第155回国会(臨時会)
質問第一九号 JCO臨界事故と安全審査に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 平成十四年十二月十三日 福島 瑞穂
参議院議長 倉田 寛之 殿 JCO臨界事故と安全審査に関する質問主意書 二〇〇二年七月二十五日付け「JCO臨界事故と安全審査に関する質問主意書」に対する、同年九月十八日付け答弁書によれば、硝酸ウラニル溶液の製造許可(一九八四年)に関する安全審査は「適切に行われた」ということであり、また、事故となった転換試験棟の沈殿槽使用の動機は「ウラン濃度の均一化のため」という趣旨の回答があった。ところが、十月二十一日、水戸地裁におけるJCO刑事裁判の最終弁論において、弁護団はこの答弁書の内容とは食い違う重大な主張を行った。 主張の内容は、第一に、一九八六年の硝酸ウラニル溶液の最初の契約に当たって、JCOは一バッチ一ロットを提案したにもかかわらず、動力炉・核燃料開発事業団(現核燃料サイクル開発機構、以下「動燃」という。)が「検査や輸送にかかわる期間を短縮するため」として一ロット四〇リットル(約七バッチ)を要求し、そのように契約することになったというものである。第二に、硝酸ウラニル溶液の混合均一化の目的は、「ウラン濃度、不純物、遊離硝酸」の均一化であり、バッチごとにウラン濃度は若干異なり、不純物の量は違い、遊離硝酸濃度は微妙に変わる、というものである。 一九八四年の製造品目に硝酸ウラニル溶液を追加した際の安全審査では、溶液の「ウラン濃度、不純物含有量、遊離硝酸」など具体的なことは何も決められていないのに、転換試験棟の精製施設での製造許可が認められた。臨界管理についての検討は行わないままでの審査と認可承認だったということができる。そして、臨界事故はこの精製施設の中の沈殿槽で発生した。原子力安全委員会のJCO事故調査委員会「最終報告書」は、「ウラン濃度の均一化のために」沈殿槽を使用したと述べ、九月十八日付け答弁書もこれを再確認しているが、弁護団は最終弁論において「濃度、不純物、遊離硝酸の均一化」が目的であったと主張したのである。 ウラン濃度は、計量によって制御可能である。四リットル容器に精製したウラン一四八〇・〇グラムと硝酸を入れて四リットルにすれば、一リットル当たり三七〇グラムウランの濃度の硝酸ウラニル溶液ができる。これをバケツで十本造れば、「最終報告書」に記されている一ロット四〇リットルの濃度の均一な硝酸ウラニルができる。「濃度の均一化」だけのためであれば、これを混合する必要は全くない。 ところが、不純物の場合は、意図して入れたり出したりできない。高速実験炉「常陽」の一九八六年に結ばれた第四次取替炉心以降の契約書によれば、十五種類の元素について〇・三PPMから一〇〇PPM以下にするという条件であるが、これはJCOの精製工程により既に解決されており、バケツのみの使用であれば溶解の時点で考慮しなければならないことではない。また、遊離硝酸は「微妙に変わる」という程度のことであって、次のプルトニウム溶液と混ぜて加熱する工程では何ら影響はない。 もし、弁護団が指摘したように、JCOが一バッチ一ロットを主張したのであれば、それは臨界管理のための、いわゆる一バッチ縛りを完全に履行する唯一の方法であったからであると考えられる。臨界管理のための一バッチ縛りとは、ステンレス容器等を使ってウラン二・四キログラムを硝酸に溶かして六・五リットルにすれば一リットル当たり三七〇グラムウランの濃度の硝酸ウラニルが得られるということであり、これを一ロットとすれば、臨界安全管理も品質管理もいかなる問題も発生しなかったのである。動燃の要求した一ロット四〇リットルに比べれば、分析コストが六倍から七倍にアップするとはいえ、臨界事故によって生まれる被害に比べればどちらが正しいかは明らかである。一バッチ縛りの場合は転換試験棟の精製施設を使う必要はなく、「バケツ」、「ミルク缶」、「ステンレス容器」など、どのような呼称の容器であれ、臨界条件に達することのない小さな容器があれば良いのであって、四〇リットルから一〇〇リットル近い容量の溶解塔や貯塔や沈殿槽を使うことはなかった。 したがって、この精製施設を使って硝酸ウラニル溶液を造ることの安全審査と設置変更許可が適切に行われたという政府答弁には大きな疑義があるので、以下質問する。 一 一九八六年の硝酸ウラニル溶液についての最初の契約に当たって、動燃が一ロット四〇リットルを要求したのは事実か。 二 この契約の際、動燃が「検査や輸送に関わる期間を短縮するため」に、これを要求したというのは事実か。 三 事実であれば、JCOの臨界事故は、動燃の臨界管理を無視した無理な注文によって発生したと考えられる。容量九・五リットル程度のバケツを使用していた方が、むしろ臨界管理ができたのではないかと考えるが、いかがか。 四 一ロット四〇リットルで「化学的組成を均一化」させようとすれば、クロスブレンディングであろうと、改造貯塔や沈殿槽であろうと約七バッチ分の硝酸ウラニルを同時処理しなければならず、一バッチ縛りを守ることができない。事故を発生させた沈殿槽に約七バッチ分の硝酸ウラニルを入れることになった「動機」は、動燃の無理な注文にあったと判断すべきであると考えるが、いかがか。 五 一バッチ縛りを現実的に実行するためには、一バッチ一ロットずつの生産管理を実行するしかない。これは少量容器(バケツ等のステンレス容器)を使って実現できるものであるにもかかわらず、一九八四年の硝酸ウラニル溶液製造許可は精製施設にて生産するというものであった。この施設はバッチ生産には大き過ぎるだけでなく、不純物の混入が避けられないものであった。精製施設とは不純物の精製であって、塔や槽の中に不純物が残っているからである。そこで、この施設で溶液を造るとせっかく精製した八酸化三ウランに再び不純物を混入することになって、不純物の処理という予期せぬ作業が発生することになった。その結果、弁護団の主張するようにこの不純物濃度を均一化する必要が生じて臨界事故になったのではないか。 六 以上の理由で、一九八四年の安全審査及び硝酸ウラニル溶液の製造許可は重大な誤りであったと判断されるが、いかがか。 右質問する。 |