第154回国会(常会)
答弁書第一〇号 内閣参質一五四第一〇号 平成十四年四月十二日 内閣総理大臣臨時代理
国務大臣 福田 康夫
参議院議長 井上 裕 殿 参議院議員大脇雅子君提出労働分野における規制改革に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員大脇雅子君提出労働分野における規制改革に関する質問に対する答弁書 一について 民間職業仲介事業所に関する条約(第百八十一号)(平成十一年条約第九号。以下「条約」という。)は、前文において、「労働市場において民間職業仲介事業所が果たし得る役割を認識し」て条約を採択すると定め、また、第十三条において、「加盟国は」「公共職業安定組織と民間職業仲介事業所との間の協力を促進するための条件を策定し、確立させ及び定期的に検討する」と定めている。このことから、条約は、民間職業仲介事業所の労働市場における役割を積極的に位置付け、公共職業安定組織及び民間職業仲介事業所の両者は、相互の協力の下に、それぞれの特性をいかしたサービスを労働市場に提供すべきであるという考えに基づいて採択されたものであると理解している。 また、平成十二年十二月十二日に行政改革推進本部規制改革委員会が公表した「規制改革についての見解」(以下「見解」という。)における官民の労働市場における「競争」とは、労働市場において、職業安定機関及び職業紹介事業者の両者がそれぞれの特性をいかしたサービスを提供し、それらが求職者及び求人者に選択されることを指したものと理解している。 二について 平成十三年十二月十一日に総合規制改革会議が公表した「規制改革の推進に関する第一次答申」(以下「答申」という。)における御指摘の部分は、労働者派遣制度における対象業務や派遣期間の制限について、これを原則として撤廃することが望ましいとの考え方に留意することを求めたものであり、対象業務や派遣期間の制限を撤廃すれば、職業選択の自由が保障されるという趣旨ではないと理解している。 また、派遣労働者は、労働者派遣について公共の福祉のために設けられた規制を前提とした上で、多様な就業形態の中から派遣就業を選択していると考えられ、派遣労働者にも職業選択の自由はこのような規制の枠内において保障されていると考えている。 三について 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)において物の製造の業務が労働者派遣事業の対象業務から除かれていることについて、国際労働機関(ILO)が条約に違反する旨の見解を示したことはないと承知している。 見解における御指摘の部分は、規制改革委員会の委員等によりなされた議論等の結果形成された同委員会としての認識に基づき記述されたものであると承知しているが、当該部分に係る具体的な議論等の内容については承知していない。 また、答申における御指摘の部分は、物の製造の業務を労働者派遣事業の対象業務とすることについて検討することを求めたものであると理解しているが、このような検討については、雇用就業形態の多様化に対応した雇用の場の確保や労働者保護措置の在り方等にも留意しつつ行う必要があるものと考えている。 四について 見解における御指摘の部分は、規制改革委員会の委員等によりなされた議論等の結果形成された同委員会としての認識に基づき記述されたものであると承知しているが、当該部分に係る具体的な議論等の内容については承知していない。 五について 労働者派遣法第四十条の二第一項各号に掲げる業務については、一年を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けることができることとされているものの、派遣先における常用雇用の機会が不当に狭められることを防止する観点から、労働者派遣事業関係業務取扱要領(平成十三年十二月二十一日付け職発第七百六十四号・能発第五百六十号厚生労働省職業安定局長、職業能力開発局長通達別添二)において、合理的な理由なく同一の派遣労働者について同一の業務に対する労働者派遣が三年を超えて行われることのないよう、派遣元事業主に対して指導すること等としているところである。 また、答申の「現下の深刻な雇用情勢にかんがみ、上記の法改正に至るまでの緊急措置として現在三年の派遣が認められている業務(旧適用対象二十六業務)の範囲を拡大する」という部分は、総合規制改革会議の委員等によりなされた議論等の結果、一年を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けることができる業務の範囲を拡大することは、多様な形態による雇用就業機会の確保により労働力需給調整機能の強化が図られ、雇用情勢の改善に資するものであるという認識に基づき記述されたものであると承知している。 六について 見解が、社団法人日本人材派遣協会の調査結果を引用したのは、平成十一年の労働者派遣法の改正により新たに労働者派遣事業を行うことが可能となった業務に係る労働力の需要を表すためであり、派遣会社の売上げが予想を下回る実績となったことを問題ととらえる趣旨ではないと理解している。 また、平成十三年八月三十一日から労働政策審議会において調査検討を開始している労働者派遣制度全体の見直しについては、労働力需給調整機能の強化を図ること等を目的として進められているものであり、派遣会社の売上実績を予想どおりに確保できるようにすることをその趣旨とするものではない。 七について 見解が、派遣労働者の「一年では雇用について不安、生活設計ができない」といった意見に耳を傾けるべきであるとしたのは、そのような意見も含め、様々な関係者の意見を聴いて、派遣期間の制限緩和について検討することを求めたものであると理解している。 また、派遣契約に基づく派遣期間については、平成九年五月から六月に労働省が行った労働者派遣事業実態調査においては、六か月以内の者が四十八・七パーセント、六か月超一年以内の者が三十七・一パーセント、一年超の者が十四・二パーセント、平成十三年一月に厚生労働省が行った同調査においては、六か月未満の者が三十九・三パーセント、六か月以上一年未満の者が四十五・一パーセント、一年以上の者が十五・六パーセントとなっており、これらの調査からは派遣労働者の派遣期間が短期化している傾向があるとはいえないと考えている。 見解において派遣労働者の派遣期間の傾向について記述しなかった理由については承知していない。 八について 平成十二年八月の労働力調査特別調査は、平成十二年八月二十五日から同月三十一日までの間の就業状態を調査したものであり、その間に就業しなかった者については就業者数に計上されないため、同調査における労働者派遣事業所の派遣社員数は、実際に派遣労働者として就業を行うことを常態としている者の数よりも少ないものと考えている。 見解が取りまとめられたのは平成十二年十二月であり、平成十三年十二月に取りまとめられた平成十二年度における労働者派遣法第二十三条に基づく事業報告書の集計結果については考慮されていないものと承知している。 製造業の工場内において請負等と称して行われている事業の中には、適法に行われているものがある一方、実態として労働者派遣事業に該当するものもあり、こうした事業に従事している労働者数は、各種統計において派遣労働者数として計上されていないものと認識しているが、こうした違法な労働者派遣事業については、今後とも指導監督等を行っていく必要があると考えている。 九について 見解の「マクロ的には代替現象が生じていると見られるパートと一般労働者との間においても、ミクロの事業所レベルでは、代替現象があまり生じていないことを、労働白書は明らかにしている。」及び「「労働力調査特別調査」によれば、派遣の規模はせいぜいパートの二十分の一に過ぎない(三十八万人/七百五十三万人)。常用代替を問題とすること自体がいかに大袈裟かがこのことからも分かる。」という部分は、規制改革委員会の委員等によりなされた議論等の結果形成された同委員会としての認識に基づき記述されたものであると承知しているが、当該部分に係る具体的な議論等の内容については承知していない。 また、見解の「派遣の規模はせいぜいパートの二十分の一にすぎない(三十八万人/七百五十三万人)。常用代替を問題とすること自体がいかに大袈裟かがこのことからも分かる。」及び「「物の製造」の業務について派遣事業が認められるならば、これによって派遣を通した雇用機会の拡大が期待できるという一面もある」という部分並びに答申の「現下の深刻な雇用情勢にかんがみ、上記の法改正に至るまでの緊急措置として現在三年の派遣が認められている業務(旧適用対象二十六業務)の範囲を拡大する」という部分は、物の製造の業務を労働者派遣事業の対象業務とすることや一年を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けることができる業務の拡大が直ちに「常用代替」を生じさせるものではないという認識に基づき記述されたものであると理解している。 十について 見解における御指摘の部分は、規制改革委員会の委員等によりなされた議論等の結果形成された同委員会としての認識に基づき記述されたものであると承知しているが、当該部分に係る具体的な議論等の内容については承知していない。 答申における御指摘の部分は、総合規制改革会議の委員等によりなされた議論等の結果、派遣先から派遣元事業主に対して行う通知については、電子媒体による場合であっても、書面による場合と同一の内容を確実に通知することができるとの同会議の判断に基づき記述されたものであると承知している。 十一について 御指摘の報道に係る総合規制改革会議委員の発言は、私人としてのものであり、政府としてこれに対し意見を述べることは適切でないと考えている。 また、見解又は答申は、規制改革委員会又は総合規制改革会議における広範な審議を経て、様々な有識者の考え方を踏まえて取りまとめられたものと理解している。 |