質問主意書

第154回国会(常会)

質問主意書


質問第二三号

在瀋陽日本総領事館への北朝鮮住民駆け込み事件に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年五月十六日

櫻井 充   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   在瀋陽日本総領事館への北朝鮮住民駆け込み事件に関する質問主意書

 五月八日、中国瀋陽の日本総領事館に北朝鮮住民五名が駆け込んだが、中国武装警察官が総領事館敷地内に立ち入り彼らを引きずり出し連行する事件が発生した。当該行為は、領事関係に関するウィーン条約に違反することは明白であり、中国による日本の主権侵害である。それにもかかわらず、総領事館と外務省の対応は、中国よりも出遅れた上迷走し、醜態を世界中にさらすことになった。政府は毅然たる態度で事件の解決に努め、今後二度とこのような事態が発生しないように態勢を整備しなくてはならない。
 そこで以下質問する。

一 五月十三日に外務省が発表した「瀋陽総領事館事件・調査結果」では、武装警察官が総領事館敷地内に立ち入ったことは、領事関係に関するウィーン条約に違反することを、事件後警備担当副領事が現地公安当局に赴き抗議した旨記述しているが、事件発生時に査証担当副領事は条約違反の旨を武装警察官に伝えたのか。

二 この事件が起きる前に、スペイン等他国の領事館に亡命者等が相次いでいた上、NGOからも情報がもたらされていたのに、なぜ査証担当副領事はこの事件を査証申請絡みの喧嘩程度のものと認識してしまったのか。

三 当初、査証担当副領事が総領事館に入ろうとした人達が北朝鮮の亡命希望者であるか分からなかった旨調査結果にあるが、亡命希望者である可能性もあることが十分認識されたはずなのに、彼らが連れ去られるのをなぜ拱手傍観していたのか。あの場で武装警察官を制止することはできなかったのか。

四 調査結果では、査証担当副領事が事件を察知し総領事館正門に到達したとき、幼児を含む女性三名を引き戻すために武装警察官が総領事館敷地に入っていたのに、同副領事は彼らが敷地に立ち入っていたという認識は無かったとのことであるが、なぜそのように認識したのか。武装警察官に立入許可を与えていないのであれば、ウィーン条約を破った侵入に該当しないのか。

五 なぜ、事件の際、査証担当副領事だけしか現場に立ち会わなかったのか。全職員を非常呼集するぐらいのことはできなかったのか。他の職員はなぜ総領事館の建物の中に留まっていたのか。

六 査証申請室にあったカメラは録画がされていなかったそうであるが、なぜそのようなことが起こり得るのか。普段から録画はしていないのか。装置が故障していたのであれば保守点検はなぜされていないのか。また、北朝鮮人二名が査証申請室にいる間、カメラ越しにモニターを確認している職員はいたのか。

七 総領事が第一報を外務本省に連絡したとき、本省担当者が「とりあえず国際法上の問題を指摘し」とあるが、この内容は一体いかなるものか。

八 五名が館外に連れ出され武装警察官詰所前に移動したとき、査証担当副領事は「これらの女性が査証申請人であれば事情を聴取したい」と述べたとあるが、なぜ初めから査証申請人という尋ね方をしたのか。誰であろうと無条件に事情聴取する権利があると主張すべきではなかったのか。

九 調査結果では、武装警察官が五名を総領事館敷地外へ引きずり出した後、外務本省は査証担当副領事に現状を維持せよと指示を出しているが、この現状維持とはどういうことか。日本の主権が踏みにじられたのであれば、現状維持ではなく何があっても五名を連れ戻すぐらいのことをすべきではないか。

十 現状維持の連絡の後、「外務本省からは、抗議の上、五名の身柄を総領事館構内に戻すよう指示を試みたが、電話が通じなかった」ことが調査結果に書いてある。通信手段は複数あるはずなのになぜ連絡が取れなかったのか。昨年査察大使の役割について外務省に問い合わせたところ、査察による改善結果の例として緊急連絡体制の整備などを挙げたが、なぜ電話が通じないような状況を査察大使は見逃してきたのか。

十一 調査結果では、在中国日本大使館の公使が警備担当副領事に対し、「無理はするな、最終的には連行されても仕方がない」と述べたとあるが、公使が仕方がないと判断した理由は何か。マスコミで報道されているように、阿南大使が八日の朝「警備を振り切って大使館に入ってきたら不審者であり、中に入れる必要はないだろう」と述べたことが理由か。

十二 総領事館に総領事が不在のときは首席領事は責任を持って物事を判断できる権限を持っているのか。また、総領事と首席領事が不在のときは、副領事が同様の権限を持っているのか。不測の事態が起きた場合の責任の所在はどのような形になっているのか。

十三 査証担当副領事と警備担当副領事はどちらが立場が上なのか。なぜ両者がバラバラに公使や外務本省に指示を仰ぐ形になったのか。

十四 なぜ総領事館のトップとナンバー2にあたる総領事と首席領事が同時に不在になるような状況を生じさせたのか。外務官僚はプロフェッショナルであるという意識を持っているそうだが、なぜ外交官になるための専門的教育を受けていない他省からの出向者に留守を預ける形にしたのか。危機管理意識が完全に欠落しているのではないか。

十五 一般的に、領事館に配置されるガードマンの役割はどのようなものか。なぜ事件当時現地人ガードマンは警察官を制止しなかったのか。もし立場上現地人ガードマンが警察官を阻止できないのであれば、なぜ日本人のガードマンを雇用しないのか。

十六 平成十三年三月二十三日の参議院予算委員会で、当時の外務省の飯村官房長は諸謝金が多額な上増加している理由として「在外公館の警備の関係で警備を委託したり・・・そういったものの謝金が多い」、「最近、警備の問題等がやかましく叫ばれる時代にあって在外公館の警備だとか・・・大使館の業務を強化する目的、そういったところで支出が多くなっている」と答弁しているにもかかわらずこのような不祥事が起きてしまった。諸謝金の使い方は間違っているのではないか。

十七 各国の大使館の警備を見てみると、武装した兵士を配置するなど厳重な体制を敷くことが普通であるが、なぜ当総領事館は丸腰のガードマンしか配置しないのか。各国と比較して十分な警備体制だと思っているのか。大使館・領事館に武装した自衛官あるいは警察官を配置することは、憲法解釈上可能か。

十八 助けを求めて領事館に逃げ込む人にどのように対応するか、という書面のマニュアルを総領事館は持っていたのか。マニュアルがあったのであれば館員にはどのように周知されていたのか。また、日頃から不測事態対応の訓練を行っていたのか。

十九 日本は国の施策として亡命者・難民を受け入れるつもりはあるのか。

二十 一般的に、今回のような緊急事態における場合の現地の責任者は誰になるのか。

二十一 なぜ総領事館が外務本省担当者と在中国日本大使館の公使と両者に問い合わせを行い、両者からそれぞれ違う内容の命令が二重になされたのか。外務本省と日本大使館は連絡を取っていたのか。取っていたのであれば何時何分からか。

二十二 在中国日本大使館の公使と外務省本省が事件を把握したのは何時何分か。

二十三 そもそもこの総領事館は何のために設置されているのか。

二十四 領事館の敷地は日本の主権を認められた領土のような場所である。無断で領事館の敷地を侵犯されて、日本は独立国家と呼べるのか。一般的に、大使館や領事館が武力で襲撃されたときは有事と呼べるのか。また、襲撃されたときはどのように対応するのか。

二十五 日本側と中国側が主張することに食い違いがあり、これが残ったままであるならば、どちらの主張が正しいか明確にするために、当事件について国際司法裁判所に提訴するつもりはあるか。

  右質問する。