質問主意書

第155回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四号

黒部川水系の治水と砂防に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年十一月十四日

中村 敦夫   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   黒部川水系の治水と砂防に関する質問主意書

 日本有数の急流河川であり、土砂崩壊地域が七千か所にも及ぶ黒部川水系では、年間約百四十万立方メートルもの土砂が下流に流れ出る。そのため、黒部川水系における治水と砂防については、自然環境に十分な配慮を行い、住民の意見にしっかりと耳を傾け、慎重に慎重を重ねた姿勢で臨む必要がある。
 しかし、数年来、関西電力・出し平ダムと国土交通省・宇奈月ダムの排砂によって、河口沿岸海域において深刻な漁業被害が発生している。このような被害を目の当たりにすると、残念ながら、政府の黒部川水系における治水と砂防への姿勢には、強い疑問を抱かざるを得ない。
 以上の観点から、次の事項について質問する。なお、同様の文言が並ぶ場合でも、各項目ごとに平易な文章で答弁されたい。

一、黒部川水系渓流環境整備計画について

 一九九七年、建設省黒部工事事務所は、黒部川水系渓流環境整備計画を策定した。同計画は、黒部川の今後の砂防事業に関する基本指針を示し、環境整備のために黒部川流域をA、B、C、Dの四ゾーンに分けている。
1 下廊下・十字峡地区は、なぜAゾーンなのか、具体的な根拠を示されたい。
2 サンナビキ・嘉ヶ堂谷地区は、なぜBゾーンなのか、具体的な根拠を示されたい。
3 小黒部・黒薙・祖母谷地区は、なぜCゾーンなのか、具体的な根拠を示されたい。
4 宇奈月温泉周辺地区は、なぜDゾーンなのか、具体的な根拠を示されたい。
5 ゾーン分けを行うに当たって、環境調査を実施したのか。実施したのならば、その内容を明らかにするとともに、関係資料を公表されたい。実施していないならば、その理由を明らかにするとともに、「整備」を想定しているB、C、Dゾーンについて、どのような環境調査を行う予定なのか、明らかにされたい。
6 それぞれのゾーンにおける土砂流出対策はどうなっているのか。それぞれのゾーンの最下流域における計画生産土砂量及び計画流出土砂量とともに示されたい。

二、黒薙川の砂防計画について

1 国土交通省黒部工事事務所は、一九九四年に策定した「直轄砂防事業の取り組み(試案)(黒部川水系)」において、黒薙川に砂防ダム十一基を建設する計画を示している。そのうち、施工中を含めて既に六基が建設途上にあるが、まだ建設されていない砂防ダム五基について、計画地点をそれぞれ具体的に示されたい。
2 黒薙川に関して、国土交通省に対して照会をしたところ、本年五月三十日付で回答「黒部川水系黒薙川に関する資料」(以下「国交省回答」という。)を受領した。国交省回答によると、柳又谷砂防ダム群第一号堰堤について、「具体的な計画はない」としている。ところが、国土交通省黒部工事事務所が作成したパンフレット「黒部水系版」によると、「黒部川水系要望主要プロジェクト」として同砂防ダムの計画が記載されている。これはどういうことなのか、事実関係を明らかにされたい。
3 柳又谷及び北又谷一帯を砂防指定地としているのか。指定地としているならば、指定時期を明らかにするとともに、申請書類等の関係資料を公表されたい。

三、黒部川水系の治水について

1 国交省回答によると「平成三年度以降は、黒薙ダムの調査は行っていない」とされているが、黒薙ダムの現在の位置付けはどうなっているのか。休止、中止等の進捗類別、並びに事業再開予定の時期及び条件をそれぞれ示されたい。
2 黒部川水系工事実施基本計画は、何年度に実現する見込みなのか。本計画が実現するまでの治水対策と併せて、具体的に示されたい。
3 黒部川水系工事実施基本計画は、黒薙ダムによる流量カットを計画中に織り込んでいる。ところが、国交省回答によると「黒薙ダムについては、実施計画調査の段階にも至っておらず、計画が未策定であり、総事業費は未定である。また、来年以降の事業スケジュールも未定である」とされている。すると、同様に黒部川水系工事実施基本計画に基づく宇奈月ダムの在り方は、全面的に見直されなければならない。しかし、事業見直しの任を負っていた宇奈月ダム事業審議委員会において、事務局を務めた北陸地方建設局は黒薙ダム建設のめどが立っていないことを同委員会に知らせなかったと聞くが、事実か。事実であるならば、宇奈月ダム運用の在り方を含め、黒部川水系の治水対策について、住民参加による検討の場を設定するべきではないか。事実でないならば、同局が同委員会に知らせた経緯を具体的に明らかにされたい。
4 宇奈月ダムに併設された宇奈月発電所について、ダムの規模に比べて発電量が小さいと聞くが、どうか。また、二〇〇一年四月一日から本年十月三十一日までの同発電所における発電実績を、日毎に示されたい。
5 宇奈月ダムについて、完成して一年以上が経過しているにもかかわらず、水道設備の建設計画がなく、水道利用のめどが全く立っていない。また、発電量も小さいと聞く。そして、国土交通省が、大規模ダムの新規着手凍結の代替案として、既存ダムを治水面で徹底的に活用するとの方針も示している。したがって、宇奈月ダムの利水容量を治水容量に転用することは可能であると考えるが、どうか。
6 宇奈月ダムの利水容量を治水容量に転用することとなれば、同ダムに設けられた排砂ゲートの常時開放が可能となる。そこで、同ダムの排砂ゲートを常時開放とした場合、宇奈月ダムの洪水調節効果はどうなるのか、計算の上、その結果を具体的に示されたい。

四、黒部川水系の河川整備基本方針及び河川整備計画について

1 黒部川水系の河川整備基本方針及び河川整備計画について、策定の進捗状況並びに今後の策定スケジュールをそれぞれ具体的に明らかにされたい。
2 河川整備計画は、流域委員会において策定内容が検討されることとなっている。黒部川水系の流域委員会について、設置時期及び委員構成をそれぞれ示されたい。
3 近畿地方整備局は、管内の流域委員会のほとんどについて、委員を一般から公募していると聞く。黒部川水系の流域委員会においても、同様に委員を一般から公募すべきであると考えるが、どうか。

五、富山県漁業協同組合連合会と関西電力株式会社の間において、出し平ダムの排砂に伴い、「金銭」のやり取りがあった。この「金銭」について、木下寛之水産庁長官は「富山県漁連と関西電力との間で、ダム排砂に伴います漁業補償及び漁業振興のための契約が取り交わされた」と、本年四月十六日の参議院農林水産委員会で答弁している。一方、この「金銭」について、関西電力株式会社取締役会は「排砂に伴う損失補償基準を元に支出しており、すべて補償金である」と、本年六月二十七日の同社株主総会において答弁している。両者の主張には、「漁業振興のための契約」の有無について矛盾が生じているが、どちらが正しいのか。関西電力株式会社取締役会の主張が間違っている場合、彼らが背任罪等に問われることを踏まえ、答弁されたい。

  右質問する。