質問主意書

第156回国会(常会)

答弁書


答弁書第一一号

内閣参質一五六第一一号
  平成十五年三月二十五日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員又市征治君提出ILO勧告と公務員法改正作業の出直しに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員又市征治君提出ILO勧告と公務員法改正作業の出直しに関する質問に対する答弁書

一について 

 我が国は国際労働機関(以下「ILO」という。)の加盟国として、国際労働機関憲章及びその附属書である国際労働機関の目的に関する宣言(フィラデルフィア宣言)にのっとり、我が国が批准したILO諸条約を遵守するとともに、ILOの根本原則を尊重してきたところである。特に、公務員に関する労働基本権を始めとする各般の問題について、政府はILOと長年にわたり対話を重ねてきたところであり、その取組については、ILOから一定の評価もされてきたものと認識している。
 そのような中で、昨年十一月、ILO結社の自由委員会第三百二十九次報告における勧告の中で、御指摘の消防職員・監獄職員の団結権、職員団体の登録制度、労働基本権を制約する公務員の範囲、労働基本権制約の代償措置等については、「結社の自由及び団結権の保護に関する条約(第八十七号)」(昭和四十年条約第七号)及び「団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約(第九十八号)」(昭和二十九年条約第二十号)に反している点があるとの指摘を受けたところであるが、これらの事項については、これまでILOも一定の理解を示し、そのような指摘を受けてこなかったところであり、その後これらの事項に係る我が国の法制度や運用状況に基本的な変更がないにもかかわらず、従来からのILOの見解に変更がなされたかのごとき今回の勧告は、これまでのILOの判断との一貫性を欠くように見受けられる。よって、政府としては、今回の勧告は、同委員会において我が国の法制度やその運用状況を十分理解した上で行われたものではないのではないかと考えているところである。

二の1について 

 今般の公務員制度改革では、公務の安定的・継続的な運営の確保の観点、国民生活へ与える影響の観点などを総合的に勘案し、公務員の労働基本権の制約については、今後もこれに代わる相応の措置を確保しつつ、現行の制約を維持することとしている。なお、ILO結社の自由委員会の勧告については、一についてで述べたとおり、同委員会において我が国の法制度やその運用状況を十分理解した上で行われたものではないのではないかと考えており、政府としては、これらについて同委員会の理解が得られるよう、今後、十分な情報提供等に努力してまいりたい。

二の2について

 公務員制度改革については、現在、「公務員制度改革大綱」(平成十三年十二月二十五日閣議決定)に基づき、国家公務員法等の改正に向けた検討を進めており、職員団体等に対し、能力等級制度等の法制化の論点について協議を申し入れるなど誠意ある対応を行っているところである。
 今後の検討を進めるに当たっては、職員団体等と率直かつ有意義な協議を行うことが重要であると認識しており、その具体的な進め方については職員団体等とも十分相談してまいる所存である。

三について

 平成十三年一月六日に内閣官房行政改革推進事務局が設置されて以降、「公務員制度改革大綱」を取りまとめるための検討及び同大綱閣議決定後の法制化等に向けた検討に当たっては、その時々における検討案を職員団体等に提示し、それに基づき協議を行ってきたところである。このような協議は、大臣を始めとして実務者に至るまで様々なレベルで多数回にわたって行ってきたところであり、その経過を逐一お示しすることは困難であるが、いずれにしても職員団体等とは誠実な協議を行ってきたものと考えており、「誠意ある緊密な協議は全く進められていない」との御指摘は当たらない。
 また、今後の協議については、これを公開とした場合、双方にとって率直な意見の交換が困難となる可能性があること等から、公開とすることは考えていない。

四の1について

 「公務員制度改革大綱」では、職員の営利企業への再就職(以下単に「営利企業への再就職」という。)について、各府省の権限・予算等を背景とした押し付け的なものなのではないかとの批判にこたえ、①内閣が、厳格かつ明確な承認基準を法律の委任に基づき政令で定め、承認制度の運用について必要な総合調整を行い、②各府省の大臣等が、承認基準にのっとって承認を行い、承認案件を公表し、③人事院が、承認基準についての意見の申出及び承認事務の実施状況についての改善勧告を行う、④さらに、新たに再就職後の行為規制を設け、違反行為に対しては罰則等を含め制裁措置の導入を図るなど、人事院の関与を含め二重三重の仕組みを採ることとしており、「お手盛り」との御指摘は当たらない。

四の2について

 職員の特殊法人、公益法人等への再就職については、退職金が高すぎるのではないか、再就職の安易な受皿とされているのではないかとの批判にこたえ、特殊法人等の役員の給与及び退職金を引き下げること、国と特に密接な関係を持つ公益法人の役員の報酬及び退職金を国家公務員の水準と比べ不当に高すぎないようにすること、特殊法人、公益法人等の役員に就いている退職公務員の状況を公表することなど適切に対処しているところであり、職員の特殊法人、公益法人等への再就職について営利企業への再就職と同様の規制を行うことは考えていない。

四の3について

 営利企業への再就職に係る承認の対象者数は、各府省それぞれの退職管理、年齢構成等の事情を反映して変化するものであり、中長期的な対象者数を具体的に見込むことは困難である。
 また、営利企業への再就職に係る承認は、各府省の権限・予算等を背景とした押し付け的なものを認めない等の観点に立ち、真に個人の能力を活用して行われる再就職を阻害することのないよう留意しつつ行われるべきものであることから、毎年の承認の総数を制限するようなことは適当ではないと考えている。

四の4について

 営利企業への再就職後の行為規制において、具体的にどのような行為を禁止するか、また、これに違反する行為に対して罰則等を含め具体的にどのような制裁措置を導入するかについては、現在、「公務員制度改革大綱」に基づく法制化作業の中で検討中である。