質問主意書

第154回国会(常会)

答弁書


答弁書第二五号

内閣参質一五四第二五号
  平成十四年六月二十八日
内閣総理大臣臨時代理           
国務大臣 福田 康夫   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員加藤修一君提出我が国における「予防原則」の確立と化学物質対策等への適用に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員加藤修一君提出我が国における「予防原則」の確立と化学物質対策等への適用に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の「環境と開発に関するリオ宣言」(以下「リオ宣言」という。)の原則十五で示された「予防的な取組方法」の考え方を踏まえ、環境基本法(平成五年法律第九十一号)第四条は、「環境の保全は、(中略)科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行われなければならない」と規定している。同法の制定に当たっては、中央公害対策審議会企画部会及び自然環境保全審議会自然環境部会において審議等が行われており、その経過等は別表一のとおりである。
 また、同法に基づき平成六年十二月十六日に閣議決定した環境基本計画においては、「基本的な方向」として、「重大な、あるいは取り返しのつかない破壊のおそれがある場合には、科学的な確実性が十分にないことをもって環境悪化を予防するための費用対効果の高い手段をとることを延期する理由とすべきではないという考え方に基づいて施策を進める」ことを定め、リオ宣言の原則十五の趣旨を盛り込んだところである。同計画の策定に当たっては、中央環境審議会企画政策部会において審議等が行われており、その経過等は別表二のとおりである。平成十二年十二月二十二日に閣議決定した環境基本計画(以下「第二次基本計画」という。)においても、「環境政策の指針となる四つの考え方」の一つとして「予防的な方策」を位置付け、環境問題のうち、「長期間にわたる極めて深刻な影響あるいは不可逆的な影響をもたらすおそれが指摘されている問題」については、「完全な科学的証拠が欠如していることを対策を延期する理由とはせず、科学的知見の充実に努めながら、必要に応じ、予防的な方策を講じ」ることを定め、リオ宣言の原則十五の趣旨を盛り込んだところである。第二次基本計画の策定に当たっては、中央環境審議会企画政策部会において審議等が行われており、その経過等は別表三のとおりである。

二について

 リオ宣言の原則十五で示された「予防的な取組方法」の考え方は、国際的にも環境政策における重要なものの一つとして位置付けられていると承知している。御指摘の会議等に政府関係者は出席していないが、これらに係る会議文書や報告書を適時入手するなどして、「予防的な取組方法」の考え方に関連する重要な会議の結果や報告書の内容等について的確に把握し、これらの研究及び検討に努めている。

三について

 化学物質に係る規制等を定めた法律のうち、第二次基本計画にいう「予防的な方策」の考え方に沿うもの及びその条項には、例えば次のものがある。
 環境省、経済産業省及び厚生労働省の所管する法律としては、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和四十八年法律第百十七号。以下「化学物質審査規制法」という。)第三条、第四条等及び特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成十一年法律第八十六号)第五条等がある。
 厚生労働省の所管する法律としては、食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)第六条等、毒物及び劇物取締法(昭和二十五年法律第三百三号)第十五条の三等、水道法(昭和三十二年法律第百七十七号)第四条等、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第十四条等、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第五十六条等及び有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律(昭和四十八年法律第百十二号)第六条第一項等に規定する人の健康に対する化学物質等の影響を未然に防止するための各種の規制等がある。
 また、これらの施行に関して必要な事項は、政令又は省令等に定められている。

四について

 化学物質の安全性を評価するに当たり、必要な情報の収集等を政府が行うのではなく、当該化学物質の製造者等に行わせるものとしては、例えば、化学物質審査規制法においては、新規化学物質を製造し、又は輸入しようとする者は、当該化学物質が難分解性等の性状を有し、かつ、人の健康を損なうおそれがあるかどうかについて、あらかじめ一定の事項を主務大臣に届け出てその判定を受けなければならず、判定結果の通知を受けた後でなければ、当該化学物質を製造し、又は輸入してはならないとされているところ、届出の際、主務大臣の判定に資するよう、当該化学物質について実施される試験の試験成績の提出を求めることとしている。また、化学物質審査規制法第二条第四項の指定化学物質については、主務大臣は、試験成績その他当該指定化学物質に関して得られている知見及びその製造、輸入、使用等の状況からみて、当該指定化学物質が同条第三項の第二種特定化学物質に該当するかどうかを判定する必要があると認めるに至ったときは、当該指定化学物質の製造又は輸入の事業を営む者に対し、当該指定化学物質が継続的に摂取される場合における人の健康に及ぼす影響についての調査を行い、その結果を報告すべきことを指示することができるものとされている。
 海外の動向については、例えば、欧州委員会が二千一年二月に公表した「今後の化学物質政策の戦略に関する白書」において、産業界は化学物質に関するデータの作成と評価及び化学物質の使用に係るリスクの評価について責任を負うべきであるとの考え方が示されていると承知しているが、同白書の内容が具体的にどのような形で実施されるかを含め、引き続き情報の収集に努める必要があると考えている。

五について

 化学物質や農薬について、その有害性等に係る科学的知見が十分ではなくとも、製造、販売又は使用等に係る規制を行っている例としては、四についてで述べた新規化学物質に関する規制等がある。
 御指摘のいわゆる化学物質過敏症等については、そのような病態の存在自体や化学物質による影響の有無を含めて学問的に未解明の点が多いが、人の健康に対する影響を未然に防止する観点から、各省が連携してこれらについての科学的知見を収集すべく調査研究を進めるとともに、その成果を公表するなどして、関係各方面におけるリスクの低減に向けた取組に資するよう普及啓発を図っている。

六について

 第二次基本計画は、地方におけるヒアリング、パブリック・コメント手続等を実施することにより各界各層の意見を採り入れて策定したものである。第二次基本計画の第二部第二節においては、リオ宣言の原則十五を踏まえ、「環境政策の指針となる四つの考え方」の一つとして「予防的な方策」を位置付けており、そこで示した考え方は、第二次基本計画第三部に定めた各種の環境保全施策に反映させている。今後とも、この考え方に基づいた個別の施策を効果的に実施することが重要であると考えている。

七について

 「予防的な方策」の考え方を盛り込んだ第二次基本計画については、パンフレットの配布、講演会等での説明等を通じて周知を図っている。また、「予防的な方策」の考え方及びそれに基づく各種の施策並びに国際的な動向等については、環境白書や環境省のホームページ等を通じて普及啓発等を図っている。

八について

 第二次基本計画の第二部第二節においては、「環境政策の指針となる四つの考え方」の一つとして「予防的な方策」を位置付けており、そこで示した考え方に基づいて各種の環境保全施策を推進しているところである。

九の1について

 いわゆる子供の環境保健については、御指摘の「マイアミ宣言」等の国際的な動向を踏まえ、子供の特性を考慮した環境基準の設定、子供の環境リスク評価に関する情報収集、内分泌かく乱化学物質に関する調査研究等を行ってきたところである。今後とも、胎児や乳幼児に対する化学物質の影響等に関する調査研究を推進し、得られた科学的知見を活用しつつ、着実な取組を進めてまいりたい。
 また、御指摘の「閣僚宣言」で言及された「子供の環境保健の指標の開発」については、今後の国際会議等への参加を通じて諸外国の動向を把握しつつ、必要な対応について検討してまいりたい。

九の2について

 環境基本法第十六条に基づく環境基準については、従来から、疫学調査や毒性試験等による科学的知見を基礎とし、対象物質によっては乳幼児等の存在を考慮した係数を使用するなどして、成人のみならず乳幼児等も含めて安全が確保できる数値を設定してきている。今後とも、こうした方針に基づき、適切な環境基準の設定に努めてまいりたい。
 また、こうした取組に加え、子供の健康を損なうおそれのある化学物質については、製品等又は環境を経由した暴露の適切な管理、より安全性の高い代替物質への転換等に取り組むことが必要であると考えている。

九の3について

 子供の環境保健については、九の1についてで述べたとおり、子供の特性を考慮した環境基準の設定、子供の環境リスク評価に関する情報収集、内分泌かく乱化学物質に関する調査研究等を行っているところであり、当面は、国際的な動向を注視しつつ、これらの取組を着実に進めてまいりたい。

九の4について

 内分泌かく乱化学物質の問題については、内分泌かく乱作用のメカニズムなど科学的には未解明な点が多く、その解明のためには科学的知見を集積することが最も重要であるため、関係各省で連携しつつ、諸外国等とも協調しながら、内分泌かく乱作用が疑われる物質について、毎年、環境中の実態把握を行うとともに、内分泌かく乱作用を確認するための試験評価方法の開発及び動物実験の実施、文献調査等の取組を進めている。
 なお、その過程において、内分泌かく乱作用の有無にかかわらず、有害性が認められた化学物質については、リスク評価を行った上で、適切なリスク管理を行うこととしている。

九の5について

 化学物質が複合的に作用した場合の健康への影響については、例えば、厚生労働省においては、子供に対する影響の解明を目的として、動物を用いた実験や妊婦及び乳幼児を対象とした疫学研究等を行っており、環境省においては、化学物質の複合暴露に関する基礎データの収集を目的として、河川水、大気及び土壌中の変異原性物質に関する調査研究を行っている。引き続きこれらの調査研究を進めるとともに、その成果を今後のリスク評価及びリスクを低減するための取組に活用してまいりたい。

別表一(1/2) 中央公害対策審議会企画部会及び自然環境保全審議会自然環境部会における審議の経過等

別表一(2/2) 中央公害対策審議会企画部会及び自然環境保全審議会自然環境部会における審議の経過等

別表二(1/2) 中央環境審議会企画政策部会における審議の経過等

別表二(2/2) 中央環境審議会企画政策部会における審議の経過等

別表三(1/2) 中央環境審議会企画政策部会における審議の経過等

別表三(2/2) 中央環境審議会企画政策部会における審議の経過等