排出された油の量のみによってその対応を一概に決定することはできない。
 なお、アメリカ合衆国や大韓民国においても、事故現場の地勢的特徴、排出された油の種類等に応じてその対応が異なる場合もあるものと承知している。

三の7について

 油排出事故が発生した場合には、ただちに海上保安庁の巡視船艇、航空機等により調査を行い、排出油防除措置を講ずるとともに、関係機関等への情報の伝達も速やかに実施していることから、対策本部等の設置の有無にかかわらず、事故発生時の迅速な対応は確保されているものと考えている。

三の8について

 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(昭和四十五年法律第百三十六号。以下「海防法」という。)第四十三条の二に基づき海上保安庁長官が作成する排出油防除計画(以下「排出油防除計画」という。)においては、既に、沿岸海域の環境保全のための情報を参考に適切な排出油防除の方針を確立することとしているところ、現在、海上保安庁において関係省庁等と連携を取りつつ作成している環境脆弱性指標地図が完成次第、順次これを右の環境保全のための情報として排出油防除対応の方針の策定に反映していくこととしている。また、地方公共団体が作成する地域防災計画においても当該地図の活用が図られるよう努めてまいりたい。
 なお、当該地図については、平成十八年度までに全国の海岸線を網羅することができるよう順次整備を進めているところである。

三の9について

 海防法第四十三条の三に基づく排出油の防除に関する協議会は、関係者が相互に密接な連携の下、共同して排出油防除措置を講ずることができるよう組織するものであり、当該協議会には、海上保安庁、関係行政機関、関係地方公共団体のみならず、タンカーの所有者、海洋施設等の設置者、港湾管理者、漁業者団体、民間防災事業者、油防除資機材メーカー等排出油防除措置の実施に関係する主体が幅広く参加しており、有効に機能しているものと考えている。

三の10について

 油排出事故が発生し、陸地に漂着した油が回収された場合には、当該油は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)第二条第四項又は第五項に規定する産業廃棄物又は特別管理産業廃棄物である廃油に該当するところ、その処分は、同法第十二条又は第十二条の二において、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和四十六年政令第三百号)第六条第一項第二号若しくは第三号又
 は第六条の五第一項第二号若しくは第三号に定める基準に従わなければならない旨規定されている。

三の11について

 海防法第四十二条の三十六第一項第二号に基づき海上災害防止センター(以下「センター」という。)が実施する業務は、原因者である船舶所有者等とセンターとの契約に基づく排出油防除措置であるが、御指摘の原因者側の予算上の制限に関わらず、当該措置では不十分と判断される場合には、海防法第三十九条第三項に基づき、海上保安庁長官が、船舶所有者等の原因者に対して排出油の防除のための有効かつ適切な措置を講ずるよう命ずることができることとされ、原因者が当該命令により講ずべき措置を講じていない等の場合は、海防法第四十二条の三十七に基づき、海上保安庁長官が当該措置のうち必要と認めるものを講ずべきことをセンターに対し指示することができることとされている。センターが行う海防法第四十二条の三十六第一項第一号の業務は、当該指示を受けて実施するものであり、これまでも緊急に排出油防除措置を行う必要があると認められる場合には、当該指示が行われているところである。
 なお、当該指示については、排出された油の種類、事故現場の地勢的特徴、気象及び海象等の状況並びに社会的影響の程度を考慮の上、判断することとしており、当該指示を行うかどうかについての一律の基準を策定することは困難である。

三の12について

 我が国の排出油防除体制は、海防法、災対法、国家緊急時計画等により既にOPRC条約が求める以上のものとして構築されており、アメリカ合衆国や大韓民国における排出油防除体制に比べて劣るものではなく、御指摘の海防法の抜本的な改正を行う必要はないと考えている。

三の13について

 海防法第四十三条の二第三項においては、海上保安庁長官は、排出油防除計画を作成し、又は修正しようとするときは、関係地方公共団体の長の意見を聴かなければならないこととされているとともに、災対法第十五条第五項においては、都道府県地域防災計画の作成を行う都道府県防災会議の委員となる指定地方行政機関の長として管区海上保安本部の長等が充てられており、排出油防除計画と都道府県地域防災計画は、相互に関連付けられるよう取組が行われてきたところである。
 また、災対法第四十二条第一項に規定するとおり、市町村地域防災計画は、当該市町村を包括する都道府県の都道府県地域防災計画に抵触するものであってはならないこととされており、排出油防除計画と市
 町村地域防災計画についても相互に関連付けられているところである。

三の14について

 三の13についてで述べたとおり、排出油防除計画と地域防災計画は相互に関連付けられるよう取組が行われてきたところであり、御指摘のような「新たな油防除計画」を策定する必要はないと考えているが、引き続き、両計画の連携の強化を図っていく所存である。

別表 1/2

別表 2/2