質問主意書

第156回国会(常会)

質問主意書


質問第七号

霞ヶ浦導水事業に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年二月十四日

中村 敦夫   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   霞ヶ浦導水事業に関する質問主意書

 昨年十月三十一日、政府は、霞ヶ浦導水事業計画について、茨城県の受水予定量を毎秒三・五立方メートル削減し、那珂川導水路のトンネル口径を一メートル縮小すると、大幅に変更した。
 しかし、本事業は依然として多くの問題点を抱えており、事業を推進しようとする政府の姿勢について強い疑問を抱かざるを得ない。
 したがって、次の事項について質問する。なお、同様の文言が並ぶ場合でも、各項目ごとに平易な文章で答弁されたい。

一、事業計画の変更について

1 二〇〇一年六月十九日、茨城県知事は、国土交通省関東地方整備局長に対し、本計画に関連して要望を提出し、その結果として本事業が計画変更された。この要望提出について、河川法における根拠条文を示されたい。もし、この要望提出が河川法に基づかないのであれば、要望提出と本事業の計画変更の法的整合性について、説明されたい。
2 この要望提出は、水需要の見込み違いから、受水量の削減と事業規模の縮小を求めるものであった。同様に、東京都や千葉県など他の受水団体が受水量の削減を要望した場合、政府は受け入れる用意があるのか。
3 河川法施行令第三十八条に関連し、昨年の本事業の計画変更に際して特別水利使用者に対して明らかにした本事業に関する、目的、計画の概要、流水の状況の改善に関する事項、特別水利使用者に関する事項並びに費用及び費用の負担に関する事項を示されたい。
4 昨年の本事業の計画変更に当たり、国土交通大臣と関係行政機関の長との間で行われた協議の内容について、具体的に示されたい。
5 昨年の本事業の計画変更前及び計画変更後の総事業費並びにその内訳について、それぞれ具体的に示されたい。
6 本事業の工事が大幅に遅れ、平成十三年度に工期が十年も延長されたのはなぜか。本年二月一日現在における各工区の進捗状況並びに工事費と併せて示されたい。
7 本年二月一日現在における本事業の事業費について、それぞれの負担割合、算出根拠及び算出方法をそれぞれ明らかにされたい。
8 昨年の本事業の計画変更に伴って実施した、一九九一年から二〇〇〇年までの水質シミュレーションの計算で得られた那珂川から霞ヶ浦への導水量、霞ヶ浦から那珂川への送水量、利根川から霞ヶ浦への導水量、霞ヶ浦から利根川への送水量について、一九九一年から一九九九年までを半旬別にそれぞれ示されたい。なお、那珂川及び利根川から霞ヶ浦への導水量については、水質改善を目的とする量と、渇水補給を目的とする量とにそれぞれ分けて示されたい。
9 霞ヶ浦からの送水によって確保する那珂川(下国井地点)及び利根川(布川地点)の期間別確保流量を、河川維持用水、既得利水並びに本事業による新規利水とにそれぞれ分けて示されたい。

二、霞ヶ浦の水質浄化について

1 本事業において、水質改善のための費用負担が治水分の負担として扱われているのはなぜか。その理由を法令上の根拠とともに示されたい。
2 政府は、本事業によって、霞ヶ浦の平均COD(化学的酸素要求量)が〇・八~〇・九mg/L低下するとしている。しかし、霞ヶ浦の平均CODは五~一〇mg/Lの間で変動している。したがって、水質改善効果は事業費に見合っていないと考えるが、どうか。本事業の水質改善効果に関する費用対効果とともに、政府の認識を示されたい。
3 本事業の完了後、どのようにして本事業の水質改善効果を証明するのか、具体的な方法を示されたい。また、本事業の水質改善効果は水質変動の範囲にとどまるものであり、その効果を知ることは容易ではないので、水質改善効果を水質変動から取り出して解析する具体的な方法も併せて示されたい。
4 昨年の本事業の計画変更によって、最大導水量が約六割削減されたが、政府は計画変更前と同程度の水質改善効果が得られるとしている。なぜか。
5 本事業の水質改善効果は、植物プランクトンの優占種が変化しても、計画変更前と同程度に得られるのか。
6 茨城県の調査により、現在の霞ヶ浦は、リン余りの状態にあり、窒素が制限要素となっていることが判明している。よって、本事業により、霞ヶ浦よりも窒素濃度の高い那珂川の河川水が流入すれば、植物プランクトンの増殖が活発となり、霞ヶ浦のCODが上昇する可能性も考えられるが、どうか。
7 本事業によって、那珂川の河川水が流入することから、霞ヶ浦の植物プランクトンの種類が変わると考えられる。その場合、事前の水質改善効果に関する予測は大きく狂うことになる。よって、本事業によってどのような植物プランクトンが霞ヶ浦に発生するのかを勘案して、改めて水質改善効果の再評価を行うべきだと考えるが、どうか。
8 本事業において、想定どおりの水質改善効果が得られない場合、どうするのか。
9 現地で観測を続ける環境保護団体などが、本事業による水質悪化を危惧していると聞く。よって、植物プランクトンの藻類増殖を制限する要因の検討、植物プランクトンの出現種の予測及び水質改善効果の再評価を行い、それを終えるまで事業を凍結すべきだと考えるが、どうか。

三、放流時の巻き上げ対策と底泥浚渫事業について

1 那珂川の河川水を霞ヶ浦へ放流する場合、湖底堆積物の巻き上げが起き、湖内の水質が大きく悪化すると思われるが、その対策及び費用を示されたい。
2 霞ヶ浦の底泥浚渫事業について、開始年度、浚渫量、総事業費、今後の浚渫計画、水質浄化効果とその根拠を、それぞれ示されたい。

四、霞ヶ浦から利根川及び那珂川へ導水するに当たり、水質改善対策が検討されていると聞く。その対策について、浄化水量、改善目標水質及び費用をそれぞれ示されたい。

五、生物多様性の保全について

1 那珂川と利根川は、互いに独立した系を形成している。しかし、本事業によって河川水が相互に移送されれば、必然的に遺伝子、種、生物群集なども移動し、生物多様性条約に抵触するものと思われるが、どうか。
2 本事業によって河川水が相互に移送されれば、必然的に外来魚の卵や稚仔魚も移動し、外来魚の移植放流を禁止する地方自治体の内水面漁業調整規則などに抵触するものと思われるが、どうか。
3 本事業によって河川水が相互に移送されれば、必然的に相互の生態系に大きな影響を与えると思われる。生物多様性条約は、生物多様性への影響を回避するために環境影響評価の実施を求めている。よって、本事業において環境影響評価を実施すべきであると考えるが、どうか。
4 本事業によって、那珂川河口沿岸の浅海域が大きな影響を被ると思われるが、本事業の水産業及び海水浴場に対する影響について、明らかにされたい。また、その対策についても具体的に示されたい。
5 本事業が涸沼の水質、生態系及び水産業に与える影響について、明らかにされたい。また、その対策についても具体的に示されたい。

六、利根導水路について

1 本導水路の二回目の試験通水及び本通水は、それぞれいつ実施される予定か。
2 完成後七年も経過したにもかかわらず、本導水路の本通水が実現していないのは、なぜか。
3 本導水路が運用されないため、受水が物理的に不可能であるにもかかわらず、東京都と千葉県が霞ヶ浦開発事業について正規の水利権を持っているのは、なぜか。

  右質問する。