質問主意書

第156回国会(常会)

答弁書


答弁書第二五号

内閣参質一五六第二五号
  平成十五年六月十三日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員中村敦夫君提出別寒辺牛川のイトウと砂防ダムに関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員中村敦夫君提出別寒辺牛川のイトウと砂防ダムに関する再質問に対する答弁書

一について

 別海矢臼別大演習場(以下「本演習場」という。)内の別寒辺牛川支流におけるダムの建設事業(以下「本件事業」という。)の対象地域の下流域には、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(昭和五十五年条約第二十八号。以下「ラムサール条約」という。)に基づく登録簿に掲げられている厚岸湖・別寒辺牛湿原が位置していることから、本件事業については、同湿原への影響にも配意しながら、適切な実施に努めてまいりたい。
 厚岸湖・別寒辺牛湿原については、ラムサール条約に基づく登録簿に掲げる湿地として指定する際、タンチョウの重要な生息地であること及びオオハクチョウの越冬地であることを根拠にしており、イトウの生息を根拠にしたものではない。

二の1について

 お尋ねの事業執行の責任の意味が必ずしも明らかではないが、本件事業は、厚岸町からの要望を踏まえ、札幌防衛施設局が計画したものであり、本件事業については、別寒辺牛川の管理を行い、その周辺地域の状況に詳しい厚岸町に委託している。
 また、本件事業については、汚濁対策としては厚岸湖及び厚岸湾の漁業資源確保等に資するものとして行っているものであるが、仮に本件事業に起因して御指摘のような被害があった場合には、個別具体の状況等に応じ、関係法令に基づき、札幌防衛施設局が適切に対応することになる。

二の2から4までについて

 イトウは、生活環境としては河川の上流から下流までを、時には海をも利用しており、主な生息場所としては勾配が緩く、蛇行しながら河口域に沼などが発達するような河川である。また、産卵場所は、濁りがほとんどない融雪水が流下し、川底が小砂利で形成された河川の上流である。
 本件事業の実施に際して、環境への影響を最小限にするとの観点から本件事業の対象地域周辺の動植物の生息等に及ぼす影響についての調査を行ったところ、イトウを含む魚類が生息していることが確認された。他の類似事業においても、魚類の繁殖及び生息にできる限り影響を及ぼすことのない方策として、一般に魚道の設置という手法が採られていることから、本件事業においても、サクラマスやヤマメなどが遡上する他の河川における魚道を参考にして、水流の緩やかな水域を併せ持つ構造の魚道を設置したところである。
 現在、当該魚道における実際のイトウの遡上状況等について補完的に調査を行うとともに、イトウの繁殖及び生息について有識者から意見の聴取等を行っているところであり、これを踏まえつつ、本件事業の適切な実施に努めてまいりたい。

二の5について

 二の2から4までについてで述べたとおり、本件事業の実施に際しては、他の類似事業における魚道の設置状況等を踏まえ、魚道の規模等を決定し、これを設置したところであるが、イトウの繁殖及び生息について、より適切な配慮を行う必要があると考えられたことから、札幌防衛施設局においては、厚岸町と共同で、有識者から意見の聴取等を行うこととしたものである。

二の6について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、お尋ねがダムの上流の大宗の部分においてシルトを含む土砂が流入して、これがイトウの繁殖に影響を及ぼすとの意味であれば、通常、そのようなことは想定しがたいものと考えている。
 なお、シルトを含む土砂の堆積とイトウの繁殖との関係については、十分な知見が得られていないことから、有識者から意見の聴取等を行い、これを踏まえつつ、イトウの産卵にできる限り影響を与えることのないよう十分配慮してまいりたい。

二の7について

 本件事業については、二の1についてで述べたとおり、汚濁対策としては厚岸湖及び厚岸湾の漁業資源確保等に資するものとして行っているものであるが、札幌防衛施設局においては、本件事業が厚岸湖及び厚岸湾の漁業資源等に及ぼす影響について、厚岸町と共同で、有識者から意見の聴取等を行っているところであり、沿岸漁業に悪影響を及ぼさないよう努めてまいりたい。

三について

 お尋ねの「浮揚黒土(ウォッシュロード)」がどのようなものを指すのか必ずしも明らかではないが、一般的にウォッシュロードとは、雨水流によって容易に侵食を受ける裸地斜面等から生産される流砂で、通常の河道内ではそのまま流下するものであり、これのみの流出を防止するための現実的かつ有効な手法については承知していない。
 いずれにしても、本件事業については、汚濁対策としては本演習場内から土砂が流出することに伴い発生する汚濁を防止し、又は軽減することに資するものとして行っているものである。

四について

 お尋ねの「同様の事業」とは、本演習場における自衛隊及び我が国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の訓練の実施によって本演習場内の土地の形質が変化する等により、降雨又は融雪に伴い風連川支流に土砂が流出しやすくなり、当該土砂の流出により生ずる障害を防止し、又は軽減するために実施したダムの建設の事業であり、当該事業の開始年月日等については、別表及び別図一のとおりである。

五について

 お尋ねの「裸地化している場所の範囲、分布、河道との位置関係、降雨状況」がどのようなものを指すのか必ずしも明らかではないが、本演習場内の土砂流出の主な発生場所である弾着区域、道路等となっている場所のおおむねの範囲並びにトライベツ川、フッポウシ川及び西フッポウシ川のおおむねの位置は、別図二のとおりであり、また、本演習場に最も近い雨量の観測地点である根室支庁の別海観測所における平成十四年の年間降水量は、千九十ミリメートルである。
 「実際に生じた土砂流出量」については、測定することが困難であり、明示することはできない。

六について

 二の7についてで述べたとおり、札幌防衛施設局においては、本件事業が別寒辺牛川流域の環境に及ぼす影響について、厚岸町と共同で、有識者から意見の聴取等を行っているところであり、これを踏まえつつ、本件事業の適切な実施に努めてまいりたい。
 なお、厚岸町が平成十五年二月十四日に札幌防衛施設局に通知してきた「別寒辺牛川水系支流の砂防ダム建設について」では、厚岸漁業協同組合はダムの建設に反対しているものではなく、本件事業の実施に際して行った調査の内容の説明、河川等への影響調査の実施等について要望しているとのことである。

別表 本件事業と同様の事業の開始年月日等

別図一

別図二