質問主意書

第156回国会(常会)

質問主意書


質問第一四号

北海道斜里、小清水、斜網西部の国営土地改良事業に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年三月十三日

紙 智子   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   北海道斜里、小清水、斜網西部の国営土地改良事業に関する質問主意書

 北海道の網走地方で約二万ヘクタールにわたる広大な面積を対象に農業用用排水を中心とする国営土地改良事業が行われている。現時点は、計画変更に際して、土地改良法に基づく計画の公告・縦覧が実施され、住民意見書が幾つか提出されたところである。意見書の内容が適切に反映され、事業が関係農家の意向をくんだものになることが望ましいと考える。
 そこで次の点について質問する。

一、変更計画概要書の記載について

1 事業は斜里・斜里(二期)、小清水、斜網西部のいずれの変更計画概要書においても、「Ⅲ、変更後の計画概要」の「第1章目的」において「地区の農業は…かんがい施設が未整備であることから用水は主として降雨に依存しており、生産性の向上が困難な状況になっている」と記載している。また、「第2章地域の所在及び現況」の「第3節現況」の「3、水利状況」では、小清水地区を除いて「該当なし」と記載している。これは現状認識に誤解があると思われる。
 斜里町朱円地域は道営事業によってオクシベツ川に頭首工があり、それを水源とする団体営畑地かんがい事業が実施されている。小清水地区では、道や町の補助を受けて共同の防除用水が確保され、一部ではこの施設を使ってかんがいを行っている。網走市でも地下水、沢水、湧水、温泉水の活用による自家水道による農業用水が確保され、南網走地域では国の補助事業による肥培かんがいが実施されている。
 これらの状況からして、主に農業用水を雨に頼って営農しているという記述は適切でないのではないか。また、「水利状況」の箇所は、他の項目の「気象」や「土地状況」、「道路概況」と同じく、「現況」を記述するものと思われるが、これらの現状からして「該当なし」とするのは事実に反するのではないか。現に、斜網西部地区の場合、平成五年の第一回変更計画概要書では、「水利状況」の箇所に明確にかんがい面積や水利権、取水量が記載されている。それが今回は「該当なし」となっている。どうしてこのような記述になっているのか、明らかにされたい。
2 意見書提出制度は二〇〇一年の土地改良法改正で、広く住民の意向を聞き、事業に反映させることを目的に盛り込まれたものである。計画の内容はもとより、現状の把握についても公正なものでなければ、住民が事業の是非を的確に判断する支障になる。もし、農家や自治体の努力によるこうした農業用水確保の努力を無視し、「降雨に依存」「水利状況なし」という記述がそのまま許されるならば、事業の必要性を過度に住民に認識させてしまい、公正な公告・縦覧と言えなくなる。この記述を訂正し、公告・縦覧のやり直しをすべきではないかと考えるがどうか。

二、事業の効用について

1 計画概要書では年増加見込所得額を斜里(二期)、小清水、斜網西部でそれぞれ二、〇六二百万円、五、二三七百万円、二、〇七七百万円としている。これを受益面積で割ると一ヘクタール当たりそれぞれ約九四万円、約四三万円、約五三万円の所得増となる。しかし、これらの地区の農業生産額は一〇〇万円/ヘクタールを目標にしており、それは未達成の水準にある。特に斜里ではその二倍近くの所得を見込むなど、常識的に過大な計算と言わざるを得ない。それぞれこのような所得増になる根拠、計算式を示されたい。
2 斜里(二期)計画の概要書では、農業生産向上効果(作物生産効果・品質向上効果)において一、二四五百万円としている。これを受益面積二、一九四ヘクタールで割ると約五七万円の増加となる。現在の粗収入を一〇〇万円/ヘクタールと多めに見ても、この部分で約六〇%の所得増になるとしている。昨年三月農林水産委員会の私の質問に当たり、主要作物であるバレイショ、てん菜で四〇%の増収が見込まれることが示された。すると後の二〇%は品質向上によるものと思われる。品質がこれだけ向上する根拠を示されたい。
3 同じく斜里(二期)の場合、農業経営向上効果(営農経費節減効果・維持管理費節減効果)として八一七百万円(受益面積二、一九四ヘクタール)を挙げている。これを一〇アール当たりに換算すると三七、二三八円である。農業経営向上効果は生産費、とりわけその中の労働費部分や土地改良・水利費等の削減になると思うが、主要農産物である原料用バレイショの生産費(北海道平均)は一〇アール当たり五四、一一三円、てん菜は八〇、五五四円である(農水省統計、二〇〇〇年産)。この部分から三七、二三八円も削れるというのはいかにも過大な感がする。そもそも労働費と土地改良・水利費合わせてもこのような金額に達していない。小清水、斜網西部も計算するとそれぞれ二二、四四五円、二七、三八二円農業経営向上効果があることになる。それぞれについて生産費がこれほど削減できる根拠について明らかにされたい。
4 いずれの地区でも事業の内容や多くの農家の意向は、末端までのかんがい施設の整備ではなく、一戸一栓の防除等の用水確保にとどまっていると聞く。ところがこれでは試算のような効果は出ないことは明白である。はじめに畑地かんがい用水の使用ありき、で事業を急ぐのではなく、まだ十分使える既存の施設の活用も含め、関係農家との話合いを十分に行うべきだと考えるがどうか。
5 多くの農家は、仮にかんがい事業で生産効果があっても農業をめぐる今日の状況を見るにつけ、所得の向上ができるのか、信用していない。てん菜、小麦、バレイショとも年々価格が低下し、作付け制限もあり、厳しい条件にあるからである。にもかかわらずこれだけの所得増を過大に宣伝し、もしそれができず、逆に負担金の償還で経営困難となり、離農に拍車がかかった場合、誰が責任を取るのか。政府は償還に支障を来さないようにする、と約束できるのか、明らかにされたい。

三、意見書の取扱いについて

 公告・縦覧において一〇通ほど意見書が提出されたと聞く。この意見書は今後の手続の中において、どのように取扱われるのか。具体的には、北海道知事への協議、知事から市町長への協議においてその内容が示されるのか。また、農林水産大臣はこの意見書をどの段階で検討するのか。そして内容によっては土地改良計画(変更計画)を申請者に差し戻すことはあり得るのか。以上の点について明らかにされたい。

  右質問する。