質問主意書

第155回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一三号

日本の戦後処理問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年十二月十二日

櫻井 充   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   日本の戦後処理問題に関する質問主意書

 かつての大本営も、現在の日本政府・外務省も、第二次世界大戦に関して生じた様々な問題を隠蔽し、「たいしたことはない」とその場をしのいで、次々と事態を悪化させ、国益を損なう政策を展開してきた。アジアの近隣諸国や米国との間に横たわる戦後処理問題も、つまらない省益や面子を捨てて、率直に問題を国民に知らせ、場合によってはドイツ政府が行ったように企業を説得してでも、誠実かつ迅速に、被害者の納得が得られ、本当の和解につながる政策を採るべきである。戦後処理問題での外務省の過去の対応における責任は極めて重い。
 そこで、以下質問する。

一 今年の十一月十九日、大阪高等裁判所は、戦争中に日本製鉄大阪製鉄所で強制労働させられていた韓国人元徴用工二人が、国と新日本製鉄を相手取って謝罪と未払賃金の支払などを求めた訴訟の控訴審判決で、強制労働の事実は認定したものの、「原告らの請求権は一九六五年の日韓請求権協定によってすべて消滅している」との判断を示し、訴えを退けた。

1 これに関し、一九九一年八月二十七日の参議院予算委員会で、外務省の柳井条約局長は、一九六五年の日韓請求権協定では、相互に放棄したのは国の外交保護権であり、個人の請求権までは消滅していない旨答弁しているが、政府は現在もこの見解をとっているか。
2 この二人への未払賃金は東京法務局に供託してあると国が原告に説明しているが、それは事実か。
3 この二人の原告のような、朝鮮半島出身の元日本軍人・軍属及び民間の被徴用者へ本来支払うべき未払賃金で法務局に供託されているものは何人分で、総額は幾らか。それらを支払うために政府はこれまでどのような努力をしてきたのか。名簿を公表するなどして広報を行ってきたり、韓国において調査を行ってきたのか。また、北朝鮮に対してはどうするつもりなのか。

二 昨今北朝鮮の拉致問題が国民の注目を集め、報道にも頻繁に取り上げられている。今回の拉致被害者支援法には「未曾有の国家的犯罪行為によって」という文言があるが、敗戦後そのまま捕らえられ、極寒の地で長期間抑留された上強制労働させられた、シベリア抑留は、より大規模で組織的な人権侵害で、そのことは一九九三年に来日したエリツィン大統領も認めて謝罪している。ところが、政府・外務省は、真相の究明や抑留者への補償などこの問題に対してなすべきことを何もなさず、この不作為が原因で多くの日本人が、今日まで長く大変な苦労を強いられてきた。現在でも、平均年齢八十歳を超える方々がこの寒い中を国会前の路上に座り込んで、シベリア抑留の問題を解決のため訴え続けなければならない情けない状況である。

1 十一月二十二日に元抑留者の方々が未払賃金の支払を求めて国会前で座込みを行った後、小泉総理あての要請書を内閣府に提出した。この要請書に総理は回答をしたのか。
2 この未払賃金の問題についての政府の見解を答えられたい。
3 元抑留者に対しては、労働証明がないとの理由で未払賃金が支払われていないようだが、ロシア政府は、元抑留者らの求めに応じて一九九二年以来「労働証明書」を発行している。ロシア側はこれらの「労働証明書」で問題が解決することを期待すると公式に表明しているが、日本政府はこの「労働証明書」を公式文書と認めていないが、それはなぜか。
4 強制連行・拉致・抑留という観点でシベリア抑留は国際法違反ではないのか。国際法違反であるならばロシアに対して補償を請求すべきではないのか。
5 一九五六年の日ソ共同宣言でロシア(ソ連)に対して国としての請求ができなくなったのであるならば、抑留問題が被害者自らの意思でなく、国が徴兵して送り出した結果生じたものなので、元抑留者に対し、政府が未払賃金を払うか補償を行うべきではないか。
6 政府はシベリア抑留について国家としての政治的責任を感じていないのか。政府はこの問題は終わったものと考えているのか、解決を先延ばしにして年老いた元抑留者が死亡して問題が自然消滅するのを待っているのか。

三 戦後、第二次世界大戦に関する補償裁判は、一九九九年以降米国でも起こされていて、日本企業や日本政府が訴えられている。

1 現在までに幾つの裁判があって、日本企業は何社訴えられているのか。
2 特に日本軍の捕虜になった米国人元兵士のケースに米国政府や議会は強い関心を寄せているようだが、日本政府は米国の裁判所でどのような答弁をしているのか。冒頭述べた「個人の請求権」については、サンフランシスコ講和条約でも消滅していない旨昨年三月二十二日の参議院外交防衛委員会で海老原条約局長が答弁しているが、これと同様の趣旨のことを述べているのか。
3 米国連邦議会の上下両院にこうした問題について提出された決議案や法案は幾つあるのか。また、政府は、そうした動きをどう受け止めているのか。
4 これら戦後補償問題が日米間の信頼を揺るがす外交問題になっているとの指摘もあるが、日米政府間でこのことを話し合ってきたのか。
5 九月二十五日、米下院司法委員会補償小委員会で、キャノン下院議員の質問に答えて、国務省のタフト法律顧問が、国務省がこの問題で日本政府・企業にアプローチしたことを確認した上で、「日本側からよい反応が得られていない」と証言している。この発言内容は事実か。事実であれば、日本側は、いつ、だれが、どのような対応をしたのか。

  右質問する。