質問主意書

第154回国会(常会)

答弁書


答弁書第一二号

内閣参質一五四第一二号
  平成十四年三月十九日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員谷博之君提出国際協力銀行及び独立行政法人日本貿易保険の環境ガイドラインに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員谷博之君提出国際協力銀行及び独立行政法人日本貿易保険の環境ガイドラインに関する質問に対する答弁書

一について

 国際協力銀行(以下「JBIC」という。)により昨年十二月二十八日にパブリックコメントにかけられたJBIC環境ガイドライン(案)(以下「新環境ガイドライン(案)」という。)では、前書きにおいて、「国際社会とりわけ開発途上地域の持続可能な開発への努力に貢献するために、本環境配慮ガイドラインを定め、公表する」と明記されている。また、同じく前書きにおいて、「環境配慮とは、自然のみならず、非自発的住民移転や先住民等の人権の尊重他の社会面を含む環境への配慮である」と明記されている。JBICは、このような記述により、新環境ガイドライン(案)が、国際協力銀行の環境ガイドライン統合に関する研究会(以下「研究会」という。)の提言の趣旨を反映しているものと認識しているが、この研究会の提言をより明確に反映させるため、「環境社会配慮」等の文言を新たなガイドラインに盛り込む方向であると承知している。

二について

 新環境ガイドライン(案)では、特に影響が重大と思われる案件や異論の多い案件については、専門家の意見を求めることが重要であるとの考え方や、かかる意見の徴求の手続はプロジェクト実施主体により行われるべきであるとの考え方に基づき、その第2部の1において、プロジェクト実施主体が「特に影響が重大と思われるプロジェクトや、異論の多いプロジェクトについては、アカウンタビリティを向上させるため、必要に応じ、専門家等からなる委員会を設置し、その意見を求める」と明記されていると承知している。
 また、JBICが外部専門家の意見を求めた場合には、審査プロセスの透明性と説明責任を十分に確保するとの観点から、商業上等の秘密を尊重した上でその意見の内容を公開するものと承知している。

三について

 カテゴリFIに属するプロジェクトについては、融資契約締結時点において融資等の対象となる個別案件が具体的に特定されていないことや、金融仲介者等の環境配慮を確保する能力等に差があることから、環境レビューをどのように行うかを一律に決めることが困難なため、新環境ガイドライン(案)の第1部の4(3)において、一般的な考え方として、「金融仲介者等を通じ、プロジェクトにおいて本ガイドラインに示す適切な環境配慮が確保されるよう確認する」旨の記述を行ったものと承知している。その上で、具体的に環境配慮の確保を確認する方法等に関しては、JBICにおいて、例えば、「よくある質問への回答」と題する問答集(以下「FAQ」という。)等を作成し公開することなどが別途検討されていると承知している。

四について

 新環境ガイドライン(案)の第1部の4(4)においては、モニタリングの実施期間について「一定期間」と記述されており、これは案件ごとにその性格、想定される環境影響の重大さ、不確実性等を考慮し個別にその期間を設定することが適当と考えられたためであると承知している。また、モニタリングに係る現地調査については、同じく新環境ガイドライン(案)の第1部の4(4)において「必要に応じ、本行が自ら調査を実施することがある」と記述されている。これらの期間及び調査の具体的な内容に関しては、JBICにおいて、例えばFAQ等を作成し公開することなどが別途検討されていると承知している。

五について

 お尋ねの情報公開の期間については、JBICにおいて、海外経済協力業務及び国際金融等業務それぞれの業務の性格、融資形態、案件の内容等を踏まえて検討されていくものと承知しているが、JBICはその具体的な指針について、例えばFAQ等を作成し公開することなどを別途検討していると承知している。

六について

 新環境ガイドライン(案)では、プロジェクト実施主体のみならず、JBIC自身による本件ガイドラインの遵守を確保することが重要であるとの考え方から、その第1部の7において、「本行は、本行によるガイドラインの遵守を確保するため、本行のガイドライン不遵守に関する異議申立を受け付け、必要な措置をとる」旨明記されていると承知している。
 その上で、御指摘のような機関の設置のため、JBICは、国際機関等の類似の仕組みにおける経験等を踏まえつつ、学識経験者や非政府機関(NGO)、産業界等の関係者が議論を行う場を設け、どのような仕組みが適切か十分に検討する考えであると承知している。

七について

 新環境ガイドライン(案)の第2部の1においては、対象プロジェクトに求められる環境配慮が明記されているが、これらの環境配慮が確実に実行されるよう、外務省及びJBICは、相手国の主権を尊重しつつ、相手国(地方政府を含む。)、借入人及びプロジェクト実施主体(以下「借入人等」という。)との間で環境配慮に係る対話を重視していく考えである。具体的には、JBICは、そのホームページにおいて、新環境ガイドライン(案)を和文及び英文で公開するとともに、国内の産業界等に対しても「パブリック・コンサルテーション・フォーラム」という説明会をこれまで四回開催し新環境ガイドライン(案)について説明を行っており、また、外務省及びJBICは、新環境ガイドライン(案)について借入人等の理解を深めるため、借入人等に対して説明等を行っている。今後とも、外務省及びJBICは、それぞれの役割に応じて、JBICが融資等を行うプロジェクトについて、適切な環境配慮がなされるとともに開発途上地域の持続可能な開発に寄与することができるよう借入人等に対して理解を求め、必要に応じ申入れなどを行う考えである。

八について

 新環境ガイドライン(案)の第2部の2においては、カテゴリAに分類されるプロジェクトに必要な環境アセスメント報告書(以下「EIA」という。)について記述しているが、そのうち、EIAの公開等に関する規定を有効かつ実効性があるものにする必要があるとの観点から、外務省及びJBICは、主要な円借款借入国におけるEIAの公開等に関して調査を行っている。その結果等は以下のとおりである。
 外務省は、円借款プロジェクトに関して、新環境ガイドライン(案)に規定されているEIAの現地での公開、閲覧及び写しの取得が可能であるか否かについて、中国、インドネシア、タイ、フィリピン、マレイシア、ヴィエトナム、モンゴル、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリ・ランカ、モロッコ、テュニジア及びペルーの合計十四か国に照会し、本年三月十三日現在、中国、タイ、フィリピン、マレイシア、ヴィエトナム、モンゴル、パキスタン、バングラデシュ、テュニジア及びペルーの合計十か国から一応の回答を得ている。
 このうち、フィリピン、マレイシア及びペルーの三か国からは、EIAの現地での公開、閲覧及び写しの取得は可能である旨の回答を得ている。
 パキスタン及びモンゴルの二か国からは、EIAの現地での公開及び閲覧については可能であるとした上で、パキスタンからは、写しの取得についてはさせていない旨の、モンゴルからは、写しの取得については企業秘密に当たる部分も含んでいることから関係者の同意なしにはできない旨の回答をそれぞれ得ている。
 中国、ヴィエトナム、バングラデシュ及びテュニジアの四か国からは、各国とも法令等にEIAの公開等に係る規定がないとした上で、中国からは、世界銀行の融資を受けるプロジェクトの場合は同銀行の情報センターにおいてEIAがインターネット等により公開されているが、円借款プロジェクトに係るEIAについては公開の主体等具体的な公開方法等について現在関係部門の意見を聴取している旨の、ヴィエトナムからは、原則として円借款案件に関するEIAを公開等することに同意することができるが、具体的なプロジェクトの公開等に当たっては随時日本及びヴィエトナム双方の合意が必要と考える旨の、バングラデシュからは、案件ごとに公開するか否かについて主管官庁、環境省等が協議して決めることになっており、すべての案件についてEIAが公開されているわけではないが、世界銀行の案件については、既に公開されており、円借款プロジェクトに係るEIAの公開について法律上又は制度上の障害はない旨の、テュニジアからは、EIAの住民への公開については何も定められておらず、実際にそのような体制になっていないが、法令で禁止されていない以上EIAの公開に特に問題はない旨の回答をそれぞれ得ている。
 タイからは、円借款に係るものも含めてEIAはすべて情報公開法の適用対象となる公的情報であって、法令上請求があれば請求者に提供される旨の回答を得ている。
 また、JBICが行った調査に関してJBICから聴取したところ、その内容は以下のとおりである。
 JBICは、EIAの現地での公開、閲覧及び写しの取得が可能であるか否かについて、中国、インドネシア、タイ、フィリピン、マレイシア、ヴィエトナム、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリ・ランカ、モロッコ、テュニジア、ペルー及びブラジルの合計十四か国について、各国にある駐在員事務所等を通じて調査を行っているところである。
 このうち、中国、インドネシア、タイ、フィリピン、マレイシア、パキスタン、スリ・ランカ及びブラジルの合計八か国については、円借款受入れの窓口機関等に確認したところ、現地及びJBIC本店においてEIAを公開することについてはおおむね支障はないとのことであった。ただし、中国については、世界銀行等の国際機関により支援を受けているプロジェクトに係るEIAは現地で公開されているが、国内事業について実施機関が当該事業に係るEIAを公開している例はほとんどないとのことであった。
 残余の六か国については引き続き調査中である。

九について

 EIAの公開等は、プロジェクト実施主体による適切な環境配慮を促す上で極めて重要であり、新環境ガイドライン(案)の第2部の2において、環境への重大で望ましくない影響のある可能性を持つようなプロジェクト等カテゴリAに分類されるプロジェクトについては、「満たされていることを原則とする」項目の一つとして「環境アセスメント報告書は、地域住民等も含め、プロジェクトが実施される国において公開されており、地域住民等のステークホルダーがいつでも閲覧可能であり、また、コピーの取得が認められていることが要求される」ことが明記されている。
 お尋ねの点については、以上を踏まえて、本件ガイドラインが策定された後、具体的なプロジェクトの検討を進める中で個別具体的に検討されていくべきものであると考えており、プロジェクトの環境社会面への影響に対する我が国国内における関心の高まりを踏まえつつ、本件ガイドラインに関する相手国の理解を深めるよう、EIAの公開等を行っている国の例や国際機関の対応振りを適宜紹介しながら借入人等に対して必要な説明等を行っていく考えである。

十について

 現在、独立行政法人日本貿易保険(以下「NEXI」という。)及びJBICの双方で環境ガイドラインの改正作業を行っているが、基準や条件が異なると、緩やかな方に顧客が流れるおそれもあることから、最終的に策定されるNEXIのガイドラインとJBICのガイドラインの基準や条件は、環境への配慮が十分であると一般的に認められるレベルで、実質的に同じ水準になることを期待している。

十一について

 NEXIのガイドラインの改正案に対して、本年一月三十日及び二月二十一日にNEXIが開催した説明・意見交換会の場において提示された意見や、一月三十日から二月二十八日までの間にパブリックコメントとして提示された意見(以下「パブリックコメント等」という。)については、現在NEXIにおいて十分検討がなされているところであり、それらを踏まえた上で、NEXIとして最終的にガイドラインを策定するとともに、パブリックコメントとして提示された意見等について、意見の概要及び意見に対するNEXIの考え方と対応をとりまとめた上、ホームページ等で公開を行う予定であると承知している。

十二について

 御指摘の点については、現在、パブリックコメント等を踏まえ、NEXIにおいて検討しているところと承知している。

十三について

 EIAの提出については、NEXIでは、現行のガイドラインにおいてもカテゴリーAに属するプロジェクトについてはこれを義務付けているところであり、今般の改正においても、その考え方を踏襲することとしていると承知している。また、EIAの公開については、商業上その他の秘密を尊重しつつ、可能な範囲で公開に取り組むこととしているところ、現在、パブリックコメント等も踏まえて検討しているものと承知している。

十四について

 事業の環境配慮が適切に行われるか否かについては、プロジェクトについて知見を有するところのプロジェクト実施主体からの情報を基に輸出者等が「環境配慮確認票」に所要の事項を記入し、それをNEXIが自ら確認しているところであるが、御指摘の点については、現在、パブリックコメント等を踏まえ、NEXIにおいて検討しているところと承知している。

十五について

 御指摘の点については、現在、パブリックコメント等も踏まえNEXIにおいて検討しているところと承知している。

十六について

 事業の実施者が政府関係機関であるか否かにかかわらず、NEXIにおいて、適切に環境配慮の確認がなされるものと考える。

十七について

 情報公開に関しては、改正後のガイドラインにおいて、NEXIは、環境配慮確認の透明性及び説明責任を確保するため、輸出者等の商業上その他の秘密を尊重しつつ情報公開に取り組む考えであり、現在、パブリックコメント等を踏まえて検討しているものと承知している。

十八について

 環境配慮については、昨年十一月二十九日に経済協力開発機構(以下「OECD」という。)の多数の加盟国によって「環境及び公的輸出信用に関する共通アプローチ」を自発的に実施していくことが表明されており、この中で、二千三年末までに同アプローチの見直しを行うべきことが言及されているところであるが、経済産業省は、関係者間の意志疎通を図りつつ、環境への配慮のためのOECDにおける国際的な議論に参画していくこととしており、NEXIにおいては、その動向も踏まえ、ガイドラインの見直しについて検討がなされるものと承知している。

十九について

 職員の雇用については、NEXIの人事管理の一環として、必要に応じ、対応されるものであるが、NEXIにおいては、環境配慮の重要性を踏まえ、環境審査に関わる部署の増員を検討していると承知している。