質問主意書

第154回国会(常会)

質問主意書


質問第四九号

大使天下り人事と北方三島疑惑に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年七月三十日

又市 征治   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   大使天下り人事と北方三島疑惑に関する質問主意書

 外務省をめぐる数々の汚職事件や疑惑が明らかになり、外務大臣においても「変える会」を作って改革案を検討し、七月二二日その「最終報告書」を受け取ったとされる。
 しかし、数々のいわゆる「鈴木宗男疑惑」の中でも中核とされる総額四二億円の北方三島の発電所発注疑惑については、三井物産側三名の逮捕、元ロシア大使=現同社顧問の参考人取調べなど検察の追及が急進展しているにもかかわらず、外務大臣は現時点(七月一五日の本院行政監視委員会の席上)においても、今や旧聞となった三月及び四月時点の二つの報告書の「鈴木議員の関与は確認されなかった。」というくだりを全面肯定する有様である。
 本件疑惑は、「捜査中であるので当局に委ねる」といった常套句による傍観的姿勢では済まされない、捜査以前からの長年の外務省の経理及び人事慣行の誤りに端を発しているのであるから、捜査を待つまでもなく自浄努力として解決すべき課題である。すなわちその一は「国際機関なる支援委員会」を乱用した支出であり、その二は、大使(公使)人事の入口=任用と、出口=再就職の両面、とりわけ後者、すなわち「特別職」だからという理由で取引先企業への再就職が全く規制されないという不合理である。
 よって以下のとおり質問する。

一 鈴木宗男氏と都甲元大使の関与について 

 外務大臣は前記七月一五日の私の質問に対する答弁において、「これ(三月の調査)はその当時、国会でこういうことが問題ではないかと御指摘いただいたことについて、園部参与に調べてもらった。したがって、その時点でこれが問題だといって表に出ていなかったことについては対象としなかった」、また「国会の御要望があってできるだけ早くということで調査、それで十分でない部分については、四月に入り新日本監査法人にお願いして、これも任意の調査ということで限界が当然あるけれども、そこで調べたことは発表させていただいた」旨述べている。
 しかるに本件は既に三月の報告書で「(ニ)ディーゼル発電設備(色丹島、択捉島、国後島)設置」という項目を立て、報告したのであるから、「国会で御指摘いただいたこと」として外務省の視野の内にあった事案である。にもかかわらず三月及び四月の報告書は、限りなく鈴木氏の関与を否定するに近い結論を述べていた。しからば、
1 当時の右二回の調査は、誰を対象にどのように行った結果「鈴木宗男氏の関与は確認できなかった」との結論に達したのか。この対象の中に佐藤優職員、都甲元大使(各本人、又は彼らに関する周辺の調査)は含まれていたのか。けだし、(1)佐藤職員は当時から既に、鈴木宗男氏の外務省関連の疑惑のほぼすべてに参画していたことが知られており、かつその後の検察の捜査では佐藤職員は鈴木宗男氏に対して「三井物産に決めました」と報告したことが明らかになった、と報道されているからであり、(2)また、都甲元大使は「支援委員会」の日本側代表として色丹と択捉の案件の決定時に在職し、かつまた国後の案件の決定時には三井物産顧問(ロシア関係担当)として受注側に在職していたからである。
2 仮に当時の二回の調査では、右両氏の関与を通じた鈴木宗男氏の関与を「確認できなかった」としても、現時点ではどう認識しているか。七月一五日の私の質問への答弁ではこの点が答弁漏れとなっていたので、重ねて伺う。
3 捜査が進行しているからそれに協力する、との説明は、外務省独自の調査を平行して行わないことの理由にはならないと考える。ことの重大性にかんがみ、捜査に先立ち又は平行して、三度独自の調査を行うべきではないか。

二 「支援委員会」の法的性格、支出の正当性と都甲氏の関与について

 四月の報告書においては、「支援委員会」が形骸化していたこと、すなわち(1)当初は国際協定に基づく国際機関として設立されながら、すぐに相手国の代表が不存在となってその実体を欠いていたこと、(2)また支援委員会は各種事業について独立の決定主体ではなく、外務省ロシア支援室の事業請負機関となっていたことを述べている。(3)さらに前記七月一五日の答弁では齋藤泰雄欧州局長が「しかしながら、都甲前大使の在任期間中、支援委員会は全く開催されておりませんでしたので、都甲大使が支援委員会日本側代表として、色丹、択捉のディーゼル発電施設の案件に関与していたという事実はございません。」と言明している。また私の聞き取り調査によれば、これら案件の決定はすべて本省(東京)で行っていたため、当時ロシア駐在だった都甲大使は物理的に関与できなかったという。そこで伺うが、
1 では三井物産との契約三案件それぞれの決裁者は、実質上及び形式上、誰であったのか。
2 都甲氏及び後任の丹波駐ロシア大使は、大使として、また支援委員会代表として、三案件それぞれにどの段階で、どのように関与し、又はなぜ関与しなかったのか。
 特に当時の支援委員会は都甲大使と外務省ロシア支援室長の二名のみで構成していたのであるから、「支援委員会は開催されておりませんでした」としても両名間の意思疎通は容易である。にもかかわらず大使をあえて関与させなかったというなら、特別の理由、組織ルール無視があったことになるが、どうか。
3 「支援委員会」が国際協定に根拠する国際機関の実質を持たなかったという四月報告書の指摘を是とするならば、これへの支出は「国際機関への拠出金」としてはその時点にさかのぼって法的正当性がない。
 一方これを国内の「人格無き社団」への支出として位置付け直すのであれば、「補助金」としての適格性を再審査し、その結果、不適切であれば返還請求の対象となると考えるが、どうか。
4 支援委員会に渡し切りにされた予算は一一年間で六〇二億円に上るが、四月報告書も指摘するように、毎年一〇〇億円以上(平成一二年度末では一五八億円)を繰り越して、定期預金として保有している。しかも「この中には過去事業が終了した後の残余についても含まれている」というずさんさである。これは直ちに返還させるべきものと考えるが、どうか。

三 大使等の天下り規制について

 私が七月一五日の質問で述べたとおり、大使(公使)に関して特別職であることを理由に営利企業への天下りを規制してこなかったことが、都甲氏のロシア大使から三井物産顧問(ロシア担当)への転職につながり、前記三案件のすべてに実質的に関与することを許したのである。そこで伺うが、
1 川口外務大臣はこれについて同日の答弁で、「広く政府として今議論をしていただいて、一定のルールが今既に存在をしているということだ。そういうルールがありますから、そのルールにのっとって行われている限りは、基本的にいいということで、官から民に行くことについてもルールにのっとって行われることが大事で、国民の疑惑を招くようなことは十分に注意深くなければいけないけれども、やはりこれもルールにのっとって、透明性を持ってということではないか」旨述べている。これは甚だ意味不明であるが、
(1) 大使(特別職)の民間企業への天下りについても人事院承認のルールがある、という意味か。とすれば人事院総裁も言うように大臣の誤認であるが、それとも外務省独自の、未公表の内規があるのか。
(2) 一般職の天下りに関する人事院による現行規制があるので、これを新たに大使等にも同様に適用すべきだ、との意見を述べたのか。とすれば前記答弁の前段は「ルールはあるが大使等には現在適用されていない」旨を補足しなければ、著しく精確さを欠くのではないか。
(3) 同様の大使等の天下りは、純民間企業へに限っても、一九九七年~二〇〇一年の五か年で三三件に上る。後述「変える会報告書」を真摯に受け止めるなら、これら過去の事例についても独自に調査すべきではないか。
2 外務大臣の答弁から七日後の七月二二日付『外務省「変える会」最終報告書』は、その「アクション・プログラム」の「Ⅲ 人事制度の再構築 1」の「(7)大使」の(チ)において「特別職である大使の再就職については、人事院規則「営利企業への就職」の基準に則るものとする。【平成一四年度中に実施】」と書かれている。これについて、
(1) 「変える会」報告書全般について、多くの報道は「外務省冷淡」等の評価をし、官僚がこれを部外者による実現性の無い意見だとし、実行する気が無い旨、論評している。これが実情だとすれば外務大臣自ら主唱した改革に内部から逆行する由々しき事態となるが、右の(チ)について外務省の実施の決意を示されたい。
(2) 実施するとすれば、どのような枠組みで行うのか。四月報告書が繰り返し述べているように第三者のチェックが皆無であったことが一連の不正を生んだことにかんがみれば、これと密接に関連する大使退職者の人事については、第三者たる人事院の審査に完全に委ねると解してよいか。

  右質問する。