質問主意書

第156回国会(常会)

質問主意書


質問第一一号

ILO勧告と公務員法改正作業の出直しに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年二月二十八日

又市 征治   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   ILO勧告と公務員法改正作業の出直しに関する質問主意書

 昨年一一月二一日、ILO(国際労働機関)は、日本の連合及び連合官公部門連絡会(以下「労働側」という。)が結社の自由委員会に対して日本政府を相手として提訴していた案件に対する「第三二九次報告」を正式に採択した。この結果、政府が一昨年来「公務員制度改革大綱」(以下「大綱」という。)に基づいて一方的に進めてきた公務員法制の改訂作業は、抜本的な出直しが迫られている。
 なぜなら「大綱」は、能力等級制度の導入など人事・給与・評価制度の改革という名目で公務員労働者の基本的権利に係る制度を改変しようとしてきたからである。しかも労働基本権制約の代償機能としての人事院の権能を大幅縮減し、各省庁大臣の権限強化の名目の下、各省庁幹部の人事管理権を拡大しようというのである。これらは、労使が対等な立場で勤務条件決定の交渉を行うという国際労働基準に反し、また日本政府の「労働団体との十分かつ誠実な交渉・協議を通じて(法改正案を)取りまとめる」とのILOへの弁明と両立しない。
 さらに「大綱」は、「国家戦略スタッフ」の配置に見るように、特権的キャリア制度を温存強化する一方で、営利企業への官僚の天下り(再就職)を当該大臣限りの承認制という形で骨抜きにし、特殊法人や独立行政法人の天下りについてもこれまでどおり各省にゆだねており、国民世論の批判が集中している「官僚天国」の是正の声に背を向け続けようとしている。
 今日求められる公務員制度の改革は、公務員が時の政権にではなく「全体の奉仕者」としての使命感を持って、国民に公平・公正な公務サービスを提供できる体制の確立である。そのためにも公務員労働組合に正当な権利を保障し、これと協議することが不可欠であることは言うまでもない。
 ILOの「第三二九次報告」は、「A 提訴組合の申し立て、B 日本政府の回答、C 結論、D 勧告」で構成されているが、その「結論」及び「勧告」の中で、日本の公務員法制の改正について、次のように指摘している(以下「要約」という。)。
1 「政府が繰り返し…各国状況に配慮すべきであると述べているように、委員会は、提訴の審議に当たってはそれら要素を考慮してはきたが、結社の自由の原則はすべての国に一様かつ一貫して適用されるべきものであると指摘する。ある国がILOのメンバーになると決断した時点で、その国は…結社の自由を含む各基本的原則を受け入れており、…ILO条約の批准によって課せられた責任を全面的に尊重する義務を負う。」(「結論」第六三〇節)
2 「提示された証拠および論点に基づき、委員会は、数多くの会議が持たれたにも係わらず、国および地方公務員を代表する団体の見解は聞き置かれはしたが、それらに基づく行動は執られなかったと結論せざるを得ない。…この状況において、法案が二〇〇三年末に国会に提出される予定であることに鑑み、委員会は政府に対し、関係するすべての団体と広範な協議を速やかに開始し、法案要綱と慣行を結社の自由の原則に合致したものとするように勧告する。」(「結論」第六五一節)
3 「日本政府は公務員の労働基本権の現行の制約を維持するという、その公表した意図を見直すべきである。」(「勧告」第六五二節a)
4 「委員会は、…法制度を改革して結社の自由の原則に則ったものにするという目的で、公務員制度改革の意義と内容について、関係する全ての団体と全面的で率直かつ有意義な協議がただちに実施されるよう強く勧告する。これらの協議は、…日本の法制度および慣行が八七号および九八号条約の規定に違反しているということに関して、次にのべる事項を取り扱わねばならない。」「①消防職員と監獄職員への団結権付与、②事前承認に等しい組合登録制度の修正、③専従役員の任期制限の解除、④国家の運営に直接関与しない公務員への団体交渉権とスト権の付与、⑤団体交渉権なりスト権を制限される労働者に、その代償の手続きと機関の設立、⑥スト権を行使した公務員に対する民法上・刑法上の免責措置」(「勧告」第六五二節b)
 そして「勧告」は末尾で、「政府はこの件についてILOに技術協力を求めることができる」(「勧告」第六五二節h)と述べているが、これは日本政府にはILOの諸条約に沿って労働基本権付与を法制化する能力又は意志が欠けていると解されたことを意味しており、「先進国」の一員としては異例の、極めて不名誉な勧告と言わねばならない。
 憲法前文で「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」とうたっている我が国民として、一日も早く国際水準の労働基本権の立法化が望まれるところである。
 よって以下のとおり質問する。

一 総理大臣らの「ILOは誤解している」との発言について

 政府はこの勧告に対して「我が国の公務員制度について、ILO条約違反である旨言及された点については、我が国の実情を十分理解した判断とは言えず、…承服しがたい。」とし、総理大臣及び総務大臣の答弁において繰り返し「ILOに誤解がある」旨述べている。
1 労働基本権について
 政府の言う「誤解」又は「理解していない」部分とは具体的に何を指すのか。もしそれが「日本における基本権制約はILOも容認してきた」との含意であれば、それはむしろ日本政府の側の誤解であることが明らかにされた(要約1及び2)と思うが、どうか。
2 個別具体的事項について
 総務大臣答弁では、①消防・監獄職員の団結権、②登録制度、③代償措置、④制約する公務員の範囲を挙げているが、それらについてILOがどう「誤解」していると考えているのか、明らかにされたい。

二 公務員法改正作業の重点について

1 労働基本権について
 労働基本権について、ILOは今回改めて「一様かつ一貫した適用」を日本に求めている(要約1)。とりわけ「日本政府はその公表した意図を見直せ」(要約3)と述べているように、この勧告は「誤解」ではなく、まさに日本政府が今次改定においても労働基本権制約を改めないという意図と動向を正確に把握した上での批判・要求である。
 したがって、政府が進めてきた「大綱」路線での法改正作業は、抜本的な出直しをせざるを得ない。今後の作業再開に際しては、労働基本権付与について優先的に解決すべきであると考えるが、どうか。
2 協議の項目と方法について
 したがって当面の課題は、要約4の、協議のための機関の設置等である。この協議機関では、例えばこれにかかわる各項目(要約4①~⑥)ごとに、専門部会を設置するなどして、公務員法改正の最重点事項として「直ちに」取り組むべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 労働組合側との協議の進め方について

 労働組合側との協議については総理大臣答弁を含めて「緊密な協議をしたい」とその必要性を認めているところであるが、今回の公務員制度改革に関しては、会見等の場において組合が要請等を行ったのに対し、まともに回答せずに無視して進められており、誠意ある緊密な協議は全く進められていないと聞いている。
 組合との交渉経過について、いつ、組合からどのような要求があり、それに対してどのように対応したのか、逐一示されたい。
 また、組合との協議が国民の目を離れて密室の協議に陥り、その結果、将来に「禍根」や「誤解」を生むものであってはならないと考える。今後の協議は公開の原則で行うべきと考えるが、どうか。

四 天下り規制に係る「大綱」案の見直しについて

1 天下りの「大臣承認制」案について
 天下り問題は、行政改革において、具体的には今次法改正作業において何よりも優先して取り組むべき国民的課題である。
 これに逆行して「大綱」が導入しようとしている各省大臣による承認制案は、いわゆる「お手盛り」になるとして、さきの臨時国会においても各党議員から強い反対意見が表明されており、作業の出直しは必至と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
 なお、内閣が一括管理するという代案が検討されているようだが、行政府の内部での承認であり「各省大臣承認制」案と同様、「お手盛り」に陥るおそれがある。現行の人事院による第三者機関的権能をどのようにして担保するのか明らかにされたい。
2 特殊法人・公益法人等への拡大について
 天下り規制は法制上、営利企業への再就職だけで、政府関係法人への就職が人事院の承認対象に含まれていない。このためこれら公的法人での多額・多数回の退職金、役員として無責任な法人運営、権益維持のための指定法人制や行政委託などが、国民大多数の批判の的になっている。政府の改革案はこれら政府関係法人への天下りそのものには全く規制を広げようとしていない。
 私が前から主張しているように特殊法人・公益法人等への再就職全般についても、承認案件に含めるべきではないか。
3 総数規制について
 退職年齢の引上げに伴い、承認対象者の数は中長期的に増大すると思われるが、どのように見込んでいるか。現行制度、移行期、移行終了後を比較して示されたい。
 また国民世論を考えれば、天下りを総数としてもコントロールすべきではないか。
4 再就職後の行為規制について
 政府は右記「大臣承認制」案を擁護する文脈で、再就職した元官僚による出身官庁への交渉などの行為規制を厳しくする旨の発言をしている。「天下りを受ける企業の側等々が…ベネフィットを受けると…言われておりますので、そういう、…後輩にちょっと融通しろというようなことがわかった場合には、行為規制を設けて刑事罰を科す。」(昨年一〇月三〇日衆議院内閣委員会における北川れん子委員に対する石原行政改革担当大臣答弁)。
 このような答弁は国会の場で繰り返し行われているが、可罰行為と量刑の具体的内容が全く明らかにされていない。今国会にも法案を提出する準備をしているのであれば、刑事罰の内容を具体的に示されたい。

  右質問する。