質問主意書

第156回国会(常会)

質問主意書


質問第四八号

国立大学法人化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年七月二十五日

櫻井 充   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   国立大学法人化に関する質問主意書

 本年七月九日、多くの反対の声を押し切って国立大学法人法が国会で成立した。国立大学法人法は、国立大学から学問の自由を奪うとともに、人材育成という観点で日本の将来に大きな損失をもたらすことになりかねない内容を持っている。国会での審議は十分尽くされたとは言い難く、政府の答弁もあいまいなものが多く、改めてここに政府の明白な見解を問うべく、国立大学について質問を行う。

一 今後の国立大学の入学金・授業料について

1 平成十五年六月九日の財務省財政制度等審議会財政制度分科会の歳出合理化部会及び財政構造改革部会合同部会の議事録を見ると、「平成一六年度予算編成の基本的考え方」について、田近栄治委員が「(国立大学に)経営責任がある以上は、授業料もしっかり取りなさい。ただ、しっかり取ったところが割を食うようなことはないようにしなさい」と説明している。これは、国立大学の授業料を上げても運営費交付金は減らさないようにせよ、という趣旨で述べたものか。もし、そうであるならば、授業料を上げても学生を確保できる人気のある国立大学はこぞって授業料を上げることになるのではないか。
2 受益者負担論によって国立大学の学部間の授業料差が設定された場合、日本育英会も廃止された今となっては、学生の経済状態が志望する学問分野を左右するおそれがあると考えられる。これは憲法第二十六条及び教育基本法第三条に反したり、軽視することにならないのか。文部科学省国立大学評価委員会、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会等が監視を行った上で、マイナスの評価を与えたり勧告を行うことで、そうした運営に歯止めをかけることは可能か。
3 同様に、現在学部と同一の授業料である大学院の授業料を、「受益者負担の徹底」ということで学部以上に引き上げるのであれば、経済的理由により大学院を退学する学生が増えることが懸念される。政府は大学院の授業料を今後どのようにするつもりか。

二 国立大学に対する標準運営費交付金について

 本年四月十六日及び五月十四日の衆議院文部科学委員会では、「標準運営費交付金と授業料により、教育の最低限の質を保証し、特定運営費交付金は、付置研究所のような大学ごとで状況が違うものの運営に充当する」旨の答弁が政府よりなされた。本年四月十八日に文部科学省から各国立大学事務局長あてに「平成一六年度概算要求参考資料(基礎額等調)について」を発し、概算要求のための資料提出を指示しているが、その中の「教職員数試算基準(案)」という積算表では、教員数と学生数の比率について現在の四分の三程度を標準運営費交付金積算の基準としており、特定運営費交付金なしには現在のレベルを確保できないようになっている。このやり方では学生に対する教師の比率は大学によっては現在より相当低くなることが避けられないが、政府は国立大学における教育担当の教員数が減っても構わないと考えているのか。

三 教育公務員特例法の非適用について

1 教育公務員特例法第二十二条が、実質「国立」であるにもかかわらず国立大学法人の教員に適用されないのはなぜか。教育公務員特例法を適用することが大学の自主性を阻害すると考えているのか。そうであれば、どの条項が大学の自主性を阻害すると考えているのか。
2 国立大学法人の教員に教育公務員特例法が適用されないのであれば、労働基準法や労働組合法が適用されることになる一方、「教育公務員特例法に相当する内容は大学の規則で担保可能」という趣旨の答弁が国会でなされたが、法的な整合性はとれるのか。教官任用に関する人事権を教授会が持つとなると、教授は労働組合法第二条但し書き第一項で定められた役員若しくは管理職とみなされ、労働組合の構成員ではなくなり、労働者としての権利が必要以上に制限されるおそれはないのか。

四 国立大学法人の業務について

1 国立大学法人法第十一条第二項第四号によれば、学長は、役員会の議を経て、法人が設置する国立大学の廃止を決定できることになるが、そのとおりか。また、その決定はどのように扱われるのか。さらに、その決定後、当該国立大学法人は存続するのか。
2 国立大学法人の業務を規定する第二十二条第一項第三号によれば、大学ではなく国立大学法人自身が外部からの委託を受けて教育研究活動を実施することが可能である旨規定している。第十一条第二項第四号も勘案すれば、国立大学法人は国立大学を設置せずに研究教育活動を受託することに特化することも可能になるのか。

五 文部科学省による行政指導の強化への歯止めについて

1 文部科学省が国立大学法人制度によって可能となった強力な行政指導を通し、大学が主体となって作成する中期目標の原案と中期計画に強力な介入をすることが予測されるが、それを内閣総理大臣は(内閣の長として)どう考えるか。
2 行政指導により以前と同様の画一的改革が進まないようにするために、どのような具体的な方策を考えているのか。

六 文部科学省設置法は、国立大学法人法成立前に中期目標の作成を文部科学省が指示することの根拠となり得たのか。

七 文部科学省令の制御について

 総務省政策評価・独立行政法人評価委員会は、国立大学法人の会計基準・評価委員会等に関する文部科学省令について検討し、勧告等を行う予定はあるか。

八 国立大学法人職員の非公務員化について

1 現在の国立大学の教職員の意向を確認せずに公務員身分を奪うこととなる制度変更を行う法的根拠は何か。
2 一般職の大学職員は、他の国家公務員職への転勤が可能であることが国会での答弁で明らかにされたが、これをどのように周知するのか。全員に希望を取るべきと考えるが、その予定はあるのか。また、配置転換を希望した職員が不利に扱われないことをどのように保証するのか。

九 国立大学法人化は「効率化・重点化」により、日本の高等教育の規模を縮小させる意図が明確であるが、小泉総理が主張している、教育をなによりも重視する「米百俵の精神」に反しないか。

十 法人化後の国立大学における労働安全衛生法適用問題について

1 国立大学は、法人化に伴い、労働安全衛生法が適用になるが、現状のままだと同法違反になるところが出てくる。国会審議ではついに明確な答弁がなされなかったが、政府は、国立大学の正確な現状調査とその結果の公表及び必要経費の手当の仕方について、どのような方針を立てているのか。
2 1に関連して、文部科学省は、来年四月までに準備が整わない場合は「研究教育をストップ」してでも違法状態は起こさないようにする方針であると伝えられているが、これは事実か。事実であるならば、教育研究活動に重大な支障をもたらすことになるが、この場合、留年を余儀なくされる学生・院生などの授業料の免除等の措置を講じる予定はあるのか。
3 本年五月十六日衆議院文部科学委員会において、「今でも人事院規則(一〇-四)に違反している」旨の遠山大臣の発言があったが、これについての現状調査を行わないのか。行わないのであればその理由を述べられたい。大学には人事院規則に反し危険な場所が実際に多数あることは死亡事故の発生から推測されるが、それを改善する資金がないほどの低レベルに大学予算を据え置いてきた教育行政の責任はないのか。

十一 国立大学での会計システムの準備作業への予算措置について

 国立大学法人法においては、会計システムを企業会計原則で行うことが決められているため、法成立前から各大学は企業会計システムの発注をさせられていた。国会の委員会の中では、「中期目標や概算要求などの準備作業を法成立前から行政権限の範囲でできる」旨、遠山大臣・文部科学省が答弁していたが、企業会計原則を適用する国立大学法人法第三十五条を認めるか否か決まってもいない段階で企業会計システム構築への予算支出は、明らかに国会審議を軽視するものであった。もしも、法案審議において「企業会計原則」の採用が不適とされれば、支出された予算は違法な支出となったのではないか。

十二 法人化のための費用はどのように手当されるか

 法人への移行のための費用(労働安全衛生法対応、資産調査・登記、会計システム構築、監査法人費用等)及び移行後の費用(役員報酬、雇用保険料、損害保険料、監査法人費用など)は、新たな追加的費用であるが、これらの費用を運営費交付金で措置する予定はあるのか。仮にそのような手当を行うならば、法人化によって国の財政支出が増加することにならないか。
 また、運営費交付金が現行水準であれば大学の実質的な教育研究経費は減少することになるが、それは「大学改革」を困難にするのではないか。

十三 中期目標を大臣が定めることについて

1 中期目標策定において大臣が最終的に決定することについて、「国庫を投入するから最低限の関与が必要」という文部科学省側の答弁が繰り返されたが、国立大学の「業務」が教育研究であることは自明であり、国立大学の教育研究に予算の適正な支出がなされていることが確かめられる限り、国庫投入の「説明責任」は果たされるのではないか。
2 憲法第二十三条及び教育基本法第十条によれば、国が大学に対し、財務・経営事項だけでなく教育研究の具体的な内容や使途を指示することなどあり得ないはずだが、国立大学法人法においては、中期計画に教育研究の具体的な内容や使途についての記載がなければ運営費交付金を受けられないようになっている。このような憲法・教育基本法と国立大学法人法との非整合性をどのように考えるか。

  右質問する。